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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
228/309

目測、五千メートル

●51 目測、五千メートル


 艦橋の窓から、光るなにかが見える。


 最初はきらきらと。

 やがては紙吹雪のように……。


 なんだこれは……?


 おれは窓に駆け寄り、上空を見あげる。


 銀のテープ?


(!)


 チャフだ!


 窓に一枚、銀色のテープが貼りつく。


 これはおれたちの電波兵器を妨害するためのチャフ(電波欺瞞紙)だ!


 おれは唇をかみしめた。


 そういえば史実においても、アメリカはすでにチャフを実用化していたし、日本軍でも模造紙に錫箔を貼った欺瞞紙を使用している。


 1943年の第四次ブーゲンビル島沖航空戦では、大日本帝国海軍航空隊が、敵艦隊の一方にチャフを散布し、そちらに警戒を惹きつけておいて、反対側から雷撃を加えるという作戦を実行し、大きな戦果を挙げているのだ……。


 米軍がおれたちとの過去の戦いで、電探連動や近接信管の可能性に気づき、その対策をとってきたとしても、なにもおかしくはなかった。


「この銀紙はチャフという電探を妨害するためのものだ。……艦長!現在の風速は?」


 おれは長谷川をよぶ。


「六メートルです」


「よし、風と直角に針路をとれ。雀部、航空機の発艦をただちに停止せよ」


「わかりました」


「大石、駆逐艦は散開させろ。固まるな」

「はッ!」


 空母艦隊は通常風上に向かって全速航行している。しかしそれではチャフをまともにかぶることになる。風に対して直角の針路をとり、駆逐艦を離すことで、できるだけ影響を受けないようにするのだ。


「両舷機関停止。……両舷全速反転」

「右舷全速!」


 船がごおっと大きな音を立てて速度を落としたかと思うと、今度は右へ大きく傾き、左舷方向へ回頭しはじめる。


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 連動高角砲はこの間も反応して撃ち続けている。


 案の定、チャフが舞う右舷の反応が多い。


 艦橋の窓から上空を睨んでいる監視員にたずねる。


「敵は見えるか?」

「いえ、よく見えません!」


 無理もない。もとより夜襲だ。それに黒煙の煙幕もある。

 この状況下で、人間が機銃で敵を撃ち落とせるとは思えなかった。


「砲撃長。機銃は上空に撃て。弾幕を張って、急降下爆撃を防ぐんだ」

「はッ!」


 さて、次はどうするか。

 まずは……この人だな。


「山本長官」

「ん、なんだい」


 それまで大人しくおれたちを見ていた山本さんが、なぜか嬉しそうにこちらを振り向いた。


「この艦橋から退避していただけませんか」

「……わかった」


 意外に素直だ。二人の司令官がこの艦橋につめているのは、敵の爆撃リスクに対して問題があると、わかってくれたのだろう。


「司令官室がいいでしょう。あそこなら頑丈な甲板の下で水雷にも耐えられる。おい、ご案内を」


「はッ!」


「南雲君、健闘を祈る」

「ありがとうございます」


 颯爽と山本長官が出ていくと、おれはいよいよ腹を据えた。


「よし。こうなったら、チャフとの勝負だ。投光器で上空を照らせ。チャフが見えたら避けるように針路をとるんだ。あとは、電探砲のラッチを外して全方位に撃てるようにしろ」



 バッ!バッ!


 四台の投光器がいっせいに輝き、上空と海面を明るく照らす。


 兵士たちが走る中、敵機がけたたましい音を立てて飛来する。


 ブイ――――――ン!


 ガガガガガガ!

 バシバシバシバシ!


 電探砲があさっての方向を撃っている間、敵の戦闘機は機銃を乱射して、赤城の甲板を穴だらけにしていく。


 あまりにも危険なため、飛行士たちはすでに退避ずみだった。


 たまたま、甲板にあがっていた一機の疾風はそのままリフトに戻され、格納庫に消えていった。


 対空監視所から、戦闘機から撒かれるチャフの方向が知らされると、そのたびに赤城は針路を変更して、極力かぶらないようにする。


 チャフが薄くなると、電探砲はようやく威力を発揮しはじめた。


 ドンドンドンドン!

