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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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戦争と平和

●31 戦争と平和


 グネチコは目をつむって考え込む。


 自分で手を伸ばし、グラスにウォッカを注いだ。


「ひとつ、お聞きしてもよろしいですかな?」


「なんです?」


「原子爆弾について……お話いただけまいか」


「ほう……」


 陸軍の酒好きだが上層部には実直そうなこの男から、意外にも核心をつくキーワードが飛び出してきた。もうこんなソ連の現場の司令官にまで、核が取りざたされているのかね?


「よくご存じですね、グネチコ……え~と……」


 階級章を見るが、さすがにソ連の階級がわからない。


「……艦長?」

「はい、私が艦長です」


 嘘コケ、と思いながらも、仕方なく続けることにする。


「原子爆弾について、ソ連じゃもう開発してるんですか?」


「とぼけちゃいけませんなナグモ長官」


 グネチコはグラスを煽り、カン、と音をさせてテーブルに置いた。


「さきごろ、アメリカで出版された本に、あなたが原子爆弾をつくっていると書かれてあったそうですぞ……」


「え、そうなの?」


 とぼけようとアゴに手をやったおれは本気で驚いた。


 おれと原爆について、アメリカで出版……?


 当然、核開発は大日本帝国にとっても極秘中の極秘情報だから、敵国のアメリカでそんなことがおこるはずがない。あるとしたら、アメリカ人で、よくおれを知ってる奴が書いたことに……。


「ジョシーかあ!」


 おれは天を仰いだ。まぶしい日差しが目に入る。


 そうだ、きっとあいつに違いない。むろん、考えあってのことだろうが、やってくれたもんだ。


 思わず眉をひそめる。


 日本の軍部にばれるのも時間の問題だな。彼女はおれが通訳として雇った人間ということになっているから、管理不足としておれが責任を問われかねないぞ。


 ……。

 ……責任?


 そこまで考えて、おれは自分に驚いた。責任を問われる……だと? いつからおれはそんな役人みたいな考え方になったんだ? 問われたからなんだってんだ……?


 おれは軍服の胸のボタンをひとつ外した。


 胸元に涼しい風が通る。


「なあんだ、そこまで知ってるんですか!」


「ほう」


 グネチコにニッと笑いかける。


 ジョシーがやった暴露は、アメリカ国内の世論を日本との停戦に導くための一手に違いない。だとしたら、おれだって自分の世界戦略に、核開発とその情報を利用しない手はない。


「知ってるなら隠す必要はないですね。そうです、おれが原爆開発やらせてます」


「おお」


「ま、原爆ってのは人類が生み出す、おそらくは最終兵器でしょうな。グネチコ艦長は原爆のことを?」


「いや、よく知りません」


「でしょうなあ。いや、潜水艦の艦長なら無理もない。大局観も必要ないし、局地戦を考えればよい。原爆、つまり核兵器が潜水艦に搭載される未来もあるけど、きっとグネチコ艦長はその時はもう引退しておられるでしょう。これ以上は、将官でないとお話しても仕方ない。というわけで、この話はここまで」


