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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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おれ氏、襲撃される

●9 おれ氏、襲撃される。


 暗い土の道を、大きな体躯の兵士たちが俊敏に駆けていく。

 髭面の兵士に、隣の男が聞いた。


「軍曹、殺さなくて良かったので?万一日本軍に通報されると……」


「いや、この島には電話がない。電気だって軍施設の一部だけだ。通報したくても手段がないさ」


「……貧しい村なんですね」


「おれもニューオリンズで似たような生まれだがな……それより作戦通りやるぞ。わかってるな?」


「はい。宿舎には入口が一か所。A班が見張りをやったら、正面から一気に突入、ナグモを殺害して離脱、海岸のボートに走る」


「ああ、今日は潜水艦でステーキ喰って酒だ」

「いいですね」


 しかし、通り過ぎようとした木に違和感を感じて、髭面の軍曹が立ちどまる。


「どうしました?」

 軍曹は木の上を見あげ、懐中電灯で照らしている。


「くそ!」

 ナイフを抜き、木のそばにあるケーブルを探し出して切断した。

「スター配線だ。ここを切っても全体は生きている」


 見ると、木の上になにかが設置されている。


「グレッグ、通報手段てやつだ。やつを見てこい。必要なら殺せ」

「イエッサー」




(あーなんだか興奮して眠れないぞ)


 風呂あがりにもう一度食堂に行き、こっそりサイダーをもらうと、宿舎の玄関に出た。湿気を嫌うのか、この宿舎は木造の平屋建てだが、一階は高床式に少し持ち上がっている。玄関を出て階段を四つか五つ下ると、ようやく地面になる。


 夏にはまだ間があるので、夜は涼しい。

 入口には銃を持った見張りの兵士が二人いた。


「あ、中将!なにか?」

「いや、なんでもない。そのまま、そのまま」

「はっ」


 恐縮してる。こういう離島にいると、戦争の真っ最中なのが嘘みたいだ。本土には急がないといけないが、あと数日、ここでキャンプでもしたい気分だよ。


 おれは玄関の木の階段に腰を降ろし、サイダーをゆっくり飲んだ。

「……いい夜だ」

 と、その時……。


『アメリカ人がいま~すっ!気をつけてくださ~い!』


 とつぜん、割れたどなり声が辺りに鳴り響いた。


「なな、なんだ?」


 なにかの放送みたいだ。拡声器からの声に聞こえる。


『この島に、アメリカ人が来ていま~す! 南雲中将を、狙っています。南雲中将、気をつけてくださ~い!』


「お、おい!」

 兵士が銃を身構え警戒する。

「今の、なに?」

「村内放送みたいです」

「放送?」


「ええ、この島には電話も電気もないので、村民連絡の利便に軍が村民との連絡のため施設したものです。いくつかの木の上にスピーカーがあって、繋がってるんです。誰かがそれで放送してるんでしょう」


 たちまち、宿舎の各部屋に明かりが灯る。

 大声で兵たちが走り、発電機がまわり、ライトが照らされる。


 ウ~~~~~~!


 サイレンが村中に鳴り響いた。


『南雲中将さん逃げてください!アメリカ人が来ます!』


 まだ放送はやまない。

 玄関から安村が飛び出てきた。


「ああ!中将こちらでしたか!」

「あれ、なんだろ?」


「とにかくここは危険です!今無線で車を呼びました」

 嶋崎や大高も出てきた。

「なんでしょう?」


「わからんが、村の誰かがアメリカ兵の侵入を知らせてるみたいだ。あの声、もしかして、さっきの袋沢じゃないか?」


 なにしろ、ついさっきまで一緒にいた人間だ。いくらマイクを通して割れていても、なんとなく覚えがある。


 そこへトラックが滑り込んで来た。

 数人の兵士が飛び降りて、銃であたりを警戒する。

 昼間見た、陸軍少佐が降りてきた。


「中将、危険ですから中に入ってください。敵の位置や兵器がつかめないことには、どこにも行けません。差しあたってここに警戒線を張ります」


 安村と打ち合わせている。

 木の枠組みが降ろされ、そこに鉄条網をからめだした。


 土嚢を宿舎から運び出し、玄関前に積んでいる。へー、普段からこういう準備をちゃんとしてるんだな……。


 また車が到着して兵士が降り立ち、こんどは機関銃を設置しはじめる。


「中将!」

 おっと、見ている場合じゃなさそうだ。


『南雲中将さん、気をつけて……はぐっ!』


 パリパリ……。

 遠くでサブマシンガンの音が聞こえる。


 あれは日本のものじゃない!


