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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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みんなで無茶をいたしましょう

●26 みんなで無茶をいたしましょう


 おれは怪訝な目をしているみんなに、絶対国防圏について軽く説明をする。


「これは簡単に言うと、主には航空機、爆撃機の航続距離によるものなんだ。日本の本土に飛んで来られる距離にある島々、たとえば千島、サイパンや硫黄島をアメリカに奪られたら、あの本土空襲がひんぱんに起こることになるだろ? だから、本土から一定の距離にある地点は特に守る必要がある。これを絶対国防圏と呼びたい」


 ……ま、史実的にはもう少し広範囲だけどね。


「んで、この太平洋においては、トラック泊地がそのかなめなんだよ。ここがなくなると、後詰めができなくなって、あらゆる南洋の島々が孤立する。逆に言えば、わが海軍としてはトラック泊地とその輸送路を守備することが、太平洋のシーレーン確保には欠かせない」


 みんながうなずく。どうやら、納得してくれたみたい。


「さて、話をもどすぞ。おれが角田の進言を入れる理由はひとつ。この絶対国防圏守備に不可欠なトラック泊地をこれ以上攻撃させないためだ。雨がやみ、夜明けになれば、やつらはきっとまた攻撃をしてくる。アメリカ艦隊の目標は最初からこれだから、目的を達成したら、すたこら逃げ出せばいい」


「ところが、おれたちとしては一隻や二隻の空母をやっても、トラック泊地を破壊されたら防衛という今回の作戦は失敗に終わることになる。だから先手を打って艦隊への夜襲を行い、やつらの注意をこちらにひきつけることにするんだ」


 そうだ、大事なことは二度言おう。基本だよね。


「もう一度言うぞ。夜襲はする。しかしその目的はやつらの注意をこちらにひきつけることにある。いいな!」


 みんなが口々に返事をする。


「したがって、そんな危険な作戦は、出来るだけ最低限の攻撃隊で望みたい。第一次攻撃隊は、艦戦、艦攻あわせて百機、そして二十機づつ、五度の波状攻撃を行うものとする」


「ひゃ、百機ですか……」


「ん? どうした草鹿、なにか問題でも?」


「あ、いえ、最低限といいながら、意外に多いなと」


 はいはい、そうくると思ったよ……。


「でも、それが最低限なんだよ。それだけの数が無いと、龍驤りゅうじょうしかいないと思われるだろ? こっちに艦隊が到着したことを教えてやらないとな」


「なるほど……」

 草鹿がようやく笑顔になる。


「そのための夜襲なんですね」


「百鬼夜行」


 すかさず雀部がつぶやく。うまいこと言うな。


「とにかく夜陰にまぎれるわけだから、攻撃精度は落ちるし、味方機の衝突リスクもある。だから敵の注意をひきつけたら、安全に帰ってきてもらいたい。例の輪形陣への戦術も今回はなしだ。それは明日に残しておけ。夜襲はとにかく直線的に行って、適当に攻撃したら帰って来ること」


 おれはさっきの気象図を出して、みんなにも見せた。


「さて、気象班の意見でも気象図でも、夜半の天候は晴れと出てる。風は多少残るが、もともと台風ってほどじゃない。雨がやむギリギリのタイミングを、おれは明日の00:00(マルマルマルマル)と見た。だから、それが出撃時刻だ!」


「はっ!」

「わかりました」


 みんなが上気して口々に返事する。

 おれはテーブルについていた片手を、丸い窓に向け、指さした。


「だが、くれぐれも注意しろよ。明日は新月、月はないぞ」


 そこにあるのは、ただ墨を流したような黒い闇だった。




「ジミー、君の進言どおり、トラック島への夜襲を許可することにしたよ」


 スプルーアンスが、司令室に呼んだ飛行隊長のサッチに、トラック泊地への夜襲決行を伝えた。


「ありがとうございます」


「だが問題は月明かりがないってことだぞ。君の言うコースを正確に飛ぶことが、はたしてできるかな?」


「それは考えてあります」

「ほう」


 スプルーアンスは奇妙に緻密なこの飛行士を改めて観察した。


 風貌はいたって飄々として、闘志あふれる、という感じではない。だが、額は大きく秀でていて、頭の良さと意志の強さが、ひしひしと伝わってくる。


「よかったら聞かせてくれないかジミー? それはいったい、どんな方法なんだい?」


「簡単に言うと、計器飛行ですよ」

 サッチは海図を広げる。


「ここ……」

 ジミーはその人差し指でトラック泊地の手前の海上を指さした。


「トラック島手前五キロの地点までは……ほぼ計器飛行で行き、この地点で島影をたよりに位置を微調整します。今はまだ雲ばかりですが、ある時刻以降は、星明りが出るはずなんです。そのことは気象下士官の、マイケル・ジェイムズに確認しました」


