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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
23/309

嗚呼艦砲射撃!

●23 嗚呼艦砲射撃!


 甲板には木村たち若手の兵士が大勢集まってわいわいやってる。

 ……へー、ジョシーって、いつのまにか人気者になっていたんだ。


「ジョセフィンちゃん、元気でなっ」

「その外套重そうだなあ。大丈夫かい」


「ふん!いくらでもホザけ。言っておくが、わがアメリカ軍は世界最強だ。キサマらも太平洋にむくろをさらさぬよう、せいぜい気をつけるんだな!」


「おう! おれたち皇軍がやさしく潰してやるよ」

「わはははははは!」


 口々に別れを告げる木村たちに、ジョシーは憎まれ口で応戦している。

 これももう聞けないかと思うと、寂しいかぎりだ。


 そうやって、風の強い甲板から内火艇で海上に降りるジョシーを、おれたちは盛大に見送ったのだった。




「てーーーっ!」

 ドンドンドンドン、ド――――ン!


 轟音をあげて戦艦『比叡』から全門の試射が行われる。


 あらかじめ三角法で計算された距離を想定して発射された砲弾が、放物線を描いて一定の散布で弾着すると、その精度を観察し、すぐに照準を修正して再度の発射が行われる。


 数度の調整で、散布界はサンド島にぴたりと合うようになった。


 比叡はゆっくりと航行しながら、広域に対して適度な散布になるよう砲撃を続ける。


 島からの砲台による反撃を警戒して、おれは十キロより遠い場所からの射撃を指示しておいた。


 たしか、この時代のアメリカ砲台は、1942年のヘンダーソン基地艦砲射撃のときでもあったように、十キロを超える射程のものは少ないはずなんだ。


 こちらの比叡は主砲が毘式35.6センチ連装砲4基、副砲ですら四十一式15.2センチ単装砲だから、いずれも射程距離は十八キロを超えている。


(にしても、えげつないよなあ……)


 後世の評価じゃ空母空母って、やたら空母だけをフィーチャーするけどさ、戦艦の艦砲って、考えたらめちゃくちゃ冷酷で強烈無比な武器なんだよね。


 精度さえよければ、ミサイル攻撃みたいなもんで、抗戦のしようがない。飛行機がやってくるならこっちから迎え撃ったり、対空兵器だってあるけど、砲撃されたら逃げるしかないんだ。


(飛んでくる砲弾は、かわせないもんな……)


 しかも、こっちの弾薬はたっぷりあった。




「草鹿、敵の反撃はどう?」


 ゆれる艦橋の窓から、双眼鏡で島のようすを覗く草鹿に、おれは声をかけた。


「うーん、制空をめぐっての交戦はありましたが、かなり散発的ですね。ミッドウェーから離陸した敵機は、驚くほど少ないみたいですよ」


「マジか……」


「マジです。制空と着弾の偵察をかねて艦戦機も往復させていますが、追いかけるとすぐに逃げてしまうようです。……まあ、逃げると言っても、島以外にどこにも逃げ場はないんですけどね」


 言われて見れば、たしかに今空にいるのは味方機ばかりだ。


「だよな。島に着陸したら艦砲射撃と機銃掃射がやってくるしな」


 例の警告文は、真珠湾のときと同じように、英訳したあと、複数の周波数で三度づつ、攻撃の少し前にモールス信号により打電したから、島の守備隊が反撃する気なら準備はできているはずなんだけどな……。


 もしかすると、もう彼らはこちらのゼロ戦はじめ航空戦闘能力を知って、無駄な反撃をあきらめてしまったのかもしれないね。


ドンドンドンドンド――――ン!

ドンドンドンドンド――――ン!

ドンドンドンドンド――――ン!


