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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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ニミッツ提督の孤独

●10 ニミッツ提督の孤独


 どれくらいの時間がたったのか、よくわからない。


 気を失って、気がついたら部屋は真っ暗で、ざらざらした木の床に頬をくっつけて寝転んでいた。


 なんとか身体をおこそうとするが、あちこちの関節が痛んで、うまくいかない。右手もこめかみもズキズキする。目が埃でよく見えず、耳も聞こえなかった。


 やがて、キーンという音がして、ゆっくり聴力が戻ってくる。外ではまだ機関銃や爆発音がして喧噪が続いている。


「……お、大高っ!大丈夫か?」

 土煙のむこうに、ようやく人影が見える。

「嶋崎!おい!」


 バシャァァァァァァァァ――ン


 窓ガラスが破られて、誰かが突入してきた。床に転がり、大きな男の影がゆっくりと立ち上がる。


 ――敵だ!


 おれは必死に身体を隠そうともがく。やぶれた窓の前に立つ男とは反対の方向にバリケードがあるが、そっちへは間に合いそうもない。


「くっそ!」


 男が手に持った銃をこちらに向けて構える。

 やばい、とにかく転がれっ!


 タタタタタタタッ!

 バシバシバシバシ!


 サブマシンガンの銃弾が床を破壊して破片が舞う。

 弾がなくなり、腰の弾倉に手をのばす男が見える。


 だがどこかで落としたのか、あきらめてマシンガンを捨て、拳銃を抜く。撃たれる!


「ぬおおおおおおおおお!」


 誰かの声、だと思ったら、おれの声だった。


 重い身体をなんとか引きずって、男につかみかかっていく。


 む、無無茶だあああ!


 拳銃を持つ男の右手首を両手でつかむ。男がもがく。襟首を左手で捕まれ、ひざ蹴りが来る。しかし右手を放すわけにはいかない。男はおれよりも頭ひとつぶんは大きかった。思わず歯向かってきた驚きに、目を見開いている。髭を生やしていて、まるで熊のようだ。


「うりゃああああああ」


 ひざ蹴りで不安定になった足を払って押しこむ。男がよろける。押し返してくる反動を利用して一本背負いを狙う。男に柔道の心得はないようで、見事に引っかかってくれる。


 と、思ったら、自分の右手がすっぽ抜け、背中に乗った男の体重が重くてそのまま床に倒れこんでしまった。床に腹ばいになったところへ、男が馬乗りになる。


 ドタ―――ッ!


 夢中で手は放してしまった。

 後頭部に拳銃が押しつけられる。


 撃たれるっ……!


 おれは思わず目をつむった。


 バンバンバン!


 銃の音が鳴り響く。

 撃たれた!


 …いや、おれじゃない。


 ゆっくりと男の重心が移動して、おれに覆いかぶさっていく。


 おれは必死で男の下から這い出した。

 男は死んでいた。




「長官、ご無事ですか!」


 木の椅子に腰を降ろし、こめかみを押さえ、ぐったりと肩を落としているおれに、安村が駆け寄る。もう電気は点いていた。


「ああ、なんとか……な。君らに助けられたよ」

「こんなことになってしまって……お怪我は?」

「わからん。見てくれ」

 両手を開いて、身体を見せる。


「ご無事のようですね」

 ほっと息を吐いている。


 まわりでは、陸軍の兵士がおれや嶋崎、大高らを介抱してくれている。こちらもどうやら、みんな無事みたい。運が良かった。


 おれはよろよろと立ち上がる。ひじ掛けを支える右手が痛い。


 外に出てみる。


 事態はもう収拾しはじめている。車両が減り、ライトが屋根にいくつも設置されて周辺がよく見える。宿舎前の地面にはアメリカ兵の死体がいくつか並べられ、その向こうでは、後ろ手で縛られ、ひざまづかされている捕虜の姿もあった。片づけに走るトラックの騒音がやかましい。


