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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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山本五十六をアゴで使う

●3 山本五十六をアゴで使う


「それはどういうことだ?」


 淵田や草鹿も参加して、ようやく議論がすすみはじめる。


「高角砲や機関砲、機銃、どれも真上には撃てません。だから急降下爆撃なら効果ありです!」


「だが、真上に行くまではどうするんだ?」

「知りませんっ」

「なにっ?」

「自分は事実を言ってるだけですっ! そもそも飛行機乗りではないっ」


「じゃあ、輪形陣を水雷でってのは?」

「空母をぐるりと取り囲むってことは、周りから一斉に水雷を放てばどこかにあたる可能性が高いってことでしょう」


「そ、それはそうだが、相手は艦隊ごと、風上や風下に全速力で走ってるんだぞ? しかも水雷の射程は一海里マイルほどで、速度だって駆逐艦とかわらん。逃げる艦隊には撃てん!」

「でも少なくとも止まれば当たる!」


「まてまて」


 おれは彼らの議論を聞いていて、ようやく光明が見え始めていた。


(敵艦隊との距離が十キロより遠い距離では。まず航空戦が行われる。つまり、そこまでは戦闘機の技と数の勝負だから充分勝機がある。そこをかいくぐって輪形陣の中を相手にせず、周囲から水雷で攻めれば……)


「草鹿、敵の空母はエセックス三隻が間に合うとして、何隻になる? その時の艦載機は全部でどれくらいだ?」


「あ、はい。エセックス三隻とエンタープライズ、そしてワスプとレンジャー。でも、このうちレンジャーはおそらく修理に入るでしょうから……となると五隻。つまり艦載機はざっと五百」


「ご、ごひゃく!」


 数の多さに圧倒されそうになる。

 やっぱ、戦争ってのは数の暴力が最強だよね。


 でも、おれたちだって、真珠湾では三百五十機以上を使って三次攻撃までやったんだ。おそらくあのとき執拗なまでの攻撃をしていなかったら、今回の敵はもっと多くなっていたろう。


「対するわが方は赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、小型空母鳳翔、瑞鳳の八隻、同数以上の艦載機になる。であれば、新型電探で敵の位置を測り、村角の言うように艦隊をまるごと包囲して一斉にゼロ戦と雷撃隊がかかれば、かならずどこかに穴が開く」


「……」


 すでに、一同はおれの話を聞く感じになっている。村角も、ようやくすわり、おれを睨みつけるような真剣な目でみつめていた。


「輪形陣は中心弾幕が厚い。だから雷撃隊が駆逐艦攻撃をする初手はあえて空母を無視しよう。そのうえで、駆逐艦を減らし、雷撃で陣形を崩したあと、こんどは高高度から駆逐艦に急降下爆撃を行う。それも、できるだけ垂直降下をやるんだ。もちろんまわりの駆逐艦からは狙われるが、それだってかなり分散してしまうはず」


「!」


「そして最後は空母だ。もちろん雷撃や艦爆もやるが、それだけ外をはがされれば、敵空母は必死になって逃げ出すだろう。つまりハワイ近海に隠密で潜水艦隊を待ち伏せさせれば、雷撃のチャンスがあるってことだ。もちろんこいつはその場所にやつらがやってきてくれるかというバクチだけどな。アテにはできんが、いくつかの海域にわけてできるだけ多く潜ませよう。今からすぐに向かえば、間に合う」


 どうやら、時間との勝負になりそうだ。


「よし、明日から徹底してそのシミュレーションと攻撃訓練を行おう。電探による索敵、包囲して戦闘機隊と雷撃隊の襲撃、さらに垂直急降下爆撃、この時点で駆逐艦が沈黙すれば、いよいよ敵空母艦隊への攻撃になる。戦闘機も量がいるぞ。駆逐艦一隻あたりに十機、空母に二十機、合計三百機だ」


「と、とても足りません」


「空母だけならな。しかしおれたちが豪州やソロモンを相手にしていない現在、敵の攻撃目標は本土もしくはウェーク、サイパン、硫黄島、トラック、せいぜいこのあたりだろう。しかも、これらに囲まれた中には入りたくないだろうから、畢竟ひっきょう、このウェーク島とハワイとの間のどこかが海戦海域になるはずだ」


