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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
132/309

日産三トンのウラン鉱

本作品は史実をベースにしておりますが

あくまでもフィクションであり

登場する人物、組織、国家はすべて

実像と関係ありません。

●4 日産三トンのウラン鉱


 大韓帝国の人口は、大日本帝国への併合前、千三百万人ほどであった。国土は二十二万平行キロメートル。これだけの面積があるのに、居住地が朝鮮総督府のある京城など、数か所の都市部とその周辺に集中しているから、山間部には自然、人が少ない。


 南雲進は朝鮮半島に赴任して、大日本帝国朝鮮総督府の協力のもと、この住民がいない地域を接収し、工場用地の確保を行った。父、南雲忠一の指示通り、平山鉱山のウラン発掘を行うためだ。


 協力者は総督府の特務中佐の本永と、海軍技術研究所の機関少佐新庄である。特に日本から同道した新庄とは、世代が近いせいか、すぐに仲良くなった。


 この地にウランがあることは、百三十八か所の試掘を一斉に行った結果、すぐに判明した。放射能があきらかな反応を示した箇所だけでも十か所以上にのぼり、ただちに本格的な採掘が決定した。


 労働者を住まわせるための立派な宿舎が建設され、雇用の宣伝がされると、この忘れられていた山間部は、一気に活気づいたのである。


「ねえ進くん」


 新庄が防毒マスクにゴムの手袋をはめ、全身を防護服に身を包んだまま、同じ格好の進に話しかけた。彼らは探掘した鉱物の放射能を地区別に選定し、本格的な発掘への準備をしているのだ。


「なんです?」


 進がちらりと横を向く。といっても、ゴーグルのせいで身体ごと捩じらないと、視線をやることができない。


 もう春もたけなわだというのに、この暑さは異常だ。もちろん、その原因は彼らのこの格好にあった。


「これってそんなに猛毒なんですかねえ?」


 新庄は進より頭ひとつ背が低い。でもちょっぴり垂れ目で、優しそうなので、現地の女の子に良くもてた。もともとが学者だからちっとも軍人らしくない。こう見えて、放射線の若手第一人者なんだそうだ。


「オレもよくわからないんです」

 進は笑いながら言った。

「でも、父がそう言うのだから、そうなんでしょう」


「それなんだけどさ、南雲中将は、どこでこういう化学の知識を勉強されたんでしょうね。たしか、海軍兵学校じゃ、習わないでしょう?」


「さあ……」


 と、進は律儀に決められた通りの手順で、ガラスの中の鉱物を直接手で触れないようにしながら、放射能計の針を記録していく。


 ここは彼らが検査棟と呼んでいる建物の一階だ。風が入らないよう、二重壁構造にしてあり、窓も嵌め殺しになっている。縦十メートル、横二十メートルほどのそれほど大きくはない建物だったが、できあがったばかりで、どこもかしこも真っ白に塗られている。


「おっと!」


 放射能形の針が大きく跳ねあがった。


「これは三番地区のか。やっぱあのあたりには多いようですね」


 進が隣の新庄にふり向いて言う。


「あ、たしかに」


 試掘鉱物をビンに入れ、しっかりと封をしてさらに大きな液体の入った瓶に入れる。液体はただの蒸留水だった。


「父は物知りなんです。きっと夜な夜な、勉強しているんじゃないかな?」


 進がゴーグルの奥で目を細めた。

 息苦しいのか、はあはあと胸を上下させている。


「まったく、頭が下がるなあ。僕なんか帝大で勉強もさんざんしましたけど、まだわからないことだらけです。ここへきて毎日海外の論文も取り寄せていますが、ウランや核分裂のことなんて、どこにも載っていませんよ」


「そりゃそうでしょう」


 進が次の鉱物をとりだすために、いったん席を離れ、竹製の大きなピンセットで、積み上げられた木の箱からいくつかを選んでは、金属のパットに移している。


「今オレたちがやっていることって、まだ誰もわかってないことなんですから……」


「それですよ」

 新庄が首をかしげる。


「それなのに、なぜ南雲中将がそれを知っているのか、どこから勉強したのか、そのコツをぜひ教えてもらいたいもんです。だって、ウラン鉱山がここにあって、その鉱石にはウラン235と238が混ざってて、そのうちの235だけが核分裂をするなんてこと、どこでどうやって勉強されたんでしょうね。それに、発掘作業するのに全員が防毒マスクと防護服つけて、しかもですよ、一日に三時間しか従事させず、一か月で交代させるとは、どういうことなんでしょう」


