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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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今夜は膝まくら

●35 今夜は膝まくら


「はああ、疲れたあ……」


 すすむが到着の遅いおれを心配して衣笠温泉旅館に駆けつけてくれた時、おれはなじみの芸者、桃花の膝枕でまったりとくつろいでいた。


 がらっと襖があき、進が飛びこんでくる。


「お父さん!」

「おお進~よく来たなあ」


 おれがひらひらと手を動かし、進を手招きする。


「まあ入れ」


「もう!二時間も連絡なしになにやってんですか! みんな心配してたんですよ」


 がっくりと膝をつき、畳に手を置く。おれの無事を確かめて、急に力が抜けたみたいだ。なんだか泣きべそまでかいてるぞ。


「すまん。……ここで、汗をかいたからちょっと風呂にでもと思ったんだけど、こいつの顔みたら緊張がとけてほっとしちゃったんだよ」


 進が大きく息をする。


「あまり遅いので海軍省に電話したんです。そしたら、中将はちゃんと定刻には出られた、しかし別の車が迎えに来ていたらしいと言われたんで、なにかあったのかと中島さんも空技廠も、みんな心配しておられましたよ」


 おれは頭を掻きながら、ようやく起き上がる。


「そりゃ心配かけたな」


 言いながら、桃花に酌をうながす。

 彼女は夜にふさわしいあでやかな着物を着て薄化粧もしていた。


「こいつが誘うもんで、つい……」


 桃花がおれの肩を小さい手でポンとはたく。


「もう、ワタシのせいにしないでくださいな。南雲ッちがここにきたあと、心配して横須賀の海軍はんに電話してあげたの、ワタシなんですからね!」


「そうだった。感謝してますよ」


 ここはいつもの一室だ。むろん和室だが、おれのためにと、別棟はなれの一角を提供してもらっている。食事も運ばれ、食卓には酒も並んで、たしかに進からすれば、力の抜ける光景だろう。


「……で、なにがあったんです?」


 進はようやく落ち着きをとりもどして、正座になる。


 おれは猪口をあおって、はだけた浴衣を直す。

 彼らには、隠し事をするつもりはなかった。


「おい桃花、わるいけど進の料理を用意してやってくれないか。ゆっくりでいいから」


「もぅ、人使い荒いんだから」


 さすがは人気の芸者だ。おれの意図を察してすぐに立ち上がる。


「またあとで膝枕な」

「ふん!」


 そう言いながらもちゃんと両手をついて挨拶する桃花が去って、おれはようやく、にやけた顔を引き締める。


「実はだな……」


 進には山縣の存在とあの設備になかば強制的に連行されたこと。そしてその先で陸軍参謀長、杉山元がいて、息詰まる駆け引きになったことを話した。


「なんと……」


 聞き終わった進が沈黙する。

 あまりのことに、言葉を失っているのだ。


「みんなは?」


「まだ空技廠におられます。今から電話しますが、会議はもう明日にしますか?」


「海軍の連中はいいとして、知久平さんは明日の予定があるんじゃないのか?」


「いえ、ここに来る前、お父さんがお疲れなら明日の朝でもよいと」


「それは助かるな」

「では連絡してきますね」

「うん」


 進が出ていく。


 正直助かったよ。海戦やって帰ってすぐ拉致られて、心が休まる時がなかった。ここにきて、桃花の顔を見たら一気に疲れが出てたところだ。


 今日は食べて飲んで、ゆっくり風呂に浸かりたい……。




 翌日は雨が降っていた。

 車で進と一緒に空技廠に入る。


 旅館の傘のまま、案内された組み立て棟に入ると、そこには巨大爆撃機、富嶽がその巨体を横たえていた。


「うおおおお、でかい!」


 全長四十六メートル、全幅六十三メートル、そして最も高い部分は地上九メートルにもおよぶ。エンジンはレシプロのものはついていたが、二発の補助ジェットエンジンはまだ搭載されていない。それに、まだところどころのジュラルミンが未装着で、塗装もまだだった。


「中将!」


 中にいた兵士たちがバッと敬礼する。

 伊藤大佐や、淵田のなつかしい顔もある。


 その面々のどの顔にも、得意満面な表情があらわれている。それだけ、この富嶽の雄姿がみんなに希望を与えているのだ。


 くだらない建艦競争にあけくれるのは間違いだが、軍人が兵器を誇るのは当然だ。戦争オタクのおれにしても同じで、実物の富嶽を目にして感慨もひとしおである。ともかく今日はこの巨大な爆撃機を、じっくりとあじわうことにした。


