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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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二百対百の戦争

●32 二百対百の戦争


 アメリカ艦隊に、第一次攻撃隊の激しい雷撃が襲いかかる。


 むろん、米駆逐艦のすぐれた対空兵器は、すさまじい抵抗を見せる。


「が、当たらん!」


 ゼロ戦に搭乗している佐川大尉は、無数の機銃弾を躱して、大きく旋回した。


 空母赤城から参加している佐川大尉の狙いは、最初からエンタープライズだ。撃沈したものとばかり思っていたこの空母が、生きていたとは晴天の霹靂だったが、こんどこそ撃ち漏らすまい。


 高角砲の弾幕を抜け、敵艦隊が全速で航行する、そのななめ前方に位置をとる。輪形陣の弱点は、さんざん研究してある。


 すなわち、輪形の中は弾幕すさまじいが、外はそれほどでもない。しかも、広い陣形中、同士討ちを恐れて相手直掩機はおらず、空母から離着艦するには、一度対空攻撃を控える必要があり、その時はこちらも好機となる。


「目標、前方フレッチャー級駆逐艦」


 雷撃隊から無線が入る。追いついてきた。


「佐川隊、フレッチャー級駆逐艦にトツレ」


 雷撃隊とは、すでに話がついていた。


 エンタープライズを最終目標に、その手前にいる駆逐艦を雷撃する手はずなのだ。


 佐川の任務は駆逐艦への機銃掃射をして、雷撃隊への注目をそらすことにある。砲弾の出所をたしかめ、そこへ二十粍機銃をぶちこむ。


 ガガガガガガガガ!


 接近し、バンクして上昇する。


 駆逐艦を倒していけば、いずれ敵陣に穴が開き、そうなれば空母も狙い撃ちにできる。それはなんども練習してきた攻撃方法でもあった。


 旋回してもう一度攻撃しようとした時、雷撃隊から無線が入る。


「西居隊、雷撃をはじめる」


 一機が攻撃態勢に入るのが見える。フレッチャー級への雷撃だ。しかし、まだあまりにも砲撃が多い。


(この、慌て者が……)


 操縦かんを押し下げ、スロットルレバーを押しこむ。雷撃機の前に割り込んで、相手の注意をひきつける。


 雷撃機がそれを察して、すぐに艦隊の進行方向へと水平に移動する。一瞬、敵の攻撃対象から消える。


 わざと機銃を撃つ。たちまち、駆逐艦は佐川機へと目標を変え、ものすごい弾幕を放ち始める。


 シュンシュン、と、嫌な音を立てて敵の砲弾が佐川機の周囲を飛ぶ。佐川は冷静にコースを見きわめ、早めに離脱する。もう目的は達成できた。


 目の端で、さっきの雷撃機を探す。右に旋回してその行方を追うと、水雷を投下するところだった。


(いいぞ!)


 雷撃機の胴体下部につけられた巨大な水雷が、ぽん、と放り出されるように海面に投げ込まれる。水雷は雷跡をまっすぐ駆逐艦の進行方向へとのばしていく。


 駆逐艦が遠くから放たれた水雷を発見して右へ進路を変更する。減速し、水雷をかわそうと動く。


 雷跡はぎりぎりで駆逐艦を逸れた。


 共闘を誓った三機の雷撃隊は、残りの二機も攻撃態勢に入っている。ぽんぽん、と連続して駆逐艦に向け水雷を投下する。


 同じような雷跡がフレッチャーに伸びていく。


 駆逐艦は今度は全速で航行をはじめ、左(取舵)へと航路を変える。しかし時遅く、一本が命中する。


 ド―――――ン!


「よしっ!」


 水柱があがる。ど真ん中だ。あれでは助かるまい。


(先のはどうなった?!)


 先に放たれた二本の雷跡を追う。エンタープライズは?


 ふたたび上空に舞う。高角砲の煙幕をすりぬけ、さらに上がる。


 段違いに走る白い雷跡が見えた。


 相手の艦隊は全速で動き、ほぼ輪形陣が崩れかけていた。


 ド―――――――ン!


 陣の中央付近で水柱があがる。


 エンタープライズではない。しかしどうやら巡洋艦だ。アトランタか?!