「???」


「いや、残念ですな。貴国の将軍職にお会いする機会があったら、ぜひ原子爆弾についてもお話したい。なんと言っても、ソ連と日本は()()()()()を結んだ仲だし」


 おれは腰を浮かす。


「さ、そろそろ行こうか草鹿」

「はっ」


「ちょ、ちょっとお待ちくださいナグモ長官」


 グネチコがあわてて立ち上がる。


「なんですかな、グネチコ艦長……?」


「もうすこし、その、原爆について、お話いただきたい。同志スターリンも、重大な関心をもっております」


「でしょうね。グネチコ……」


 また階級章を見る。


「少将です。……失礼しました。ソビエト連邦、陸軍少将のアレクセイ・グネチコと申します」


 巨体にでかい顔の彼が、急に生真面目な表情になって、恐縮しているようすは、いっそユーモラスだった。


「じゃ、もう少し話しましょうかグネチコ少将」


 原爆の存在は、その情報だけで外交カードになるらしい。


 これは軽い衝撃だった。


 二人して、もう一度腰を降ろす。


「今、貴方はスターリンがこの情報について関心を持たれていると、言いましたね?」


「いかにも」


「ではご伝言していただくために、少しわかりやすく説明するところから始めましょうか……」


「お願いします」


 おれはごく簡単に核兵器の理論と、その威力について説明した。


「……つまり、この爆弾は四千度の熱線と、TNT一万五千トン分の衝撃波で半径二キロ以内の人と建物を壊滅させます。しかも、強烈な残留放射能によって、攻撃した都市にみならず、その地域全体を破壊し汚染してしまうんです。簡単に言うと、これをお互い持って攻撃しあう国は、どっちも滅んでしまいます」


「ま、まさか」


 たしかに、こんな話は軍人にとって俄かに信じられるものではない。だがおれの目をみているうちに、どうやらうそを言っているのではないことが、わかってきたのだろう。


 グネチコの顔には血がのぼり、目が血走ってきた。だらんと口を開け、はあはあと息をしている。


 ……ま、無理もないか。


 黒ひげの通訳だって、青ざめて倒れそうな顔をしているしな。


「そ、それで、に、日本は、その爆弾を持っているというのですか?」


「いえ、まだですが、もうすぐ実験を行います。その威力をぜひスターリン・ソ連邦元帥にも見ていただきたいですな」


「そ、そんな……」


「いやいや、ご心配には及びませんよ。なんたって、日ソには()()()()()があるんですから」


「……はあ、はあ」


 ヤバイ。グネチコが倒れそうだ。


「おい、お前ら」

 後ろの男たちに声をかける。


「水を持って来てくれ。グネちゃん倒れそうだぞ」


 黒ひげが指示して、シネチェンコが走っていく。


「ならば……」

 グネチコは自分の巨体をテーブルに置いた手で支え、苦しそうに言う。


「ならば……わがソビエトはどの国よりも大きな原爆を、どの国よりも多く持つでしょう」


「でしょうね。いいと思うよ。ツァリーボンバ万歳」


「う……う」


 瓶に入った水が来る。グネチコはそれをごくごくと飲みほした。


「さてグネチコ少将。ここからはよく聞いてくださいよ。スターリン元帥に伝えてほしいこと、その二、です」


「……」


「原爆はその構造と原理が非常に簡単なので、最終的にはいくつもの国が持つようになります。そしてこれを持った各国間では、以後、簡単には戦争ができなくなる。つまり核抑止力ですね。実にバカげたことだけど、地球にはこれでしか平和は訪れないんですよ」


「ナグモ長官……」


「そして未来は、この核を持った国々が中心になって、地理的、文化的、イデオロギーなどで共同体を形成していくことになる、とおれは考えています。日本がアジア連盟を主導し太平洋をアメリカと分け合えば、ソビエトは共産主義国をまとめ、イギリスとフランスがヨーロッパの中心になっていく。……どうか貴国も……そのお覚悟を」


「あ、あんた……いったい……なにもの……だ?」


 おれは笑った。


「ただの大日本帝国軍人ですよグネチコ少将。……いいですか。スターリンにちゃんと伝えてくださいよ。日本に恩を売るなら今だが、裏切ったら許さない。原爆はもうすぐ日本が開発するが、結局はみんなが持って抑止力となる。でないと平和は訪れない」


「わ、わかりました」

 それを聞いて、おれはようやく立ち上がった。


「それではスターリンさんによろしく。あと、あんまり美食とウオッカが過ぎると脳出血で死にますよ、とね。……さて、帰ろう」



いつもご覧いただきありがとうございます。ソ連の使者との会談はこれで終わりです。 ご感想、ご指摘をよろしくお願いいたします。ブックマークを推奨いたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 平和はやくこんかなぁー あ、でも平和になったらこのお話終わっちゃうなー うーん
[一言] TsarーBomba、「爆弾の皇帝」この名称を出すのはいくらなんでも早くないですか(笑) いや、1961年に命名されるヒントかな(爆)
[気になる点] あと、あんまり怒りすぎないように伝えた方が良いかもwww
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