表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
155/309

赤い点と青い点

●24 赤い点と青い点


 アメリカ艦隊の哨戒機が、トラック泊地の北西約五百キロの海上を飛んでいた。


 トラック泊地に、なぜ急に日本の艦載機があらわれたのか、それが艦隊からのものであるならば、どの程度の艦隊なのか、それを探るための索敵行動だ。


 雨はあいかわらず激しい。視界は極めて悪いが、そのぶん海からの攻撃にはあいにくいだろう。哨戒機の飛行士はなんども往復して、見えぬ日本艦隊に目を凝らす。


 やがて、遠い海上に小さなシミのような一群が見えた。キャノピーを開くと強い雨がざあっと吹きこんでくる。口に流れ込む水をぷっと吹き飛ばして、飛行士は首を伸ばした。


(あ、あれだけか……?)


 敵の直掩機に見つからないことを祈りながら、少しずつ近づいてみる。しかし哨戒機の飛行士がなんど付近を捜しても、それ以上の艦船は見当たらなかった。飛行士は注意深く確認し、ようやく操縦かんをひねる。


 グアムと北マリアナ諸島の中間海域にいたのは、たった一隻の小型空母と、三隻の駆逐艦だけだった……。




 哨戒機からの報告を受けたアメリカ艦隊総司令官のレイモンド・スプルーアンスは、空母エンタープライズの艦橋から嵐の海をながめながら、次の作戦を考えていた。


 アメリカの大艦隊は、今ちょうど日本の小艦隊とは反対側の、トラック泊地の南東五百キロの海上にいて、進退いずれも可能な位置にある。


 トラックを追撃するもよし、小艦隊をやるもよし、もしも――これはハルゼー提督が皮膚病のため、急遽抜擢されたスプルーアンスにとって、考えたくはないことだったが――もしも戦況われに利あらず、と判断すれば、このまま撤退することも可能な位置にあった。


 ちょうど、トラック泊地各島への戦果を報告しに、副官のロバート・オリバー中尉があらわれた。


「失礼します提督」


「やあオリバー君、戦況はどうだい?」


「いけませんな」


 オリバー中尉は肩をすくめた。

 手に持った黒いファイルを開き、目をやる。


「第一次攻撃群の二百五十機のうち、現在までに無事帰還できたのは百六十機です。そのうち爆撃機は百三十五機中六十三機、ただ、これらは発艦から三時間たった時点の数字ですがね」


「悪いね……」


 三時間でその数字なら、今はもっと減っているだろう。


 機関出身のスプルーアンスは数学が得意で、数字での報告を好んだ。


「奇妙なことに……」

 言いよどむオリバー中尉に、スプルーアンスは眉をあげる。


「グラマンヘルキャットの帰艦率がよくありません。半分が海の中です」


 半分が海……。その意味をスプルーアンスは暗たんたる思いで咀嚼する。


「信じられんな。どう考えてもアレは前の猫よりはいいはずだよ。いったい、なぜだね?」

「どうも、敵にも新型機があったようで……」


 写真を差しだす。


「写真班が撮影しました。雨でどうにも映りが悪く、しかもブレていますが、ほら、隣に映っているゼロファイターとは少し形が違うでしょう?」


 受けとった白黒の写真を見る。


 二機の日本機が飛んでいるところを、やや上空から撮影した写真だった。手前に爆撃機の翼が映りこんでいるところを見ると、カメラマンは時速二百キロ以上で飛ぶ飛行機から、身を乗り出して撮影したのだろう。


 たしかに片方はゼロファイターだが、もう一機は戦闘機でありながら、エンジンがゼロよりも大きく、そのぶん搭乗席が後ろ寄りについている。そしてなにより、翼の角度がゼロファイターとは違っていた。


「別の新型戦闘機だな」

「こいつが猫を追い回したそうです」

「ふーむ」


 スプルーアンスは冷静にその機体を観察する。


「……こっちが進歩するなら、向こうもして当然、と、いうわけか」


 この空母エンタープライズの艦橋には、他の幹部たちも詰めていた。そしてみんな、聞かないフリをしつつ、スプルーアンスとオリバーの会話に耳をそばだてている。


 船の揺れは今もあり、ただ立っているだけでも疲労した。


「目標への戦果はどうだオリバー君? 君も知っての通り、われわれが計画しているニューアイルランド島のカビエン、ニューブリテン島のラバウル基地の制圧、そしてグアム島奪還作戦には、いずれもトラック島の基地機能喪失がカギになっている」


「はい」


 オリバーはふたたびファイルを持ち上げて報告を読み上げる。


「ご存じの通り、われわれには事前に定めた、今回の作戦における重要攻撃目標が五か所あります。すなわち、彼らが夏島とよぶアイランドにある、潜水艦基地、第四艦隊司令部、燃料タンク、水上機基地、そして対岸、竹島の飛行場です」


