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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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グライダー飛行で生還せよ

●50 グライダー飛行で生還せよ


 敵の狙いは体当たりなのか?


 そんな板谷の心配をよそに、混戦ははてしなく続く。


 空母赤城に向かう敵の攻撃隊を追いかけ、敵を見極めると、すかさず機銃弾を撃ちこんでいく。さすがに、この歴戦のつわものは技能抜群で、アリューシャンの僻地で稼働するアメリカ陸軍航空隊では、とても太刀打ちできなかった。


 とはいえ、持ち弾には限りがある。


 もう弾が尽きかけるころ、全機銃の一射を敵の新型機にぶちこむと、その後方からすれ違うように飛来した疾風と一瞬目が合う。


 そこには、あのドーリットル空襲をともに防ぎきった、高橋赫一が搭乗していた。


 高橋は空域を離脱していく板谷を見て、目ざとくその被害に気づく。


 暗い中、日本の戦闘機は全機がキャノピーを開け放っているが、そのアクリルの一部分が吹き飛ばされている気がした。いや、一瞬燃料の匂いもしたから、翼にも被弾しているかもしれない。


(板谷め、なんともなきゃ、ええが……)


 マイクを取り上げようとして、やめる。


 疾風の性能なら、あるいは板谷の腕なら、この戦闘が終わるまでは、なんとか飛び続けていられるだろう。


 高橋はそう考えて索敵に集中することにした。


 いったん高く飛び、旋回降下する際に敵影を探す。そのうち、海域を探索するように飛ぶ単機の爆撃機に気づいた。腹の下に爆弾を抱き、かなり低空までその高度をおとしている。


(あやつはきっと、空母赤城を探しているに違いないぞ)


 左に右にバンクしながら、用心深く近づいていく。


 そういえば、たしかにもうすぐ赤城のいる海域だ。いや、すでに見えているかもしれない。


 その刹那、月明かりに照らされて、遠い海上に、黒煙のたなびきが見えた気がした。


 ……まさか、赤城から黒煙が?

 もうやられてしまったのか……?


 爆撃機を追いながら、母艦を確認するが、よくは見えない。このまま赤城まで飛んでいきたいが、これ以上は高角砲の距離になる。


 気を取り直して低空を飛ぶ爆撃機に狙いを定める。


 見失いそうになるたびに、キャノピーから顔を出して、敵の位置を確認する。


 とつぜん、敵が速度をあげて上空へと飛翔し始める。


 しまった、気づかれたか。


 いや、疾風の馬力なら負けることはない。後方機銃を警戒して、螺旋を描きながら後を追う。


 次の瞬間、はたして、敵後席の兵士が無茶苦茶に機銃を乱射しはじめた。


 ガガガ、ガガガガ、ガガガガガガガ!


 後方機銃は自由度が高くやっかいだが、敵兵の練度はかなり低そうだ。まるであさっての方向に曳光弾が飛びすさる。


 それを悠々と躱し、左にバンク、それから右に振り、もう一度左へ。


 ここまで昏いと、照準は役に立たない。


 相手の曳光弾を見ながら、半ば勘でこちらの機銃を撃ちこむ。


 ダダダダダダダダ!

 ……ドン!


 あっさりと命中させ、気になる赤城を目で追う。

 その一瞬が命とりになった。


 ババババババババ!


 複数の光跡が自機の周囲を襲う。


(いかん!油断した)


 慌てて宙返りするが、すでに時遅し。敵の銃弾がエンジン付近を撃ち抜き、ばっと火の手があがる。首を回して敵を追うと、上空にずんぐりした黒い機影が見える。あれは敵の新型機か?


 バルバルと啼きながら、エンジンが停止する。幸い身体に傷はなく、主尾翼ともに無傷のようだ。プロペラは自転しているが、高度は急速に落ち始める。


 高橋は覚悟を決め、腰の下にあるパラシュートに手を伸ばす。


 しかし、そこには、なにもなかった。


(ああ、置いてきてしもうた……)


 不覚……。


 南雲艦隊の飛行士は死ぬべからず。万一被弾したら、ただちに脱出して救援を待つべし。


 そう、あれほど喧しく言われていたのに、いつもはちゃんと積んでいたのに、今日に限ってつい自分は大丈夫と慢心してしまった。


 機体は傾き、高度はますます落ちていく。このままではあと三十秒ももたない。


 マイクに手を伸ばす。


「こちら高橋、A6(赤城指令室)、A6応答願う」


『……A6』


「被弾した。海に不時着を試す。皇国に栄光あれ。以上」


『……A6諒解。死ぬな高橋!』


(よしッ、あとはやるだけだ)


 急いで照明弾の銃を懐に入れ、操縦かんをにぎる。


 まだ絶体絶命というわけじゃない。


 このまま旋回して胴体着水できるかもしれない。


 海面が白波に光っている。


 月明かりがありがたい。


 できるだけフラップを倒し、速度を落とす。


 風を切る音が不気味だ。


 海面がぐんぐん近づいてくる恐怖と戦い、必死で操縦をする。


 以前にやったグライダー飛行の練習を思い出せ。


 さらに海面が迫る。かなり速い。これでは海面に激突してしまう。


 ざあっという波の音が聞こえた瞬間、思い切って操縦かんを引き、フラップを倒す……。


 ド――――――――――ン!


 激しい衝撃で腰の骨がくだけそうになる。


 高橋はそのまま、気を失ってしまった。


 敵の編隊は飛び去り、あとには海面に漂う疾風がひとつ。


 その上空を、伺うように飛ぶ板谷機の機影が、月に照らされて輝いていた。




 護衛の駆逐艦が燃えている。


 といっても、攻撃されたのではない。南雲の指示で急ぎふとんが重ねられ、油をかけられて燃やされているのだ。そこからは黒煙があがり、あたり一面に煙幕の役目を果たしていた。


 空には七割ほども丸い月。星は見えるが、黒煙と雲でわすかだ。


「電探連動砲用意よし」

「機銃よし」


 甲板下にせりだした銃座に兵士たちが詰め待ちかまえる。


 ゴオオオオオオオン!


 南の上空からレシプロ機の編隊が轟音をあげて襲ってくる。


「敵機~~ッ!」


 うっすらと見える敵の編隊が、徐々にせまってくる。五十機ほどあった敵機の第一群は、すでに半分以下になっていた。


 やがてその編隊が、連動高角砲の電探に引っかかる。


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 駆逐艦からの砲撃がはじまる。


 それを合図に、機銃手たちも一斉に迎撃をはじめる。


「撃てえええええええ」


 ダダダダダダダダ!


 その時……。


 機銃手の顔になにかが貼りついた。

(……?)


 ヒラヒラヒラ……。


「なにか……なにかが降ってきます」


 必死に機銃を放つ横で、補充の兵士が思わず手にとる。


「銀紙?」


いつもご覧いただきありがとうございます。はたして南雲艦隊は夜襲に耐えられるでしょうか。そして銀紙の正体は……? ご感想、ご指摘をよろしくお願いいたします。ブックマークを推奨いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エンジン停止後は滑空し速度を殺すと失速しますので、 サイドスリップ(横滑り)で最後に速度を殺して着艦が無難です。 この滑空では実際には空母に降りるのは難しいです。 高度の三倍が零戦クラスの…
[一言] 銀紙ぃ?
[一言] なるほど、『銀紙』! 電探連動高角砲の電探の索敵能力を潰すため、敵の第一次戦闘機群は日本艦隊に対し、『銀紙』バラマキ作戦に出ましたか。 となると、南雲の行った煙幕作線は、かえって味方の視界…
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