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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
17/309

反撃開始!

●17 反撃開始!


 まだ明けやらぬ星空の下、きれいに磨かれた空母の飛行路の両側に、たいまつを掲げた兵士たちが整列してたっている。


 偵察機のエンジンがバルバルッとうなり、だんだんと回転が速くなる。

 やがてゆっくり動きはじめた機体が、プロペラの回転を徐々にあげながら空母の舳先にあわせ待機した。


 おれは甲板に立ち、腕時計を見た。

 秒針がまわり、午前五時ちょうどを差した。

「発艦せよ!」

 プロペラの音に負けないよう、あらんかぎりの大声で叫ぶ。


 吉岡航空参謀が、白い手袋をはめた右手を真上にすばやくあげ、次にさっと甲板前方を差した。

「発艦!」

 軍装した整列兵士たちが、ちぎれんばかりに帽子を振る。


 偵察機が高速で目の前を通りすぎる。


 この先は海の暗闇だ。暗い海面に落ちなかったかは耳で判断するしかない。

 しかし空母の先からふっと消えた偵察機は、次の瞬間、大きなプロペラ音とともに払暁の茜空へと舞いあがっていった。


 この空母『赤城』からは今回二機の偵察機が発進される。


 空母探索の偵察隊は全部で十機だから、その他の八機は別の空母と重巡洋艦からの水上偵察機だ。

 この水上偵察機には座席が2つあり、操縦士と周囲を偵察する偵察員の二名が乗れるようになっていた。無線も強力なものを搭載している。


 二機が無事発艦し終わると、おれたちは艦橋にもどることにした。


「なあ草鹿、レーダー拿捕にむかう、駆逐艦『不知火』はもう出発したのかな?」

「はい。同じく0500にオアフ島の北端に向けて出発しましたよ!」


「作戦はちゃんと伝えたくれた?」

「もちろんです!できるだけ戦闘せず、電探の操作者も一緒に捕虜にすること、でしたね」


「そうそう。この時代の電探は、使い方は難しいらしいんだ」

「ちゃんと伝えてあります」と、草鹿がうなずいた。


「よし、次は……大石参謀」

「な、なんですかのう?」


 突然声をかけられ、飲みかけていた茶を慌てておいた大石主席参謀に、おれは片頬で笑う。


「大石、索敵の方はおまえに任していいか?ただしエンタープライズを見つけたら、すぐおれに報告してほしい」


「……わかりました。戦闘部隊の発艦準備もやりまっす」

「うん、たのむよ」


 おれはその場をはなれ、オアフ島の大図を開いて草鹿を呼んだ。


「さて、このオパナの接舷場所になにもなければいいわけだが、そうもいかん場合がある。見張りがたっていることもあるし、たまたま守備隊が大勢いることもあるぞ。おまえならどうする草鹿?」

「隠密か、陽動ですかね?」


「隠密でいくには敵の所在が読みきれないよね。陽動作戦でいこうか」

「わかりました」


「でだ。今われわれはオアフの東約55海里にいる。ここから駆逐艦は毎時25ノットで向かうから、二時間強あればこのカウェラ湾に接岸できる計算だ。上陸部隊として百名ほど屈強な兵士を選んだが、おれたちはしょせん海軍だからな。陸に上がったカッパになっちゃ困る。そこでちょうど1時間半後の0630、この地点に囮として、旧型の練習機を1機、着陸させてほしいいんだ」


 おれはある場所に指を差した。


「そ、そこは……」

 草鹿が目を丸くしている。


「まずくないっすか?だって、そこ……」


「いいんだよ。誰も殺さないし、ただ驚いて通報してもらうだけだ」

 おれは自身たっぷりに草鹿の背中を叩いてやる。


「でだ、そいつらは大騒ぎさせてそのまま遁走、徒歩でカウェラ湾に向かい、駆逐艦に合流させろ」


「ははあ。おいてけぼりにするんですね?……じゃ、練習機はありませんけど、古い水上機に車輪つけたのならありますよ。それでやりましょうか。幸い、操縦に精通しているものもおります」


「そりゃいいな。おあつらえむきだ」

「ところで、大騒ぎってどうやるんです?」


 草鹿はわくわくしてきたのだろう、楽しそうに目を輝かせている。


「そうだな……目を引いて楽しければなおいいな」

「楽しい?!そりゃ愉快っすね!」


 おれは地図のその場所をながめながら、どうやるか考えていた。


「ただし、ここは民間だから絶対本物の銃は使うなよ……」

 その場所をみながら、草鹿はすでに思案に首をひねっていた。

 そこには、「「University of Hawaii」」と書かれてあった。




 田舎道のような幅の狭い土の道がものすごいスピードでせまってくる。

 胴体の下に軟着陸にそなえて大きなランプをとりつけた急ごしらえの練習機が、見事な操縦でその道に車輪をおろそうとしていた。


「降りるぞ!」

 操縦かんを握る大尉の進藤が、後部座席の大淵に声をかけた。

「衝撃にそなえろ!」


 道はせまくデコボコだ。朝の六時半とはいえ、まだあたりは暗く、前を照らすはずのライトも、飛びすさる道をちゃんとは見せてくれない。進藤は必死に操縦かんを押し下げていく。


 やがて激しい振動が練習機に伝わってくる。

 衝撃で練習機は今にもバラバラになりそうだった。もうもうとした砂煙を後方に舞い上げながら、何度かバウンドする。


「うわあ!」

 目のまえに牛がいた。

 バキッ!