 バシャアアアア!


 夜の空に爆裂する敵機の火花が飛び散る。


「敵戦闘機撃墜っ!」


「四時の方向、爆撃機!」

 艦橋では、対空監視員の叫び声が響いている。


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ガガガガガガ!


 ドオオオオオン!


 赤城の右舷三百メートルほどの海面に敵が激突する。


 チャフの効果は確かにあった。


 投下されたチャフは電探の誤反応を招き、しかも近接信管はこれを敵ととらえて爆発した。


 しかし、現在この艦は風と直角に針路をとり、全速で航行している。したがってチャフの影響を受けるのは限られた方向になっており、別の方向へは高角砲が待ちかまえている。さらに、チャフに反応して誤爆はしても、榴弾がばらまかれるのは事実なので、おいそれとは近づけない


 ばら撒く係の戦闘機が減ってきたこともあって、敵は急速に墜ち始めた。


 キュイーーーーン!

 ドンドンドンドン!

 ドバアアアン!


「一機撃墜~っ!」


 夜のことでもはや戦闘機か爆撃機すらわからない。


 とにかく、上空で大きな爆発がおき、あとは空を舞ってこちらを伺う戦闘機ばかりになったようだ。


 ほっと一息く間もなく、声が響く。


「敵、第二次攻撃編隊二時の方角!数……」


 おれは

「数は?」


「……約……五十!」


 くそ!

 おれは心の中で舌打ちする。


 いくらなんでも多すぎる。五十もの敵機がこの赤城の上空に舞い、隙をみて向かってくるなら、とても無傷ではすむまい。巡洋艦に二基、四隻の駆逐艦に八基、合わせて十四基の電探連動高角砲は、チャフのおかげで威力は半分といったところだ。


 どうする……?


 普通に考えれば、数発の被爆、もしくは被雷を覚悟しなければならない。だが、この赤城は戦艦じゃない。それほど装甲は厚くないんだ。


 くそ! あのチャフさえなければ、十四基の連動高角砲なら、十分相手ができるものを……。


 チャフさえなければ……。


 チャフさえなければ?

 ……。


 ……そうか! チャフを消せばいいんだ。


 おれは振り返る。


「雀部、迎撃隊に連絡してくれ。赤城から目測五キロまで接近して敵を叩け。それも爆撃機ではなく、戦闘機を狙うんだ。チャフを撒いているのは戦闘機だ」


「高角砲は……?」

 雀部がおれの目をのぞきこむ。


「そのままだ」

「……」


 連動高角砲の信管射程は五百から三千五百メートルほど。それでも通常は誤爆を避けるため、味方の航空機には、通常一万メートル以内に近づくことを禁じていた。


「五千だ。それを守れば、射程からは外れる」


「しかし……一触即発」


「ああ。しょせん目測だから危険はある。だがこれしかないんだ。間違うなよ。戦闘機を狙え」


「わかりました」


 雀部が迎撃隊に連絡を入れる。


「A6より各機。母艦より五千まで近づき、敵戦闘機を撃墜せよ。くりかえす。母艦より五千まで近づき、敵戦闘機を撃墜せよ。……まちがうな、五千だぞ!」


いつもご覧いただきありがとうございます。南雲の苦戦はつづきます。 ご感想、ご指摘をよろしくお願いいたします。ブックマークを推奨いたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 検討を祈る → 健闘を祈る ですね。 チャフ外し、読みごたえあります。 頑張って下さい。
[気になる点] 「よし。こうなったら、チャフとの勝負だ。投光器で上空を照らせ。チャフが見えたら避けるように針路をとるんだ。あとは、電探砲のラッチ外して全方位に撃てるようにせよ」 いつものこと扱いを受…
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