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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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震えるスプルーアンス

●28 震えるスプルーアンス


 最初は蛍かと思った。


 左方向に敵艦隊発見の報を聞き、それへの変針をしようとした矢先、逆に右十五度方向、しかも高度は二千あたりを小さな灯りがいくつも並んで見えた。


 しかし無論、こんなところに蛍がいるはずはない。


 坂井は左への進路をあっさりと諦め、その灯りを追うことにした。やはり、自分で確認しなければ納得しないのだ。


 それに、もしや、あの方角は……。

 膝に置いた海図を見る。


「こちら坂井機。誰かトラック泊地に向かったか」

「……」


 なにを言っているのかわからず、誰からも返信がない。


 それもそのはずだ。坂井らの龍驤攻撃隊は、先頭集団なのだ。


「索敵天山、そのまま敵艦隊に向かえ。白坂隊は俺に着いてこい」


 坂井は今回、南雲艦隊から同じく空母龍驤に派遣された若い飛行士の部下を指名した。ちょっと性格的に慎重さに欠けるが、腕は確かだ。なにより闘志がすさまじく、どんな大軍にも臆せず突っこんでいく。


「白坂、坂井隊につづきます」

 無線で返事がある。

「よし!」


 坂井隊と白坂隊をあわせれば六機になる。残り十機いれば、天山攻撃隊の護衛になるだろう。それでなくとも、夜襲だから、敵の船からは航空機がほとんど見えない。逆に緻密な機銃掃射もやりにくいため、先に甲板を機銃で薙ぐ、という護衛機の役目もあまりいらないことになる。


「龍驤攻撃隊に告ぐ。坂井、白坂は不審な航空機様の集団を発見せり。確認のため離脱する。残りの小隊は作戦通り敵艦隊をめざせ」


「諒解」

「若江隊了解」


 つぎつぎに、他の攻撃隊、雷撃隊から返信がある。


 それを確認した坂井は、操縦かんを捻って、小さな灯りを追いかけた。


 高度を維持したまま、相手の速度にあわせる。

 速度計を見ると、時速二百八十キロだ。こんな速度は航空機以外にはない。


(……間違いない。あれは敵機だ。敵艦隊を出た夜襲爆撃隊が、ひそかにトラック泊地を攻撃しようとしているんだ)


 敵との距離は約一キロほど。

 こうなれば、いつ、どこで襲いかかるかである。


(なら早い方がいいに決まってる)


「坂井隊、白坂隊、攻撃を開始せよ。目標前方敵機! 灯りを狙え!」


「白坂諒解!」


 送話器を置き、最後尾の敵機に狙いを定め、操縦かんを押しこむ。スロットルレバーを開けて、一気に距離を詰めた。


 近づいてみて驚いた。なんと灯りは操縦席からのものだった。尾灯はあるものの、それでは見にくいため、敵機は複座の操縦席の中から、懐中電灯を上向きに取り付けている。


(そりゃあ、見えるはずじゃな)


 みるみる灯りが近づいてくる。


 敵はわざわざ目印をつけてくれている。ならば先手必勝、さっさと撃ち落とすのがよい。


 距離が百メートルほどになって、最後尾の搭乗員が異変に気づき、上を向いた。その不審な表情が、電灯に照らされて一瞬だけ見える。


 左手の機銃発射レバーを二十ミリにしてぐっと押しこむ。


 ガガガガガガガガガガガガガガ!

 バシバシバシバシバシバシ!


 敵機の操縦席が赤く染まり、キャノピーのガラスが飛び散るのが見える。衝突寸前までぶちこむと、右にバンクして、離脱する。


 旋回する坂井の目に、火を噴いて墜ちていく敵機が見える。


「敵は爆撃機隊だ。墜とせ!」


 護衛機がいるのかはまだわからない。いや、おそらくいるだろう。しかし重要なのは爆撃機がいて、トラック泊地の基地を狙っているということだ。


 坂井は上空から低空に変位して、旋回してふたたび上空を目指す。とにかく目印は敵の操縦席の明かりだった。


 今度は先頭の機体を目指す。しかし、その機体の搭乗員は勘がいいのか、すでに灯りを消していた。うっすらと影は見えるが、飛び回るため、補足できない。


 坂井は信号拳銃をとりだし、キャノピーを開けて、前方へ向けて撃った。上空ではすぐに流されてしまう。


 ド―――ン!


