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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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正面から魚雷

●17 正面から魚雷


「哨戒より報告、敵機は……二十!」


 思ったよりも敵の数が多い。

 無傷の二十機編隊だとすると、艦攻や艦爆もいるだろう。


 そうなると、魚雷一発で、この船は大きな被害を受けてしまう。艦爆から攻撃されれば、せっかくの新型爆撃機も飛べないまま、沈めてしまうことになる。


「疾風は出せるか?」

「いえ、残っておりません」


 一刻の猶予もなからなかった。角田はただちに決断した。


「天山と彗星を全部発艦させろ」

「い、いいんですか?」


 南雲長官からの指示は疾風十機のみの発進だ。機銃や高角砲戦になったときの混乱を避けるためと、敵機の艦爆による被害を受けたとき、甲板に飛行機があると誘爆してしまうことを避けるためだろう。


 しかし……。


 格納庫でやられるよりは一機でも多く飛んだ方がいい。


 角田はあごを引き、歯をぐっと食いしばる。覚悟を決めたときのクセだった。


「電探連動高角砲に撃たれないよう、発艦したらまっすぐ五マイルは直進せよ。砲には右舷左舷ともに角度制限のラッチをかけろ。機銃と八九式高角砲は右舷と左舷でのみ使用し、前方には撃たないように」


「わかりました」

 兵士が走る。


(天山も彗星も、甲板がやられたら宝の持ち腐れになる。しょせんこの艦の装甲では食らったら終わりだ)


 伝声管と艦内放送を通じて、敵機来襲と発艦命令が伝えられる。


「発艦用意!全機だすぞお!」

「対空戦闘用意!」


 それでなくとも発艦に時間がかかる龍驤だ。いつでも飛べるよう、飛行士も整備兵も準備はしていたが、敵機が来る中での発艦は、やはり非常事態だった。


 甲板を飛行士が走る。整備兵も甲板の後方に走り、格納庫のリフトを操作する。


 甲板で双眼鏡をかまえ、上空を監視していた兵士たちが、大声で叫ぶ。


 艦橋構造物のない龍驤では、対空を監視するのは甲板上しかないのだ。


「敵機が来たぞおおおおお!」

「方位右三十!」

「対空戦闘準備ヨシ!」


 機銃射撃手は配置につき、高空を睨んでいた。青空のない、白い空の向こうから、小さな黒い点がかすかに見える。


 それがすぐに雲間に隠れたところで、チンチン、という音とともに、天山の姿が見えてくる。


 さすがは猛将角田の率いる空母龍驤である。

 対空戦闘のさなかであっても、その動きはなんら乱れはない。


 機銃掃射されれば、自分たちは真っ先に撃たれることになるが、もとより命は戦場に捨てている。


 飛行士が待ちかねたように乗り込み、プロペラを回す。


 車輪どめが外されると、ただちにうなりを上げて甲板を走り出した。


 ババババババババ……。


「いけええええ!」

「次だ次っ!」


 ラッターを昇って、高角砲の砲台に数人の機関兵が出てくる。


「高角砲にラッチをかけろ!」

「右舷前方一番方位角四十五……もとい、六十。いそげっ!」


 それぞれが走り、高角砲の巨大な回転機に大きなピンを嵌めていく。


「まだかっ!」

「終わりました!」

「始動、退避~~っ」


 兵士が鉄のカバーを降ろして退避する。


 キュイ―――――ン!

 すぐに右舷の高角砲が反応を示す。


 機銃座に座る兵士が、その音に振りかえる。


 電探連動高角砲が首をふり、方位、次に仰角を合わせるのが見える。


 本能的にその方向へと目をやるが、機銃座の兵には、まだ敵が見えない。雲に隠れているのか。


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 唐突に高角砲の発射がはじまった。


 人間にはまったく見えていなくても、電探は関係なく数千メートルもの遠方の敵影ととらえ、発射していく。


 機銃座に陣取る数人の兵士が、高空をにらみつづける。


 少しでも敵機が見えたら、必中の覚悟で撃ちまくるつもりだった。


 しかし、まだ敵は見えない。


 その間にも、天山が離艦していく。その大きな爆音のおかげで、空の敵機の音はよく聞こえない。


 そこへさらに連動高角砲が動く。


 キュイ――――ン

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 ボボボ、っと雲の向こうで近接信管が反応し、爆裂する音がしている。


 がしゃがしゃという、機体が壊れる音もする。


 付近を航行する駆逐艦からも一斉に砲撃が開始され、あたり一帯の空に無数の黒煙があがる。


 ひょっこり、という感じで、厚い雲の中から一機のF6Fが姿を現した。


「右三十、敵機~~っ!」


 機銃が撃たれる。


 ダダダダダダダダ!

 ガガガガガガガガガ!

 ガンガンガン!


 こちらの甲板にも敵の機銃が走り、穴が開く。


 幸い、甲板を離艦へと走行する天山にはあたっていない。


 こっちも応戦しようとするが、あっという間に敵機は龍驤を通り過ぎ……。


 キュイ――――――ン

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 バシャアアアアアアア!


 左舷の高角砲に直撃されて、わずか二百メートルほど離れた海上に、F6Fは突入する。


「また来るぞ~!」

 



 前方、甲板直下の指令室。


 司令官の角田は、真正面から龍驤に向かってくる、敵の雷撃機アヴェンジャーを見つめていた。


「司令官、危険です!」

「……」


 だが角田は微動だにしない。


 この方向からの攻撃は、偶然にも電探連動高角砲の死角だ。


 雷撃機なら、ふつうは空母攻撃に際して左右の腹を狙う。全速で走る空母の正面からというのはいかにも非常識だが、偶然にもこのコースに入ったのだろう。


 アヴェンジャーはぐんぐんと迫ってくる。


 高度は五百ほどか。


 船の針路を変えたいところだが、発艦していく艦載機や乗員に危険がおよぶ。


 アヴェンジャーがふっと姿勢を低くした。


 胴体からぶら下がる敵の魚雷が不気味に黒い。


 アメリカの魚雷は不発が多いが、今回にかぎって、そんな僥倖はありえないだろう。


 角田は歯を食いしばった。


 愛嬌が消え、生と死にわが身を駆ける武人の顔になる。


「……」


 グオオオオオオオオオオ!


 その時、頭の上から黒い影が現れた。

 それは今まさに、離艦したばかりの天山だった。


 そのまま、まっすぐにアヴェンジャーへと向かっていく。


(体当たり?!)


 敵機はたまらずバンクして逃げる。


 自爆なんかにつきあっていられない、とでもいうように、龍驤の横腹へと身をかわす。


 指令室の斜め後ろにある機銃座は沈黙のままだ。突然のことで、追撃が間に合わない。


 アヴェンジャーが方向を変えてから、わずか一秒。人間の反応では無理なのだ。


 そう、人間では……。


 キュイ――――――ン

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ドカドカ……ド―――――ン!


 空母の横へと逃げたアヴェンジャーを破壊したのは、電探により自動で攻撃を行う連動高角砲だった。

 その直撃を受けた敵機は、胴の後部をふっとばされ、頭から海上へと突っこんでいった。



いつもご覧いただきありがとうございます。龍驤対アメリカ軍16機。ちょっと不利な感じで戦いが始まります。 ブックマークをよろしくお願いいたします。 ご感想ご指摘をお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 苦しそう
[良い点] 海戦開始ですね。 海戦シーンなら「ビスマルク号を撃沈せよ!」傑作です。 本作の雷撃シーンと似たシーンも多くフッドやPOWの撃破シーンは最高です。 空母の発艦シーンも多く買うべきDVDです。…
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