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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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司令部からの招集

●5 司令部からの招集


「よし、次っ!」


 まぶしい太陽に消えるほど、上空へと舞い上がった九九式艦爆が、その上昇の頂点で山なりに頭を下げ、垂直降下へと移っていく。


 ここ、ウェーク島沖あいの海上では、空母翔鶴を相手に、艦攻、艦爆による艦隊攻撃訓練が行われていた。


「おーい、調子はどうだ淵田?」


 おれたち参謀は、狭い艦橋から飛行甲板に出ると、すでに何時間も熱心に指導している淵田航空参謀に声をかけた。


 明るい飛行甲板には大勢の水兵たちがいて、熱心に兵器の手入れや、甲板の整備をしていた。波は高く、ローリングもかなりある。慣れたとはいえ、急に身体が持ち上げられる感覚には、どうしても不安を覚えてしまう。


 思わずよろめくおれの横に、草鹿と山口もいた。


「あ、長官」

 淵田がおれを見つける。

 おれは軽く手をあげた。


「うまくいってるみたいだね」

「いやあ、どうしても角度がつきます」

「え? そうなの?」


 ブイ――――――ン!

 ギュ―――――――ン!


 その間にも、次の艦爆が大きな音を立てて、急降下して来ては、また飛び去って行く。


 よくはわからないが、おれには十分やれているように見えた。


「うまいじゃないか」

 と、山口多聞も、飛び去る九九式艦爆を見送って言う。


「いえ、まだまだです」


「どの機もほぼ垂直で急降下してくるし、見事な飛行姿勢だよ。目的は高角砲でやられないことだから、あれでいいんじゃないの?」

 と、草鹿。


「次が来ますから、見ていてください」

 淵田が空を見上げて言った。

 おれたちはその艦爆を目で追った。


 全速力で航行する空母の三百メートルほどの前方、双眼鏡でも見えないくらいの高空から、小さな爆撃機が、山なりに機首を下げ、カン高いプロペラ音を響かせながら急降下してくる。


 約二十秒の落下姿勢の中で、三百メートルの位置関係はだんだんと解消され、最後は艦橋直上で機首を持ち上げ去っていく。ちょうどその時、揺れる甲板にごおっと風が吹いた。


「うわっ!」


 じっと見ていて、恐怖に思わず声を出してしまう。びびったおれを見て、山口も笑っている。おれは照れ隠しに、淵田に話しかけた。


「お、おほん……ぜんぜんいいんじゃないの? あれだったら高角砲でも撃てないだろ」


「いや、撃てます。急降下の最初の段階で狙われますね」


「最初って、山なりの瞬間かい?」


「そうです。空母が全速を出している場合、どうしても前方から急降下に入りますが、その瞬間にやられます」


「ふーん、じゃ、逃げるときは?」


「そのときは、もう爆弾を投下してますから、撃たれない理屈です」


「ああ、当たってればそうなるか。……なら、最初からこの空母の真上で急降下すればいいんじゃないの?」


「それだと、急降下の終わりでは海の上になります」


「ふうむ……」


 なるほど、とおれは思う。空母も走っているから、それに合わせてあらかじめ少し先に狙いをつけておく必要があるのだ。


「まあ、もう少し工夫してみますよ……」


 淵田はちょっぴり疲れたのか、首の後ろを手で揉んだ。ずっと上を向いているのも、大変そうだ。


「ところで、雷撃隊の方はどうだい?中心点を意識して投下することはできそうか?」


 おれは二キロほど遠方の味方駆逐艦と、それに向かって水雷発射の練習をしている雷撃隊を双眼鏡でながめて言った。


 おれは雷撃隊にも、ひとつ課題をあたえてあった。


 輪形陣の中心付近には敵の空母艦隊がいる。だからまわりの駆逐艦に水雷攻撃をするとき、空母をもその射線上に捉えるならば、駆逐艦は避けられないことになる。なぜなら、避ければ魚雷が空母に当たってしまうからだが、これもそう一筋縄ではいかない技術だった。