 大きな音をたてて、右の翼が飛んだ。


 その衝撃で二三回、激しく練習機はまわり、機首をななめに曲げてようやく土の道に停止した。


「……はぁはぁ。なんだ今のは?」


 握りしめた操縦かんを放し、後ろを振り返ると大淵が目を見開いて大きく息をしている。


「う、牛のようでした」

 大淵はやっとの思いで答えた。


 道の後方を確認すると、三十メートルほど離れた場所で、牛がのそっと立ち上がるのが見える。


「あ、牛は無事です」

「ばか!そんなことはどうでもいいんだよ」

「す、すみません」

「それより、ここはどこだ?目標の建物は……」


 進藤は首をのばしてまわりをよく見る。

 目がなれてきて、ようやく状況がつかめてきた。


「目標のハワイ大学農業試験場は……あ、あれじゃないですか」


 道のまだ百メートルほど先に、木造の建物がいくつかあった。


「まちがいないな。畑もあるし、学舎っぽい建物もある」


「じゃ、あそこにハワイ大学の学生もいるってわけか」

「人影は見えん。……それにしても近いな」


 もともとこの練習機には風防もついていなかった。後部座席の大淵は立ち上がり、目をこらした。


 進藤は、

「はりゃあ!計画より少し近づきすぎてしまったか……」

 と、すまなさそうに言った。


「大丈夫ですよ大尉。近いほうが大騒ぎしやすいでしょう」


「はは、それはそうだ」

 二人はこれから始めることを思い、にやにやした。


「学生さん、びっくりするだろうなあ……」


「そりゃドンパチやるんだからあたりまえだ。だがやりすぎは禁物だぞ。十分ほど暴れたら、すぐに練習機を放棄、道を徒歩でもどって上陸部隊と合流する」


「えへへへ」

 笑いながら、大淵は足元に置いた海軍のリュックを持ち上げた。布の蓋をはねあがると、そこには大小さまざまな花火や信号灯が、つめこまれていた。



 ハワイ大学農業試験場の学生ジェイソン・エラムは、その日家畜の当番で早く目を覚ました。

 ルームメイトをおこさないよう、静かにベットから降りるくらいの礼儀はわきまえている彼は、そっと廊下に出て、ふと見た窓の外に奇妙な光を見つけた。


「?」


 この農業試験場にいたる唯一の道の、百メートルほども遠くに、溶接の時の火花のようなものがいくつも光っている。


 エラムはねぼけまなこをこすり、窓をそっとあけた。


 バーーーーーーーン!

 ひゅるるるるるるる……


 誰かが空にむかってなにかを打ち上げたようだった。


 パーーーーーーーン!


 はじける火花に、飛行機の影のようなものが浮かび上がった。

「いやっほーっ」

 そのあたりで、誰かがインデアンのような雄たけびをあげている。


(友だちの誰かがいたずらしているのか?)

 さらに目をこらす。


 道の真ん中に大きな飛行機がとまり、二つの人影がその上から大声で叫びながら、銃を空に向け乱射しているように見えた。


 飛行機の胴体には……大きく赤い丸!


「たたた、たいへんだああ!!」


 昨日、真珠湾に日本の軍隊が奇襲攻撃をかけてきたことは、もうみんなが知っていた。昨夜は、多くの犠牲者を悼んで黙とうをささげたばかりなのだ。


 エラムは大声で叫びながら、クラスメイトをおこして回った。

 そして自分は警察に電話するため、寮長の部屋にかけこんだ。



 そのハワイ大学農業試験場からほど近いオパナレーダーサイトでは、警察からの一報を受けた軍司令部の出動要請を受け、常駐していた二十名ほどの兵士があらんかぎりの重武装をして現地に駆り出されることになった。


 大急ぎでジープ3台に乗りこみ、緊張した面持ちの兵たちは、車で三十分ほどの農業試験場へと走り出す……。


 彼らが消え去ったその道は、丘をのぼったところで左右に枝分かれして頂上へとつながり、その左の先には、大型の八木式アンテナを多重に広げた移動式のレーダーが海をにらんで設置されていた。


 もともと、この崖の上の丘があるから、この地がえらばれたわけだ。


 丸く草木が刈り取られた場所に、堂々と鎮座するその車両には、二人の兵士が常駐し、レーダーの操作をしていた。


 外には小銃を構えた見張りの兵士が二人、合計四人が数時間交代で任務にあたっている。


「あーあ、今日は大目玉くらっちまったぜ」


 アフリカ系の若い兵士サミュエルが雑草の上に捨てた煙草を踏みつぶしながら言った。


 もうひとりの兵士マクアドルは、本来ならレーダ車両をはさんで対角線上にいるはずだったが、話し相手がそばにいないとつまらないから、すぐ隣で座りこんでいる。年はサミュエルより少し上だ。


「まったくだ。あんな大編隊を見落とすなんて、このレーダーも役立たずだよな」


 マクアドルはいまいましそうにでかいアンテナをを見あげた。


「いや、こいつは優秀だぞ。昨夜の担当はボビーとエラゴだ。どうせ索敵をちゃんとやってなかったんだ」


 サミュエルが煙を吐き出しながら言った。


 その時、周辺の木々の奥で、ガサっとなにかが動く気配があった。

 サムは音のした方に首をまわす。


「おいマック……なんか物音がしなかったか」


 サムに言われて、マクアドルがあわてて立ち上がり、懐中電灯をつける。


「ほーるどあっぷ!」


 聞きなれない声がして、マクアドルが慌てて懐中電灯をむけると、そこには十人ほどの日本人が前後二列になり、やたらと長い三八歩兵銃を構えてこちらを狙っていた。


「Oh my……!」

「!!」


 思わずかたまっていると、こんどは周囲から何十人もの兵士が銃口をむけてあらわれた。


 サムは口から煙草をぽろりと落とした。


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― 新着の感想 ―
[一言] この時代、黒人は兵隊には、成れなかった筈だが。 海兵隊等は、戦後の筈だが❗
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