「お疲れ様です」

「どうですか。立派でしょう」


 あの桜花の発案者・太田正一と、開発者・三木忠直の胸を張る姿もあった。特攻兵器よりはまだこの富嶽に誇りを持ってもらう方が、うんとましだ。


「すごいなあ。まだ一機だけか?」

「いえ、別棟でもう一機同時にやっています」

「そうか。壮観だな……」


 おれはしばらくの間、富嶽を見あげていた。


「おっと、ところで、知久平さんは?」


「中島さんなら、もうそろそろかと。会議には間に合うよう来られると伺っておりますが」


 進が言う傍から、でかい声がする。


「いやあ、濡れた濡れた」


 振り返ると、傘をたたんで外套を脱ごうとしている中島知久平がいた。あいかわらずのでかい顔と巨体だ。


「やあ、これは中将。ずいぶんな目にあわれたそうで」


 ひょこひょこと駆け寄ってくる。


「いや、たいしたことはありません。海戦じゃ中島さんの航空機にずいぶん助けられましたよ。……ともかく、まずは定例会議といきましょうか」




 空技廠の大会議室に場所を移動して、さっそく会議に入る。なるべく窓際に会議机を移動し、声が漏れないように配慮しつつ、さらに見張りの兵も置いて厳重に警戒する。


 出席者は以下の通りだった。


 南雲忠一 海軍中将 

 伊藤庸二 海軍技術研究所 技術大佐

 三木忠直 海軍航空技術廠 技術少佐

 坂上五郎 第一航空艦隊機関参謀

 淵田 美津雄 中佐 富嶽飛行隊長(予定)

 南雲 進 G作戦特務少佐

 中島知久平 元鉄道大臣 翼賛政治体制協議会顧問 元海軍機関大尉 中島飛行機社主


 まずは富嶽に関する進捗状況の報告を受け、懸案事項の検討を行った。こんな具合だ。


「気密室のドア形状について。角にすると気密が弱くなる」

「角は丸でもよし」


「投下爆弾は吊下式一発でよいか」

「一発でよいが氷結防止のため駆動部を熱で温める工夫をせよ」


「高高度飛行なら対空兵器は省略でよいか」

「だめだ。相手も高高度爆撃機で体当たりまである。対空武装はむしろ強化してほしい」


「掩護の航空機に高度が足らない」

「やや低高度をゾーンで守ろう」


 議論は百出ひゃくしゅつしてつきないが、終わってみればそれほど大きな問題はなく、富嶽についてはおおむね順調のようだった。


 一息ついて、今度は原爆についての話になった。

 ここでおれは夕べの杉山の話を持ち出した。


「進、平山から釜山までの陸路輸送は陸軍が保証すると言っているが、どうするね」


 進は搬出についてはすでに考えていたのだろう、さっと緊張を走らせる。用意していた陸路の地図を広げ、説明を始める。


「陸路だと時間がかかっていくつもの危険があります。車両運搬は目立ちますし、列車だと待ち伏せされます。そのうえ、現在は総督府で元陸軍の特務中佐本永さんが防諜の面倒を見てくれていますが、万一情報が漏洩した場合、ソ連や中国からの集中爆撃だってありえます」


 製造する原爆は二発。爆縮で素材が中央で合体するしくみさえ十分試験を繰り返せば、あとは構造的にほぼ失敗はないから富嶽による投下核実験へと踏み切れる。ただし、無事に日本へ着けば、である。


 おれは地図をのぞき込み、自分の考えに確信を持つ。


「陸路が危険なのは同感だ。ところで原爆は二発だよな?」

「はい」

「それって、四発つくれないか?」

「は?」


 みんなが呆然としておれの顔を見る。


「いや、二発はダミーでいいんだ」


「だめ?」

「いや、ダミー。つまり偽物ってことだよ。そいつを陸軍に運ばせておき、実際は二機の一式陸攻で空輸したい」


 全員が顔を見合わせる。


「り、陸軍をだますんですか?」

「そうだよ」


「しかし、敵の航空攻撃の恐れが……」

「いっそ富嶽で迎えにいこうか?」

 飛行隊長を任ぜられた淵田が言う。


「だ、だめです。滑走路、ジェット燃料、それに電探に引っかかって大事になります」


 三木らが慌てだす。


「まあまて。今から説明する。一世一代の陽動作戦をな」



いつもご覧いただきありがとうございます。ついに南雲の考えるG作戦が始動します。ご感想、ご指摘をよろしくお願いいたします。ブックマークを推奨いたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついにG作戦!
[一言] 陸軍は色々とやらかしてるからなぁ。 そもそもシーランド国家の日本が大陸に深入りして無かったら陸軍そんなに要らないんだよなぁ…
[良い点] 陸騙しですね。 富岳に搭載して運搬は良いと思います。 226事件でも分かる通り、陸は自分等の権限を守るために軍部を利用しました。 海軍も多少はありますが、陸軍は常軌を逸してます。 絶対に信…
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