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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第四章 対米死闘編
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痩せぎす眼鏡が優秀

●2 痩せぎす眼鏡が優秀


「弾幕恐れるに足らず!」

「はい、精神論却下!」


「え~と、では潜水艦で待ちかまえて攻撃します」

「潜水艦はあくまで隠密行動が要諦だぞ。そのあとの戦略がないと続かない」


「全機で空母に集中して攻撃します」

「ばかいえ。輪形陣は中央の弾幕密度が一番高いんだぞ」


「で、では……」


 うーむ、やっぱ、若いっていいよね。

 草鹿や山口も結構連中の勢いに圧倒されてるみたい。


 とにかく、今までは上が決めた作戦を実行するばかりで、こんな風にみんなでアイデアを募るなんてことはしなかった。意思の統一と秘密保持にはその方が都合よかったからだが、でも、たまにはこういうのも、士気が上がっていい。若い連中だって、いろいろ考えているんだ。


 その後もアイデア大会が続く。


「大発動艇で突撃します」

「最高速八ノットだぞ?」


「まわりから漁船を装って……」

「近づいてもそのあとどうすんだ」


「駆逐艦で体当たりを」

「距離が百マイルだと三時間かかるぞ?」


 なかなか効果的な結論が出ない。

 よし、ちょっと目先を変えてみるか……。


「じゃあ、この件はちょっと置いて、防衛の話をしよう。相手の航空攻撃に対して、おれたちの艦隊はどう護るのか。距離一万メートルから千五百までを考えてくれ」


「南雲長官っ!」


 とつぜん、一人の若い男が大声をあげた。


 白い鉢巻きをして、丸い黒ぶちのビン底眼鏡、頬はこけまくってこの時代にはめずらしく、針金のように髪が硬くてやや長い。もしかして、古参兵なのか?


「どした」


 すっくと立ちあがる。

 上半身はランニング下着のみで、肋骨が浮き出ている。


「日本にはなぜないのですかっ!もっと、大きな口径の機関砲がっ」


「え?」


 眼鏡のせいで、表情がよくわからないけど、なんだかものすごく怒っているっぽい。


「帝国には三千五百メートルよりも近い敵機を撃つ機関砲がないっ。それよりも遠ければ高角砲、うんと近ければ二十五ミリ、しかし、それでは一番必要な中距離で対抗できません。アメリカには良い四十ミリ機関砲があると聞きました。帝国海軍には、なぜないのですかっ」


「なんでと言われても……なんでなの?」

 おれは草鹿に聞く。


「昔はありましたよ。イギリスから輸入したやつとか。でもあれはすぐに故障して使えなったんです」


「おい、キサマ、なにか文句があるのかっ」


 他の兵士が大声で怒鳴り返す。

 相手が喧嘩腰なのでついムキになっているんだろう。


 おれはわざとのんびりした口調で、その痩せぎすに尋ねる。


「おまえ、所属は?」


「重巡妙高機関長 村角大五郎中佐であります!」


「ほほう。村角、なにか言いたいことがありそうだな」

「おおありですっ!」


「キ、キサマ、南雲長官になんて口を!」


「良いよ。無礼講って言ったんだ。武士に二言はない。なんでも言ってくれ村角」


「では言います!高角砲が使えず、撃ち漏らした敵機を撃てる兵器がないのは、片手落ちです。なぜ、ないのですかっ」


 ……ま、確かに。


 だからこそ、おれは電探連動の高角砲を、危険なほどにひきつけて撃つ必要があったんだけどね。


「……妙高の射撃手が一人、亡くなったそうだな」


 山口多聞が口を挟んだ。

 室内が静まる。


村角むらすみ、それが、キサマが怒っている原因か?」


「そうですが、それだけではありません!」


「なんだとっ!」

「まあ待て」


 おれは立ち上がる。


「良い意見だ村角。おまえの言う通りだよ。だけど決戦は遅くても二週間後、兵器の開発や配備は間に合わない。となれば、どうやってその三千五百から手前の穴を埋めればいいか、みんなで考えようじゃないか。まずは村角、お前ならどうする?」


