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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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洗濯物級駆逐艦

●41 洗濯物級駆逐艦


 青い空の中、巨大な入道雲が白く盛り上がっている。


 南シナの海はぎらぎら光る太陽を反射して、まばゆいほどであった。


 現在、この海域には、磁気探知機を装備した哨戒天山が、数百メートル間隔の見事な整列飛行で低空を行き来している。見ればすでに黄色い塗料が点々と海面に浮かんでおり、海中になにかが潜んでいるのは間違いなかった。


 哨戒機が飛び交う高度よりは上、数機の艦攻天山が海域をゆっくりと旋回している。潜水艦が万一浮上したり、敵の攻撃があった場合、それに呼応し雷撃をするための攻撃隊である。


 その艦攻天山をあやつる飛行士の嶋崎は、後席に二名の乗員を従え、キャノピーをあけて、海面を見おろしていた。


 黄色い塗料の跡を目で追う。無線連絡によれば、敵影は北西にむけて潜行してるようだが、それにしても、黄色の数が異様に多い。


 嶋崎は無線機のスイッチを母艦にあわせて入れる。


「嶋崎隊、敵潜水艦発見海域に到着ス……こりゃ、かなり多いな」


 すぐに反応があった。


『こちら神鷹、司令部によれば駆逐隊がまもなく駆けつける。敵潜水艦が浮上したらただちに攻撃せよ。なお、中国大陸に近いため警戒を……』


 無線がふっと途切れる。


「どうした司令部」


 そう言って、ゆっくりとバンクしながら、嶋崎は台湾からフィリピンはルソンにさしかかる南シナ海をながめる。


 警戒はするが、このままではおそらく出番はないかもな、と嶋崎は思った。


 せめて影かなにかが見えれば、腹に抱えた八百キロ魚雷を発射することもできるが、相手はなにぶん海の中だ……。


「……もとい(訂正)。哨戒機から報あり。当該海域から西に五十マイルに敵と思しき艦隊を発見す。……これは神鷹哨戒隊からの報である」


 西に五十マイルの海上……?


 ――おいおい。まさかこんなところにアメリカの艦隊はいないぞ。


「漁船か何かと間違えたんじゃないですか?」


 後席の通信士がのんびりした口調で言う。


「そうかもしれんが、放ってはおけんぞ。……船籍を聞いてくれ」


「敵の艦隊と思しきとはなにか。敵の艦種や国籍は」


「……現在不明なり」


 嶋崎は首をかしげる。わからないとは、おかしな話だ。


 いったん上空六千ほどにあがり、海域を俯瞰する。黒い木の葉のような味方の駆逐艦が、海域を包囲するように展開して接近してくる。


 どうやら、ここは任せておいても大丈夫のようだ……。


 今回、嶋崎は神鷹には飛行隊長として乗船していた。


 ふつうはそれほど船を乗り換えないものだが、瑞鶴、翔鶴から龍驤、さらには今回の神鷹と、ここのところ嶋崎は転船が多い。


 これもベテランは率先して新兵を鍛えよ、という南雲長官の差配だろうか?


 いずれにしても、哨戒の任務は比較的経験の浅い飛行士の任務であり、今回の発見者も、嶋崎の部下には違いない。


「嶋崎より神鷹。敵発見は誰か?」

「高村一等航空兵である」


 高村か……。


 嶋崎はちょっと頼りない、赤い鼻をした丸顔の飛行士を思いだした。彼はたしか、南西の二番海域を扇状哨戒していたはずだ。


 五十マイルなら、飛行機ではわずか数分だ。嶋崎はそちらへ針路をとる。


 操縦かんを旋回のため右上に切りながら、FM無線のチャンネルを飛行隊に切り替え、マイクを握る。


「嶋崎隊、これより南西二番海域に急行ス」


「……神鷹了解」


「こちら嶋崎、哨戒隊高村」


 やや間があって、高村の声が聞こえる。


「こちら高村」

「高村、なにを見つけたんや?」


 つい、部下に対して方言が出てしまう。


「艦隊です。巡洋艦二、駆逐艦二」

「どこの船かわからんのか」

「わ、わかりません。国旗や軍旗を出しておりません。……接近して確認しますか」

「……いや、俺の到着を待て」


 嶋崎はため息をつく。相手はどこかの外国船だろうが、艦籍を確認もせず攻撃することはできない。


 それに、未熟な腕で接近を試みると、思わずしっぺ返しを食らうかもしれない。やはり自分が見に行くしかないだろう。


 嶋崎は爆雷の水柱を小さく見ながら、スロットルレバーを全開に押しこんだ。




 五分ほどののち、不明艦隊がいる海域。


 哨戒任務についている三機のゼロ戦が上空を舞う中、嶋崎は不明艦隊を発見して思わず笑ってしまった。相手は確かに巡洋艦が二隻で、しかも敵には違いなかった。


 だが、その護衛をしている二隻の駆逐艦の一隻にはロープが張られて、なんと、白い洗濯物がひらひらと風を孕んでいるのだ。とても全速で航行する艦隊の戦闘態勢には見えない。



