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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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硫黄島24時

●6 硫黄島24時


 四月の末の硫黄島いおうとうは、緑に覆われていた。


 飛行場に着き、長時間による振動で身体が自分のものではないような感覚のまま、おれはようやく土埃の舞う滑走路に降り立った。ウェーク島からは二千七百キロ、九時間もの旅だった。朝の六時に出たというのに、今はもう午後三時である。


「お疲れでしょう」

「不自由おかけしました」

 嶋崎と大高がおれを気づかって叫んだ。


 おれたちの周りには、出迎えの陸軍の戦闘機たちが六機、まだプロペラを回している。


「ああ、なんとか……にぎりめしは旨かった。が、便所が無理」


 それを聞いて、みんなが笑顔になる。

 彼らはおれを出迎えるのが任務だった。


「お前ら凄いな。平気なの?」


 そう言いながら、うんっと伸びをする。割とスマートにはなったものの、やっぱ歳だよね。背骨が痛い。


「南雲長官、お疲れさまです!」


 滑走路には、十名ほどの、硫黄島在留の陸軍と海軍による出迎えが並んでいた。みんな一様に表情が明るい。


 硫黄島と聞けば、おれなんかは思わず暗い気持ちになるが、この世界では日本も優勢で、兵士たちもきっと万能感にあふれているんだろう。


 おれに尊敬のまなざしを向けるそいつらの顔を見て、がんばらないとな、とあらためて思う。生前世界線三年後の、硫黄島守備隊、栗林中将の戦いを、けして繰り返させたくはなかった。


 おれたちは挨拶もそこそこに、基地の休憩所へと向かった。まずはトイレだ。


 滑走路のほぼ真ん中に、田舎の駅舎のような細長い屋根ぶきの木造小屋が建てられてあり、それが軍の施設だった。


 この建物には横にいくつかの部屋があって、おれたちは入ってすぐの一番大きな部屋に招かれる。出迎えの兵の内、階級の高い者たちが敬礼して帰っていくと、嶋崎と大高には自由時間をあたえた。


 食事が用意される間、二人は風呂に行くと出ていく。こいつら、やっぱ元気だよね。おれはへたり込むように椅子に腰をかける。とにかくケツが痛い。帰りはふかふかの座布団を用意してもらおう。


「明日発たれるのでありますね?」


「そうなんだ。一泊二日の旅さ」


 無理をすれば一日で行けないこともなかったが、帰りもあるし、そこまで急ぐこともないだろうと判断した。なにかあればここから引き返すこともできるし、途中で一泊するほうが合理的だった。


 世話係の兵がサイダーを勧めてくれる。氷が入っていて、なによりの御馳走だ。一気に飲み干していると、右奥の部屋で誰かが揉めているような声がした。


「ヘイタイはなんで俺たちを追い出すんだっ!」


 誰かがわめいている。

 おれは目で近くの兵に尋ねる。


「も、申しわけありません。あちらが事務の部屋でして……。島の南部を海軍が接収したので、わけのわからない村人が文句を……」


 おれは合点がいった。


 この硫黄島にはたしか開戦当時、六ケ村、千人もの島民が住んでいた。開戦後、島が日本の防衛要所として認定されたために軍が土地の多くを接収し、特に南部へは村民の立ち入りを禁じた。


 史実ではそのまま米軍との戦闘に巻き込まれて村は壊滅、生き残った者も終戦後、他の地への疎開を余儀なくされたはず。


「あの様子じゃあ、満足な補償もしてないみたいだよね」


「はあ……」


 この時代じゃ、そういう概念すらないんだろうな、と兵士の顔色を見て思う。

 おれはふと、騒動の主と会ってみたくなった。


「ねえ、連中呼んでくれない?」


「え?あ、大丈夫でありましょうか」


「大丈夫だ。ちょっと話してみたいだけだから。それともこっちから行こうか?」


「いえ、それには及びません。しばらくお待ちを」


 しばらくして、部屋に三人の男が入ってきた。


 彼らはキョキョロとこの部屋を見回しながら、なにを言われるのか、ひどく警戒しているようだった。幸い、この部屋にはおれのほかには若い兵士たちが数人しかいない。おれは開口一番、そいつらに釘をさした。


