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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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日米、裏の掻きあい

●19 日米、裏の掻きあい


 おれは急いでソロモン諸島を含む、太平洋の海図を持ってこさせた。


「ナウル島は……ここか!」


 オーストラリアの右上にソロモン諸島があり、その北北東約千キロ(五百四十マイル)にその島があった。ウェーク島からはほぼ真南約二千キロに位置し、面積はウェークより三倍ほど大きい。


 みんなでその海図をのぞきこむ。


「島の北というから、このあたりを大型艦船が航行していたことになるな……」

「こんなところに大型艦船が?」

「商船ですかね」


「商船が哨戒艇を攻撃するもんか」

 おれは唇を噛んだ。


「行方不明ってことは攻撃されて沈没したんだ。たぶん、警戒中の航空機によるものだろう」


「……と、いうことは」

 源田がつばを飲み込む。

「水上機か、もしかすると……空母の艦載機!」


 空母なら大変なことだ。一同に緊張が走る。

 艦橋には、エンジン音だけが重く鳴り響いていた。


「最悪のケースを想定して考えてみようか……」


 おれは順序だてて思案する。


「ナウル島の北に大型艦船が見えた。つまり、このマーシャル群島のどまんなかに空母艦隊がいた、ということになるよな」


「はい……」

 大石が青ざめる。認めたくないのは、おれも同じだ。


「敵の主力空母艦隊とは思いたくないが、否定はできない。最悪の場合を考えないと、戦争なんてやってられないよな大石」


「……」


「で、問題は、そいつらがどこへ向かったかだが、みんなどう思う?」


「当然、ここへ、じゃないんですか?」

 と、小野。


「いや、それだと、間に合わないよ。こことは二千キロもある」

 それまで黙っていた草鹿が口を開いた。


「南に向かったとは考えにくいですね。それだともっと早くにどこかの電探にかかってそうだし、そもそも、ナウルから南に行ったって、ニュージーランドしかない」


「では、やはりこれは真珠湾を出た艦隊が、この方面に迂回して、どこかを攻撃するために北進を……」


「どこを狙ってるんだ?」

「ウェーク島?」

 坂上が首をかしげる。

「いや、ウェーク島は小さすぎる……」


 おれに衝撃が走る。


 ラバウルのみならず、南洋における補給基地にして、帝国海軍のヘソ。アメリカ艦隊が戦力で攻撃するに値する太平洋の重要な泊地。


 おれは海図を指で差した。

「トラックだ」

「!」


「やつらはすでにトラック島襲撃を計画してひそかにナウル北部を通る作戦を発動していた。おれたちがジョンストン島に行く宣言を受け、せいいっぱい口では言い返してきたものの、対決なんかする気ははなからないんだ。なぜなら、こちらにはすでに空母はいないか、いてもごく一部だけ。やつらの狙いは南洋の真珠湾、トラック泊地だからだ」


「と、トラック泊地に無電します!」

 小野が先に動いた。

 おれはそれを見て、艦長に指示をする。

「汽笛を鳴らせ!全艦隊停止せよ」

「汽笛鳴らせ―」


 ぶおおおおおおおおおおおおっ!


「航海長、後進一杯!」

「両舷後進いっぱあああああい!」

「各船に停止信号を発します!」


「いいか!」

 おれはみんなを見回した。


「あらゆる情報を分析して敵の動向を探るんだ。それから小型空母の鳳翔、瑞鳳と、その駆逐艦隊だけを残し反転の用意をしておけ。ただし、実際の反転は敵の哨戒機が去った後だぞ。わざとこっちを見せて、油断させるんだ!」


 みんなが一斉に動き出す。おれはそれを見て、つぶいやいた。

「保険が……役に立つかもな」

 ひょろりとした長身が通り過ぎる。

「策士、策に溺れず」

……雀部、それ間違ってるぞ。




 艦橋には張りつめた空気が充満している。


 各地の電探を探らせ、さらに可能な限りの哨戒を行うよう指示する。とにかく、敵の戦力がどこに、どの程度いるのかを知らないと、作戦の立てようがない。


 それに、ジョンストン島にまだ敵の全艦隊がいる可能性だって残っていた。ナウル島で見たのがクジラで、その後偶然通りがかった島の防衛隊にやられる可能性も、ゼロではない。