「高村、どこだ?」

「隊長の上です」

「よし、攻撃態勢に入る。掩護せよ」

「……はっ!」


 哨戒機と言えどいい機会だ。編隊を整えさせ、攻撃を指示する。


「高村隊は機銃攻撃。目標、敵艦隊」

 細かいことはあえて言わず、高村に任せる。


 ただちに高村隊が斜めから切り込むように向かっていく。


「通信士……ちょっと数が足らん。応援を呼んでくれ」


 後席に声をかけ、司令部への要請を行う。嶋崎は僚機へ攻撃開始の連絡を翼を振って行うと、自らは敵の死角へと右舷後方に向かった。


 ダンダンダンダン……。

 ダンダンダンダン……

 ババババ!


 ようやく敵の駆逐艦が砲撃をはじめる。一定の距離で爆裂した黒煙を目の隅にとらえながら、いったん右上に針路を飛ばし、ふりきる。


 上空で大きく旋回して、敵艦隊の隙を伺う。


 が、どう考えても隙だらけだ。こいつら、いったい、なんのためにこれだけの数で出張ってきたのか。


 もう一度観察して、嶋崎はその理由がようやくわかった。二隻の駆逐艦のうち、一隻が米国のものだったのだ。こちらもフラッグは掲げていない。


(ははあ、フィリピンから逃げてきたか……)


 嶋崎から見ると、巡洋艦は大物だがアメリカの駆逐艦はこれまでさんざん死闘を繰り広げてきた敵だ。どちらも狙いたいが、さて、どうする……?


 ダンダンダンダン……。

 ガガガガガガガガガ!


 艦隊の機銃が高村隊に向けられている。


 ビシッ!


 そのうちの一発が、ゼロ戦の複雑なキャノピーを吹き飛ばした。


「高村っ!」


 思わず叫ぶ嶋崎に、そのゼロ戦はキャノピーに血しぶきを上げながらも、ひるまず突っ込んでいく。


(無理するなっ!)


 ガガガガガガガガガガガ!


 こんどは高村機の機銃が火を噴き、駆逐艦の砲撃手に襲いかかる。


 高村を攻撃したのは、アメリカの駆逐艦だった。その駆逐艦に銃撃を浴びせ、高村はぎりぎりのタイミングで上昇していく。


 よし、やつの攻撃を無駄にはしまい。攻撃目標は決まった。


 嶋崎は右舷後方からやや左に針路を変え、米駆逐艦にむかって低空飛行に入る。


 さすがに米駆逐艦だけあって、むこうからも強力な砲撃が次々に飛んでくるが、左右に機体をふって当てさせない。この機体には前方への機銃はないため、撃ち返すことはできないが、そのぶん水雷投下には集中できる。


 ぐんぐん艦隊がちかづく。


 別の駆逐艦を避け、巡洋艦すら無視して、アメリカの駆逐艦にまっすぐ進む。敵の進行方向と速度を計算し、やや前方を狙って水雷を投下する。


 一瞬海面でバウンドする水雷を見ながら右上へ操縦かんを引き、フラップを足で操作する。


 空が見え、白い入道雲が鮮やかに目に映る。


 ……どうだ、やったか!?


 …………。


 ド――――――――ン!


「命中です!」


 機銃を構える後席の兵士が叫ぶのを聞き、嶋崎はようやく息を吐いた。


『嶋崎隊』


「こちら嶋崎隊」

「直掩機六十が向かった。戦況はどうか」

「水雷、駆逐艦一隻……」


 ド――――――――ン!


 音が聞こえ、思わず下を見る。


 なんと、他の巡洋艦にも魚雷が命中しているところであった。しばらくして衝撃波が機体を震わせる。


「僚機がやりましたね」


 嶋崎は笑う。


「戦果を報告しろ。敵米国駆逐艦一隻に魚雷命中、大破。護衛の中国 寧海ねいかい級巡洋艦一隻に魚雷命中。中破。神鷹哨戒隊は一機が被弾負傷」


「諒解。ただちに帰投せよ。……確認するが、艦隊はいずれのものか」


 嶋崎は自分でマイクを握り、チャンネルを共通に切りかえる。


「艦隊は中国籍、寧海級巡洋艦二、中国洗濯物駆逐艦一、アメリカ駆逐艦一、以上っ」




中国の人すみません。中国の駆逐艦に洗濯物が干してあったという証言があるそうです。風も吹くし、ぼくは合理的でいいと思うんですけど……。 ご感想、ご指摘をよろしくお願いいたします。ブックマークを推奨いたします。

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