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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第五章 北の海編
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こげ臭い少女

●3 こげ臭い少女


 作戦会議が終わり、海軍省二階の廊下に出たところで、山本さんに呼びとめられた。


「南雲くん、進くん、ちょっといいかな?」


 山本さんは目配せをして、他の者を先に行かせる。


「なんでしょう」


 おれたちは廊下を通る人間の邪魔にならないよう、少し端っこに寄って立話をはじめた。副官らは遠慮して、ちょっと離れて待っている。


「進くんにはもう話してあるんだが……」

「?」


「お父さんすみません。凱旋されておケガもされてましたので、ご心労おかけしてはと……」


「どうした?」


 なにか言いにくそうにしている進に、不安を覚える。


「実は、佐伯さんのご実家が賊に襲われてな」


「佐伯さん?」

 すぐにピンとこない。

 誰だっけ、いろいろ引っかかるけど……。


「この前、私がお見合いした、佐伯 四海よのみさんのご実家です」


「ああ!」

 おれはようやく思いだした。


 山本長官の紹介で、進のお嫁さん候補にと、紹介してもらい、おれが出撃しているあいだに、進がちゃっかり見合いをすましてた相手先だ。


「確か、旧大名家とか」


「賊に襲われて、家財がすべて焼失したそうだ」

「な、なんですって?……進、お前お見舞いには?」


 とうぜん、そんな災難にあわれたのなら、お見舞いに行くべきだろう。お互いが気に入り、今はほとんど許嫁といってもよい仲だとすると、おれにとっても親戚同然だ。


「いえ、まだです。お父さんにご報告してからと……」


 おれは山本さんを見た。

「長官、お見舞いに行ってもいいですか?」


「行ってこい。君も海から帰ったばかりで大変だが、伺っておいたほうがいい。それに、すこしは海軍にも関係がある……」


「それは、どういうことですか?」


「いや、これは佐伯翁から直接聞いた方がいい。とにかく、こっちは大丈夫だから、すぐに行って来たまえ。ご実家は大分だ」


 そこまで言って、山本さんはぱっと顔を輝かせた。


「そうだ、深山に乗るってのはどうだ? ちょうど立川で試験飛行をやっている」


「え? し、深山ですかあ?」


「それがいい、明朝マルロクマルマル、立川の陸軍飛行場に行け」


 山本さんはおれの肩をぽん、と叩いた。




 四発のプロペラが回りだす。


 滑走路にいる陸軍の兵士が、誘導の旗をふっている。


 朝五時に起床して、立川飛行場に入ったおれと進は、背広姿のまま、土埃の舞う滑走路に立った。


「でかっ!」


 おれは思わず叫ぶ。

 進も口をあんぐりと開けている。


 目の前には、銀色に光る真新しい巨大な航空機が、出発を待っていた。


「へー、これが深山ねえ」


 まるで旅客機のような大きさだ。それもそのはず、たしかこの深山はアメリカ・ダグラス社の旅客航空機DC―4Eを軍事転用目的で輸入し、研究して国産化したと記憶している。


(だけど、あんまり性能がよくなくて、結局は量産にならなかったんだよね……)


 あまりはっきりとは覚えていないが、ネットかなにかで見た印象が悪すぎて、どうもテンションがあがらない。試験飛行だと聞くとなおさらだ。


 とはいえ、艦載機を見慣れたおれには、全長三十一メートル、全幅四十メートルの軍用機は、なかなかの威容だった。なにしろB29と比べても、そん色のない大きさなのだ。


「すごいですねお父さん!垂直尾翼が二枚ありますよ。……あ、見てください、あんな大きなエンジンが四発もついてます!」


「う、うん、落ちなきゃいいんだけどね……」


 いっそ、普通に旅客機を手配できなかったのか?


 今さら後悔してもはじまらないか。


 高さ六メートルもの飛行機への乗りこみには、本来タラップが必要になる。おれたちは鉄パイプで組み立てられた、まさにラッターのような急ごしらえのはしごを上り、機内に乗り込んだ。


「せ、せまっ」

 中に入っておれはふたたび驚いた。


 操縦席が二名のほかは、両側に二つずつ、四席しかない。後部にも銃座はあったが、そこに座るわけにもいかなかった。


「仕方ありませんよ。あくまでも爆撃機仕様ですし、まだ運用前ですからね」


 暗くて狭くて、大きな窓もない。これじゃ閉所恐怖症になりそうだ。


 航空士が二名乗り込んで来たので、結局は満員になった。


 緊張している彼らとも挨拶し、座布団をもらって尻に敷く。こういうとき、山本さんなら痩せ我慢して、いらん、とか言うんだろうけど、おれは遠慮なく使わせてもらう。


「では提督、佐伯航空基地まで約二時間でまいります」


「安全運転でよろしくね」


 目的地の基地は佐伯って言うのか。


 海軍の航空基地にまで佐伯の名前がついてるんなら、これは思ってたよりずっと、大物みたいだ。


 やがてゆっくりと動き出した深山は、轟音をあげ出力を全開にしていく。


 ぐん、とGがかかり、身体が後ろに押しつけられる。


 こうしておれたちは、まだ夜明けまもない空へと離陸したのだった。




 乗用車が門の前で止まった。


「佐伯翁は、こちらにおられます」


 そこは大きな屋敷の敷地だった。


(あれ……この日本庭園、どこかで)


 車を降り、進と二人で長い土塀をくぐると、焼け焦げて崩れた屋敷が無残にあり、そこで大勢の人間が後かたずけを、やっていた。


「佐伯さま、いらっしゃいますかあ!」


 送ってくれた海軍の兵士が声をかける。


「おお、こっちじゃ!」


 がれきを持ち上げたり、焼け残った家財を回収したりと、真っ黒になって立ち働く十人ばかり。


 みんなが、一斉におれたちを振り返る。


 その中に、黒く太い眉毛と、立派なヒゲをたくわえた壮年の男がいた。


「南雲中将と進さんをお連れしました」


「おお、南雲さんか!」


 汚れた和服にたすきをかけ、白いステテコも真っ黒になっているが、その風格は隠しようもない。きっと、あの男が佐伯翁さえきおうと呼ばれている、佐伯家の当主に違いない。


「おい進」

「はい」

「こりゃあ、おれたちも役に立たんとダメだろ」

「そ、そうですね」


 おれは背広を脱ぎ、腕まくりをする。

 進もそれを見習って、働ける格好になる。


「ああ、こんな格好ですみません」


 佐伯翁と一緒に割烹着姿の少女がやってくる。

 おれはその人物を見て、なぜか胸が高鳴る。


 なんだ?

 今日はいろいろ奇妙だな。


 くん、くん……。

 ……焦げ臭い。



いつもご覧いただきありがとうございます。伏線の連続ですみません。出撃まであとしばらくおつきあいください。 ブックマーク登録をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私としては深山より連山押しなのですがダメかな。 零式輸送機の方が快適なのでは。(笑)
[一言] そう繋がりましたか。 いろいろな伏線がからんで壮大になってきましたね。 楽しみです。
感想一覧
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