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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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Youは何しに横須賀へ?

●14 Youは何しに横須賀へ?


 澄み渡る青空に、気持ちのいい疾風かぜが吹く。


 中島戦闘機の編隊を見て、慌てて隣りの航空技術廠に移動してみると、ちょうど中島知久平氏が、土の滑走路へと降り立ったところだった。


「いやあ、南雲さんお久しぶりじゃ!」


 おれを見てでっぷりした飛行服の男が手を挙げた。背後には、あの新型艦攻の巨大な機体がある。知久平氏、なんと、自分で新型艦攻機に搭乗してやってきたようだ。よくまあ、この巨体で飛行機に乗れるよな……。


 おれはなつかしくて、つい駆け寄る。


「お疲れさまです。夕べはあの旅館に泊まりました。桃花にも会いましたよ」


「おお、聞いとる聞いとる」


 一人前に飛行服なんか着て、ゴーグルまでつけている。


 よっこらしょ、と外すと、日焼けのあとがクッキリ顔についていた。


「この前の空襲防衛戦ですが……」

 おれはペコっと頭を下げた。

「ありがとうございました。中島さんところの新型艦攻にずいぶん助けられました」


 怪物、中島知久平もさすがに照れくさいのか、ちょっと赤くなる。


「いやあ、もっと数を出したかったのですが……お役に立てたなら光栄ですわい」


「いえいえ、こちらこそ。……ところで、今回は新型戦闘機で編隊飛行ですか?」


 あたりでは整備兵が出てきて、銀色に光る新型戦闘機を牽引しはじめた。

 中島は急に嬉しそうな顔になる。


「おお!こいつは二千馬力ですぞ。昨日、千葉の陸軍さんのところに見せに行っとったが、南雲さんがここへ来ると聞いて、つい会いに来てしもうた」


「それはそれは」


 おれは滑走路にいならぶ、ピカピカの戦闘機を眺めた。


(……あれ、これ、どっかで見たことあるぞ?)


 ゼロ戦よりちょっぴり大きい十メートルほどの全長、そのぶんスマートに見える機体、四枚羽……。


 もしかすると、これ、四式戦じゃね?

 ……え、でも今はまだ昭和十七年だぞ。


「もしかして、これは陸軍に依頼された戦闘機じゃないですか? しかも、もっと後に実用化されるはずの……」


 中島氏はぷっと吹き出した。


「よく知っとられますなあ。南雲中将には隠し事はできん」

「いや、たまたま、噂でね」


「ほれ、この前、中将さんがゼロは弱い、ペラペラだからもっと強いのを作れっちゅうとったでしょ?」


 悪戯っ子のような表情になる。

 おれって、そんなこと、言ったっけ?


 搭乗員たちと一緒に、工場へと向かいながら、中島氏が嬉しそうに説明を始める。


「南雲さんにそう言われたもんで、去年、ちょうど陸軍さんから注文もらって、忙しいからと後回しにしとったこの新型戦闘機を、先にやることにしたわけじゃ。ゼロ戦に不満がないなら、他にやることがあるに、いまをときめく中将にそこまで言われりゃ黙っちゃおれん」


「ふーむ。……でも、こんなのここに持って来て、陸軍は怒らないの?」

「いやいや、それはそっちの問題だに」


 だに?

 この人、こんなキャラだっけ?


「陸軍が中島なら、海軍は三菱でいく、なんてことにならなきゃ、それでいい」


 ほ~ん、要は陸海の対抗意識ってことか? この時代って、新兵器にもやっぱそういう論理が働いてるのかね?


「縄張り意識には興味ないです」

 おれは一笑に伏した。

「いいものはいい、悪いものは悪い。そしてこれはいい戦闘機だ」

「おお!」


海軍うちとしちゃ、ちゃんと空母で使えるようにフックがあって翼が折れて、飛行士の背後にしっかりした防弾設備と、燃料タンクを撃たれても大丈夫なように燃料漏れを防ぐ防漏装備をしてくれれば……」