「味方の死傷者は?」

「二人が死亡、ケガは八名です」

「そうか……」


 とうとう、おれ個人のために部下を死なせてしまった……。


「可哀そうなことをしたな……」


 安村がおれを見る。中将らしからぬ言葉を、意外に思ったのかもしれない。


「例の袋沢ですが……」

「ああ、大丈夫?」


「背中から撃たれていますが、肩甲骨を壊して右の肺から肋骨で止まっています」


「それって……」


「なんとか命に別状はないようです。明日には父島に移送して病院に入れます」


「会えるか?」

「今ですか?」


「うん、あいつが警告してくれなければ、間違いなくやられていた」


「少し、休まれた方が……」

「いや、おれは大丈夫だ。ケガの兵士も一緒だろ。行こう」

 おれは車へと歩き出した。




 海岸に待機していたボートに乗りこめたのは、四名の兵士だけだった。あまり音を立てるわけにはいかず、低速でゆっくり波をかき分ける。


 その中に、グレッグもいた。


 みんな、疲労の色が濃い。思わぬ警戒行動に遭遇して、やむなく襲撃と突入を試みたが、隊長の死で作戦は終了した。


「いいか、俺が建物に突入するから掩護しろ。二分して出てこなかったら、引き上げて海岸を目指すんだ」


 髭面の隊長を思い出す。窓から突入した姿は確認したが、直後に大勢の日本兵が後を追い、結局隊長は戻らなかった。日本兵たちのようすからして、ナグモは無事だったのだろう。結局、作戦は失敗したのだ。


 あと、少しだった。あの男さえ……。


 やはりあの男は殺しておくべきだった。あのスパイの息子を信じたがために、放送で襲撃を知らされた。


 ……いや、今はもう、それもどうでもいい。


 グレッグは首をふった。


 十六人もいた仲間は四人になった。ともかく、その中に俺はいる。


(家に帰るんだ……)


 グレッグは揺れるボートの中で、うとうととし始めた。




 チェスター・ニミッツはまんじりともせず一夜を明かし、報告を待った。作戦司令室には人が詰めかけ、事の推移を見守っていた。


 作戦開始から数時間がたって、潜水艦隊からの報告が入電してきたとき、指令室内には大いに落胆が広がった。時差の関係で、こちらはもう朝だった。


 ――作戦は失敗。ナグモは無事。


「ありえない」

「どうしてこうなった」

「ヤツは不死身なのか?」

「だからあれほど……」


 そんな声が聞こえはじめ、作戦司令室には壁を叩いたり、シガーを折れるほど灰皿にこすりつけたりして、わずかなウサを晴らすものが出てくる。


 ニミッツは負けを認めなくてはならなかった。

 しめくくりは、自分がやるべきだ。


「聞いての通りだ」


 ニミッツは立ち上がって言った。


「硫黄島へのナグモ寄島の情報を得た我々は、十六名の特殊部隊を派遣して殺害計画を立案したが、作戦は失敗に終わった。とても残念だ」


 ニミッツは肩を落とす部下たちを見まわした。


「だが、これはひとつの戦いが終わったに過ぎない。敵も多くの犠牲を払ったようだ。これからも戦争は続く。傷兵を手当てして、総括を行なったら、また次の作戦にとりかかろう。ご苦労だった」


 そうだ。落胆はしても、闘志をなくしてはいけない。

 将官の孤独に耐えながらも、ニミッツは作戦の終了を宣言したのだった……。



いつもお読みいただきありがとうございます。実際に南雲さんは柔道をされたようで、国立国会図書館には南雲さんの初段免状が残されています。戦前の初段ですから、今なら相当なものでしょう。ブックマークありがとうございます。ようやく伸びてきました。ご感想、ご指摘にもいつも励まされています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第4航空戦隊の扱い、期待しています。 頑固者で扱いにくそうな角田少将+どことなく二軍感が漂ってしまう第4航空戦隊。飛鷹も含めると100機以上の部隊になります。腫れ物みたいな角田さんを、生まれ…
[一言] い、生き残ったぁぁぁぁぁぁ! あぶねぇ……
[気になる点] KMXの配備が必要だな。 こんな時間 だが、予約ミス?
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