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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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戦勝気分に水を差す

●32 戦勝気分に水を差す


 ソ連陸軍少将アレクセイ・グネチコとの会談を終えたおれは、追撃の警戒をしつつ、アッツ島、キスカ島への大隊上陸と補給を確認し、日本への海路を急いだ。


 傷ついた空母や駆逐艦は、早急に次の戦いに備えて修理をいそがねばならない。学徒動員ならぬ、数千人にもおよぶ学徒工員による生産とメンテナンスの体制は、たしかに強力な工業力を生み出しつつあった。


 海軍ドックは各地につくられ、船はそれぞれに分かれた母港へと寄港していく。おれは空母隼鷹とともに東京湾に立ち寄り、無事に凱旋帰国を果たした。


 草鹿や角田、そして戦時防火指導マニュアル作成のため、あの隼鷹名物男、桜庭平八郎をともなったおれは、出迎えの民衆による大歓迎を受けた。


『海軍バンザーイ』

『戦勝万歳!南雲艦隊万歳!』


 大発動艇から港に降り立つと、とんでもない数の観衆がおれたちに手を振っている。


「やあ、よく帰ってきてくれた」


 山本五十六司令長官が、もうすっかり穏やかな好々爺みたいになって、にこやかにおれを待っている。


「こりゃ、どうも」

「またやってくれたね」


「ええ、まあ今回は敵の数がこっちを下回ってましたからね……」


「いや、君の手柄だ」

「それはいいですが……」


 東京湾を封鎖する勢いでロープが張られ、その向こうには鉢巻き姿の港湾作業員や、日の丸を千切れんばかりに振る民衆が大勢ひしめいている。


「あれはどういうワケですか? ちょっと気が緩んでませんかね?」


「ん? ……ああ、あれか。大本営が戦意高揚のために手配したんだよ。君はいい宣伝材料だからな」


 群衆のものすごい喚声で、おれたちの会話もままならない感じだ。


「ちょっとは手を振ってやったらどうだ? 少しは愛嬌って物も必要だよ」


 まったく、いい気なもんだ……。


 ミッドウェーがなかっただけで、日本ってこんなにダラダラになるんだな。


「そんな気分にはなれないんですけどね……」


「ほほう、勝って兜の緒を締めよ、か。うん、さすがだ」


「おれはトラック海戦のあともずいぶんひどい目にあいましたからね。……というより、その言葉、今の日本全体に聞かせてやりたいですよ」


「聞かせたらどうだ?」


「は?」


「あそこに、戦勝報告の舞台が用意されてるよ」

「え~っ?」


 見れば、港の一角をしきって、ご丁寧に一メートルほどの紅白の舞台をつくり、NHKみたいなマイクまでしつらえてある。もちろん、民衆に向かって、だ。


「なんちゅうことを……」


 おれは背後の草鹿と角田、そして桜庭を振り返った。


「どう思う? たるみまくってないかい?」


「どうぞ、長官の思うようにされたら、いいんじゃないでしょうか」


 草鹿も、半ばあきれ顔で民衆と舞台を眺めている。


「じゃ、本当にいいんですね?」


 急に心配そうな顔になり、なにを言うのかと尋ねる山本さんを、いいからいいから、と押しのけて舞台に向かう。民衆はその様子を見て、さらにものすごい歓声を上げ始めた。


「ちょ、ちょっと南雲くん、たのむから変なことは言うなよ。首が、と、飛ぶぞ」


「知りませんよ、そんなこと」


 NHKラジオの職員なのか、丸メガネをかけてワイシャツを袖まくりした係員が、立ち位置を遠慮がちに指定してくる。


 おれの後ろには草鹿と角田が立ち、桜庭は舞台には上がれず、山本長官はおれの横で胸を張る。


 おれはマイクに向かって立ち、帽子を脱いで軽くふった。


 ウワ――――――ッ!


 めっちゃ喧しい……。

 仕方ないので、腕をおろしてそのまま静かになるのを待つ。


 おれが浮かれるわけにはいかんよな。ぐっと顔を引き締め、とにかく民衆が落ち着くのを待った。


 あんなにあった歓声が徐々に引いていき、あたりが静かになっていく。


 おれはころあいを見計らって、ゆっくりマイクに顔を近づけた。


「あーこほん」

 民衆が固唾をのんでいる。


「みなさん出迎えありがとう」


 民衆は静かに聞いている。海戦での未帰還の兵士たちを思い出し、おれはつづけた。


「すでに聞いての通り、今回も戦争は帝国軍の勝利に終わりました。だが、戦争に一方的な勝利はなく、今回の戦いでも、たくさんの帝国兵士が敵と戦って死にました」


「ここ、こら、英霊と、英霊と呼ばんか!」


 山本さんが小声で必死に言うのを、おれは無視することにした。


 おれがやっているのは戦争だ。そして戦争は国民がやるものだ。勝利はしても、亡くなったそれぞれの家族にとっては、きれいごとではありえない。きれいごとですませた史実が、どんな虚しい結果を招いたか、おれは知っている。