「あててみようか?成功は一か所だ」


「……どうしてわかったんです?」

 オリバーが呻く。


「帰艦率だよオリバー君、爆撃機の未帰還が半数なら、そのうち爆撃に成功するのはさらに半分以下、つまり二十パーセントだ。……で、どの設備をやった?」


「夏島北東部の司令部基地です」

「ふむ」


「もっとも激戦区だったのは燃料タンクのある夏島南東部と、対岸の竹島飛行場、つまり夏島と竹島の海峡なんですが、そこにわれわれは重点的にヘルキャットを派遣しました。しかし……」


「こいつが現れた、……ってことか」


 左手で持った白黒写真を、スプルーアンスは右手の甲でぽんぽんと叩いてみせた。


「ええ。それに以前にも報告のあった特殊高角砲が……いずれにしても、晴れていれば、もっと戦果は上がったと思いますが、なにぶんこの雨で……」


 そろそろ、結論を出さねばならない。時間は刻々と過ぎていくのだ。


「北方には小型空母艦隊、トラック島は戦果二十パーセント。さて……」


「……雨がひどくなってきましたね」

 と、オリバーがつぶやいた。


 スプルーアンスはしばらく考え、うなずいた。


「これ以上は危険だ。全機を帰艦させよう。その代わり、雨がやみしだい二次攻撃だ。空母には哨戒機を貼りつけ、未明に雷撃を行う」


「アイアイサー!」


 オリバーの目配せで、兵士たちが動く。


 そのとき、艦橋の右の扉のむこうから、なにやら言い争うような声が聞こえてきた。

 扉の向こうには、廊下と下への階段があった。


「なんでしょう?」


 いぶかしそうに言って、オリバーは扉に向かった。開けた扉の向こうに、一瞬、一人の兵士が見える。


 オリバーはそのまま廊下に出て扉を閉める。


 しばらくすると、オリバーは一人の飛行士らしい男を連れて戻ってきた。


「スプルーアンス長官」

「なんだね?」


 オリバーの背後に立っている飛行士をチラリと見る。


 歳は三十代の後半か。背が高く、眉には意思の強さを感じるが、うっすらと笑みを浮かべているその態度には、古参の余裕があった。


「本艦の飛行隊長から、長官に進言したいことがあるそうです」

「ほう?」

「さあ、ジミー、君から申し上げろ」


 オリバーが男を見てうながす。


「君は?」

「飛行隊長のジョン・スミス・サッチ少佐であります。」


「ふむ、なんだね?」

「では、申し上げます」


 男はトラック島周辺の海図に、アメリカ艦隊の位置、そして島との間に無数のラインと、たくさんの赤い丸、青い丸が描いてあるものを差しだした。


「これは……?」


「本日行ったわれわれの爆撃機と戦闘機の飛行コース、そして攻撃による被害を受けた地点を記録しました。これをごらんいただければ敵の迎撃空域が二か所に集中していることがおわかりいただけると思います。一方、環礁の内部では赤い点はほとんどなく、青い砲撃マークがほとんどです」


 ジミーが意外に細い繊細な指先で海図をなぞる。


「この青い点、つまり砲撃の記録を見ると、空白になっている個所がいくつかわかります。ここと、ここ、そしてこの辺も……」


 見ると、確かにいくつかの地点では、ほとんど敵の攻撃を受けていない。


「おそらく、ですが、あの島の対空砲撃には穴があります」

「……」


 ジミーはくるくると、八の字を島の地図に描いた。


「つまり、このコースを飛べば、砲撃には合いません。そこで、本日、夜間の爆撃を進言いたします」


 スプルーアンスの眉がぴくり、と動いた。


「戦闘機で迎撃空域に陽動をかけつつ、爆撃隊は低空を飛び、島に向かいます。そして環礁内に入ったらこのコースを飛んで水平爆撃すれば、重要目標への攻撃は成功します。夜中にはかならずや、いいご報告をしてご覧にいれますよ」



いつもご覧いただきありがとうございます。今回はリクエストにお応えして少佐登場です。ブクマ推奨します。感想・ご指摘には感謝しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 駆逐艦で疾風がーと言ったコメントしたのですが、よく調べたら一時作戦で撃沈されてて主人公は二次で参加して除籍も早かったのでこちらが間違いでした。お詫び申し上げます。
[良い点] 穴の空域に誘導し殲滅!ですね。 トラック島は船も一部の区域のみに入り口を限定し、 後の水道は全て機雷で封鎖してました。 その空域のみに常時戦闘機を哨戒させておけばカモ撃ちです。 日本軍はオ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