「……」

 進は無言だ。


 新庄にしたって、進がこの疑問に答えてくれることは期待していない。ただ暇にまかせて日ごろ思っている疑問をただ垂れ流しているだけなのだ。


「父がそう言うんだから、きっとそれが必要なんでしょうよ。なんでもウランの毒性は吸入が一番恐ろしくて、作業員一人の作業時間はそれが限界だと言うのですから」


「ですよね」と、新庄はなんどもうなずく。


 進は父忠一の言葉を思い出していた。


『……いいか。この作業はウラン鉱山では「残土」、製錬所では「鉱滓」、濃縮工場からは「劣化ウラン」、その他あらゆる工程でさまざまな「放射性廃棄物」を生む。そいつらはすべて放射能という強力な見えない毒を発生しているんだ。絶対に油断せず、決められた手順を守れよ。けして人にも土地にも汚染をゆるすな』


 新庄は次の鉱物試料をガラス容器に入れる。


「おかげでここの作業員はもう千人以上ですよ。なんたって一日三時間労働、しかも一か月の作業で通常の三倍もの賃金がもらえるってんだから……」


「ありがたいことです。千人いれば、四か月の予定が三か月で達成できますよ。ただ、それからが大変なんですけどね。……あ、領収書はもらってますか」


「え? ……ああ、それも中将の厳命でしたね。ちゃんと出身地と名前を記録して、受け取りの母印を残すように、でしたっけ?」


「なぜか父にはこだわりが……」


「おおおっ!」


 新庄が声をあげた。放射能形の針が振りきれている。


「どうしました?」

 進が近寄る。


「ほう。凄いですね。それはどこの鉱区です?」


「十一番だ!」

「ああ、十番からの枝分かれですね」


「そうです。見てください。すごい反応ですよ」


 たしかに、放射能形の針はほぼ最大のところまで触れ、ずっと高止まりをしている。


「これはいいですね!」


「きっと、ここには良質のウランがありますよ。これまでの試掘でもう三つの採掘道が発見されていますし、それぞれは日産三百キロの鉱物を採掘しています。これが加わればウラン鉱石の採掘量は、一日に一・二トンを超えますよ」


「まだまだです。目標は日産三トンですよ」


 進は少し傾いてきた陽射しを感じた。作業員どころか、自分たちもこの格好では一日にそれほど多くの作業時間がとれない。おまけに、マスクや防護服は使い捨てを厳命されていたし、その着脱にしても、手順が決められて、結構時間がかかるのだ。


 この検査棟では、現在二十人ほどの検査員が働いていた。今やっていることは進と新庄の本来の仕事ではない。しかし見ていても仕方ないから、という理由で、この若い二人は作業を手伝うことにしていたのだ。


 進が目を細めて空をながめた。


「今日はここまでにしましょう。あとで工場を見に行きませんか」


「いいですね」と、新庄がうなずく。


 二人は今やっている作業を慎重に終わらせることにする。


 鉱石をビンにいれ、ラベルを貼り、ノートに記録して、水槽に投下する。あまった鉱石はドラム缶に詰めてコンクリートを流し、さらに二キロ離れた深い巨大な穴に保管するのだ。


「工場ももうすぐ完成ですよ」

 自分の分を終え、新庄が窓を見あげた。


「ええ。本永中佐のおかげですよ。潤沢な予算が総督府からいくらでも降りてくる。発電所や鉄鋼炉まで作っちゃうんだから……」


 進もようやく作業の手を止めた。


 検査棟は一キロメートル四方もの広大な山間の平地の端に建てられていた。そして彼らの窓の外、西部劇のような土色の空地には、現在急ピッチで、大きな工場建物が全部で六棟、槌音高くその骨組みを見せている。


 それだけではない。山を越え、その南西約五キロの地点では、最新型の火力発電所が建設され、今まさに製鉄をするための溶鉱炉に、火が入れられようとしていた。



いつもお読みいただきありがとうございます。今回は大変微妙な話題の連続で恐縮です。ちなみに、天然ウランの一般公衆一人当たりの摂取限界は7mgとされていますが、これまでに米軍を中心にして使用された劣化ウラン弾の量は湾岸戦争で 320トン、ボスニア・ヘルツェゴビナで 3 トン、コソボで10トンというのが米軍も認めている数値のようで、これは約300億人分の年摂取限度に相当するようです。戦争の残酷さについては、現代人の記憶を持つ南雲としても、いろいろ考えるところがあったのではと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドキドキとワクワクが止まりません‼
[一言] ウランはガスではないので防毒ではなく防塵マスクです。
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