表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
158/309

おヘソをグリグリしたい

●27 ヘソをグリグリしたい


「なんですか、その、南雲中将がおっしゃる、やってほしいことって」


 将兵の一人が怪訝そうな顔で尋ねた。昼間の激戦を物語る、脂ぎった黒い顔、濡れて汚れた軍服のままだ。


「うむ、夜襲の時間は0000(まるまるまるまる)だが、そのあとの時間、秋島の滑走路を使わせてほしいらしい。夜襲の帰り、一部の艦上機をこちらに着陸させたいと言っておられる」


 南雲に対して、なぜかつい、敬語になってしまう。

 あいつとは同期なのに、と咳払いでごまかす。


 細萱は思いついて、通信内容の書かれた電文をとりだす。

 暗い灯りに照らして、苦労して読み上げた。


「聞いてくれ。――我、トラック基地の守護を目的とし、秋島基地滑走路に掩護機十六機を送りて待機させたし。但し、受け入れに支障あらば、この限りにあらず」


「夜中に着陸ですって?」

 将兵たちが驚くのも無理はない。


 夜襲にまぎれて、空母艦隊から発艦した戦闘機を、ここに着陸待機させようというのか。


 しかし、そのためにはこの雨の中、あるいは雨がやんだとしても、それまでに滑走路を整備しておかなければならない。


 しかも新月である。たいまつやサーチライトを準備して、受け入れ態勢を整えるのはこちらの仕事なのだ。


 やや間がある。やがて……。


「やりましょう!」

 一人の陸軍将校が答えた。


「やります。南雲長官はこのトラック泊地を助けようとしておられる。やるのは当然です」


 それを聞いた他の将兵たちも、こぶしを作って、口々に叫びだした。


「やりましょう」

「できます!」


「そうか、やってくれるか!」

 細萱は、思わず涙ぐむ。


 将兵たちは汚れた格好をものともせず、機敏な動作の敬礼をすると、意外にも明るい笑顔で、司令室を出て行った。




 ついに、雨は止んだ。


 夜のしじまに、航空エンジンの音が鳴り響く。


 おれたちは戦艦武蔵の艦橋から、一番近くにいる、空母瑞鶴のシルエットを見つめていた。


 翔鶴の甲板では、発艦の合図を待つ艦戦機の黒い影が、所定の位置へとゆっくりと進みはじめていた。

 すでに、艦隊は風上に向かって全速で航行している。


 飛行甲板の前方へと目をやると、そこには兵士たちが一定の間隔を開けてしゃがみ、大きな箱型の乾電池式電灯を捧げ持っているようだ。ちょうどこの年、単一、単二の乾電池が制定され、実用化されたのを思い出す。


「瑞鶴、準備よし」

「全空母発艦準備よおし!」

「発艦準備よし」


 おれは時計を見た。まだ計画の零時には少し早い。


「発艦しよう」

「え?もうでっか?」


 航空参謀の源田が意外そうな声をだした。


「まだ五分ありまっせ。よろしいんで?」


「気にするな。もうみんな用意できてるじゃないか。それに空も思ったより晴れた。なら、善は急げ、だろ?」


「わかりました」


 おれはもう一度言った。

「発艦せよ!」


「TY作戦攻撃隊、発艦せよ」


「発艦~!」


 武蔵から、光信号が発せられる。

 無線ですべての航空母艦に命令がただちに伝わる。

 旗を揚げ、発艦の合図を出す。


 同時に、敵の攻撃を警戒して武蔵の巨大なサーチライトが上空へと照らされると、白い光の筋が、明けた星空にむかって何本も放たれた。


 空母翔鶴からも航空機が飛びはじめたようだ。はっきり見えなくとも、影と音でわかる。まずは戦闘機、そして次は艦攻機の順で、つぎつぎに艦載機が発艦していく。


(みんな、たのんだぞ……)




 艦隊の最前列にいる、ここ空母龍驤でも、旗艦武蔵からの発艦命令を受け、ただちに戦闘機疾風十六機と、艦攻機天山二十機が宙を舞った。


 坂井飛曹長は、その疾風戦闘隊の隊長機に搭乗していた。


 甲板を飛び出た坂井機は、ゆっくりと機首をあげると、車輪を格納していく。


 空はとにかく暗い。日ごろから星を見て目を鍛えている彼ではあったが、これほどの暗夜に敵艦隊を攻撃するのははじめてだ。


 坂井はキャノピーを開け、星明かりを確認すると、羅針盤灯スイッチを入れた。方向を確かめ、口にくわえた電灯で膝の地図を見る。


 飛行進路を決定する役目は、今回三人乗りの天山に任せてある。その黄色の尾灯をつけた一番機のあとを追いながら、しかし、自分で確認せねば気が済まない坂井であった。


 坂井機は上昇を続ける。すぐに空気が冷え、首筋のマフラーから冷気が忍び込んでくる。


 今回、飛行高度については、各空母攻撃隊ごとに細かく決められていた。旋回する場合も、その高度より上空五百メートルの範囲で行わなければならず、あまり自由がきかない。龍驤攻撃隊は、高度三千メートルから三千五百メートルの間とされていた。


