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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
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空母エンタープライズ前哨戦

●十八 空母エンタープライズ前哨戦


 板谷飛行士の偵察機から見える海面は、朝日できらきらと輝いていた。


 板谷は今回の任務において、南雲とは妙に縁があった。一度はタンカーを呼び寄せる特務の人選を任されたし、真珠湾攻撃をへて、今回は空母『エンタープライズ』の探索だ。


 ふと、夕べ食堂でした南雲との会話を思い出す。


『今日は大活躍だったよな!ありがとう!』


(一兵士にすぎない俺に、長官がありがとうと礼を言った……)

(できることなら、長官の役に立ちたいもんだ……)


 板谷はそう願って目を凝らした。


 しかし、南雲司令長官が真珠湾から百キロ以内にいると予測した空母エンタープライズと、その護衛船団をさがすのは、そう簡単ではなかった。


 まず、九つの海域にわけての探索と言っても、海の上に線がひいてあるわけじゃない。


 それぞれの艦上偵察機が一定の場所から別れ、飛行時間で自分の担当海域までを見当して飛び、それから索敵を開始するのだから、誤差やミスはいくらでもありえた。


 しかも自分の担当する地域は、オアフ島にもっとも近い海域のど真ん中なのだ。

 うっかり敵基地に近づきすぎると、真珠湾からの索敵機に見つかってしまうおそれがある。


 たしかに三次の攻撃を経て、オアフの各基地はしっかり壊滅させたはずだが、どこかの山の上から目のいい兵隊が索敵機を見つけるかもしれないし、うわさに聞く電探にひっかっかって敵戦闘機が襲いかかってこないとも限らない。要するに、相当気をつかう任務なのだ。


 ようやく担当海域に着いたと判断した板谷は、そこから英語のZのように約三十三キロ四方の担当海域を何度も往復する索敵を開始した。幸い東の空が明らんできたし、もし艦隊が走っていたら、眼下に汽線を見つけることができるだろう……。


(もうすこし高く飛んでみるか……)


 板谷が機首をあげ、右に翼をふったその時、

(?)

 ふと、目の端になにかがいた気がした。


 板谷ははやる気持ちをおさえて慎重に旋回する。

(……!)


 遠い水平線の手前に、黒々とした船団が見えた。

「いたあ!」

 後部座席の兵士に叫ぶ。


「おい!五時の方向!」

 後部座席の兵士もあわててキャノピーから身をのりだし、双眼鏡をかまえた。


 板谷は見やすいように飛行を安定させてやる。

 ほんの少し右の主翼をさげ、左に旋回する。


「どうだ!」

「います!て、敵空母艦隊発見!」

「よしっ!打電せよっ!」



 通信参謀の小野少佐がメモを見ながら大声をあげた。


「駆逐艦『不知火』から入電あり。われ電探車両と要員拿捕に成功。陽動隊は無事合流し戦闘なし」


「おお!」


 電探は奪ってしかも戦闘もなかった……。

 つまり、陽動作戦はうまくいったのだ。

 基地の敵を農業試験場にひきつけ、陽動隊員たちは作戦どおり沿岸を走って、駆逐艦と合流したのだ。


 艦橋にいるおれたちがその報に湧いていると、今度は大石主席参謀が大声で叫んだ。


「司令官!敵空母を発見しましたぞ!」

「うおっ!マジかよ!」


 大石がぽかんとしている。マジかよ、はわからないらしい。


「いやすまん、マジってのは真実ってことだ。間違いないか」

「おお、マジじゃマジじゃ。入電は板谷からぞい!」


 たしかに板谷なら、よもや間違いはないだろう。

 しかし彼の担当する場所は一番オアフに近い場所だ。おれはちょっと考え、予定より多い戦闘機を出撃させることにした。


「じゃあさっそく出撃しようぜ。艦攻爆撃機八機、水雷十五機、ゼロ戦四十機。……真珠湾からの出撃にそなえて、十機ふやすんだ。んでもって、その十機は制空や空母戦に参加せず、真珠湾からの攻撃や不慮の事態にそなえ旋回させよう」


 源田と吉岡の両航空参謀がうなずく。


「あとはかねての作戦通りな。空母の周りをまわって相手戦闘機をおびき出し、航空戦で叩き落とせ。主力は空母に集中して艦爆と雷撃! ただし戦艦や駆逐艦の弾幕に気をつけろ」