「この人たちとはおれが話すから、おまえら黙っててね」


 おれは三人に向き合う。重い自分の身体に驚きながら、立ち上がって、手を差しだした。


「どうも海軍がご迷惑をおかけしてます。南雲と言います」




 その少し前……。


「ナグモの動きだと?」


 チェスター・ニミッツが、ベッドから身体を起こした。


 緊急連絡を寄こしてきたのは、暗号解読班のエドウィン・レイトン中佐だった。


「ええ、玄関でお待ちよ」


 日曜日は寝坊をする習慣なのにと、寝ぼけまなこで目をこすっている三女メアリーの肩を抱いた妻が、寝室のドアを開けたまま言った。


「会うよ」


 慌てて下着の上にガウンを羽織り、質素な寝室を出る。執務で遅くなったとき、彼は家族を起こしたくなくて、いつもこのねぐら――彼がそう呼んでいた――で眠るのだった。


 公邸とは名ばかりの、木造住宅の玄関を出たところに、黒塗りの公用車がとまり、エンジンの音を鳴らしていた。排気ガスが青く漂い、南国特有の匂いと混ざりあっている。ニミッツは陽射しに目を細めながら、車の前で待つ太っちょに近よった。


「やあレイトン教授、ナグモがどうしたって?」


 レイトン教授、というのはエドウィン・レイトンを呼ぶときのニミッツの口癖だった。レイトンが暗号解読という数学者のような仕事をしていることに敬意を込めたものだが、ニミッツの学生時代の教師に、ちょっと似ているせいでもあった。


「こ、これは提督、お休みのところ、し、失礼を」

「いいんだ……それで?」

「こ、これをご覧ください」


 渡されたメモを手にとる。


「い、一時間前、去年までの暗号が一度だけ使われました。内容はミッドウェー作戦を発令する、です」


「ミッドウェーだと?」


 血の気がさっと引いていく。ドーリットルの本土空襲作戦のあと、二隻の空母艦隊には、ようやくこの真珠湾への帰投を命じたばかりだ。ここでもし、ミッドウェーに攻撃を加えられたら、最悪は上陸を許してしまう可能性まであった。


「そして、そ、その数時間前に、十機ほどの編隊が、ウェーク島から硫黄島に向かっています」


「どういうことだ」


「報告はレーダー探査と潜水艦哨戒によるものです。それが、不思議なのは、ウェーク島から編隊が離陸したほぼ同じころ、硫黄島からも同時に編隊が出て、両島の中間点あたりで遭遇したあと、引き返しています。しかし硫黄島を哨戒偵察中の潜水艦グロウラーからは、硫黄島を出たのは戦闘機のみだったと……」


「ナグモだ!」


「や、やっぱりそうですよね!」


 ニミッツはその様子をありありと思いうかべることが出来た。


 なぜ、戦闘機の編隊がそれぞれの基地を出て、中間点で遭遇して、そのまま引き返したか。それは重要ななにかを警護するためだろう。


 つまり、ウェーク島か、硫黄島から重要ななにかが発進し、それが相手側に到着するのを、それぞれの戦闘機が中間点まで警護したのだ。そして、硫黄島を出たのが戦闘機だけだとしたら、ウェーク島から硫黄島に向かったことになる。


「ナグモ艦隊はウェークへ寄港している。そこから戦闘機が編隊で送り迎えする重要ななにかが硫黄島に向かったとすれば、それはきっとナグモだ」


「ど、どういたしましょう」


「ありがとう教授。助かったよ。あとは任せて仕事に戻ってくれ」


「え、あ、はい」

「いや、待て……」


 家に引き返そうとして、ニミッツはふり向いた。


「幹部を招集する。今から対策会議をするから、司令部まで送ってくれ」



いつもお読みいただきありがとうございます。今も硫黄島には慰霊祭以外一般人の立ち入りは禁止されているそうです。当時の村民の方と軍人さんに敬意と感謝を表します。 ブクマ推奨 ご感想、ご指摘歓迎です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公は、真珠湾の攻撃以降の戦闘指揮で常勝不敗。桁外れの武勲をあげているだけでも憧れや崇拝の存在になるのに、兵士目線に下がって気さくに対応もしてくれる。 開戦前の赤城の艦内では兵士たちの緊張…
[一言] どうなるかなー♪( ´∀`)
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