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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
141/309

便所の扉、おそるべし

●13 便所の扉、おそるべし


 チュン、チュン……。

 おなじみになった鳥の声で目覚めた。


 と、いうより……。

 ガラガラガラッ!


「あい、やあ!南雲ッち!まだ寝てる!」


 大声で入ってきて、雨戸を女が開け放つ。

 まぶしい朝の光が目を刺して、とてもじゃないが寝ていられない。

 柱時計を見て、うんざりする。


「うるさいぞ桃花ももか! まだ六時じゃないか」

「六時に起こせっていったの、南雲ッちじゃないの」

「そ、そうだっけ?」


 和服に割烹着でどすん、とおれの布団に座り込み、ぐいっと顔を近づける。


「そうです!」

 まいったなあ……。


 ここは横須賀海軍工廠のちかく、以前に泊まったことのある衣笠温泉旅館の一室だ。ここなら工廠と飛行基地に近いから、ゆうべのうちに、公用車で移動させてもらったのだ。


「今朝は中島の旦さんも、来るんでしょ?お支度しないと……」

「お、おう」


 昨夜、遅くに電話してもらったら、中島飛行機の中島知久平氏が、朝から急遽こっちに来ると伝えて来た。いいのか、あの人議員もやってるらしいが、忙しくないのか……?


 桃花に手伝ってもらい、なんとか上半身を起こす。船に乗ってないときのおれは寝起きが悪いんだ。めちゃくちゃに、はだけた寝間着を、桃花がていねいに直してくれる。


「朝ごはん、お持ちしましょうか?」

「うん、たのむよ」


 おれは気合いを入れて布団を跳ねのけた……。




 とかく軍関係の朝は早い。工場も八時には動き出すし、従業員たちは七時すぎにやってくる。おれは遅咲きの八重桜なんかを見ながら、まずは出迎えてくれた伊藤大佐、あいかわらず汚れた作業服のままの本田社長らとともに、電波兵器の視察にむかった。


「どうでしたか? 電探連動高角砲は?」


 すっかり近代的に様変わりした作業手順に感心しながら、彼らと工場の一角で茶を愉しむ。


「いやあ凄かったですよ。まるでロボットみたいな動きで、正直見ていて怖くなりました。ただ、うちにいい四十ミリ機銃がなかったせいで、すこし引きつけて使いました。それでも敵のB25は全滅しましたがね」


 おれはあのときの連動高角砲の動作を思いだし、詳細に説明をした。


「そ、それは、どのくらいの距離で、ですか」

 と、本田社長。


「相手が激しく飛んでいる場合、使えるのはぎりぎりで二千ってところですかね。残念だけど、それより近いと、照準動作が間に合わず、ちょっと敵機の後ろを撃つんだよ。せめて、スベリがあればなあ……」


「スベリ?」


「ええ、敵が近距離の場合は、左右や上下の動きの最後、ぱっと止まらずにいくらか滑ってくれる方が、相手の曲線的な動きに追随できる気がするんですが……」


「スベリ……」

「いつもながら、中将の創意力には驚かされます。あなたは軍人よりも発明家になるべきだ!」


 伊藤大佐はそう言うけど、実はマリオの動きを思いだしただけなんだよね。あれって十字キーを操作してもキャラが一定のスベリがあるために急には止まらず、その結果、生物的な動きに感じるんだそうだ。


 急に進路を変更できないのは飛行機も同じことで、高角砲の照準動作にもそれを取り入れられれば、いい感じになるんじゃかなろうか、と、これは現場で見ていて思いついたことだった。


「相手の距離は電探でわかる。ならその距離に応じてスベリが遠距離は少なく、近距離なら多くすれば……!」


 本田社長がもうなにか思いついたらしく、しきりにぶつぶつ言っている。おれは伊藤大佐とそれを見て、くすくすと笑った。


「え?なんですか?」

 本田社長が気づいてきょとんとする。

「いや、中将は感心しておられるんだ」

「そうそう。もうなにか思いついた。さすがだよね」


 頭をかく本田社長を見て、おれたちはひとしきり笑った。


「ときに……」

 しばらくして伊藤大佐が思いだしたように言った。

「原子爆弾に関して、ですが」

「うん」


「もちろん研究は進んでおりますし、進くんが韓国……もと大韓帝国の平山鉱山からウラニウム235を持ち帰れば、すぐにでも完成できるよう、着々と準備はすすめております。中将がおっしゃった、論文もあとは穴の開いた暗号を埋めさえすれば、いつでも発表できる形にして準備は整えていますよ」


