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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
163/309

若きドーントレスの最後

●32 若きドーントレスの最後


 おれはおそるおそる聞いた。


「敵機の数は?」

「視認は約五十です」


 う~ん……。


 おれは首をかしげた。

 ここまで狙い通りだと、いっそ気持ちが悪い。


 もしも本当に爆撃機と戦闘機だけなら、なにも怖くない。やつらはおれたちを見失ったまま、このトラック島をふたたび爆撃にやってきたことになる。


 しかし、こっちには周囲二百キロの海上に、大艦隊が包囲して待ちかまえている。


 特に湾の入り口に当たる西には空母飛龍が、そして南には戦艦武蔵と空母龍驤がいる。さらに第一次攻撃隊二百機を出したとはいえ、総勢百機が艦隊の直掩機として飛び、さらに百機が第二次攻撃隊として温存されているのだ。


「大石、例のフォーメーションは大丈夫か?」

「無論ですわ」

「ならば、よし」


 おれはうなずいた。


 ミッドウェー海戦のように、爆撃機が決死の攻撃をしかけてきたとしても、どの艦が襲われてもそれぞれに掩護に向かい、数的有利を確保するフォーメーションが、とられているのだ。その分析と命令を担うのは、小野率いる情報管理班である。


 これは以前、インド洋でイギリス艦隊用に開発した、あの時間差フォーメーションだ。あのときは結局使う間もなく英国との休戦協定に入ったが、今回はトラック泊地をめぐる守備包囲陣で実戦使用するため、飛行経路や優先順位にアレンジを加えている。


「青島の疾風隊を離陸させろ。島上空を直掩させるんだ」


「わかりました」


「飛龍直掩機は撃墜に向かえ。その穴は他の空母から五機ずつ来させて埋めろ」


「もうやりました」

「……」


 大石と源田が顔を見合わせて笑っている。

 こういう参謀独断も、南雲艦隊の強みだね。


「よし、ではあらためて……対空戦闘用意」

 艦長の猪口をふりかえる。


「対空戦闘!」


「飛龍迎撃隊にも無線を打て。雷撃機がいないか報告せよ」

「主砲、三式弾、電探連動高角砲用意」


 参謀たちがそろって双眼鏡を構えて窓に並ぶ。


「飛龍より無線。敵機はダグラス爆撃機とグラマン戦闘機。雷撃機なし」


 ドーントレスとF4F、もしくはF6Fってことか?


 やはり、雷撃機はいないのだ。


 おれはほっと胸をなでおろした。ならば、このままの位置にいても問題はなさそうだ。いまごろは見えない遠くの空で、激しい戦闘がくりひろげられているだろう。


 しばらくして、対空監視所からの声が聞こえる。


「左四十度、グラマン十」


 おれの双眼鏡にも、敵の戦闘機が見えてきた。そうとうな高空だ。


 敵もさるもの、こちらに艦隊がいると知って、島には高高度で接近し、急降下で攻撃をしかけるつもりらしい。


「装填速度と効果範囲からして三式弾はつらいな。連動高角砲の射程はどれくらいだ」


 猪口にたずねる。


「は、最大一万メートルと聞いております」


「ならそれに集中しよう。主砲をやめ、電探連動高角砲を撃て」


「電探砲撃て!」

「電探砲撃て~っ!」


 艦橋の真下にある、副砲を換装した六基の電探連動高角砲がキューンと動き、狙いを定める。ここから見てもかなりの高角度であることがわかる。


 ドンドンドン!

 ドンドンドンドンドン!

 ドンドンドン!


 青い煙が敵戦闘機の近くでバババ、とあがる。


 小さな黒い敵機たちは散開するが、連動砲はそのたびに方位を修正して間断なく砲撃を続けていく。


 一機、また一機と撃墜され、あたりに黒い煙がたなびいた。


 キュイ――――ン

 ドンドンドンドン!

 キュイ――――ン

 ドンドンドンドン!


