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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
22/309

ミッドウェーへ

●22 ミッドウェーへ


 ミッドウェーの手前約百五十海里において、おれたち機動艦隊は三艦隊への再編成を行った。


 第一航空戦隊および第二航空戦隊、すなわちおれたちは、ミッドウェー攻略南方艦隊として、空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍、戦艦比叡、霧島、重巡洋艦筑摩。


 第五航空戦隊および上陸部隊は空母翔鶴、瑞鶴、重巡洋艦利根、駆逐艦も三隻に限定。なるべく出入りが軽くなるように配慮した。


 あとは特殊潜航艇を擁する伊号潜水艦隊の特別攻撃隊だが、彼らにはこのミッドウェーの手前百五十海里で文字通り身を潜めさせる。


「上陸部隊は大石の指揮に従ってくれ」


 おれは司令官室サロンに参謀をあつめ、前回やった作戦会議のおさらいをする。

 大石主席参謀がうなずいた。


「わかっちょります。艦砲射撃が始まったら東のイースタン島に陸戦隊上陸、そのあと艦砲と空爆が終わったら、西へ西へと捕虜を追い立てるんじゃな」


「その通り。ちゃんと艦砲射撃と空襲の完了を確認してからやれよ。でなきゃ、単なる虐殺になっちまう」


 みんながどっと笑う。


 そういや、おれの影響か、ずいぶんここの参謀連中も、くだけた会話ができるようになってきたな。


 油断はダメだが、なにより萎縮せずに自分の意見を言える空気は必要だと思う。


 特に上官への必要以上の恐縮は大問題で、だから、生前の世界線じゃ硬直した作戦や死ぬとわかりきっている状況を受け入れざるを得なかった。


「けど長官、空爆の終了はどう合図するんじゃろう? 信号弾でも打ちますかいの?」


「信号弾か……それはいいな」

 おれはぐっと親指を立てる。


「よし、それいこう。空爆の飛行士に持たせて、引き上げるときぶっ放してくれ。それを現認したら上陸な。……陸戦隊は何人を用意した?」


「第三編成まで。つまり千人ちょいですわい」


「いいね。じゅうぶんだろう。むずかしい武装解除の作戦だ。反撃されたら撃滅してもかまわないよ。部下の命をしっかり守ってくれ。だが敵と言えど投降兵や民間人は殺すな」


「了解ですわい」


「無事に武装解除させたら、のんびり補給や修理を行って、盛大に出航してやろう。おれたちが帰ってしまったと思わせるんだ」


「わかりました」


「それからな、明日の総攻撃前には、もう一度モールスで退避勧告をするぞ」


 おれは艦橋の全員を見渡した。


「目的はもちろんアメリカへの人道的メッセージ。それに、レキシントンをおびきだすためのもう一手にもなるからな」


「退避勧告がレキシントンを呼びますか?」


 小野通信参謀が声をあげる。


 彼にとっては、自分も一緒に処分されかねない話だから、唯々諾々(いいなり)ってわけにはいかないんだろう……。


「レキシントンは待機を命じられてる。この前にも話した通り、おれたちが消えたらやってくるはず。ただ、その確率を高めたい。なんせミッドウェー近海での索敵と戦闘はめちゃくちゃ危険だ。へたすりゃ島からの攻撃隊とで挟み撃ちにされるもんな」


 みんなは黙っておれの話をきいている。


「レキシントンにはなんとしてもおれたちのミッドウェー攻撃中では待機して、そのあとノコノコ出てきてほしい。そういうのって、各個撃破って言うんだろ?」


「……一番の問題はミッドウェーの結果を見て、レキシントンが真珠湾に帰ってしまうことですよ」


 草鹿がおれの考えを読んで静かに言った。


「司令長官はこう言いたいんでしょ? 全滅させずに、捕虜がいることを教えてやれば、レキシントンだって迎えにくるしかない」


「草鹿参謀長!ずるいですわい。わしらだって、ちゃんと長官の言いたいことはわかっちょる!」


 大石が口を尖らせたので、みんなが苦笑する。


「で、これが電文の内容」


 おれはそう言って、小野通信参謀に用意してあったメモを渡す。

 小野はその内容を見て、またのけぞった。


『ただいまよりミッドウェー諸島のサンド島の滑走路および格納庫を攻撃する。アメリカ軍兵士諸君らはいったんイースタン島に避難されたし。なお、本攻撃終了後の三十分後に、わが上陸部隊はイースタン島に上陸する。平和裏の武装解除を期待するものなり。0800 大日本帝国海軍 南雲忠一』