「放送マイクの場所は?」

「もう行かせています」

「よし、おれは中にいる。なにかあれば報告してくれ」

「はっ!」


 なにがあろうと、ジタバタしても仕方がない。相手がどこにいるかもわからないなら、どこにいたって同じことだ。




 突然の放送を受けて、村中が驚いた。


 電気が無いので、全ての家には松明の用意がしてあった。松の木をくくって、先端にボロ布と松脂を塗りつけたものだが、マッチ一本ですぐに火がつき、三十分は煌々と辺りを照らす。村人はそれをバケツに入れて村道に出した。


 いま、上空からこの硫黄島を見たとしたら、北部の地域がなにかの祭りのように、ぽつぽつと照らされていくのがわかるだろう。もともと最大幅でも四キロしかない小さな島だ。軍軍の施設が中央から南部に広がり、アメリカ兵たちは北の村から自然に南部へ追い立てられていった。


「くそ、これじゃ襲っているのか逃げているのかわからん」


 軍曹が双眼鏡を外す。


 南雲の宿泊している施設は見つけたが、何十人もの兵士が警戒していて、とても近寄ることが出来ない。車両もどんどん到着して、さながら臨時の要塞のようになっている。


 事前に集合場所と決めた付近の山のふもとから、宿舎を見下ろす。


「突撃しますか?」


 あとから追いついたグレッグが傍に来て訊いた。


「ここからはまだ三百メートルはある。もう少し近づいたら手榴弾を投げ、混乱に乗じて突入する……やつは?」


「あの男、やってくれましたね。撃ち殺しましたが、間に合いませんでした」


「俺の責任だ。すまん……」

「軍曹に責任は似合いません」

 グレッグを見ると、ニッと笑っている。


「こちらには十分な武装もあれば兵隊もいる。前線さえ確保できれば……」


 後ろを振り返ると、たのもしい男たちが控えていた。


「ゆっくり降りよう。グレッグ、君は裏へまわれ、行くぞ!」




 おれたちははからずも一階の食堂に陣取り、机でバリケードを作って土嚢で周辺に防護壁を築いた。ただし、土嚢はとても数が足りそうにない。せいぜいが五十センチほどの高さで二メートル四方がいいところだ。同時に窓にはシーツが釘で打たれ、見えなくなる。近よって隙間から覗くと、味方の車両が十台あまりで取り囲み、防護壁になりつつあった。歩兵銃をもつ兵士は百人以上いるように見えた。


 その間も、オートバイが走り回り、各所と連絡をとっている。おそらく屋根の上にも兵士が登っているのだろう。どたどたと、大きな音が屋根から聞こえている。


「ものものしいな……」


 安村が玄関から戻ってきた。

「放送小屋を見に行っていた兵士から報告がありました、放送していたのはやはり袋沢のようです。銃撃されていましたがおそらく命に別状は……」


 言いかけた時、機関銃の音がしだした。


 バリバリ!

 タタタ、タタタタタタ!


「来たぞおおおおお!」

「包囲されてるぞっ」


 タタタタ、タタタ!

 ド――――ン!


 窓の外に火柱が発つ。

 なにかが爆発したらしい。


「お、おれにも銃をよこせ!」


 嶋崎に声をかける。大高も長い歩兵銃を持って土嚢に構えている。その中で一人椅子に座って丸腰なのはおれひとりだった。


「長官、撃てるんですか?」

「いや、無理」

「座っててくださいっ!」

「あ、はい」


 バシバシバシ――ッ!


 木造の壁を銃弾が貫通する。

 思わず土嚢の影に頭を低くして、ちびりそうになる。


「くそ~~~~っ」


 まずい、なんだかぶち切れそうだ。

 頼むから南雲ッち、大人しくしててくれ……。


「〇△×△×〇、〇△×△×〇〇△×△×〇!!」


 誰かがなにかを叫んでいる。


 ガガガガガガガガガガガ!


 玄関に据えられた機関砲の音だ。


 ドーン!

 ドーン!

 パンパンパンパン!


 無数の発射音がする。

「後方敵襲っ!約百!」


 ひゃ、ひゃくだとう?!


 ヒューンド―――ン!ド―――ン!


 照明弾で周辺が昼のように明るくなる。


「撃て撃てっ!」


 がしゃん!


 窓からなにかが放り込まれた。


 ごろごろごろ……。


 手榴弾だ!


「やべっ!」

「伏せろ!」


 見ると大高が身を乗り出している。

 必死でかばい、なんとか頭を下げさせようと……。


 ドカ―――――――ン!!


 轟音、白い煙、そしてざあっという雨のような音。

 頭をかばった右手首と、左のこめかみに鉄の破片が激突した。

 耳が聞こえなくなる。


 おれは、そのまま意識を失ってしまった……。



いつもお読みいただきありがとうございます。建物に籠って外から攻められる気分はどんなのだろう、と思って書きました。音だけしかないので、とても怖い気がします。 ブクマ推奨です。ご感想、ご指摘も大歓迎です。

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― 新着の感想 ―
[一言] うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!
[一言] 南雲中将は、ミッドウェー海戦の大敗時に、右手首だったかどうかは知りませんが、右腕の一部を負傷したような描写が、 映画「連合艦隊」(1981年)にあったような? ミッドウェー海戦がらみで、こち…
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