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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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しのびよる敵機

●16 しのびよる敵機


(急がにゃ……)


 坂井は方位盤を確認し、次に膝の上に置いた海図を見る。


 視界内には点在する島々があって、まだ日中なのに、海は黒々と沈んでいた。


 あいかわらず雲が濃い。おかげでちょっと目を離すと、すぐに列機が雲の中に入り、見失ってしまう。こういう場合はできるだけまっすぐ飛行するのがいい。


 針路を決めると、全速で現場へと急行した。


 ただし、警戒は怠らない。空戦において、不意を突かれることは死を意味する。翼をふり、バンクを繰り返して、上下左右と油断なく神の目を走らせる。


 はたして、まもなく右上空に二機の機影が見えた。


「二時の方向、高度五千、グラマン二機」


 水雷をぶらさげている。雷撃機だ。


 きっと、空戦域から脱してきたに違いない。自分が行くまでもなかろうと判断し、僚機に撃墜を指示する。


「川端隊トツレ」

「了解」


 三機が列を離れ、バンクして上空へむかっていく。


 これで七機になった。しかし坂井にはまだ自信があった。敵機は三十で、うち戦闘機は十機ほどだ。すでに直掩部隊が到着しているから、俺たちが行けば問題はない。


 先行して敵の攻撃隊を迎え撃っている直掩機の様子を知るため、無線のスイッチを入れる。


 チャンネルを十から順にあげていく。


 十から十二までが隼鷹、二十から二十二が飛鷹、そして三十以上が坂井たち龍驤に割り当てられたチャンネルだ。


 ちなみに、この無線機には、共通チャンネルというものがあり、それを使えば全員への同時放送が可能だった。


 どうやら迎撃している直掩部隊も、無線は有効に使用しているようだ。


「「敵機撃墜!」」

「「八島、上だ!」」

「「一機が低空へ逃げたぞ」」

「「飛鷹隊が追う」」

「「二機に追われている」」

「「掩護する」」


 さすがに混戦のようだが、無勢ではなさそうだ。

 坂井は無線を攻撃隊に戻し空戦域を目指す。


 しばらくすると、遠い雲間に鳥のような黒い機影がいくつも飛び回っているのが見えた。


「前方に戦闘!」


 坂井は空を見上げ、薄そうな雲を狙って上昇していく。

 列機もそれに続き、優位を確保する。


 坂井の狙いは敵のうち、空域を抜け出そうとする艦攻や艦爆機だった。迎撃作戦の狙いは、つまるところ、それら自分たちの艦隊を狙う、敵雷撃機、爆撃機の撃墜にある。機銃で撃つことしかできない戦闘機に比べ、爆弾や水雷を積んだ機体は、危険極まりないのだ。


 そいつらを倒せば、あとの戦闘機はゆっくり料理ができる。

 上空で旋回し、ゆっくり戦闘空域にちかづいていく。


(……むっ!)


 五機のSBDドーントレスが編隊のまま、龍驤の方向に抜けていくのが見える。追うべき直掩機はF6Fとの格闘に誘い込まれたのか、見えない。


 坂井はすぐさま無線機のチャンネルを列機に合わせる。


「目標、十時の方向。高度六千、五機のダグラス爆撃機」

「諒解」


 スロットルを開け、機首をあげていく。雲間に見え隠れはするが、見失うことはない。後方一マイルほどの距離にまで追いつく。


 だが、ドーントレスには後尾に機銃がある。


 したがって、ただ後ろに着けばいいということはなかった。不用意に後ろに着けば、後方機銃を浴びせられることになる。坂井は疾風の速力をいかして、左旋回から横への一撃をもくろんだ。


「左『の』の字で行くぞ!」

「「諒解」」


 いったんSBDから離れる。ほとんど逆向きになってから、低い位置へとバンクし、円を描く軌道のまま高度をあげ、ふたたび斜め下へと切り込んでいく。その円周の交点で、敵機との接遇と、銃撃を企図する作戦だ。


 ぐわっとエンジン音が高くなり、機体が傾く。


 疾風の二千馬力という強力なエンジンは、驚くほど高速で素早い旋回を可能にしていた。それに坂井らの熟練した操縦性が重なり、まさに水を得た魚のように敵へと襲いかかる。


 いったん視界から消えた敵機編隊を頭の後ろに感じながら、ほとんど宙返りにも等しいバンクを切っていく。最初に海が見え、つぎに空になり、姿勢がほぼ四十五度になったとき、五機のドーントレスが目に入る。


 瞬間的に照準をあわせて、機銃を掃射する。


 ガガガガガガガガガガ!


 ババッと破片が飛び散るのを目の端に捉えて、下方に抜け、今度は右から旋回していく。


「俺は右から行く。各自敵機を追え」

「「柴田お供します」」

「「同じく」」


 坂井は口の端で笑う。


 いくら敵が編隊飛行しているといっても、一度攻撃を受ければすぐにバラバラに逃げ出すものだ。そうなればこっちがいくら編隊攻撃しようとしても、そこに敵がいないことだってある。


 しかし今、僚機たちはまるで親鳥を慕う小鳥たちの群れのように、坂井と行動を共にすることを選んだ。


「後方機銃に注意せい」

 坂井は上へと占位する。


 ぐいっと機首を右下方に切り、攻撃態勢に入った。


 ガガガガガガガガガガ!


 さらに一機を墜とし、そのまま宙返りして執拗に追う。列機たちも重い雷撃機なぞモノともせず、軽やかに攻撃をくりかえしている。


 バラバラと墜ちていく敵機を確認して、坂井は共通チャンネルを開いた。


「龍驤隊、敵爆撃機五、撃墜」


 そこへもう一つの声がかぶる。


「「龍驤川端、グラマンふた撃墜」」


「よか!」

 坂井はおもわず叫んだ。


 見れば敵機はすでに逃げ腰になっており、雲間へと逃げこもうとしている。


 戦果は十分。あまり長引けば弾切れになって、思わぬ痛手を負うことになる。いくつかの敵機は取りこぼすが、なにごとも引き際が肝心だ。


 坂井は無線で状況を報告して、最後にこう締めくくった。


「残る敵戦闘機は逃走セリ。ワレ帰投す」




 そのころ、空母龍驤には敵の一群が忍び寄っていた。


 直掩機らとの格闘がはじまってすぐ、大きく迂回して八千メートルの高空から龍驤艦隊を狙ったアヴェンジャー十機と、掩護のF6F六機である。


 最初から、彼らは陽動のために直行した連中とわかれ、あくまでも敵空母への攻撃のため、時間をかけて日本の艦隊へ忍び寄っていた。そして、重く垂れこめる雲を避け、途中から低空飛行に転じたことで、それは優秀な電探を装備した龍驤をも、偶然あざむくことになった。


「……敵機、敵機来襲!」

 龍驤の指令室に電探監視員の声がひびく。


「方位角百二十、距離一万」

「直掩は?」

「……いません!」



いつもご覧いただきありがとうございます。 史実で龍驤を撃沈させたのはアヴェンジャーだそうですね。歴史は繰り返すのか、南雲艦隊はどう戦うのか。ご期待ください。 ブックマークをおすすめします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無線が生きてるように思ってたら 奇襲されてるー!?
[良い点] この時期(1942年)ならアベンジャーはまだ登場してません。 TBD デヴァステイターが雷撃機の主力です。 余談ですが、ミッドウエーの陰の立役者でもあります。 彼等がノロノロと低空を這い壊…
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