「み、みごとな作戦暴露ですなあ」


「おうよ。……ここに書いてないのは、レキシントンのことだけ」


 つまり、そこが大事なんだ、と目でものを言ってみる。


「わかりました。しかし、司令長官がこれほど腹芸のできるお方とは……」


 小野はもうすっかりあきらめた様子で、逆らおうとはしない。


 草鹿以下、ほかの参謀たちもおれを信頼してくれているみたいだ。


 以前はおれとの距離がつかみかねて、なんとなくもじもじしていたのに、今じゃ言うべき意見は言うし、最後は黙っておれの結論に耳を傾けてくれる。


 もしかしたら、彼らは彼らどうしで、おれとのつきあい方について、なにか話し合ったのかもしれないね。


「さあかかろう。明日はいよいよ最後の決戦だぞ」


 かくして、真珠湾攻撃戦、最後の作戦が動きはじめた。




「ジョシーお別れだ」


 おれはジョシーに告げた。


 ここは最下層、彼女の居室となっている司令官用の病室。


 ベッドにすわり、与えられたノートになにかを書いていたジョシーは、ふっと年相応の表情になっておれを見た。


 世話がかりの比奈さんも、ジョシーのそばでゆっくりお茶を飲んでいる。


「もうすぐ上陸戦が開始されるんだ。そのときには島の捕虜に混じって君を解放する。せっかく仲良くなれたのに残念だが、内火艇ランチで上陸用の駆逐艦に移動してほしい」


 ジョシーはさっと、いつものきつい目つきになる。


「仲良くなんかなってないぞ。それに、戦う前から捕虜とは、いい気なもんだな南雲忠一」


「まあ、マイヤーズさんたら、そんな……」


 たしなめる比奈さんを、おれは笑顔で制した。


「その口の悪さももう会えないかと思うと淋しいよジョシー。君とはもっと語り合いたかった」


「……ふん」


「わたくしも残念ですわ。若い兵隊さんたちとも、せっかく仲良くなったのに……」


「だよねえ……。こんなご時世でなければ、敵として出会うこともなかったよね。本国に帰ったら、お父さんやお祖父さんにもよろしくね」


 おれは自然と握手をもとめる。


 ジョシーは口の端だけで笑い、おれの手を握る。


「ひとつだけ、聞いていいか?」


「なんだい?」


 お互いのぬくもりを感じたままで、おれとジョシーは見つめあう。

 白いセーラーの兵装がよく似合っている。

 揺れる金髪も、青い碧眼も、もうすっかり見慣れていた。


「キサマはいったいナニモノだ?」


「え……?」


 おれはなんと答えるべきか迷った。

 転生とか、前世とか、そんなことは今さら言う気にはなれなかった。


「そうだな……ただの、人間かな」

「人間……?」


 比奈さんもおれたちを戸惑いながら見ている。


「ああ、戦いもするし、泣きもする。だけど根はそう悪い奴じゃなかったろ?」


「まあバカではあるが、悪人ではないな」


「ひでえ!」


 おれは吹き出した。


「ただこれだけは覚えておいてほしい。南雲忠一は、この戦争を早く終わらせたいと思っている。そのために、できるかぎり力を尽くすつもりだ」


「……」


「この太平洋戦争は、アジアを侵略する日本への禁輸という経済制裁から始まった。日本は南方の資源獲得のために、戦うことを決意した。であれば、なるべくお互いの被害を最小化して早期に終結させることが最善だ。必要以上の戦線拡大はなんとしてもおれが阻止して見せる」


「ふん、ワタシには侵略者の世迷言に聞こえるがな」


「アメリカだってヨーロッパからの侵略者だろ」


 ジョシーがぷいと横を向く。


 思いついたように、いつのまにか集めた本やノートをまとめ、兵士にもらったのか、雑嚢をとりだし、そこに入れていく。


(あのノート、めっちゃ機密漏洩してそう……)




 ジョシーはもともと荷物は持っていないから、移動の準備は洗濯して清潔になった、もとの米軍服に着替えたら、それで終わりだ。


 比奈さんがはっとしたようすで、


「わたくし、外套をとってきます。まだ外は寒いですわ」


 と、出ていく。


「うん、たのむよ」


 おれはあらためて、ジョシーを見た。


 さっきの話がまだ気になっていた。


「ジョシーの言う通りだ」


「……なんだ?」


「世迷言で終わるかもな。おれだって、南雲忠一として、いつまで生きられるかわからんし」


「……」


「けどな、おれの時代の常識じゃ、力の均衡が平和の状態だって意見もあるんだ。だとすると、アメリカがここで一方的に勝つことが、世界の未来にとって、いいことかどうか」


 ジョシーは立ち上がる。

 おれの胸ほどもない身長に、あらためて驚く。


「世話になったな南雲忠一」


「元気でなジョシー」


 比奈さんが戻ってきて、軍装の外套を広げてみせた。


 襟に毛皮のついた黒の外套だ。


 きっとジョシーなら、足首までのロングコートになるだろう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 解放する前にノートのチェックするのが当たりまえでしょ?軍艦よ?バカなの?
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