「もちろんじゃとも!」

 中島氏はおれの肩を抱かんばかりにはしゃぐ。

「まま、まずは中に入りましょう」


 まだ話したそうなのをなだめるようにして建物に入る。


 そこには以前富嶽のことで講義をしてやった、三木忠直と、太田正一が待っていた。二人とも、大勢の飛行士たちと、中島氏がいるのを見て、すっかり恐縮している。


「こちら、中島知久平さんだ」

「お会いできて光栄ですっ!三木忠直と申します」

「お、太田正一です」


 ビシっと敬礼をしている。


 三木は細くてインテリタイプ、大して太田はがっちり大柄でジャイアンタイプ、こうして見れば、なんともいいコンビだね。


 飛行士たちにも休息させたいので、みんなで大食堂に向かうことにする。


 通り道、大勢で押しかけたものだから、なにごとかと、みんなが振り返る。


 茶を出してもらい、中島氏、おれと、三木、太田の四人は、他のみんなとは少し離れた席に座った。


「いい戦闘機ですね。新型ですか?」

「馬力はどのくらい出ますか?」

 三木と太田も、興味津々のようだ。


「中島さん、あれ、ぜひ海軍にもくださいよ」


 おれが言うと、中島はふっと真面目な顔になった。

「もちろん回します……が」


「?」

「まだ多少改善の余地もあるんじゃ。エンジンにムラがあるのと、馬力がありすぎて胴体が空中分解する。そこをなんとかせにゃ……」


 なるほど、まだ試作段階というわけか。


 しかし性能に難があれば、飛行士にあらかじめ注意しておくこともできる。それよりもゼロ戦の倍もある出力はあきらかに魅力的だ。史実においても、この四式戦はあのF6Fとも互角の性能を誇ったはず。しかも、おれの艦隊の飛行士たちにはかなりの練度があり、敵との空戦では、圧倒的優位に立てるだろう。


 敵空母艦隊との決戦を目前にして、あの戦闘機はぜひ欲しかった。


「エンジンについては試験をしっかりやって、ダメなものはどんどん破棄してください。つぶしてまた作ればいい。あまり精度を求めても、初期は仕方ないですよ。それに、そうやって、合格した機があの十機でしょう?」


「ま、そうですがね……」


「技術職としては完成度と安定する設計を求めるのは当然だし、その努力はしていただきたい。とはいえ、二千馬力の戦闘機は喫緊の急務です。一日も早く配備したいんです。ぜひあれを回してください」


 おれは中島知久平氏の目を見て、まくしたてた。

 中島は冷たい麦茶を一気に二杯飲んで、息を吐いた。


「……」


 窓からは、銀色に光る真新しい機体に群がる、兵士たちの姿があった。ここはなんと言っても研究所なのだ。みんなが新兵器には興味がある。


「なら、ワシからもひとつ条件があります。それを聞いてくれたら、融通しましょ」

「ほう、なんですか」

「この前、お貸しした新型艦攻……」


「はい、今回おれが硫黄島から乗ってきたのも、あれですよ」


 中島氏がおれのこめかみをチラリと見る。


 襲撃を受けたのは、ほんの一昨日だ。


 大変な目にあったが、もちろん軍の機密なのでなにも言えない。ただ、軍服の中にある、右手の包帯と、こめかみに残る傷だけがその証だった。もちろん、中島氏もなにも聞かない。


「あれは天山という名前になりました」

「あー天山ね」

「おや、驚きませんね?」

「い、いやそんなわけでは」


 みんなも不思議そうな目でおれを見てる。

 もちろん、知ってた、とは言えないが、もちろん知ってた。


「こ、こほん。へー良い名前じゃないですか。たしか、このあたりから、攻撃機は山の名前をつけるんだよね。いいと思いますよ、うん!」


「さすがに、お詳しい……」

 疑い深そうな目で見てる。


「そ、それで、頼みってなんです?」


「ふむ、例のZ機を南雲さんは富嶽と呼んでいるそうですな。実にいい名前だ。しかもちゃんと山の名前でもある。この中島知久平、ほとほと感服しましたぞ。そこで、南雲中将には、あれに名前をつけてもらいたい。」


「え?」


 中島氏が窓のむこうを見やった。

 そこには、もちろんあの新型戦闘機が並んでいた。



いつもお読みいただきありがとうございます。すみません、タイトルはいまテレビ見て思いつきました(笑)なかなか富嶽の話が始まりませんが、次回に乞うご期待。 ブクマ推奨、感想、つっこみ大好物です。

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[良い点] 新型戦闘機は疾風か烈風でしょ? 三菱の17試艦上戦闘機は士官のダメ出しで遅れに遅れます。 疾風なら中島は19年から量産開始でも零戦、隼に次ぐ日本戦闘機トップ3です。 機体は頑丈ですので、艦…
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