「したがって、おれはまずもってこのいくさを戦い、皇国のために尊い命を捧げた若者たちに黙祷をささげたいと思う。……黙祷っ!」


 おれは帽子を胸に抱き、うつむいて目を閉じた。

 しわぶきひとつない、沈黙の祈りが捧げられる。


「黙祷終わり!」


 民衆が肩の力を抜くのがわかる。おれは高い舞台の上から、ロープの向こうを見わたした。おそらく数千人はいるだろう、さまざまな民衆……赤ん坊を背負った主婦、サラリーマン、学生、農作業の途中だったような男、もんぺやゲートル姿は思ったより少ないが、あらゆる世代、職業の人間たちがおれを見つめている。


 おれはとにかく、思っていることを口にすることにした。


「みなさんに一つだけ伝えたいことがある。いま、われわれは中国とも米英豪とも仏蘭とも戦争をやっている。これは大東亜戦争であり、第二次世界大戦である。そんな戦いが楽なはずない。資源を確保して、海上輸送や陸路を運び、兵器を作って世界のあらゆる地域、海上で戦わねばならない」


 し~~~~~~~ん……


 はりゃ、みんなしょんぼりしてるぞ。

 ああ、この時代の民衆って、ものすごく従順なんだ。


 軍人のおれが一言いっただけで、怒られたと思ってるんだな。


 山本さんを見ると、彼までうつむいてる。なんでだよ!


 はあ、仕方ない、ちょっとフォローしておくか。


 おれは少しだけ笑顔になった。


「もちろん、戦うのはわれわれ軍人だ。おれたちは今までも、これからも、全力で戦いぬいてみせる」


「……」


「だが、それを支えるのは、国民のみなさんだ。兵器を開発するのも、製造するのも、いまや民間の力なくしては成り立たない。それだけじゃない。兵士たちの糧食をつくるのも、パラシュートや軍服や、生活必要物資はすべて、みなさんが供給してくれている。あるいは新聞社は情報を伝え、ラジオはニュースはもちろん、演芸や歌謡曲で兵士の心を慰撫をしてくれている。おれたち軍人が、たったひとつの軍歌で、どれほどの勇気をもらったかわからない。つまりこれは、この戦争は、国民みんなの戦争でもあるんだ」


 お、少しは顔を上を向いて来たぞ。


「国民のみなさん、今はまだ、浮かれている時じゃあない。敵は強く、資源があり、どの国々もそれなりに必死だ。われわれ軍人は必勝の信念で戦っているが、しかし、どうかみなさんも、そのお覚悟を」


 なんつったってもと教師だかんね。

 演説は慣れっこだ。


「お、おい、なぐもくん」


 ……ん? 山本さんがなにか必死でささやいてるな。


 両手をぴこぴこ……なんだ?

 ああ、万歳しろってか?


 天皇陛下万歳?


 ここへきての神秘主義と精神論?


 う~ん、どうしよう?


 あ、とうとうおれに拝みだしたぞ。

 もうしわけなさそうな表情までして。


 だけどなあ、おれの信条は、合理性なんだよなあ。


 仕方ない、あとは勝手にやってもらおう。


「以上です。大日本帝国、第一航空艦隊司令長官 海軍中将 南雲忠一っ」


 どおおおおおおおおおおおおおおおお!


 爆発するような歓声があがり、無数の日の丸がバサバサと振られる。


 群衆が真っ白に染まる。


「山本長官、あとはお任せしますよ」


 大声で言い、おれはあとを山本さんに任せ、マイクから離れる。


「え?え?」


「さあ、山本さん、出番ですよ。部下のフォローは上司の仕事でしょ?」


 マイクの前に押し出す。


「う、うおっほん!……脱帽っ!」


 みんなが慌てて帽子を脱ぎ、姿勢を正している。

 ははあ、こうやると、次におこることが、みんなにもわかるんだな。おれだったら、絶対失敗してたよ。


「てんのうへいかあああ……」


 ……ん?

 あれは……?


 おれは山本さんの掛け声を聞きながら、目の前の群衆の中に、ある男の姿を見つけていた。



いつもご覧いただきありがとうございます。神頼みではない本当の戦争とは? ご感想、ご指摘をよろしくお願いいたします。ブックマークを推奨いたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] えっまじ?硫黄島にも沖縄にもパラオにも生涯ただ一度も赴かずに息子夫婦に丸投げしたのに・・・・
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