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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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氏ねハゲ

●12 氏ねハゲ


 嶋田海軍大臣の部屋では、例の三人が待っていた。


「失礼します」

「おお!」

「大変だったね」

「体は大丈夫か?」


 嶋田、永野、山本の三氏が応接セットから立ち上がっておれを迎えてくれる。


「すみません、こんな遅くまで待たせて」

「まま、坐りたまえ」


 一礼すると、空いているソファに腰を降ろす。

 テーブルに茶が置かれたのを見て、山本長官が口を開いた。


「それにしても、離島の警戒網を見直さないといかんな。トラックといい、ここのところ穴を突かれることが多い」


「捕虜の聞き取りが終わったら、警備強化の提言を出しますよ……それより、おれを呼び戻したのはなぜですか? ミッドウェーの陽動に関してですか?」


「う、うん、それもあるが……」

「南雲くん、聞いてくれるかね?」

 永野総長がやさし気な声を出す。この人、こういう時って狸なんだよなあ……。




「……と、いうわけで、君にはそろそろ大将への道を歩んでほしいんだ。後進の育成も大事だし、いつまでも現場じゃ危険すぎる。ホラ、原子爆弾にしても、片手間でやれるもんじゃないと思うがね」


 しばらく、おれは黙って彼らの話をきいていた。彼ら自身もまだ結論には達していないらしく、ところどころ話し合いながら結論を出している。その内容を要約すると、こういうことらしい。


1.ミッドウェーの陽動は問題ない。てか、もうやっている

2.山本さんは本当にミッドウェーをやってしまいたい

3.今度の海戦が終わったら、南雲は地上勤務に就け

4.ミッドウェーを攻略するなら他の司令官をあてる

5.原爆は陸軍と共同開発しろ


「あのう、陸軍と共同ってのがよくわかんないんですが……」

「それはだね……」


 永野総長があいかわらずの優しい口調で言う。


「このままだと原子爆弾の開発が大本営、ひいては陸軍の管理下におかれそうなんだよ。発案者の君が加わるのは当然の話だし、そうなれば、海軍も蚊帳の外にならずに済むだろう」


「あ―――」

 想像してた以上に、なんだか、つまんない話だ。


 おれとしちゃ、原子爆弾がどっちの手柄になっても別に気にしないし、結果的にアメリカと講和して日本が三国同盟を破棄してくれたら、それでジョシーとの約束も果たせる。


 ただ、ジョシーはいまごろアメリカ国内で活動をしているはずで、その効果を最大限にするためにも、約束の核実験の期日、すなわち今年の九月十一日と、その場所、ビキニ環礁でやることだけは守りたいよな。


「じゃあこうしましょうか。まずは敵空母艦隊との決戦をやります。これを成功理に導かないと、講和に響く。それからならいったん船を降りてもいい。ただし、ミッドウェー占領には反対です」


「な、なぜだ?!ミッドウェーをやれればハワイにも手が届くんだぞ」


 山本氏が目を剥いた。


「山もっつぁん、後詰めがないからですよ」

「後詰め?」


「前線てのは国境の城みたいなもんです。常に攻められる運命にあるけど、背後の補給地点である城があるからやれるんです。つまり、後詰め」


「……」


「相手にはハワイがあるから補給は万全、対してこちらはミッドウェーを占領しても武器も人員も海上輸送だし、後詰めがない。日本はしょせん本土からしか補給できないんですよ?」


「それは艦隊が護衛して補給船でだな」


「南洋海域の資源船にすら、敵の通商破壊があるって聞いてますよ?」


「ぐぬぬ……」


「つまり、ミッドウェーを前線にできないんです。前線はそこで膠着状態を作るのが戦略的な勝利であって、どこまでも占領していこうとすると、兵站が伸び切って基地や兵士を飢えさせることになる。ラバウルは今も毎日のように出動して敵襲と戦っていますが、それはトラックがあるから、やれるんです」


「しかし、ハワイがある限り、太平洋はわが手には入らん」


「むしろ太平洋があるから、日本は護られているのです。これがアメリカと地続きだったら、どうしますか?二十倍もの工業力と資源、人間、土地。いまごろ本土は焼け野原ですよ?」


「なんてこと言うんだ!!」


「原子爆弾と富嶽、それがあればミッドウェーなんていりません」


 ああ、普段わりとうまくやっているつもりなのに、なんだか今日のおれには険がある。やっぱ疲れてんのかな……。


「まあまあ」


 永野総長が助け舟を出してくれた。


「そこまでにしようじゃないか。南雲君は負傷もしているし、疲れてもいる。たしかにミッドウェーをやるには、時期尚早という意見もある。どうだろう、山本くんも、一度よく考えては」


「……わかりました。君はいつ帰るんだ?」


 山本長官が少し表情を和らげたので、おれも笑顔になった。


「明後日にしようと思っています。明日いっぱいは色々と見てまわり……」


 急に廊下の方が騒がしくなった。


「ちょ、ちょ……」

「入れて……く……れんか」

「いえ……ですが……」


 おれたちは顔を見合わせる。


 部屋の隅で執務していた若手の副官が立ち上がる。


「見てまいりましょう」


 ドアに近づき、そっと隙間を開けると同時に、ハゲた軍人が入室してきた。


「あんたに話があるとよー」


 え?……だれ?


 なんとなく茫洋として、太った人物が入室してきた。身長は百七十センチそこそこ、永野さんに体形などは似ているが、それよりもさらに頼りなさそうな顔をしてる。あ、こいつとは以前あったことがあるぞ、そうだ、御前会議だ!


「杉山さん、どうしたんです?」


 永野総長が言うのを聞いて、思いだした。


 そうそう、この人は陸軍参謀長の杉山元だ。


 歳は南雲ッちよりはかなり上っぽいから、頭は下げておこう。


「おひさしぶりです。話……って、なんですか?」


 海軍の三人も、あからさまにイヤな顔をしているな。

 なにか、予兆でもあったに違いない。


「南雲は海軍の人間ですぞ。話があるなら、こっちにしてもらわんと困る!」


 睨みつける嶋田にまあまあみたいに言いながら、副官が持ってくるイスに座ろうとする。おれが自分のソファを勧めると、そっちにすわってしまったので、おれは仕方なくその安物の椅子に腰を掛けた。


「いやいや、こげん遅か時間に申し訳なかばってん。おまはんらにも聞いてほしかよ」


「……」

「おれはいいですよ」


 三人の顔色を見る。仕方ないな、という顔をしている。


「うん、君ん言う原子爆弾じゃが、ありゃつまらん。なしてなら日本ちゅう国ばだめにする。うちゃ賛成できん」


 おいおいおいおいおい!

 誰かこのハゲつまみ出せ!



いつもお読みいただきありがとうございます。なんか濃そうなキャラですが、敵か味方か。それにしてもひどいサブタイですみません。ブックマーク推奨、ご感想も、あなたのひとことで、元気倍増です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 管理職って大変ですね。 外にも内にも問題山積み…… 南雲さんの明日はどっちだ!?
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