 電探連動砲は自然に島へと回頭し、敵機を追い続ける。


 こういう高度不明の時こそ、この砲は威力を発揮する。なぜなら、搭載されている信管は、昔の時限式ではなく、敵を感知して自動的に爆裂する近接信管だからだ。つまり、高度は関係ない。


 なおも砲撃は続き、砲撃が止む。開いた青い爆煙が、ゆっくり風に流される。


 その奥を、何機かのF4Fが、島の方向に逃げようと展開するのが見えた。


「小野!」


 おれの意図を察して、小野が情報管理室と伝声管でやりとりをする。逃した敵機をレーダーで確認しているのだ。


「四機島へ向かいます」

「青島に連絡!」

「はっ!」


 まもなく次の敵機が見えてきた。


「左六十度、ダグラス爆撃機……十!グラマン四!」

「電探砲撃てっ!」




 ダグラス社の爆撃機SBDドーントレスは、若いアメリカ軍の飛行士二名を乗せ、トラック島を目指していた。


 はあはあ、と苦しい息をつきながら、空中戦の余韻さめやらぬ身体で、飛行士は襟もとのスカーフをきつく締め直す。


 重い機体をなんとかあやつり、日本のすばしっこいゼロファイターをかわせたのは、ひとえにF6F、F4Fといった味方戦闘機のおかげだ。


 ほとんど体当たりを覚悟するような勇敢な掩護ぶりで、つぎつぎにやってくるゼロ戦と格闘してくれた。おかげでもう無理かと思った総勢三十機の爆撃隊は、今もなんとか十機ほどが残っている。


「大変だ!島に敵の戦艦がいるぞ!気をつけろ、敵の……うああ!」


 それは、彼らにとってまさに衝撃的な最後の通信だった。


 もちろん、日本の艦隊が来ていることは知っていた。しかし、つい昨日まで、この島周辺の海域には、なにもいなかったのだ。だからこそ、おれたちは島の爆撃作戦を遂行しようとしているんじゃないのか……?


 無線の途中でおそらくは海に沈んだ、背の高い飛行隊長の顔を思い出す。彼はウェーク島の戦闘で、兄を失ったと聞いている。


(俺は死なない。こんなところで死んでたまるか)


 飛行士は後ろを振り返った。キャノピーを開けはなし、二連機銃を突きださせた格好で、後席の兵士が機銃にしがみついている。


「へい、大丈夫か?」


 マイクから声をかけると、ちょいとふり向いた後席の兵士は、軽く手をあげた。気にするなってことか。タフなやつだ。高度一万フィートだぞ?


 飛行士は下を見る。


 銀色に光る海が、眼下に広がる。白い綿菓子のような雲が、いくつも過ぎ去っていく。


 ふたたび前を見ると、はるか遠くに、目標のトラック島が見えてきた。


 そろそろ島の海域だ。


 もう後ろからの追撃はないだろう。同士討ちになるからな、と飛行士は思った。後方の機銃は役に立たなくなるが、念のために、島への侵入は高度をさらに上げ、最大高度一万五千フィート(四千五百七十メートル)にするか……。


「高度一万五千。爆撃隊は最大高度に」

 後部座席の兵士がキャノピーを閉める。


 これ以上の高度では空気も薄く、冷蔵庫なみに寒くなる。


 長くはいられないが、そのぶん安全だ。なにより、戦艦の高角砲を避けられる。もしも相手の炸裂高度が自分たちの侵入高度と同じなら、すぐに下げれば問題ない。あとは機銃掃射に気をつければ、難なくやりすごせる。


 小さな戦艦が見える。

 あれが日本の超大型戦艦か、小さなものだ。


 慎重に迂回しつつ、高度を上げていく。ただし機首はつねに上下に振りつつだ。敵艦から白煙が見えたら、さっさと避けないと砲撃に当たってしまう。


 一万二千、三千、四千……。

 ふっと機首を下げた時、戦艦から白煙が見える。


「避けろっ」

 ぐいっと操縦桿を右へ切る。

 大きくバンクして、旋回する。

 

ババババババ!

(青い煙?!)


 急いで高度を下げる。高角砲だ。

 しかし爆裂は機体を追うようにやってくる。


「各機警戒しろ。時限弾じゃないぞ。これは……なんだ?」


 機体を振る。僚機も散開して逃げているのが見える。


 高度を下げる。バンクする。

 しかし青い煙はどこまでも追ってくる。


「ついてくる!弾が!」


 バババババババ!


「うあああ!」


 無数の弾に下から撃ちぬかれ、足をずたずたにされたとき、飛行士は青い煙の中で、なぜかそれを美しいと感じていた……。




いつもご覧いただきありがとうございます。まだ前哨戦ですが、はたしてこのままうまく行くのでしょうか。そのとき忍び寄るのは……? ブクマ推奨します。作者不見識多々あり、ご感想、ご指摘をどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] フィート マイル ノット一々計算するのめんどくさい
[一言] 凄い‼凄いぞぉ!!
[良い点] 毎日更新しているところ。 [一言] 細かいけど、現在だと、1フィート=0.3048mなので15,000フィートは4,572mなのですが、当時は違っていたのかな。 死ぬ間際は「最期」かな。…
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