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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
153/309

昼食は通信室で食べましょう

●23 昼食は通信室で食べましょう


 大きな星マークの米新型戦闘機が、力強くバンクして宙返りを行い、ゼロ戦の背後へすさまじい機銃掃射を行った。


 ガガガガガガガガガガガガガ!

 バシバシバシ―ッ!


「があああっ!」


 薄い装甲のゼロ戦は、後ろから操縦席に撃ちこまれると、どうしようもない。


 搭乗員は短い断末魔の叫びをあげると、キャノピーに赤い血のりをまき散らして昏倒する。やがて黒い煙をたなびかせ、灰色の海面に衝突の水しぶきを上げた。


 米兵のパイロットが笑いながら仲間に合図を送るのを見て、列機たちは、あわてて雲間へと姿を隠す。


 この新型敵戦闘機に遭遇した日本隊の誰もが、瞬間的に、これは今まで戦った敵機とは違うぞ、と感じた。


 まず速度が違う。ゼロ戦のエンジンは約千馬力であるのに対し、このF6Fは二千馬力もあるのだ。運動性能も良く、さらにその速度から撃ち出される機銃は、F4Fが両翼に四基であるのに対し、なんと六基もある。


 しかも全部が十二・七ミリである。


 これでは、どんなに日本の搭乗員の腕が優秀でも、互角には戦えない。さらに初対決ともなれば、相手をなめていた日本のゼロ戦たちは、つぎつぎに墜とされていった。


 このグラマンF6Fヘルキャット約三十機は、三隻の空母エセックスに、十機ずつ分散的に搭載されていた。まだ本格的な量産が始まる前の、試験機のようなものだ。


 しかしこの期に及んでのF6F投入は劇的な効果をもたらし、たちまちアメリカ艦隊近くの空域を席捲しはじめた。そうなると、爆撃機は勢いづき、トラック泊地の各島へ、本格的な爆撃を縦横にやりはじめることになる。




「くそお、やつら、新型機を温存してやがった!」

「爆撃機がとめられない」


 悲鳴ともつかない呻きが司令室内にひびく。


 そもそも、このトラック泊地には航空戦力が不足しており、今回のような大艦隊を迎え撃つには数的不利にある。その上、ゼロ戦にも勝る新型戦闘機がいるとわかれば、これ以上、貴重な戦闘機と搭乗員をむざむざと失うわけにはいかない。


「迎撃隊を移動させよ」


 司令官の細萱は、迎撃編隊をF6Fが多くいる敵艦隊付近から、いったん島の近く、すなわち北西へと退避させることにした。


「戦闘機は相手にせず、爆撃機だけを狙え」

「水道から内側は地上砲撃隊に任せろ。空戦は水道の外でやるのだ」


 トラック泊地は環礁と呼ばれる岩が、島々をぐるりと取り囲む構造になっており、その環礁を水道と呼んでいた。水道から内側は、ほぼ二十キロほどの内海があり、各島からの砲撃射程圏内にある。


 味方機がいなければ、たしかに敵機による爆撃は苛烈になるが、そのぶん三式弾、近接高角砲、機銃など、味方への誤爆を気にせず、ふんだんに使える。


 なにしろ、弾薬はたっぷりとあるのだ。


「ただし……」


 ブイ―――――――ン!

 一機のドーントレスが、ドップラー効果にのせて、急降下してくる。


 ヒュ―――――――…

 ドカアアアアアアアアアン!


 三十メートルもない近くに爆撃があり、司令部の施設全体がぐらぐらと何度も揺れる。


 バキバキ―――ッ!


 木造のどこかがへし折れる音がした。

 ざあと砂ぼこりが落ち、部屋が停電して一瞬暗くなる。


(そのぶん、攻撃は激しくなる)


 帽子を押さえて腰をかがめた細萱は、明かりがふたたび灯るのを見て、肩の汚れをぽんぽんと払った。




 まさにその水道の中で激しい空戦をしている城下は、命令を受けて列機を東へと導く。しばらく爆撃機を追いかけ、二機を撃墜したところで、雨が突然激しくなってきた。


 列機も今のところ無傷のようだ。

 敵の新型機と遭遇した時はひやりとしたが、結局は逃げおおせた。

 いったい、あれはなんだったんだろう……?