 限定的だが、一瞬あたりが明るくなる。


 そこへ味方機の曳光弾が走り、ストロボのように敵と味方の機影が見える。坂井は最初はまだ灯りをつけている敵機を、そして次には信号弾をたよりに敵機を追撃した。


 ガガガガガガガガガガガ!

 ガガガガガガガガ!


 敵機のエンジンが火を噴き、落下していく。


 他にも、墜ちていく機体がある。すくなくとも日の丸じゃなかった。


 さらに攻撃目標を探すが、さすがに敵機も撃ち返してくる。後方への機銃掃射もあるようだ。まちがいなく複座の爆撃機だ。ダグラスか?


 味方機からは何発もの信号弾が打たれる。


 さらに何機かが撃墜されたが、敵は必死に逃げ、たちまち見えなくなる。やがて、機銃音は散発的になり、聞こえなくなった。


(う~ん、これでは空戦にならん)


 あらためて、夜戦の恐ろしさを肌で感じる。


 とにかく見えない。最初は灯りをたよりに何機かを撃墜したが、相手がそれを消してからは、あぶなくて機銃を撃てないのだ。


 味方の損害がないか無線で確かめる。

 幸い、六機がすべて健在だった。


(なら、これでいいか。今回の作戦は、まずはトラック泊地を守ることだ。この夜襲も、敵の注意を逸らすことと聞いている。深追いは禁物……)


 とはいえ、このままひきあげるわけにもいかない。


 そんなことをすれば、残った敵の爆撃隊が執念深くトラック泊地をまた狙うかもしれないのだ。


 坂井は無線機を取りあげた。


「坂井より龍驤。坂井より龍驤」

「……こちら龍驤、坂井……どうぞ」


 途切れつつも、聞きとれる。まだ通じる距離のようだ。


「坂井隊、白坂隊、敵爆撃隊警戒のため、いったんトラック泊地に向かい、敵機の警戒に入る。島の安全地帯に電照を乞う」


 もとより、艦隊攻撃が終われば、護衛目的で秋島の航空基地に着陸する作戦だった。そのため、灯火管制をしつつ、安全を確保する目的で、トラック泊地東のはずれにある、ジープ島と原住民が呼んでいるごく小さい岩礁に、トーチが灯される手はずになっていた。


 それなら、敵に見られても他の島の位置まではわからず、味方からすると、正確にそこから滑走路への方角や距離がわかる仕組みだ。


「坂井隊、白坂隊は電照の上空にて、敵機を迎撃し島を掩護する」


 報告しながら、まるでイカ釣り漁船みたいだな、と思う。


 明かりがあれば近づきたくなるのが、人間。ところが、そこにはおれたちが待っている。


「こちら龍驤、諒解」




「なんだと?!」


 スプルーアンスがサッチ少佐からの報告を受け、飲んでいたコーヒーカップを机にがつんと置いた。


「敵が空にいた、だと? ……ば、ばかなッ!」


 それでも足らず、どんっと机をたたく。


 トラック泊地から百キロも離れた上空に、日本軍の護衛機が待ちかまえているなど、ありえない。


 昼間ならわかる。あるいは、雨のない月夜でもだ。しかし、今夜はさっきまで激しい雨に降られ、そして今は深夜なのだぞ?


「連中、化物か……?」

 歯をぎりぎりと噛みしめる。


 昼間、多少なりとも被害を受けた基地から警戒機を飛ばし、こちらの夜襲を警戒していたというのか?


「それで、こちらの被害は?」

 艦橋をふりかえる。


「四機が撃墜され、約十機がなんらかの被害を受けました。サッチ少佐機は現在、目視飛行で迂回しつつ、トラック島に向け飛行中……」


 そのとき、別の通信兵が叫ぶ。


「敵襲です!方位百七十五度、距離二万!」

「なにっ?!」


 天啓のようにひらめく。


(な、南雲だ!噂に聞く南雲が来ている!)


「総員配置、直掩機向かえ!全速……」


 一瞬どちらへ向かうべきか迷う。


「前進!」


 あわてた右手がカップを撥ね、床に転がる。

 音がやけに大きく鳴り響いた……。



いつもご覧いただきありがとうございます。なにをやっても裏目になる、これは運なのでしょうか。実はほんの少し、五分早かっただけのことだったりします。数分の差……あれ、どこかで聞いたような。  ブクマ推奨です。ご感想、ご指摘をよろしくお願いします。すごく助かっております。

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[一言] うおおぉぉぉぉぉぉぉ!! 坂井さん!! うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!
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