「はっ!」

「わかりました!」


 両名は味方艦隊への発艦命令のため、その場をはなれた。


 おれは艦橋の窓から輝く朝日をながめた。

 眼下に広がる海は朝焼けに輝き、空は快晴とはいかないが、じゅうぶん明るかった。

 これなら戦闘機乗りたちも、ぞんぶんに戦えるだろう。おれはふっと息をはいた。


「ようやく、空母戦だ」




 甲板ではすでに零式戦闘機たちがプロペラをまわし、発艦にむけて待機をすませていた。


 おれは参謀連中と艦橋を出て、できるだけ多くの飛行士に握手の激励をおこなった。

 この時代では握手がそんなにめずらしいのか、みんな顔を紅潮させて飛行機に乗りこんでいく。


「おまえら、ちゃんと帰って来いよ。着艦するまでが作戦ですよ」

「はいっ!」


 淵田がおれを見つけ、くしゃっとした笑顔になって敬礼をした。


「南雲司令長官!」

「おお!淵田飛行隊長!」


 彼もすっかり用意をととのえ、今、まさに乗りこむところだった。

 おれたちはがっしり握手をかわした。


「いよいよ空母だなあ」

「はい、ここからが本番です」

「うん。ヨーロッパ戦線は陸軍だけど、太平洋戦争は船と飛行機が主役だもんな。たのんだよ総隊長」

「はい!かならず沈めます」


 最後にもういちど敬礼をし、淵田飛行隊長は艦載機に乗りこんでいった。


 この真珠湾を中心にした軍事作戦にとっては、ここからの空母撃滅戦のみが、その本丸と言っても過言じゃないんだ。


 今でいうフィリピンやインドネシアなどの油田、地下資源がないと日本はいずれ干からびてしまう。だから日本はそれらの外地を奪りにいく。しかし、そうなれば、それらを現在占領統治しているオランダや英米との戦争は避けられないし、アメリカの空母をやっつけておかないと、本土があぶない。


 これが真珠湾作戦の本質なのだ。


 戦闘機、爆撃機、そして胴体に重い魚雷を積んだ雷撃機が発艦をすませると、おれは彼ら全員の無事を朝焼けの空に祈るのだった。


 おれはかたわらの草鹿を見た。そばには参謀連中も一緒にいた。


「草鹿」

「はい」

「もしかするとさ、あの中にはもう会えないやつらがいるかもしれないよな」


 おれが少ししんみりして言うと、


「ぜったい、帰ってきますよ」

 草鹿は目の縁をほんのり赤くにじませて言った。


 おれは夕べの志垣のことをつい思い出しそうになった。

 でも、戦闘に犠牲者はつきものだし、ここまでの戦いにだって、相当数の犠牲者はでているんだ。


「死んでほしくないなあ。あいつらにも家族もいれば友だちもいる。いくら国のためでも、若い彼らが犠牲になるなんて馬鹿げてるよ。それがわかっていながら、おれらは指揮官として、部下の犠牲を前提にした作戦をたてなきゃならない」


 草鹿はもうそれ以上なにも言わなかった。

 おれたち参謀は、甲板にならんで長い間彼らの空をながめていた。



「隊長、いい戦闘日和ですなあ」


 後席から通信兵が軽口をたたいた。

「気を抜くなよ。敵は上からも下からも来るんだぞ」


 淵田は眉根をよせた。


 相手空母は味方の索敵機が発見し、自分たち攻撃隊も、目的の座標まであとすこし。

 ここまで、あきらかに索敵戦では先んじている。


 しかし戦いにはなにがあるかわからないのだ。


 だから、緊張はしているが、前席で操縦かんをにぎる勇猛で聞こえた隊長には知られたくないし、あえて軽口をたたいてみせた。若い通信兵の胸中はおおかた、そんなところだろう。


 だが、注意がそのために気がぬけてはいかん。淵田はふたたび風防のマイクに手を当てた。


「それに……そろそろだぞ」

「は、はい……」


 淵田飛行隊長は今回、みずから前席を希望した。

 いつもは後席だが、今回だけは自分の腕と目で、攻撃に参加し、戦果をみとどけたかったのだ。


 九七式艦上攻撃機の操縦席から下に海をにらみ、ときおり羽を左右に振る索敵飛行をくりかえしては、よもや見落としがないよう慎重に飛ぶ。


 白波のたつ朝の海上は銀色に光っていて、なにかが航海していればすぐにわかるはずだ。


 淵田は敵空母『エンタープライズ』の模型をなんども見て、その形は完全に覚えているから、ひとめ見れば絶対にわかる。


 それに、空母は単艦では行動することができない。


 そのため、護衛船団を引き連れているのでよけい発見しやすいのだ。


(空母の足は遅い。さっきの索敵機に気づいて全速で逃げだしたとしても、たかがしれている……)


