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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
172/309

裸足の少女

●40 裸足の少女


「南雲長官の具合はどうですか?」


 草鹿が士官病室へとやってきた。


 軍医の田垣と、看護婦の比奈かずこが立ち上がる。


「まだ……意識が戻りません」


 普段は冷静な田垣も、このときばかりは感情を隠せない。彼はもう南雲の主治医のように、乗船する艦が変わっても、常に南雲と行動を共にしていたのだ。


 比奈かずこもまた、悲しそうに青ざめている。彼女はミッドウェー戦で敵地に降り立ち、負傷兵の治療を率先して行った烈婦なのだが、今は意識を失った南雲のそばで、ただ神妙にうなだれていた。


 草鹿は南雲に近寄る。


 ケガをした頭には包帯がまかれ、狭いベットに寝かされている。田垣と比奈はずっとつきっきりだったのだろう。薬品や治療具がそばにあり、なにもかもが清潔に保たれていた。


 南雲の顔色はそんなに悪くない。包帯に血がにじんでいないところを見ると、ケガもそれほどではなさそうだ。ただ、白い木綿の病人服を着ているのが、颯爽としたところばかりを見てきた草鹿には、やはり痛々しく感じられた。


「意識はいつごろ、もどりそうですか?」


「わかりませんな」

 田垣が小さな声で答える。


「エックス線撮影もやりましたが、幸い、首やそのほかの骨に異常はないようです。ただ……」


「ただ?」


「落ちた時、おそらく頭を打たれたと思うのですが、コブが出来ていません。いっそ、コブがあるほうが安心できるんですが……」


「……そうですか」


「ところで、日本にはいつ戻れますか? まだなにか作戦が?」


 田垣がたずねる。通常、攻撃などの作戦行動は艦橋司令部以外には知らされないから、武蔵はこれからどこかに向かうのか、それとも帰国するのかを聞いているのだ。


 草鹿は弱々しく笑う。


「もう終わりましたよ。ですから、本土へ全速で帰ります」


 ふー、と田垣がため息をつく。


「それはよかった。長官には、早くちゃんとした病院に行っていただきたい」


「わかっています。早く良くなってもらわないことには、明日の日本が心配になります」


「そうですな……」


「あの……」

 比奈がふいに口を開いた。


「どうしたね?」


 問う田垣に、比奈はちょっぴり恥ずかしそうな、しかし思いつめたような顔になる。


「千羽鶴を織りたいのですけど、かまいませんでしょうか」


 草鹿はちょっと考え、うなずく。


 千人針や、神仏の加護を願うのは、当然のことだ。


「いいでしょう。軍務に支障がないよう、若い奴らにも手伝ってもらうといいですよ」





 佐伯という表札がついた家


 おれはいい匂いにつられて入りたくなる。


 あれはたぶん、晩御飯の支度をしているんだ。


 だが、門はぴったりと閉ざされている


 水はさっき飲んだが、腹が減った。


 中に入れば、なにかにありつけるかもしれない。


 でも、やっぱり門は閉まってる。


 おれはあきらめる。


 まっすぐ続く土塀をくんくんしながら進む。


 へえ。土塀って雑草がけっこう生えてるんだな。


 ひびも入ってる。


 もうちょっと進む。


 お、土壁が崩れてほんの少し穴があるぞ。


 くん、くん。


 いい匂いがする。食べ物の匂いと、花の匂いだ。


 なんか、声も聞こえるぞ。


 この穴、大きくできるかな。


 前足で掻いてみよう。


 カリカリカリ……。


 固い。


 でも、崩れてきた。


 どんどん崩れる


 鼻をつっこんでみると、その先がかなり深い。


 がんばって掻く。


 身体が穴に入り、後足で堀った土を外に蹴り出す。


 一生懸命、掻く。


 少し休んで、また掻く。


 おれの身体二つぶんほども掘り進んで、ようやく中に入れた


 塀の向こうには、草の生えた小高い丘があった。


 身体にかぶった土をぶるぶるしては飛ばす。


 丘をおそるおそる登ってみる。


 頂上から見下ろすと……。


 日本庭園だ。


 大きな日本庭園があるぞ。


 木が植えられ、灯籠がある。


 芝生が丁寧に刈られている。


 遠くには屋敷もある。


 ああ、あそこから、食事の匂いがしたんだな……。




 その奥座敷の一角。


 大きな和室では、不穏な空気の中、二人の男が談じこんでいた。


 広い座卓には酒も食事も並べられているが、ふたりとも手をつけようとしない。一人は壮年の軍服姿で坊主頭、もう一人は恰幅のよい和装、眉が太く黒いヒゲを蓄えている。いずれも年は四十か五十、同じくらいの年配である。