 そうこうしているうちに、とうとう、敵の哨戒機が二機、やってきた。


「対空電探に反応あり!」


 伝声管から声が聞こえる。すぐに復唱があり、艦橋に緊張が走った。おれたちは双眼鏡をかまえる。


「どうします? 撃ちますか?」

 艦長の猪口が尋ねる。


「むろん撃つさ。ゆっくりこっちを見せて、無電を打った頃あいに、だがな」


 静かに言うおれに、艦長がうなずいた。

「対空戦闘っ!」


 直後、対空監視員からも報告が上がる。

「左三十度、マーチン二機!」

「距離五千!」


 その方向を見ると、小さな影がふたつ、確かにやって来ていた。まちがなく、敵の哨戒機だ。


 二基の主砲が動き出す。艦橋最上部にある射撃指揮所に設置された「九八式方位盤照準装置」が方位角と仰角をあわせているのだ。大きなブザー音が鳴り響く。


「主砲三式弾砲撃はじめ!」

「電探連動高角砲用意!」


 一番と二番主砲の六門で三式弾の攻撃を行う。

 三式弾とは、一種の榴弾であり、高空で破裂して無数の弾を射出する一種の対空兵器だった。

 艦橋手前にあった十五.五センチ砲は連動高角砲に換装していたから、三式弾砲撃のあとに、発射することになっていた。


 ド―――――――――ン!


 六門が一斉に火を噴き、目にも見える大きな砲弾が敵機めがけて飛んでいく。


 白煙を見て進路を左右に曲げてくるマーチンに、少し遅れた連動高角砲が発射される。おれの位置からは見えないが、おそらく自動による方位角、仰角の設定が行われているだろう。


 ガンガンガンガン!

 ガンガンガンガン!

 バシャバシャ!


 遠い空に、青い爆裂煙とともに、敵機の破片が飛ぶ。


 連動高角砲は左右に撃ちわけをおこなうため、二門の砲が上下二段に設置されていた。

 それが二機をほぼ同時に狙い、見事命中させたのだ。


 羽根を撃たれ失速し、あるいは錐もみしながら、マーチンは激しく海面に激突した。


 みんなが留飲をさげるなか、草鹿がおれに尋ねる。


「いっそ、攻撃隊を出しませんか」


 艦長の猪口がびっくりしたような顔をしておれたちを見ている。


 ああ、そうか。こういう下からの提案なんて、この時代にはきっと珍しいんだな。でもこれが南雲艦隊なんだよ。


「いや、たぶん向こうはしかけてこない」


「先手必勝……」


「草鹿も雀部もありがとう。君らの心配もわかる。だが空母戦になって困るのは向こうなんだ。なぜなら敵は数に劣るし、それが知られれば、南洋の隠密行動がバレることになる。だからギリギリまでは動かないと思う。だけど、確認はすべきだよな……源田!」


「はいっ」


「哨戒機の役目でゼロ戦を三機飛ばしてくれ。敵の艦隊規模をしらべてほしい。あまり近寄る必要はないし、艦隊の規模がわかればそれでいい」


「わかりました」


「それから警戒機を増やそう。鳳翔、瑞鳳から、もう十二機を飛ばせ」


「わかりました」


「長官!」

 小野がやってきた。

「各地の情報が集まりました」


「よし、聞こう」



いつもお読みいただき、ありがとうございます。マーチン二機は大和へのオマージュです。操艦のセリフはかっこいいけどスピード感なくなりますね。要編集検討です。 ブクマ推奨、ご感想、ご指摘もめちゃくちゃ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 修正箇所を読みました。とてもわかりやすく、例えば主砲発射前のブザーなど、その時の状況が臨場感あふれるものになりました。 1番副砲が連動高角砲に換装されているということは、後部の2番副砲も連動…
[一言] 質問ですが、 『前方の砲が動き出す。』とは、武蔵の、『1番主砲と2番主砲が動き出す。』の解釈で合ってますか? 『三式弾の砲台は下部六門のみを使う。』とは、武蔵の、『三式弾の砲台は、左舷高角砲…
[一言] おおぅ翻弄される
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