表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
191/309

未帰還機

●14 未帰還機


 一撃離脱を回避せよ。


 この南雲のひとことは、小八重たち第一次攻撃隊の、P―38との空戦方針を決定づけることになった。


 すなわち、高空への誘いには乗らず、低い高度で艦攻天山をうろつかせることで、P―38にとっては、高度九千という、ほとんど安全といっていい空域から、一転して高度四千という危険な乱戦空域へと転じることになった。


 このため、緒戦の遭遇戦において、P―38はあっという間に四機を撃墜されてしまったのである。


 P―38にすれば、低空での格闘能力は日本の戦闘機におよばないと知っていたし、だからこその一撃離脱であるから、この状況は失態に近いものだ。


 わざわざウムナック島から遠路、日本艦隊の攻撃を阻止すべく飛んできたのに、こんなところでむざむざと手痛い反撃を食らうわけにはいかない。


 あわてて再上昇し、一撃離脱のコースに入る。


 落ち着いて何度も急降下と上昇を繰り返せば、やがては少しずつ削っていけるはず。ヨーロッパにおける優秀なドイツ戦闘機との闘いで、彼らはその自信をつけていた。


「「まずいな。敵さん、落ちつきを取りもどしよった。また、懲りずに上から狙う気や」」


 隊長機の無線が入る。


 いわば全体を見ている隊長機からの主観情報だが、小八重にはありがたく感じる。


 どうしても乱戦では客観的な視点が欠落するものだ。


 そして、そのあとにつづく命令も的確だった。


「「艦攻は雲を利用して離脱せよ。ゼロ戦は敵急降下に上昇迎撃で対抗し、あとは相手の再上昇を狙え」」


 奇しくも小八重がやった戦法だ。


 もしかすると、隊長は小八重の動きをつぶさに見ていたのかもしれない。


 だが、この戦法は神経も使う。風防を開け、常に上空からの攻撃に注意を払わなければならない。そして攻撃を察知したら、すぐにこちらも上昇して敵弾を躱しながら反撃する。さらには、敵機と交差したらすぐに機首を落として、相手の引き上げ姿勢を狙う必要があった。


 ただし、神経はつかうものの、それにさえ気をつければ、あとは圧倒的に有利だった。どだい、一撃離脱は、相手の不注意や高空優位からの不意をつく戦法だ。機動性に優れるゼロ戦相手に、なかなか成功するものではない。


 列機とともに、三度ばかり往復してさらに一機のP―38を撃墜したあと、小八重は隊長機が二機のP-38に追いかけられているのに気づいた。


(速い!)


 天山は何度か急な針路変更で逃れようとするが、そのたびに二機のP―38は悠々と追いかけ、ふたたび距離を詰めていく。最高速が違うのだ。


「篠田、大居、来い!」


 小八重は列機に声をかけ、隊長機の方へ方向を変えた。


「隊長!七時の方向に来てください」


 それを聞いた天山は、さすがに雷装していないぶん、軽やかにバンクする。


 小八重は二機のP―38にまっすぐ狙いをつけ、相手がコースを変えたところで銃撃を開始する。


 ガガガガガガガガガガガ!


 二一型の六十発から、五二型になって二十粍機銃の銃弾は百発に増えていた。このため、倍近い攻撃をすることができる。


 ガガガガガガガガガガガ!

 バシバシバシ!


 右の胴体と、面積の大きな水平翼に着弾する。


(手ごたえあり!)


 列機とともに、一機のP―38を墜としたところで、ざあっと光の雨が降る。


「「小八重、上っ!」」

 バババババババババ!


 隊長の声と同時に、小八重は機体を横転させる。

 すぐに銃弾を躱すとすぐに機体を戻し、機首を持ち上げる。


(おれとしたことが……)


 なんとか立て直した小八重の目の端で、隊長機の天山がふらふらと下降していくのが見える。


「隊長っ!」

 ほとんど錐もみ状態で、失速寸前だ。


 隊長機を追っていた残り一機のP―38が、それを見逃すはずはなかった。


 わざと速度を落としてがっつり狙いをつけてくる。


「「小八重、挟み撃ちだ」」

 ……挟み?


 ようやく小八重は谷水隊長の狙いがわかる。錐もみは誘いだ。


 上空からの攻撃を気にしつつ、小八重は針路を隊長機のほうに移す。下降していく隊長機と、それを追うP―38。そしてさらにそれを追う小八重のゼロ戦。それらがほぼ一直線になったとき、上空からの射撃は止んだ。


(井桁は目立つからな。同士討ちはできまい)


 そして……。


 ダダダダダダダダ!

 ドガガガガガガガ!


 天山とゼロ戦による挟み撃ちがはじまった。


 天山には前方への射撃兵装がない。しかしそのぶん、後方には上下への手動射撃が可能な、七・七粍の機銃が装備されていた。むろん、小八重は全砲射撃である。


 天山はしっかりと曳光弾に反応して、敵の銃弾をひらりひらりと躱している。後方機銃は手動ならではの正確さだった。


 ダダダダダダダダ!

 ドガガガガガガガ!


 ボンッ!

 P―38が火を噴いた。


 隊長機を狙ったP―38は、小八重の二十粍機関砲に撃ち抜かれて黒煙をあげたのだった。




「敵の双発戦闘機二十と交戦なるも、撃墜八、撃破四」


「こちらの被害は?」


「第一次攻撃隊はそのまま北部艦隊へと向かったため、詳細は不明、未帰還機は今のところ艦攻一、艦戦一です」


「……そうか」

 おれはうなずいた。


 未帰還機、それは敵に撃墜された味方機のことだ。

 だが、戦果や被害に一喜一憂はしてられない。


 おれたち将官が哀しい顔をすれば、士気にかかわるし、部下の兵士たちも不安になる。いつだって司令官は自信満々でないと、兵隊は命をかけたくないものだ。


 たった半年の実戦だったが、南雲ッちの経験値もあいまって、おれはようやく、ポーカーフェイスを身につけていた。


「よし、予想外の交戦だ。弾が少なくなった機は無理せずもどるようにと伝えてくれ」

「わかりました」


(まだ始まってもいない……)


 まだどちらの攻撃隊も、互いの艦隊には届いていないだ。


 そのとき、通信士が叫んだ。


「龍驤に敵機四十!直掩部隊と交戦中!」



アメリカ軍にも続々と新たな兵器が投入され、さすがの南雲ッちもだんだんやりにくくなってきました。熟練、技能優れる帝国海軍の飛行士たちを応援してやってください。 ブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] YouTubeのウォーサンダーの某山猫さんの動画とかをちょっと前に見てたりしてたので、空戦の駆け引きとか読んでて面白かったです。
[一言] ワザマエ! とはいえだんだんキツそう。 腕前が戦場になるってことは性能の差が詰まってきてるってことだよなぁ(´д`|||)
[気になる点] 全体を俯瞰している。ラバ空の「ミロクの少尉」やん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