「それでは、佐伯翁は、どうあっても、ソ連を仲介とするのは反対であるとおっしゃる?」


「ほっほ……いかにも」


 軍人の、威圧のある物言いにも、佐伯翁と呼ばれた男は動じない。


「むう。これは九州豊後、御親兵の雄にして政府中枢にも影響力を持つ佐伯翁とも思えませんな」


「ほっほ、怒るか世辞か、どちらかにしちょってんさい」


 苦笑しつつ、軍人は続ける。


「いいですか。わが帝国は現在トルコ大使館の仲介で英国との講和を進めております。昨日の、南雲艦隊がふたたび米艦隊をせん滅したことで、アメリカとの講和も一気に現実のものとなってまいりました。杉山もこの機会を逃さず、仲介を申し出たソ連のスターリンに乗るべきと申しておりますが、なにゆえ翁は反対されるのですか」


 軍服の男は、握りこぶしをつくり、ギリギリと歯ぎしりをする。佐伯は柔和な笑顔を向ける。


「スターリンは狡猾。宿敵ん日本の利するとは思えんでなあ」


「それはどの国も同じです!」


「では伺うがの……」


 眉の太い佐伯が目を剥くと、さすがに迫力のある表情になる。


「ソ連にとって、日本が有利に講和するのは得になるかや?やるやる言うて、結局はこの太平洋でも長う揉めさせるのが得にならんか?」


「そ、それは……」


「ほっほっほ、国家の大事にアテ推量で動くはまかりならんわ」


「早期講和はお上のご意思ですぞ!」


 今にも膝をたてそうな気配に、佐伯翁は目を細める。


「講和がお上のご意思なら、スターリン使うは杉山の意思か?」


 二人が睨みあう。しばらくして軍人が口を開いた。


「では、翁はどうあっても、ソ連の仲介には首を縦に振らぬと、言われるのですな?」


「くどい。……仲介はあってもええが、なくてもええ。どうしても必要なら、トルコかエジプトに頼むがよかろう」


「後悔されますぞ?!」


「……命なら、戦争が始まって以来、捨てておる!」


「その言葉、お忘れなさいますな……」




 屋敷にたどりついた。


 女の人が縁側に座っているぞ。

 

 若い女の人だ。


 白いワンピースを着てる。


 裸足の白い足を、縁側からぷらぷらさせている。


 行ってみよう。


 トコトコ……。


「あらっ!」


 見上げる。


 うん、女学生って感じかな。


「あなたどうしたの? なぜこんなところにいるの?」


 トコトコ……。


 裸足の足が、目の前にある。


 スリスリ……。


 小さい足とは思うが、よくわからないな。


「まああ、かわいい!おいで!」


 手が伸びてくる。


 ドタドタ……。


 廊下を誰かが来る。


 若い男と、軍人だ。


「天津さん、お待ちください!」


「翁との話は済んだ。あとはいぬるのみ!」


「お風呂の用意もしとりますけん……」


「無用っ!」


「あ、四海よのみさま!」


 若い男が女の子を見てぺこぺこしてる。


 年取った男が、女の子をじっと見て言う。


「ここらは物騒だ。今日はお友達のところにでも泊まりなさい」


 あれは陸軍か?


 あれ、おれなんでわかるんだっけ?



いつもご覧いただきありがとうございます。方言先生お待ちしております。 ブックマーク推奨、ご感想、ご指摘をお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 犬と南雲を使い分けて大活躍! 斬新で良いかも?
[一言] ジョシーが居たのかと思いました。 彼女の登場は未だかな。
[良い点] なるほど…。 [気になる点] いよいよ気になります。 どう転回するのか♪
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