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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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南雲の遺言?

●37 南雲の遺言?


「さて、次の作戦だ」


 おれはこのために、新聞紙大の世界地図を用意させていた。


 それを開きながら話す。


「さあ、こいつはすごいぞ。なんせイギリスを挑発し、さらにアメリカの喉元に手をかけ、さらには資源も手に入れようという三位一体の作戦だからな」


 世界地図の中の、アフリカの左上の一角を万年筆で囲う。


「ここが、アフリカ大陸、リベリアだ」


 みんながのぞき込む。




 リベリア。


 ブラジルの対岸にして、アフリカ大陸北部の、もっとも西に突き出た場所にある沿岸国。もとはアメリカの植民地である。


 ただし、歴史は古くて十九世紀、アメリカの解放された奴隷たちの受け皿としてて建国され、その歴史的なつながりから、1942年、つまりもうすぐアメリカの航空基地が建設されたり、1944年には枢軸国にむけて宣戦布告してくる予定の国だった。


「遠いですね」

 と、進。


「ああ、ざっと日本からは喜望峰まわりで一万マイル以上だぞ」


 キロメートルだと二万キロ。つまり地球を半周することになる。


「だが、おれたちがインド洋で基地化したディエゴ・ガルシア島からは七千マイルほど。つまり、航続距離が一万マイルあるわれわれの艦船なら、中間補給方式で行けるってことだな」


「なにをしに行くのかね?」

 そういう永野総長に、おれはうなずく。


「ここはアメリカからの解放奴隷が建国した国で、アメリカの属国みたいなもんなんです。で、ボミヒルズって場所には、大量の『鉄鉱石』が眠っているんですよ。で、それを採りにいく。ただし金を払ってのまっとうな貿易交渉としてね。つまり目的は資源確保、そして国際政治への一手です」


 マレーにも鉄はあったが、ルートは多い方がよかった。それに、アルミはまだ国内でもなんとかなるが、鉄だけは釜石だけではどうにもならず、輸入に頼るしかなかったのだ。


「……南雲さん、やっぱりアンタ、面白いわい!」


 中島氏が、政治家らしい嗅覚でにやにやしだす。


「ようするに、アメリカの裏口みたいなもんじゃの。アメリカは、当初は反発するじゃろうが、いずれ日本と講和を目指すなら話は別。それに、こことの取引を黙認しても、自国民には頭を下げたと悟られない」


「そういうことです」


「それはわかるが、太平洋、インド洋、喜望峰まわって南大西洋という、帝国艦隊の遠路航行を、英米は黙って見ているかね?」


 と、これも聡明な永野総長が首をかしげる。


「おそらくは艦隊がリベリアに接岸するまで、誰も気づかんでしょうが、むしろイギリスにはこっちから教えてやります。そうすりゃアメリカにも伝わる、と」


「え?」


「ですから、停戦合意をやぶるなよ、と。われわれは鉄鉱石貿易のために行くだけだから、と」


「す、すごい。陽動どころか、仲間扱い」


 坂上がおもわず漏らす。


「ついでに、途中にある、フランスがナチスにやられて統治者がいなくなったマダガスカルも抱き込んで石油採掘権を獲得しておきましょう」


「マダガスカル?!」


 その島にも、万年筆で丸を描く。


 ここはご存じ世界最大の島で、アフリカの右下にある島だ。


 この地に無尽蔵ともいえる石油が眠っていることを、社会科教師のおれは知っていた。


 そろそろ、永野総長と中島氏以外にはついてこれない話題になっているらしい。彼ら以外はぽかんとしているばかりだ。


「空技廠の諸君らには、たのみがある。富嶽を大量生産してもらいたい」


「た、大量生産?」

 思わず三木が大声を出す。


「そう驚くなよ。アメリカは富嶽に匹敵するB29を千六百機も作るんだぞ」

「で、ですが……」


 たった二機でとんでもない苦労をしているというのに、それが大量生産といわれたのだから驚くのも無理はなかった。


「わかるよ。資源に場所に人、問題はいくらでもあるからな。しかし、これからはきっと高高度、大型ジェット機の時代になる。富嶽でつちかった技術で、輸送機や旅客機に発展させてほしい。それでマダガスカルやリベリアや、ヨーロッパと往復する。最初は原爆実験であまった富嶽を転用してもいい。だが、いずれにせよ、世界の空を制するのは、大型ジェット機だ」