「……ではせめて、二十五ミリ機銃の数を増やして、もっと曳光弾を増やしてください」


 あいかわらず怒りの表情は浮かべているが、細い肩の筋肉から、ちょっとだけ力が抜けたように見える。


「妙高ならまだ増やせます!それに駆逐艦にも。曳光弾は四発に一発にすれば、射撃精度があがり、敵への威嚇にもなります!」


「えっと……」


 おれはしょせん自分の知識しかないが、曳光弾にも問題はあったはず……。


「曳光弾って熱を持つから砲身を傷めるんじゃなかったか? それに弾道特性も通常弾と違うから、あまり入れすぎると……て、今は何発に一発なの?」


「六発であります」


「ああ、それは少ないかも。わかった、じゃあ増やすよう掛けあってみるよ。それくらいなら、間に合う。それに増設配備も検討する」


「それから主砲の砲弾を榴散弾りゅうさんだんにしてください。仰角はとれませんが対空兵器になります」


「榴散弾――そんなのがあったのか?」

 さすがのおれもそこまでは知らない。


「一発の砲弾の中に、焼夷弾と非焼夷弾が数百発入っているものがあるんです」


「ふうん、それいいねえ」

「ちょ、ちょうかん!」


 あまり安請け合いしないでくださいよ、みたいな目で草鹿が見てる。


「いいんだよ。間に合うなら、やれることはやろう。この島と、トラックから空輸させて取りつければいいさ。ところで、村角」


「なんでしょうか」


 おれはビン底眼鏡の癇癪もち、この奇妙な男に興味が出てきた。なぜって、感情的なのはいただけないが、要求には具体性があるし、ちゃんと代案もあったからだ。こういう手合いはめずらしい。


「今度は逆の知恵をくれ。さっきの話に戻る。敵空母の周りには二十もの軍艦がいて、高角砲と機銃で槍衾やりぶすまが敷かれる。飛行機で、この陣形をどう崩せばいい?」


「そ、それは……」


 アドレナリンて怖いよね。

 村角がきっとなっておれを見る。


「そんな相手とは戦いません!」

「キサマ~~っ!」

「ばかやろう!」

「いい加減にしろ!」


 みんなが立ち上がり、たちまち険悪な雰囲気になる。

 いかん、このままだとあいつ、ボコボコにされるぞ。


「なんだキサマら、やる気か!」

「やってしまえ!」

 あ、もう始まった。

「やめろやめろ」

「おい、放してやれ」


 村角が髪の毛をザンバラにして立ち上がる。幸い、ここは畳敷きだから、着ていたランニングも汚れてはいない。


 にしても、こいつ、意気地だけで、体力はからっきしなんだな。


「おい村角」

「なんでありましょうかっ」


「そりゃおれだってそんな敵とは戦いたくないよ。おれが知るところじゃ、この当時のアメリカの軽巡アトランタなんて、たしか一分間に最大二百八十八発の対空弾幕が張られるんだからな。ベンソンや量産艦のフレッチャーだって、やっぱり防空能力は高い。おれの予想じゃ、アメリカの輪形陣空母船団全体が張る弾幕は、全部で一分間に千発を超える。百発に一発命中したら、一分で十機落ちる」


 みんなが唖然として聞いている。


「だからさあ、真剣に話し合わないといかんのよ。どうやって、その弾幕をかわすんだ?」


「いくら砲があっても……」


 村角がおれを睨みつける。


「真上に撃つことはできないし、輪形陣なら水雷で崩せます!」


「マジ?」



いつもお読みいただきありがとうございます。まだアメリカが物量を発揮しきれていない今なら、知恵と勇気で打開できる、かも? 不定期更新を検討中です。ブクマ推奨。感想にはいつも励まされています。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロケランやジェットはあと数年必要かもしれませんが構想を述べて開発させるのとそろそろ我らが二式大艇に晴嵐伊400型活躍させて欲しい
[気になる点] ポンポン砲は有効射程は25ミリと似たようなもんよ。ボフォース40ミリと同列に扱っちゃいけない。毘式が故障が多いから九六式二五ミリに置き換わったんで。
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