「……ん?」

「どうか、しましたか」


 急に緊張を走らせてだまった淵田を不審に思って、通信兵が顔を上にあげた。

 淵田飛行隊長は海上ではなく、前方をまっすぐに注視していた。


「前方に敵……敵戦闘機やっ!」


 淵田が叫んだ。

 目をこらすと数キロ先に数十機の敵編隊、それがとつぜん左右に大きく展開するのが見えた。


「向こうから来よったか……」


 予想外だが、ありえないことではない。

 敵はやはり、こちらの索敵機を発見していたのだ。


 そして索敵機がいたということは、すぐにでも敵戦闘機がやってくることを意味する。


 それはエンタープライズの連中にだってわかることだ。


 そして、それなら迎え撃て、という行動も見事な判断というほかない。


 現に、こうして自分たちは敵空母にたどりつくまえに、敵の迎撃にあっている。


 淵田は、一気に敵を叩きつぶしたい衝動にかられた。


 だが、こちらの目標はあくまでも空母『エンタープライズ』だ。

 乱戦にまきこまれて消耗してしまっては本末転倒だ。


 今回の攻撃隊では、艦爆と雷撃を行う二十三機をのぞくと、戦闘機は全部で四十機だが、そのうち三十機が攻撃空域の制空を、佐川という腕の立つ大尉がひきいるあとの十機が警戒任務にあたるはずだった。


 淵田は決断した。


「おい、十機ぐみの隊長機につけろ」

「佐川大尉機ですね」

「そうだ」


 淵田はいったん上昇し、その機を見きわめると素早く近づいた。

 横に並び淵田が横を見ると、佐川もこちらを見ている。


 淵田はまず自分を指さし、それから斜め上を指さした。

 次に佐川を差し、突撃せよの合図。

 佐川はにやりと笑い、こぶしを握って見せた。ついで羽を揺らして了解の合図。


 こういうときは、雑音の多い無線よりこういうのが早い。


 送音機に短くしゃべる。

「佐川、トツレ、トツレ」

 トツレとは突撃態勢作れ、の意味だ。

「了解、了解」

 佐川も短く返してくる。


 淵田は後方の通信兵に送声機を使って声を送った。


「よし、俺たちは戦闘を行わず空母を目指す。いったん二時の方向に回避するぞ!」

「はっ!」


 大きく進路を変え、他の飛行機にわかるようにおおげさに誘導する。


 同時に佐川大尉ひきいる残りの十機は、速度をあげ敵機への突撃体制をとった。


 大空に散会しようとする敵機を数える。


(三十はいるな……グラマンか)


 淵田はうっすらと笑った。


「とはいえ……ちいっとばかし、行きがけの駄賃はもらうかのう」


 淵田が後席に声を送ると、

「そうこなくっちゃ!」

 受聴機にはずんだ声が聞こえる。


 いったん斜めあげた機首を、ぐっと右におとしながら、すれ違う敵機へと向ける。


「一撃離脱や!」

 一瞬の判断で敵に狙いをつけていく。


 ガガガガガガガガガガガガ!


 光の線を引いて飛ぶ二十ミリ砲の弾丸――曳光弾は四発に一発なので、まばらに見えるが、その実、その間に3発の見えない弾丸が含まれている。あたれば脆弱な敵戦闘機など一瞬でこっぱみじんだ。


 はじめに狙った機は外れたが、すぐに別の機に狙いをつけてきわどく交差する。


 ガガガガガガガ!

 ガンッ!ガンッ!


 敵の尾翼あたりに手ごたえがあった。


 敵編隊を一気に通りすぎ後方を確認すると、味方機も一撃離脱で追随してきているようだ。


 これだけの大編隊が淵田の意図を瞬時にくみとり、一糸乱れることなく行動をともにしてくれるのは実に心強かった。


 おお! 後方敵機との乱戦で、銀色の羽を見せ大きく転回しているあれは、佐川機か。


「よっしゃ!エンプラ!待っとれよ!」


 さて、行くとするか……。

 

 空母エンタープライズの位置はわかる。敵編隊がやってきた方角だ。


 淵田は優秀な隊員たちを誇りに思い、同時に作戦の成功を確信した。

 水雷と二百五十キロ爆弾を搭載した攻撃機二十三機も、やがてやってくるだろう。


 淵田はスロットルレバーを全開まで押しこんだ。

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[気になる点] 索敵方法が、エリア索敵していますが、第二次世界大戦当時の索敵方法は艦隊を中心に扇形に(23度づつ)飛行していくのが基本です。更に慎重に索敵するなら二段階索敵があり、一段目の間を少し時間…
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