 それにしても……と、城下は思った。


 この雨は、友軍にとって幸運なのか不運なのか。これ以上天候が悪化すれば、両軍ともに、どうにもならなくなる。空母甲板への着陸も寸前まで見えなくなるし、そもそも、お互いの敵機が見えないのに、闘うのは無理だ。


 城下はなかば諦めて近海をゆっくりと旋回した。列機と合わせて、すくなくとも五機以上は撃墜したし、そろそろ帰投してもいいだろう。城下の隊は本来、二五二空に所属しており、細萱の要請に応じてこのトラック泊地までやってきたにすぎなかった。


「こちら城下。……甘木、尾茂、そろそろ帰るか?」

「城下隊、甘木了解した」

「尾茂了解」


 無線と同時にバンクして合図を送る。


 そのとき……。

 黒い影がいくつも、ぬうっと雲の中から現れた。


(!)

 敵戦闘機だ!


 急速に接近してくる。

 形を確認するまでもなく、速度でわかる。


(……あいつだ!)


 星のマークが展開して、あっという間にこちらを取り囲んでくる。


 数を数える。五機編隊が三つ……十五!

 こちらは列記を合わせても三機しかいない。

 つまり三対十五だ。


 絶体絶命という文字が脳裏を駆け巡る。


 敵の機銃が火を噴く。


 ガガガガガガ!

 ガガガガガガ!

 ガガガガガガガ!


 無数の曳光弾が走り、必死にきりもみに回避する城下の周囲を交差する。

 とにかく、また雲に逃げ込むしかない!


 その思いでやや上空へ舵をきったまさにその時、こんどはその斜め上の雲間から、また十機以上の新手が姿をあらわす。


(うわっ!)


 機銃を撃つには角度が違う。逃れようにも向こうからは目の前だ。


 観念して目をつむろうとした瞬間、敵機だとばかり思っていた新型機には、両翼に赤々と鮮やかな日の丸が描かれてあることに気がつく。


(味方?!)


 ダダダダダダダダダダ!


 なつかしい、二十ミリ機銃の音がする。間違いない、僚機だ。


 城下機には、いつのまにかF6Fが追尾していた。


 その敵機を、新型の日の丸機は、軽やかに撃墜したのだ。


 FM無線に通信が入る。


「こちら空母 龍驤りゅうじょう 疾風はやて攻撃隊の坂井、南雲司令官の命令によりトラック島を掩護する。こちら疾風攻撃隊の坂井……」




「王手」 ……パチリ。

 将棋の歩兵がおれの王の頭に置かれる。


「無理っ!」

 将棋盤の上に、手に持ったたくさんの駒をばらまく。


「草鹿、お前強すぎるぞ」


「長官が弱すぎるんですって。桂馬の使い方もよく知らないんですから」


「もうやめだ。とてもかなわん」


「……そろそろお昼じゃないですかね。今のうちに食べておかないと、いつ食べれるかわかりませんよ」


「まあ、そうだな……じゃあ食べに行くか」


「ここでも長官は若いのと同じ食堂で、ですか?」


「いいじゃないか。おれは若い連中が好きなんだ。お前も一緒にいこうぜ」


「やだなあ、自分もまだ若いつもりですよ」


 司令官室の丸い窓から外を見る。


 相変わらず海は荒れ、窓に直接波がぶつかっている。これ以上になるなら、パッキンを閉めないといけない。


「なあ草鹿」

「はい」


 駒を小箱に収めながら、おれは尋ねる。

「保険、間に合ったかな」


「新鋭機を積んでサイパンに送った龍驤ですか?四航戦の……」


「ああ」

 草鹿はわざとおれを見ないで答えた。


「そうですね。そろそろ到着するころでしょう。報告もきっと、間もなくありますよ」


 おれは立ち上がった。

「おい、メシは通信室で食うか?」


 草鹿もすまして答える。

「いいですよ。そうしましょう」



いつもお読みいただきありがとうございます。自分で参戦できずいらいらする南雲っちです。四章十八話で言った「保険」の意味が、ここでようやく…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 保険んんんん~~~~~!!!!!
[良い点] やっと疾風ですね。 烈風や紫電改よりは使える優秀戦闘機です。 何よりも数を揃えれるのが良いのです。 戦闘機は数とチームワーク!! 出来れば無線で地上からも指揮出来れば満点です。 現代のCI…
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