表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
185/309

地球より数千倍も弱い磁気

●8 地球より数千倍も弱い磁気


「わかりません。何度も偵察機が来ているということは、敵艦隊はいるんでしょうけど……」


 草鹿が困った顔をして言いよどむ。


「われわれの最新鋭の電探でも、探査距離は百キロがいいところです。哨戒機だって万能じゃありません。……敵を発見できないのは仕方がないことですよ」


「だったら……()()()しかないよな」


 おれはそう言って腕を組んだ。


 ノープランで戦いに望むのはごめんだ。今までも、おれは入念な作戦と史実にもとづく推理、そして現代の科学知識で幾多の戦いを切り抜けてきた。


 みんなでもう一度付近の海図を眺める。

 左には大きなソ連の領土、カムチャッカ半島がある。


 そこから右、すなわち東へ五百キロの地点にアッツ島があり、さらに東へ三百キロでキスカ島、もっと東に行けば、約三百キロでアダック島と、さらに二百キロでアトカ島……。


 これらはアリューシャン列島としては西の端にあたる島々で、北側はベーリング海だ。


「おれたちの先発隊はアッツとキスカに取り残されている。彼らを敵艦隊や爆撃機から守り、輸送船団を招いて合計一万名近くの陸軍と海軍陸戦隊を増援上陸させ、最後は補強して要塞化するのが、おれたちの役目だ。さっき草鹿が言ったとおりだな」


「……」


「ところがそれをやるには相手の出方と、どこにいるかを知りたいわけだ」


 おれはキスカから、アダックまでの海域を指さした。


「なあ角田、おまえがアメリカの司令官なら、どうする?」


「自分なら、一気にキスカに近づき、艦砲射撃で島の部隊を撃滅したあと、その後アッツに向かいます」


 角田が勇ましい発言をする。


「だけどおれたちに発見されたら?」

「その時は先に空母を叩きます」


「ところが、空戦は日本の方が優秀と来てる」

「なら……」

 ようやく思案顔になる


「……やはり潜水艦ですかな」


「やっぱ、そうだよな」

 おれはうなずいた。史実でもやはりそうだった。


「だから考えてるんだ。敵の先制攻撃はおそらく潜水艦で、それでまずはこちらの駆逐艦や巡洋艦を叩いたあと、その後の混乱に乗じて空母艦載機による空襲をしかけてくるつもりだろう。問題はその潜水艦隊がどこに潜んでいるかだが」


 おれはキスカとアダックの間の海を指さす。


「普通ならこのあたりのどこかになる。しかしそれだとあまりに広いし、警戒されやすい。逆におれたちが一番停泊しそうなのは、アッツとキスカの間の海じゃないか? 敵艦隊ならすぐに発見されてしまうが、潜水艦隊なら深深度潜航して待ちかまえることができる……ん?」


 ふと、おれは海図の小さな点に注目した。


「これはなんだ? 島か?」

「島、みたいですね」


 おれはアッツ島とキスカ島の中間にある、小さな点を差した。


「なんて島だろう? えーと、なんか書いてあるぞ。……バルディア島?」


「そうですね。海図では小さいですが、結構ありますよ。周囲二十キロほどですね。等高線があるので、山もあるみたいです」


「なら、隠れるにはちょうど……」


 そこまで言って、おれたちは顔を見合わせた。


「それだ!」

「たしかに……」


「ここならキスカ島からも見られず、しかも接近するアッツを超えてやってくる艦隊を待ちかまえるにはうってつけだ。この海域を徹底的に目視と磁気探査しよう」


「そうですね」


「空母三隻はいつものようにそれぞれ五十マイルほど離れて隼鷹と飛鷹は北部から、龍驤は南からキスカを目指す。バルディア島には近づくな。潜水艦を発見したらあせらず対潜艦と駆逐艦で対処するんだ。だけど足を止めるなよ。止めればやられるぞ」


「わかりました」




 天山から見える空は、あいかわらずの曇天だった。

 するどく切りたった崖や、氷をまとった岩礁が、海面のあちこちに見えている。


 海軍技術研究所で開発されたばかりの磁気探査式、潜水艦探知装置は、敵の潜水艦が発する、地磁気の数千分の一という非常に微弱な磁気をコイルで捉え、増幅感知するしくみのものだった。


 探知能力は海面からの高さが約二百メートル以内、探知幅も同じくらいである。飛行機そのものの磁気干渉を避けるために二重になった電磁コイルを飛行機からぶら下げ、時速二百キロ未満の低速で飛行しながら計測する。


 しかも二百メートル間隔で五機が平行して飛ぶ運用方式だったから、飛行士たちは相当の技術と集中力を求められた。


 磁気探査に特化した哨戒機天山の機内で、探査訓練を受けた桜山一等機関兵曹は、手に持った磁気計を見つめ、白い耳当てのついたレシーバーをかぶっている。


 もしも磁気に異状があれば、針が動き、ブザーが鳴ると同時に、海への着色料が自動で投下される仕組みだった。むろん、目視も重要だから、桜山の足元――この天山の底には二十センチばかりの穴が開いており、二百メートル下を過ぎていく深緑の海面が見えていた。


「前方左バルディア島」

 操縦席から声が聞こえる。


「磁気探異常なし。バルディア島を通過し、四度目を折り返す」

「諒解」


 折り返すたびに南から北へ少しずつ移動している。


 四度目なら、ようやく半分で、島が真正面に見えてくるはずだった。


「こちら参謀本部、旗艦隼鷹、哨戒天山につぐ。天候はどうか」


「哨戒天山、曇天なれど雨はなし」

「わかった。敵機来襲に注意せよ」

「諒解」


 飛行士が風防を開け上空をたしかめている。

 飛行高度が低いとはいえ、一気に寒さがつのる。


「腹が減りましたな」


 後席の兵士が言った。そういえば、そろそろ昼になる。


「よし。握り飯にするか」


 飛行士がごそごそと竹の皮の包みを足元から取り出した。


「いいですな。そうしましょう」


 桜山も足元に置いた布製の鞄を持ち上げようとした。


 しかし……。


 左手に持った計器の針が、ブン、と揺れる。


(!)


 緊張が走るが、ブザーは鳴らない。


 ブブン!

 ビ―――――ッ!


 ボン、と音がして、着色料の投下を感じる。


(来たッ)


 足元の海を見る。だが海面が過ぎゆくばかりで、なんの変哲もなかった。飛行士は異変に気づき、バンクして、下を覗いている。


 桜山は無線を送る。


「磁気反応あり。着色料投下確認。これより反転し計器を確認する」


 みんなが鞄を放り出して作業に集中する。

 いや、まだ、誤認ということもある。



いつもご覧いただきありがとうございます。対潜水艦センサーの登場です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