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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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日本帝国は自然を守ります

●17 日本帝国は自然を守ります


 そこには太平洋をめぐる沿岸部が全部と、主要な島々がすべて描かれてあった。


 みんなが覗きこむ。


「さて、ここが太平洋のど真ん中、今おれたちがいるウェーク島だ」


 おれは赤いえんぴつで、くるりと丸をつけた。


「そしてここがアメリカのミッドウェー島、両島の隔たりは約二千百九十キロで、ゼロ戦なら片道の航続距離、新型艦攻の天山なら往路で爆弾を落として帰ってこれる……かもしれない。で、これがなにを意味するかと言うと、この二つの島は、常に敵の攻撃の危険に晒される前線だってことだな」


 両方の島に赤丸をつけたあとは、その中間を直線で区切る。


「おれはこの両島が、最終的には太平洋をアメリカと分割統治する境界線になればいいと考えているんだ。もちろん、太平洋を全部ぶん捕りたい気持ちはわかるし、そうなったらいいなとは思うよ。だが、戦線の膠着状態が停戦への道すじだとすると、この場所しかない」


「ハワイを奪ってしまう手はないのですか」


 山口がやや不満そうに言う。といっても、以前の彼からは、とても考えられないほどの穏やかさだ。それは山口自身の成長によるものか、それともおれへの遠慮か。


「あるにはあるよ。というか、本当はそれが一番正しい。もともとハワイは独立国で日本とも友好関係を築いていた。開戦までは十万人以上の日系人が住んでいて、もっとも人口が多かったんだからな。しかし、これを守備するには、あまりにアメリカ本土に近く、太平洋は広すぎるんだ。人も資源も補給は船に頼るしかなく、戦争中にそれを維持するのは到底無理がある。結局護りきれないものは奪らないほうがいい」


「……」


「さて、現在この二つの島を隔てて、両国は膠着状態にある。ただし、今はそれがマズイんだ。なぜなら、アメリカの空母艦隊は増強され、ハワイに集結しつつあるからな。これを放置することは、相手に無用な自信を与えることになり、講和への道を遠ざける。――米国の強大な太平洋艦隊を許さず。それが真珠湾以来、おれの一貫したコンセプトなんだよ」


「……」


 みんなが黙って聞いている。

 あ、英語入れちゃったか。


「おっと、コンセプトってのは基本的な考え方って意味な。だからこそ、エセックス級三隻を含む六隻の空母艦隊を集結させた現在のアメリカを、断じて許すわけにはいかない」


 室内の温度がぐっとあがってきた気がする。みんなも集中して聞いているようだ。


「さて、そこでこの膠着バランスを崩す戦略なんだが、ここを見てほしい」


 おれはミッドウェーの南南東、つまり右下を指さした。


「ここにジョンストン島というのがある。ミッドウェーからの距離は千五百キロ、ハワイのオアフ島からは千三百キロにある島だ。距離が示す通り、ミッドウェー、ハワイにとっては目と鼻の先であり、アメリカにとって、まさに要衝の島になる。面積はこのウェークの三分の一ほどだが、縁辺部はなだらかな大陸棚だから、本格的に埋め立てれば、このウェーク島よりも大きくなるだろう」


「今はどうなってるんです? アメリカの軍事基地は?」


 草鹿の問いに、おれは軽くうなずいた。


「もちろんあるよ。武器の貯蔵庫、空港、港湾施設がね。……で、注目してほしいのは、この島が日本とアメリカの軍事的拮抗を崩すのに、最適の位置にあるってことなんだ。もし、この島が日本のものになったら、そのあとミッドウェーにもハワイにもひとっ飛びだ。つまり、アメリカにとっては絶対的に阻止したくなる場所にあるんだ」


「たしかに、アメリカの立場だったら、ここが日本になるのは許せませんな!」


「相手を引っ張り出すには、絶好の場所ですね」


「ま、そういうことだ」

 おれはジョンストン島の場所に大きくバツをつける。


「そこで今回の作戦だが、ジョンストン島近海の海洋調査を宣言してみたいと思う」


「は?」

「なんすか、それ」


「なんすかって、海洋調査だよ?」


 おれはわざと真面目そうな顔をする。


「いいかい? この島には豊かな自然があって、周辺海域には海洋生物も多い。学術的な興味と乱開発を抑止し、自然を守る目的で、大日本帝国は、ジョンストン島の近海海洋調査をしたいと思います」


「えええええええ?」


 みんなは一斉に怪訝な顔になる。

 そりゃそうだ。この時代の単純な国際感覚では、こんな挑発はとても理解しにくいだろうからな。


「だって、この島はアメリカのもんでしょう?」


「そうだよ」


「なら、占領してから調査するのが筋でしょう」

「そんなこと言ったら、喧嘩売ってるだけじゃないですか!」


「いや、海洋調査だし」


「アメリカは怒るんじゃ……、あ、怒ってもいいのか」


 と、ようやく草鹿だけがわかりかけてくる。


「ふっふっふ。わかるかね? そんなこと言われたら、この島への野心を宣言されたようなもんだし、万一実際に調査なんかされたら、アメリカの面子は粉々になるでしょ? だから艦隊を出してでも、全力で阻止するはず。 そこでアメリカ艦隊をやっつけ、本当に海洋調査だけして、おれたちが帰って行ったら、世界やアメリカ国民はどう思うだろうね?」


「え、そうなんですか?」


 淵田や大高が顔を見あわせて首をかしげる。


「そうだよ」


「……」

「…………」

「……うわあああ!」


 しばらくして、みんながひっくり返りそうになる。


「なんですかそれ!」

「この人、怖い」

「策士にもほどがある」

「硫黄島で頭打ったからだ」


 おい待て。

 なんか、おれが悪い人みたいじゃないか……。

 てか、今、妙なのなかったか。

 硫黄島のあつかい、おかしいだろ。



いつもお読みいただきありがとうございます。もしかして南雲さん平和を望んでないのか?タイトルに「大」がないのはより刺激的に思えたからですが怒られたら直します(汗 ブクマ推奨 もはやご感想 ご指摘 がモチベーションです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 南雲さん素敵やわぁ
[良い点] サクサク読める展開と文章 [一言] ある従兵の回想w ウチの司令官はいつも突拍子も無い事言う方だけど 今日の作戦案は、今迄で最もおかしな内容だった ある士官が硫黄島で襲われた後遺症と言って…
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