 おれはちょっと一息入れ、椅子に体重をあずける。


「とにかく、アフリカへの艦隊派遣で、大西洋艦隊は動けなくなる。これが第二の陽動作戦だ」

「だれを行かせるのかね?」


 永野総長がまた具体案を要求してくる。


「それはまたあとでお話しましょう。いいですか?」

 おれはみんながうなずくのを待って、先を急ぐ。




「さて、最後の作戦は南樺太です。ここへはソ連へのけん制と、あわよくば北樺太の支配を目的に、陸海共同で兵器を増強します。海軍からは艦砲射撃のできる戦艦をここに貼りつけ、スクランブル発進可能な航空機を配備したい」


「すくらん……」


「緊急発進のことだよ淵田。ようするに、国境のあるところで、未来じゃ普通にやってることをする」


「おっしゃってる、い、意味が……」


 淵田が呼吸困難になった魚のような目をしだした。

 おれは永野総長に目をやる。


「ソ連が国境をこえてやってくるとすれば、きっと戦車と歩兵師団でしょう。それを察知してただちに迎撃するには、航空機が必要になる。そしてその時が、一番の全土掌握のチャンスなんです。一気に爆撃で戦車を殲滅し、敵基地を爆撃したら今度はこちらから戦車隊を出して占領する」


「それは陸軍の……」


「そうです。陸軍の仕事です。ですから、海軍としては戦艦を出して、ここに駐留させ、いつでも艦砲射撃が出来るようにしておきたいんです。大和と武蔵をね」


「大和と武蔵をここに……?」

 永野総長が信じられない、という渋面になる。


 むろん、ともに今の日本を代表する超巨大戦艦だ。


「もう戦艦は戦争には役立ちません。航空機がなければどうにもならない時代だからです。無用の長物……とまでは言いませんが、ここで戦艦を使うのはいい案だと思いますがね。なにしろ、相手は昔日本の戦艦にしてやられたソ連なんですよ」


「たしかに、強烈な威嚇だ」

 進が感心したように唸る。


「お父さんどこかで頭打ちました?」

 おれは吹き出す。


「うるせえな、打ちまくってるよ」

 みんなも笑顔になる。




 会議もそろそろ終わりだ。


 おれは世界地図を出して、二本の航路をラインで描いた。


「さて、この四つの作戦は二つの系統にわけることができる。まずは日本を出て、樺太に飛行機と戦艦を置き、そこからアメリカの西海岸にまわって沿岸を攻撃、トラックを経て南洋に下り、核実験を掩護するアメリカライン、もうひとつは日本からフィリピン、マレー海域で潜水艦をやったあと、インド洋、マダガスカルに立ち寄り、そこから喜望峰をまわってリベリアにいくアフリカライン」


「ははあ、アメリカを、は、挟み撃ちに……しとるな」


 中島氏が呻き、みんなが息をつめて見ている。


「で、誰が行くか。アフリカラインには草鹿を司令官に推薦します。艦隊構成はざっと空母四、艦載機三百、かな? ただし、哨戒天山はあらかじめフィリピンに輸送しておき、数にいれない」


「ふむ、草鹿ならやるだろうね」

 永野総長も納得したようだ。


「アメリカラインはもちろん、おれが行きます」


 おれは立ち上がった。


「ソ連ともアメリカとも、これで決着をつける」


 そろそろ締めくくるとしよう。

 どちらも長旅になるから、ただちに準備にかからねばならない。


 おれは少しだけ笑顔になって、机に手をつく。

 将来の日本を、技術大国に導くために。


「伊藤大佐、三木、太田、進。これはおれの遺言だと思って聞いてほしい。海軍技術研究所や空技廠のみんなにも、伝えてくれ。これから、軍事のカギを握るのは、君たち技術陣だ。航空機はレシプロからジェットエンジンになり、やがてはミサイル……つまり噴進砲が自分で長距離を飛んで行って敵を破壊するようになるだろう。原爆だっていずれそれに積めるようになる……かもしれない。まさに、技術が資源を凌駕する時代がくるんだ。研究者を増やし、横との連携をとり、技術の日本が世界をリードしろ」



いつもご覧いただきありがとうございます。四つの作戦が動き出します。 ご感想、ご指摘をよろしくお願いいたします。ブックマークを推奨いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 考えもしなかったリベリアとマダガスカルをここで持ってくるとはまさに脱帽と言うほかありません。
[一言] (*ゝω・*)つ☆☆☆☆☆
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