 輪形陣の中心部を狙うとは言え、敵は常に動いている。狙い通りにはいかないが、それでも交差する水雷をかわすのは無理がある。


 他の雷撃隊からも、外からの攻撃をつぎつぎにやり始めた。


(お?)


 狙いのエンタープライズに注視すると、なんと艦載機を飛ばしはじめていた。このままだと水雷の餌食と踏み、それならと意を決したか。


 佐川は操縦かんを持ち上げ、高度をあげる。


 ならば、格闘戦にもちこんでやろう。

 輪形陣のど真ん中で、敵機を撃墜するのも一興だ。


「佐川隊、輪形陣に入れ。敵空母の離艦機をゆるすな」


 無線を流し、率先して輪形陣の中に入る。どうせ僚機雷撃隊は、もう帰るだけなのだ……。




「駆逐艦撃沈!」

「敵空母に魚雷命中!」

「巡洋艦大破」


 順調な戦果の中、敵が航空機を飛ばしはじめたとの報告があがる。


「いよいよ、敵空母はこちらへの攻撃を開始するようですな」


 それを受け、おれは参謀に指示を出す。


「敵の攻撃は想定の範囲内だが、つぶしあいはしない。手はず通りにやるぞ」


 空母戦はともすればお互いを殲滅しあうだけになってしまう。しかしそれでは物量に勝るアメリカはいいかもしれないが、こちらは困る。


「敵は攻撃を受けている。そんな中、飛ばせても多くて百機だろう。そいつらは一時間もしないうちにこのトラック泊地にやってくる。やつらの狙いはおれたちの攻撃隊を引き上げさせることにある。そこで、掩護のフォーメーションを変更するぞ」


 狭い艦橋が静まり返る。みんながおれの命令を待っていた。


「まずは第二次攻撃の爆撃隊と、残りの戦闘機を発艦させろ。攻撃を終えた戦闘機は、弾があるものはこちらの掩護に加われ」


「わかりました」


「もう防御フォーメーションは必要ない。敵のくる方角はわかっている。最低限の艦戦直掩部隊をのぞき、島の前方に集中待機させて迎え撃て。……これは二百対百の戦争だ!」


 二百対百。


 なんだか弱い者いじめみたいで聞こえは悪いが、事実は事実。


 敵を察知し、レーダーと索敵で先に見つけた。輪形陣を予想して、対策を練り、練習も重ねてきた。


 結局は準備をしっかりやって、先に敵を見つけた方が優位になるのだ。


「ああ、それとな……」


 おれは源田に顔を近づける。


「空母への爆撃はまだ待ってくれ。この分だと、すこし面白いことになりそうだ」




「駆逐艦がつぎつぎにやられています。敵の狙いは駆逐艦です!」


「あれで何隻目だ?」

「九隻です!」


 奇襲のはずが、島は万全に近い防衛体制で待ちかまえていた。新型戦闘機もやってきて、落とせるはずの島が落ちない。今朝は五十機もの爆撃隊を送ったが、島に到達したのは数機で、それも向こうの新型戦闘機にやられた。


 おまけに今は南雲艦隊が総攻撃をしかけてきている。それも、得体のしれない攻撃方法で、どんどんこちらの防衛艦が削られていくのだ……。


「とにかく相手の居場所はわかってるんだ。雷撃隊を行かせろ。そうすれば敵は戦闘機を引き上げる」


「また、駆逐艦に魚雷が!」


「味方航空機の進行方向を決めて、それ以外にはこ、高角砲で弾幕を……」


「空母ワスプに魚雷命中!」


「く……くそぅ」


 スプルーアンスは一晩で十歳も老けた顔になっていた。



いつもご覧いただきありがとうございます。司令官の練度にも差があり、万事順調に見えますが、さてどうなりますやら。 ブックマークを推奨します。 ご感想、ご指摘なども、ございましたら是非よろしくお願いします。とても励みになっています。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 敵味方の潜水艦の動きですね。 [一言] 戦艦武蔵の主砲が火を吹くかな。
[一言] 戦艦武蔵の主砲が火を吹くかな。
[一言] すげー順調やなぁ 俺だって老ける
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