 比叡の射撃音がまた鳴りひびいた。その数秒後には、弾着音がこの海上にも地響きのように伝わってくる。


 まもなく戦艦『霧島』、重巡洋艦『筑摩』からも砲撃がはじまるだろう。

 まさに圧倒的な暴力だった……。


 数時間にわたる艦砲射撃と、戦闘機によって、すっかり制空を確保したおれたちは、そのまま艦爆機による爆撃でサンド島の飛行機、格納庫を破壊していく。


 このころにはほぼ飛行機による抵抗は皆無で、おれたちの艦爆機は安心して狙いをつけることができた。


 まだ完成して四か月しかたっていない軍施設と、三本の滑走路は穴だらけになり、破壊された敵の戦闘機からは、もうもうとした黒煙が舞い上がった。


 もちろん、イースタン島には敵の兵士が避難しているはずだから、まだ手を出さない。


 もっとも、こちらの島には沿岸に高角砲(高射砲)が配備されていたから、そいつらはさすがに艦砲射撃でつぶしておいたけどね……。


 ほどよく島が沈黙してしまったあと、モールスによる警告どおりのまさに三十分後に、背後に翔鶴と瑞鶴を引き連れた、三隻の駆逐艦上陸部隊が威風堂々、イースタン島東部から姿を現した。一隻につき約300名の臨時陸戦隊を乗船させているのだ。


 第一艦隊と合わせて百機ほどの戦闘機が制空と地上からの攻撃を警戒して巡回するなか、まずはサンゴ礁の外側に停泊した駆逐艦三隻による弾幕が張られる。やがてウィンチで仮設された桟橋から、陸戦隊約千名が少しずつ降りたち、浅瀬をバシャバシャと進み始めた。




「小野ちん、坂上、ちょっと来てくれ」

 おれはせまい艦橋をふりかえって言った。


「はい、なんでしょうか」


 小野通信参謀はもうすっかり慣れたようすで、長身を器用に動かしておれのそばにやってくる。対して中肉中背、全体ががっしりした感じの坂上機関参謀は、ゆっくりと、しかし礼儀正しくキヲツケをした。


「は」


 あいかわらず、坂上って無口なやつだわ。


「おまえら二人で、オパナで奪取した電探車を起動運用させてほしいんだ」


「ああ、あれですか。長官が言われた通り、中で操作していたものも含め、捕虜にして、駆逐艦不知火でちゃんとお客さんとして扱ってますよ。しかし、はたして操作方法をまともに教えるかどうか」


「……吐かせます」


 ……え?

 …。

 ……。

 ……もしかして、坂上って怖い奴だったの?


「ま、まあ待てよ。お前らだって『技術者』だろ。相手もたぶんそうなんだ。脅迫したり暴力払ったりするより、話せる内容があるんじゃないのかな」


「……」

 あれ?

 いま、坂上の目、光らなかった?


「そうだよ坂上、もちろん立場はアメリカの兵士だろうけどさ、もしかすると……この時代じゃえ~と、真空管とかダイオードとかゲルマニウムとか、そういう話も……」


「ダイオードですと?!」


 え?


「なぜダイなんです?トライオードやテトロオードではなくて、なぜダイオードなんですか」


「ちょ、おま……」

 坂上がエラの張った頑固そうな顔を紅潮させてる。なに、この反応……。


「いやそれよりも、司令長官がダイオードについてご存じなのが驚きですな。真空管なんてそれこそ私のようなラヂオ好き、というより電気回路が好きな人間しか興味がないのかと思っておりましたが」

「ま、まあね」


「いやいや、真空管と一言でいうのもなんですな。あれは電極をから電極へと流れる電子をもう一方の微量な電界や磁力で操作して検波や増幅といった有意義な機能をもたせることがまさに画期的なわけでして、それを言うなら電子管とか、せめて真空電管と呼ぶ方が……」


「待て、待て待てい!」


 小野がびっくりして目を丸くしている。

 うーん、坂上って想像以上の技術ヲタクだったよ。


「そ、その件はあとでゆっくり話そう。今は電探が先だ。目的はわかるな?」


「レキシントンの動向ですね?」

 と、小野。こっちは冷静だから助かる。


「そうそう。通訳はもう不知火に乗船してるから心配いらない。技術的な話が出ても……このぶんだと、大丈夫そうだし、な」

 ちょっとヘラってしてしまう。


「失礼しました!」

 坂上がキレのよいお辞儀をした。


「わたくし、つい私語を。お詫びはハ、ハラを」

「あ、そういうの、いいから」


 ふうん、なるほどねー。


 坂上って本来は饒舌おしゃべりな奴なんだ。それも、技術畑に関してはうんと。


 そういう世界って、おれにもちょっとは覚えがあるからよくわかる。んでもって、それを自戒して、わざと無口を装ってるんだな。


「せっかく奪った電探も、使えなければただの箱……じゃなく車か。とにかく、暴力はふるわないで、うまくやってくれ。味方の戦艦を探すとかなんとか言ってさ」


「わかりました!」

「は!」


 え~と、この二人で、うまくいくんかなあ……。



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