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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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わんっ!

●38 わんっ!


 海戦は終わった。

 

 波に揺れる戦艦武蔵の甲板で、おれは当番の兵士たちと談笑していた。目の前には六十口径、十五・五サンチの副砲がその巨大な砲塔を横たえている。


 目を少し上にやると、二十五ミリ機銃や、八九式連装高角砲がぼこぼこと突き出ていて、なかなか勇猛な眺めだ。


 ここのところの戦闘で、甲板にも艦橋壁にも穴が開き、硝煙がこびりついたりしているが、連日の手入れでずいぶん綺麗にはなった。穴は溶接で塞ぎ、剥がれたペンキはなんとか補修されている。やっぱ何千人もの兵士がいると、こういうのはあっという間だね。


「こうやってると、教師時代を思いだすな」


「兵学校の、ですか?」


「いや、ふつうの教師だよ」


 帽子から上下まで、白い装束に身をつつんだ若い水兵が十人くらいおれの前にいて、前の五人ほどは体育すわりをしている。鎖の張られた柵にもたれながら、おれは彼らにうなずく。


「昔、ちょっとばかりやってたのさ」


「本当ですか?」

「うん、中学だ」

「へー」


 戦前の教育制度は戦後と違って複雑だが、それでも中学校というのはある。ただ、七年制でその後大学に進学するものや、四年または五年で終了するものなど、それぞれの進路によってかなり選択肢があり、複雑だった。


「長官は、教師と軍人、どちらがお好きですか?」


「ばか、長官は軍人に決まってるだろう。天命、いや、天賦の才をお持ちなんだぞ!」


 おれは吹き出した。思わずよろけそうになり、鎖につかまる。おれは甲板の端柵に凭れているから、うっかり海に落ちたら、それこそ命が危ない。


「天才とかじゃないってば。軍人なのはグーゼンだし」


「え、そうなんですか?」


「もしも、おれが軍人として、うまくやってるとしたら、好きだったことの知識を生かしているからかな。歴史の知識、戦争の知識、科学の常識、とか。でもやっぱ、好きが一番さ」


「では……」


 真剣な顔でおれを見ていたひとりの兵士が、おずおずと口を開く。


「な、南雲長官は、生まれかわったら、なにをおやりになるのでありましょうか?」


「ん、そうだな……」

 おれは考えた。


 この時代には七生報國しちしょうほうこくなんて言葉があったりして、なんど生まれかわってもお国に尽くす、と答えるべきなんだろうけど……。


 おれはこの世界線をなんとかしたい思いだけで、いままで別の人生を考えたことはなかったな。


「え~と、いろいろあるぞ。おれって柔道強いし総合格闘技の選手とかどうだろ。若い時から練習積んで、でかい外人をぶっ倒すなんていいかもな。それか、企業の社長もいいな。時代を先取りしてゲームやアニメやスマホアプリとか、黎明期のインターネットに乗っかって、世界を変えたりとかさ。んでもって、そういうのに全部飽きたら……」


「?」


 ふと気づくと、兵士たちはぽかんとした顔でおれを見ている。


 あちゃー、わけわからんことばかり言ってた気がするぞ。


「こほん……」


 おれは鎖に寄りかかった。


「犬の訓練士かな」


「え、なんですかそれ?」


「小さいころ、実家で犬を飼ってたんだよ。柴犬だけど賢くてさ、だからこんど生まれかわってなにもかもに飽きたら、犬と触れ合う仕事を……」


 立っている兵士たちの顔がこわばる。


 おれはそれを見てなにかの異変を感じる。


「どうした?」

「ちょ、長官!」


 ドゴオオオオオオオオオオオオン!


 特徴のある金属のぶつかる音、爆発音。


 激しい衝撃がおれの真下から伝わってくる。


 雷撃!?


 そうか、彼らは迫る雷跡を目撃したんだ。


(うおおおおおおおおおっ!)


 ジャンプでもしたかのように、身体が浮き上がる。あるいは回転してしまったのかもしれない。なにかにぶつかり、自分がどこにいて、どういう姿勢なのかわからなくなる。


 そのまま急激な加速感。


 ザバアアアアァァァァァァ―――――ン!


 ごぼごぼと泡の音がして、目の前が暗くなる。


 気が遠くなる。


 汐の錆臭い匂い……。


 ……。





 ……。


 …………。


 のろのろと頭をあげる。


 おれはいつのまにか、うずくまっていた。


 ぼんやりしていた頭がだんだんはっきりしてくる。


 ……くん、くん。


 なんか臭いな。

 それに寒い。


 ここは、どこだ?


 どこかの軒先か?


 あ、なにかが走ってる。


 寒い、なにか食べたい。


 のどが渇いた。


 なんか音がやかましい。


 ……。

 …………。

 ……あれは……そうだ、車だ。


 ぶんぶんとやかましい。


 車がいくつもいくつも通る。


 この臭い匂いは、車が吐き出してるのか?


 おれはおそるおそる首を伸ばし、周りを見る。


 おれはなぜ、ここにいるんだ?


 なにをやってる……?


 頭がぼんやりして思いだせない。


 なにか、おれにはやらなくちゃいけないことがあったのに……。


 立ち上がる。


 奇妙な違和感があって、おれは自分の身体を見る。


 茶色の毛がまず目に入る。そして前足。


 前足!?


 おい、おれは……人間だぞ?


 おれは……。

 おれは、日本人。


 キリシマ……いや、違う。


 さっきまでは違う名前だった。おれは……。


 南雲……。


 な、なんだこの感じ、前にも一度……。


 ええい、それどころじゃない。


 そんなことより、この格好はなんだ?


 これじゃ、これじゃ……。


 ……まるで、犬じゃないか!


 怖くなってまわりを見る。


 なんか、でかい。


 今までうずくまってた店がでかい!


 いや、おれの、身体が小さいのか?


 あ、身体が軽い!


 ぴょん、と跳ねてみる。


 軽く跳んだつもりなのに、身体ひとつぶんも高く跳べた。


 歩き出す。


 四つ足で、器用にスタスタ……。


 ……スタスタスタスタ。


 店のドアがガラス製で、自分が映っている。


 ……え?


 子犬?


 なんだこりゃあああ!


「わんっ!」


 お、おれは……おれは……。


 犬になっちまったああああ!





油断大敵。やりすぎに反省しております・・・


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白くしようとして迷走しそうですね。
[一言] 思いっきりあかんやつ。せっかく読みごたえのある転生戦史ものを見つけた思いましたが。 どうするんですこれ。
[一言] 169話までを台無しにしてます。 このままでは読者は付いてこないでしょう。
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