 疾風と天山は最新鋭機のため、電探や無線もすぐれており、各攻撃隊よりも割り当てられた役割が多かった。敵艦隊の位置を電探で確認し、無線で各隊に連絡することや、最初の照明弾をいち早く現場に到着して撃つことも、そのひとつだ。


 坂井は操縦席の右側に置かれた信号拳銃に目をやる。

 いずれにしても、使うのはまだだいぶ先になるだろう。


 坂井はようやく水平飛行に移った。




 そのしばらくのち……。


 ここ、米海軍の空母エンタープライズでは、ジョン・スミス・サッチ少佐ひきいるトラック泊地への夜間爆撃隊が、食堂で最後のブリーフィングを行っていた。


「……手はずは説明の通りだ。今夜は計器飛行と思ってくれ。島までは俺が先導する。そこからは決められた通りの操縦でひとまわりして、それぞれの担当空域にさしかかったら爆撃するんだ。いいか、迷わず墜とせよ。それで帰ったらぐっすりお休みだ」


 と、言って、ジミーは肩をすくめた。


 百人は入ろうかという大きな食堂に、わずか三十人ほどの兵士たちだ。これは爆撃機の数にして十五機ほど。しかし、他の空母からも参加するため、総勢は三十機を予定していた。


「ジャップどもの寝込みを襲うなんて、最高じゃないですか。あいつら、きっと一晩中眠れませんよ」


 最前列にすわるベテランの飛行士が、落ち着いた声で言う。


「そうさクインシー、やつら、またいつ来るかわからない恐怖に、眠れない夜を過ごすだろう。……さて諸君、提督からもお話がある。耳をかっぽじってよく聞くんだ」


 みんなが緊張して背筋を伸ばすと、スプルーアンスが椅子から立ち上がり、みんなの前に立った。


「ジャップどもは、あのトラック島を日本の真珠湾と呼んでるそうだ……」


 その言葉に、みんながパールハーバーアタックを思いだす。


 大勢の同胞が死んだ敵の攻撃を、憎んでいない兵士はいなかった。


「ずいぶんチンケな真珠湾があったものだが、それだけ日本にとって、トラック島は重要ってことだろう。言わばヘソみたいなものだな。だから……」


 スプルーアンスは兵士たちを見つめる。


「今回の作戦は敵のヘソを抉ることだ」


 スプルーアンスは自分の臍を人差し指でぐりぐりと抉った。


「そりゃあ痛い……」


 おもわずつぶやくクインシーの声に、みんなが笑う。


「よし、やってこい。やつらの島をぶち壊せ」


「イエッサー!」

 全員が勢いよくたちあがった。




 坂井は腕時計を見た。


 出発してから、すでに三時間がたっている。


 そろそろ敵の艦隊が見えてくるころだ。


 いや、この闇では、見えないかもしれない。いまごろ、航空電探をあやつる索敵天山機の中では、懸命な索敵がおこなわれているだろう。尾翼下にアンテナを取りつけた奇妙なその姿を、坂井は思い起こしていた。


 そしてついに、必死で目を凝らして飛ぶ坂井の受聴器に、無線が入る。


「前方左四十度、二十マイルに空無線電信反応あり!」


(いたか!)


「繰り返す。前方左四十度に十マイルに敵艦隊あり。範囲は十マイル……」


(ん?)


 左へと進路を変更しようとしたその時、坂井の目の端になにかが映った。



いつもご覧いただきありがとうございます。夜襲の二乗、ついに始まりました。トラック泊地ははたして守れるんでしょうか。 ブクマ推奨 ご感想、ご指摘にはいつも感謝しております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お互い夜襲…… 先手はどっちだ
[良い点] 時間の表現は難しいですね。 自分も元海自ですが、零時の表現は今まで経験無かったです。 戦闘経験が無いので当然ですが、巡検が終わり消灯が2200(ふたふたまるまる)。 総員起こしが0600(…
[一言] なるほど。 発艦を5分早めた事で、目標艦から発艦する敵戦闘機・攻撃機より早く有利な戦闘ポジションを確保できたのでしょうかね。 『善は急げ』、『早起きは、三文の徳』など早く行動する事を推奨する…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