 本来、水雷攻撃は目標の進路を見測れば、あとは投下するだけなのだが、おれの要求はそれだけじゃなかった。まず最初に上空に占位し、空母の位置を確認したら、それを射線の向こうに計算して、機体のコースを修正し、そこから水平飛行に移って雷撃する。つまり、めちゃくちゃ面倒くさいのだ。


 それに、この空母を見るひと手間が増えると、その間にも敵からの攻撃を避けなくてはならず、飛行士は混乱をきたしやすくなる。なんども練習しなければ、とてもやれることではなかった。さらに、これも全速で走る艦隊に向かってやらねばならないのだ。


「なんとかやってますよ。最初は文句も出ましたが、嶋崎らのベテラン連中がうまい方法を見つけました」


「え、マジで?」


「マジです。最初に空母と駆逐艦を同じ射線上に捉えたら、いったん飛行機を敵艦の進行方向に水平移動するんですよ。そのあとは駆逐艦を中心にして空母を狙えば、うまくいくようです」


「なんか、凄いね」


「まあ、コツがつかめたら、あとは訓練あるのみですね」


「こっちも……」

 また次の爆撃機が、急降下の態勢に入る。

「いい方法が見つかればいいんだがな」

 山口が、まぶしそうな目でつぶやく。


「きっと、見つけます」

 淵田は、前方の上空を見あげて、そう言った。




 その日、夕暮れまで訓練につきあって、ウェークへ帰港したころ、太平洋艦隊司令部から通信があった。電文を確認すると、おれへの帰国命令だった。


「「

太平洋艦隊司令長官 山本五十六発

第一航空艦隊 南雲忠一宛

 MI作戦に関する緊急招集

 至急戻れ

」」


 ははあ……。


 さては山本さん、お前が作戦を命令するとはどういうつもりか、と怒ってるのかな?


 おれはため息を吐く。


 こっちは敵の新たな艦隊をやるため必死にやってるのに、気楽なもんだ。ばかばかしくて、帰る気にもならない。


「おーい草鹿」


 基地司令室で、上着を脱いで茶を飲んでいる草鹿を呼んだ。


「なんでしょう」


 真っ赤な顔をしている。一日炎天下での演習で、すっかり日焼けしているのだ。きっと、おれも同じだろう。


「これ見てくれ」


 おれの差し出すメモを見て、草鹿が首をかしげた。


「MI作戦?」


「ミッドウェー作戦のことだよ。アメリカ艦隊の太平洋出撃を遅らせる意図でおれがニセの作戦命令を出すように要請したんだ」


「あ、あれですね。なら、どうして長官を戻すんです?」


「わからん、きっと文句のひとつでも言いたいんじゃないのか?」


「まさか!」

 草鹿が吹きだした。


「山本長官はそういうの大好きですよ。誉めこそすれ、文句は言わないでしょう」


「そんなものかな」


 言われて見れば確かにそんな気がしてきた。となれば、おれになにかを相談したいのかもしれない。


「なら、帰るしかないか。ここからだと増槽しても途中硫黄島で補給……一日かかるな」


「明日朝、嶋崎に送らせましょう。すぐに準備させます。それに、あの新型機なら航続距離もありますよ」


「やれやれ、行くしかないか……」

 おれは笑った。


「じゃ、もしなにかあったら、あとをたのむぞ」

「大丈夫ですよ。山口さんとしっかりやります」


 草鹿がたのもしい顔で笑った。



いつもお読みいただきありがとうございます。作戦が決まっていく中、突然の緊急招集。嫌な予感しかしませんが、さて。 ブクマ推奨します。感想、ご指摘も大歓迎です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 通信内容が、米英に傍受されて敵戦闘機より攻撃されるか。 辛うじて帰国できたとしても、桁外れの武勲をあげていることを妬まれて、色々な理由を持って前線から外されるか。 果たして、どうなるんでしょ…
[一言] お褒めかお叱りかどっちかなー♪
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