「おお、いいね」


 伊藤大佐は、そこまで言って、ふっと顔を曇らせた。


 一生懸命立ち働いている工員たちを見ながら、おれは先をうながした。


「どうしました?」

「ええ……」


 ちょっと考え、やはり言わねば、と伊藤大佐が口を開く。


「最近、大本営……正しくは陸軍の方から、原子爆弾の進捗状況を知らせろと、問い合わせが頻繁にあります。同時にその威についても報告をするようにと。もちろんその度に、適当に言ってお茶を濁しておりますが」


「ははあ」

 おれはすぐにわかった。


「当ててみましょうか? 陸軍参謀本部でしょう?」

「おや、お心当たりでも?」

「実は昨日も杉山元さんが海軍省にきました」

「ほう」


 工場の中はとにかく明るい。

 窓も多いが、昼間でも蛍光灯が煌々と点いている。おれは目を細めながら、夕べのことを思い出していた。




「原子爆弾がつまらんだと? あんた、おれの報告書ちゃんと読んだのか?」

「あんガリ版刷んやつやろ?読んだとも」

「なら……」


「ありゃ、みんなが読んどる。むしろ、今ん将官連中で読んどらん人間ば探す方がむずかしかよ。ばってん、どうも陸軍では気に食わんち連中が多かと」


「なぜですか?」


「うん、なら言うがね、まず、あげんスゴか爆弾は、国土ん広か国が有利じゃ。日本が作るうなら、アメリカだって作るう道理じゃろ。むしろ日本がやれば、アメリカも本気でやり始める。そうなったら不利なんなどっちか。よかか? 日本には皇尊すめらみことがおわすんぞ」


「あのねえ、相手はもうやってます、ってのがおれのマッカーサー報告書の趣旨ですよ?国体護国第一なら、使わせないためにおれたちも持つ必要がある。これを核の傘って言うんです」


「相手がやっとるなら、こっちもやらにゃいかん、というのはわかる……」


「そりゃあんたは陸軍の長だ。兵隊動かしてなんぼの陸軍にとって、存在否定につながりかねない超兵器だから、気に食わないのはわかります。だって核ミサイルが千発もあれば、通常兵器はさほど必要が無い。だからこそ、物量の怪物、アメリカに対抗する手段として、これ以上有効なものはないんですよ」


「多少わけのわからんこと言っとるが、原爆が有効なことはわかっておる」


 なんだか、のれんに腕押しの印象だ。


「じゃあわかってくれたんですね?」

「いや、わからん」


 がくっと力が抜ける。

 杉山元って、こういう人なの?




「……とまあ、こんな感じでした」


「ははは……あの人は狸って噂ですよ。それにどっちにでも押せるという意味で、便所の扉ってあだ名もありますが、実際はどうなんでしょう、なかなかの戦略家だと思いますがね」


 伊藤大佐も技術職とはいえ、海軍の人間だから、陸軍の悪口は大好きらしい。


「しかし、原子爆弾を陸軍の管理下に、っていう主張にはいくばくかの説得力もあります。そうなると私も今までのように力を発揮できなくなる」


「それは困りものですね」


「もしも本当に困ったときは、連絡を入れていいですか?」


「もちろんですとも」


「海軍の上層部経由で、私からの電文が届いたら、それだと思ってください」


「なるほどね、気をつけておきましょう」

「よろしくお願いします」


 その後、半導体工場や新兵器を見せてもらい、本格的な量産体制について助言していると、空から編隊によるプロペラの轟音が聞こえてきた。最初は敵襲かと驚いたが、まわりで誰も騒がないところを見ると、ちゃんと届けがしてあったんだろう。知らなかったのは、おれだけだった。


「ありゃ、なんだ?」

「おお、あれが中島の新型戦闘機ですな」

「え、マジか?!」


 おれたちは、外に出て、空を見あげた。

 塗装もあざやかな、新型航空機の編隊が、横須賀工廠の空を何度も旋回していた。




いつもお読みいただきありがとうございます。博多弁って文字にするとわかりにくいんですね。ごめんなさい。さりげに、普通にもどすかもしれませんw ブクマ推奨します。感想歓迎いたします~。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、賛成とも否定とも、よくわからん方ですなぁ それはそうと!新型機!!(*´∀`)
[気になる点] 蛍光灯って、ここで初めて出てきたのでは? これが開発普及するのは、戦後だいぶ経ってからですよね~
[気になる点] 陸軍でも海軍でもなく空軍作ってそこに核を渡しちまうか?
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