 おそらく、彼らは失敗した日本本土への空襲を取り返そうとして、日本への反撃を目に見える形にしたいとあせっている。そこがおれの狙い目だった。


「淵田、ここには今ゼロ戦は何機ある?」

「ウェークには全部で百二十一機です」


「まだ心細いな。トラックからありったけを空輸させてくれ。距離は十分届く。ただし飛行機乗りがいないから、南方艦隊へ支援の正式要請を山本さんに出してもらって」


「わかりました」


「あとはインド洋の主力艦隊や、増援が到着するまでの時間稼ぎが必要だ。これも山本さんに言って、ちょっとアメリカを混乱させてもらおう。大高いる?」


「はい、ここに」

 翔鶴通信担当の大高が手を上げる。


「おお、陽動作戦はあとで伝える。淵田と一緒に電文作成をたのむ」

「わかりました」


「それと……村角」

 おれはやっと息を吐き、痩せっぽち眼鏡の村角に話しかける。

「は、はい」


 さすがのこいつも、おれにはそれほど反抗的な目はしてないみたいだ。


「おまえさん、なかなか鋭いね。明日の昼に飯でも食おう」

「え? あ、はい」


 なんか、目を丸くしてるな。

 こいつ、自分のアイデアが採用されたこと、わかってんのか?




 おれは会議を終え、風呂に浸かっていた。


 もうもうとした湯けむりの中、ざんぶと身体を湯に浸していると、一日の疲れが落ちていくようだ。この浴室はウェーク島の宿泊施設の一角にあり、広さは銭湯の半分くらい。けっこう広めではあるが、今はおれの他に誰もいない。


 おれはさっき大高に命じて打った電文内容を思いだしていた。


「「 太平洋艦隊司令長官山本五十六殿


 昨年までの暗号にてミッドウェー攻略作戦を発令されたし。

 ただしこれは米国への陽動を企図せるものにて、

 実働には及ばず。なお、戦艦大和の出撃を示唆するはなおよし


           第一航空艦隊司令長官南雲忠一発 」」


(山本さん、また目を丸くしてるだろうなあ)


 おれは一人、へらへらと笑った。


 エセックス級の新型空母三隻、これがパナマ湾を出て、真珠湾に寄港したら、アメリカのハルゼーやニミッツ、そして、あのマッカーサーは一日も早くそれをおれたちにぶつけたくてしょうがないだろう。でもまだこっちはちょっと準備が整っていないわけで、そこで、おれは史実にあったミッドウェー海戦を陽動として流し、敵の出撃を遅らせようと画策したのだった。


 まあ実際、生前世界線ではドーリットル空襲が成功して、その意趣返しにミッドウェーを攻略するつもりだったんだろうけどね。


 でも、日本の暗号がバレバレで、逆にやられてしまったのが史実だ。だから、今回ではそれを逆手にとって、去年までの、おれが変えさせる前の暗号を使い、逆にアメリカの連中を罠にはめてやる。


 同時に時間稼ぎもやって、こっちの戦略を準備万端にするつもりなのだ。


(それにしても、エセックス級とはびっくりしたよな)


 おれはお湯を掬い、顔を洗う。冷たい水に手ぬぐいを浸し、首筋にあてがう。


 せっかく全部の空母を葬ったと思ったのに、エンタープライズは生きてるし、おまけにヨーロッパ戦線の空母までこっちに持ってくるとは恐れ入る。物量や科学力だって、これから本領を発揮してくるに違いない。今回の海戦にもしも勝ったとしても、こっちの被害だってけっこうあるに違いない。そうなれば立ち直りの工業力ではとてもかなわない。早くイギリスと正式に講和して、おれたちも原子爆弾を開発しないとな……。


 そういや、進のやつ、ちゃんとやってるかな?


 おれにとって進は、息子のような、仲間のような、ちょっと複雑な感情があった。なにより山本長官の口利きで見合いをしたばかり。危険な目にはあわせたくない。だが、あの任務は若い情熱と馬力がなければ、とても成功するとは思えない。


 あいつはおれの特命で、今はウラン235を手に入れるため、朝鮮半島へと赴いているはずだった。


(しっかり、たのむぞ……)

 おれは水を掬い、顔を洗った。



いつもお読みいただきありがとうございます。問題は山積みですが、とにかく作戦は決まったの図です。にしても、やはり最後は人材育成ですねー。ブクマ推奨します。感想も大歓迎です。

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