「手回しが良いな」

 スプルーアンスが笑う。


「そいつはどうも……そこで、位置を俺が修正したら、そこからは直線とクロソイド曲線で飛行します。最初は七十二秒で直進、そこからは右へ十二度の操舵で四十八秒、直進十二秒を挟んで今度はやや大きい左へ十八度の旋回でぐるっと回る。そうすれば、いくつかの攻撃目標を直下に入れることが出来ます」


「ほう」


 まるで数学のように、円の軌道が二つ、トラック島夏島の近辺に描かれており、それが見事に燃料タンクや飛行場を網羅している。


「ここに竹島は入っていませんが、そこだけなら、明日、集中的に爆撃すればいい」


「しかし……」


 ちょっと呆然としながら、スプルーアンスは尋ねる。


「パイロットがいったい、そんな精密な角度で操縦できるものかね?」


「それならご心配にはおよびませんよ。今のうちに艦上で二つの角度を測っておき、正確に操舵できるよう、操縦かんにワイヤーを貼っておきます。曲芸飛行の始まりになったら、そのワイヤーを操縦かんにつければ、問題なく操縦できますよ」


「ふむ」


「あとは全機操縦室に懐中電灯を上向けに点灯しておき、後続は階段のように上へ並びます。それなら前方の操縦室が見えるので後続は迷うことが無い。それに……」


 サッチー少佐はきゅっとVの字に口の端を上げた。


「先頭は俺ですから」




 細萱司令官ら、トラック守備部隊にも、夜は訪れていた。


 昼間の被害を確かめつつ、夜通しで次の攻撃にそなえ、兵士たちが必死に働いている。


「おーい、握り飯もってきたぞう」

「おお、ありがたい。腹が減っては戦ができぬだ」


 崩れた土嚢を組みなおし、爆撃にゆるんだ陣地の手直しにいとまがない。雨が弱まってきた今こそ、やっておくことがある。


 夏島仮司令室では、南雲との通信を終えた細萱ほそがやが、陸軍の将兵たちを集めていた。


「南雲さんは夜襲をかけるそうだ」


 室内を照らすのは、電灯ではなく、窓を厳重に閉鎖したうえでの小さなランプのみである。しかも、大きな梁柱が一本折れて、応急に修理されていた。


 数名いる連絡係の将兵たちが小さく歓声をあげる。


「おお、さすが南雲中将だ」

「駆けつけて、夜襲とは恐れ入る……」

「敵も驚くだろうな」


 細萱は小さな声でそれを制した。


「待ってくれ、喜ぶのは早い。わしらにとって、ちょっと困った話もあるのだ」


 細萱はすまなさそうに言う。ここにいる全員は、既に一日、ともに生死をかけて戦ってきた同胞はらからだった。陸と海の垣根を超えて、それは強い絆を生んでいる。


「南雲さんによれば、我々に、やれるならやってほしいことが、あるそうだ」


「?」


 やれるなら?


 自分で言いながら、細萱はその無茶さにだんだんおかしくなってきた。


 内容も無茶なら、中途半端な命令も無茶。


 自分も将兵たちも、そんな無茶には慣れていない。



いつもご覧いただきありがとうござます。おたがい夜襲決定ですが、さて、どうなりますやら。気象下士官というのはアメリカ実在の役職だったりします。 ブクマ推奨、感想やご指摘には日々感謝しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 航法に関しては米軍のボード形式が優れてます。>パイロットが首からぶら下げてるボードには航空図と分度器?がセットになっており、計器盤の下に収納し、飛行中でも見れる様に最初から設計されてます。…
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