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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
173/309

ただいま!

●41 ただいま!


 夜になった。

 もうみんな寝ている。


 静かなお屋敷。

 動くものはなにもない。

 外では虫たちがうるさい。


 少女はおれと遊び、優しくしてくれた。

 おれは少女の布団にうずくまっている。


 無理やり風呂に入れられて、ちょっとぐったりだ。

 だけど、おかげで旨い飯にもありつけた。


 おれはとろとろとまどろむ。

 いつのまにか、眠る……。

 ……。


 虫の音がぜんぶ止んだ。

 カラスが羽ばたいた。


 ……?


 違和感を感じて、おれは首をもたげる。


 外に二人の男。

 声は出していない。


 庭だ。


 あの日本庭園から足音をしのばせてくる。


 耳をぴんと立てる。


 ザッザッザ


 おれには聞こえる。


 じょぼじょぼ……。


 なんだ?おしっこか?


 ぷーんと、とんでもなくきつい匂い。

 これは灯油の匂いだ!

 誰かがお屋敷のあちこちに灯油をかけている!


 おれは立ち上がった。


 少女に駆け寄り、布団を引き剥がす。


「わん!わん!」


 大声で知らせる。


「わん!わん!」


 ……シュッ!


 ボン!という火が付く音。


「ど、どうしたの?」


 寝巻を着た少女が起き上がる。

 まだぼんやりとしている。


 おきろ!

「わん!わんっ!」


 障子を掻く。


 座敷を走り回り、障子に体当たりする。


 少女がようやく身体をおこおし、そばに来る。


 何度も障子を掻く。


 開けろ!

 隙間が開く。

 外に飛び出る。


 外側の雨戸が閉まっている。


「わん!わん!」

 走り回る。


 うっすらと、煙が漂ってくる。


 男たちがその場を去るのがわかる。


 この屋敷には少女のほか、あと三人いたはずだ。

 主人らしき老人、書生、そして女中。


 おれは走り回り、啼いた。


 外からメラメラという炎の音が聞こえている。


 火の回りが早い。

 灯油の匂いもぷんぷんする。


 男たちはあちこちに灯油をまいている。


 早く!早くしないと助からない。


 おれは啼きまくり、屋敷の廊下を走りまくった。


「ど、どうしました?」


 書生が起きてくる。


「あ、作太さん」


 少女がおれのあとから廊下に出てきた。


「この子が騒ぎ出して……」


「こげん夜中に、どげんしましたと?」


 女中さんも起きてきた。


 みんな、どうしてこの匂いに気づかないんだ?


「わんっ!わんっ!わんっ!わんっ!」


 雨戸の下から、ちろちろと明かりが見える。


 ぼおおっと音がして、炎が大きくなる。


「あっ!」


 書生が気づき、雨戸をあけようとする。


 ぶあっと炎があがり、煙が入り込んでくる。


「か、火事だっ!」

「旦那さまが!」


 男たちはまだ庭にいる!


 おれは雨戸を掻く。


 書生が開けようとして、あまりの炎にまた閉じる。


 そのころには、あたりの空気はむっとしてくる。


 がたん!


 奥の方で障子の開く音がする。


四海よのみ、作太郎、なにごとかっ!」

「お父さま!」

「先生!」


 おれは奥の寝室に走る。

 みんなが続く。


 そこは客間のような部屋の、まだ奥にあった。


 よかった、ここの雨戸には火がない。

 外に出られるぞ。


 主人らしき男がやってきて、ががっと雨戸を開く。


 あたりには煙がいっぱいだ。

 火もめらめらと燃えている。


 あ、あの男たちがいる。

 日本庭園の木の後ろだ。


 狙っている。


 二つの銃口がこちらを狙っている。


「わんっ!わんっ!わんっ!わんっ!」


 おれは飛び出し、庭を走る。


 バ――ン!

 稲妻のような光と拳銃の音。


 おれは走る。

 拳銃を持つ男に飛びかかる。

 腕にかみつく。


「な、なんだっ!」


 振り回される。

 それでも放さない。


 屋敷の方でみんなが騒いでいる。


「誰じゃ!賊かえ!」

「警察んベル押さにゃいけんで!」

「押しました!」

「作太、日本刀を持て!」


 おれの首をもう一人の男がわしづかみにする。


 痛みはないが、あまりの力に引き剥がされる。


 そのまま、石にたたきつけられる。


 バシン!

「「ぎゃん!」」


「大丈夫か」

「くそっ!噛まれた」

「どうする?!」

「逃げるまでだ」


 どすうっ!

「「ぎゃううっ!」」


 男はおれの身体を蹴り飛ばし、脱兎のごとく逃げだした。


「待てえ~~!」


「追わんでええ、それより裏口から出い!」


「あの子があ!」

「あほう!ほおっておけ!」


 ……ああ、痛い。

 気が遠くなる。


 息が出来ない。

 頭を打った。


 どうしよう……?

 どうもできない。


 血の匂いがする。

 錆びた鉄の匂いだ。


 おれは……。

 ……。






 おれは……不意に目覚めた。






 天井から千羽鶴の束が三つもぶら下がっている。


 無機質だが清潔な白い部屋。


 ここには見覚えがある。


 士官専用の病室だ。


 ベッドのそばには、看護婦の比奈さんがいる。


 椅子に座ったまま、うとうとと居眠りしている。


 おれは身体を起こそうとして、かすかな声をあげた。


「あ、長官!」


 比奈さんが驚いて近づいてくる。


 声を出さないと。


 ツバを飲みこみ、息を吸う。


「ただいま……心配かけたね」


 おれはようやくそれだけを言った。


 比奈さんは慌てて病室を飛び出していった。





いつもご覧いただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 石原莞爾かと思いましたが、違ったようですね。 情報を仕入れた、南雲っちの活躍に期待します。 プチエピソードでよいので、是非一式陸攻の登場を御願いします。好きな飛行機です。
[一言] おかえりーーーーーー!!!
[一言] 大和型の乗員数は、2500〜3000人位。仕事に影響しないように当直は外す等しても、ちょっとした休憩時に多勢の乗員が2個位づつの鶴を折れば、千羽鶴が三束位作れますよね。 武蔵の乗員達も、医者…
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