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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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おまえ、生きてたんかい!

●42 おまえ、生きてたんかい!


 B25を搭載したアメリカ空母二隻と、おれたちの戦闘は、いよいよ大詰めを迎えていた。


 こちらは翔鶴を中心とする空母三隻が万全……とはいえ、艦載機は多くが消耗した。むこうは空母レンジャーが甲板に傷を負い、航空機もほとんど残っていないはずだが、新たな艦隊が電探に確認され、百機ほどの艦載機も確認された。


 特筆すべきは、今まで弱いとされてきたF4Fが、サッチウィーヴや単独の空戦回避を取り入れて、圧倒的だったゼロ戦のキルレシオに、やや陰りが見え始めてきたことだ。おれが聞いていたよりも、ずっとアメリカ軍は創造性にあふれていた。


 そんな中、おれは翔鶴飛行隊長の嶋崎重和に、敵新艦隊の偵察を命じた……。




 嶋崎の新型艦攻機は、海面すれすれの低空を敵艦隊にむけ飛行している。天候はようやく晴れ間が見えてきたが、同時に空は夕暮れへと移ろぎつつあった。


「嶋崎隊長、もうすぐですね」


 後席の無線士が海図を見ながら言った。


「おうよ。それにしても、翔鶴は人使い荒いのう。瑞鶴じゃもっとのんびりできたぞ」


 嶋崎は瑞鶴から山口の推挙でこの戦闘で翔鶴に異動していた。


「翔鶴はいま、南雲長官が親分ですよ」

 無線士が笑って言う。

「あの人は人使いが荒いので有名なんです」


「噂は聞いて……」

 嶋崎が黙る。


「……なにか、いましたか?」

 水平線のかなたに、警戒機がハエのように飛んでいるのが見えた。


 警戒機の飛行範囲は数キロから十キロほどか。ならば、艦隊はおそらく警戒機のまだ数キロ先で、ここからでは空母を確認しようがない。


 とはいえ、これ以上はうかつには近づけなかった。


(ぼちぼち、行くしかないの……)


 嶋崎は低空を維持し、海面すれすれに飛びながら、大きく弧を描いて敵艦隊を回りこむ進路をとった。そのまま、少しずつ近寄る。


「よし、このまま行けるところまで行こう。見つかったら一気に上昇して敵艦隊を確認、そのまま帰還する」


「柴坂、八田に告ぐ。低空飛行を維持し隊長機に随行せよ。敵に発見され次第、上行し離脱する」


 大きく旋回しながら艦隊との距離を少しずつ縮めていく。やがて敵の船影が見えてきた……。


 たしかに空母がいる。海に浮かぶ黒く小さなゴミのような敵の艦隊が、はるか遠い波間に見え隠れしているのだ。


 そのうち、大きな空母が真ん中にいて、巡洋艦と駆逐艦がその他に三隻いることがわかってきた。そしてその上空には、護衛の戦闘機が十機ほども舞っている。


 もう、距離はかなり近づいた。だが、敵機はまだなにも反応がない。いいぞ。あの空母はなんだ? あれは……。


 そう思った瞬間、敵艦隊から白い煙がパパパ、とあがる。


「来ましたっ!」

 無線士が叫ぶ。


 敵の戦闘機がくるりと機首を向け、全速で向かってくる。


「あがれ~~っ!」


 このままでは狙い撃ちにされる。嶋崎はぐっと操縦かんを引き上げ、スロットルを全開にした。同時に僚機ゼロ戦が前に進み、嶋崎を護衛しようと展開する。


「戦闘は避けろ!上だ!」

 そういって上空を目指す。


「おい、空母を見ろ!」


 最高席の機銃手に声をかける。彼は後ろを向いているから、上昇姿勢なら艦隊が確認できるはず。


「どうだ!?」

「み、見えます!」

「なんだ!」

「あれは……エンタープライズです!」

「な、なに?」


 周辺に、爆裂した黒煙が十発ほど上がる。


 それをかいくぐりながら、嶋崎が新型エンジンを吹かし高高度へと上昇していく。下を見て、嶋崎も自分の目で確認してみる。


 大型だが均整のとれた船型、横に張り出た小判型の大きな艦橋。そして板張りの甲板。間違いない。たしかに、あれはエンタープライズだ。


「翔鶴に報告。艦名はエンタープライズ。繰り返す、艦名はエンタープライズ!」




 その報告を受け、おれは呆然としていた。

 エンタープライズだと?


 あれはたしか去年、真珠湾のあとで、沈没させたはず。オアフからミッドウェーへ航空機を輸送したあと、おれたちの艦隊に夜襲をかけてきた空母エンタープライズ。しかしその後、索敵が功を奏して発見し、淵田らが集中攻撃した末、何発もの水雷をぶち込んで、沈めてやったのではなかったか……。


 おれは唸った。


 いまさら後悔してもしかたがないが、どうやら、史実でもビッグEと呼ばれ、不死鳥のように何度も修理されて蘇った名空母は、この世界でも沈んでいなかったようだ。


「ちょっと待ってください!」

 淵田が血相を変えた。


「エンプラは、私自身が攻撃しました。舵を破壊されて浮かぶことしかできなかったあいつに、十発以上も魚雷を命中させたんですよ」


 聞いていた草鹿がなだめるように言う。

「淵田、沈みそうと、沈みましたは違うよ」

「た、たしかにそうですが……」


「エンタープライズなら、よもや嶋崎が見間違えることはない」

 山口多聞も腕組みをして淵田を睨む。


 おれは淵田の肩を叩いた。


「現にいるんだから、信じるしかない。でもすんだことは仕方ないさ。だいたい、あいつらの曳航と修繕能力は異常なんだよ。気にするな」

「す、すみません」


 飛行隊長として現地でエンタープライズに攻撃した淵田は、最後まで確認しなかった責任を感じているんだろう。しかし、舵を失い、何発もの魚雷や爆弾にやられて大破した空母が、よもや生き残っているとは、あの時は誰も思わなかった。南雲ッちとしてのおれも、実戦には経験不足だったし、油断していた。


「電探に機影。五時の方向、距離五千!」

 とつぜん、大高の声が艦橋に響いた。


 そうだ。今は戦闘中なのだ。反省や後悔をしている暇はないんだ。


 おれはすぐさま後方の窓に向かう。双眼鏡ではまだなにも見えない。総員が配置につく。


「よし、連動高角砲用意だ。面舵全速、砲を敵機に向けろ。弾はまだあるか?」


 草鹿が用意してあった紙を見る。

「翔鶴は四基合計で百三十一発です」


「弾倉はありったけを左舷の砲にまわせ。駆逐艦隊は?」


「重巡羽黒に二基、駆逐艦三日月、夕風にはそれぞれ一基あり、残り弾数三百以上」


「よし」

 それだけあれば、充分迎え撃てる。


 実を言うと、あまり新兵器を見せつけたくはないが、いずれアメリカだって連動高角砲やVT信管を配備してくることはわかってるんだ。ここで出し惜しみしたって仕方がない。


 新兵器なんて、初見は新兵器だがすぐに対抗策がとられる。チートなのは今だけなんだから、この際、やってしまおう。


 おれは参謀たちを見た。


「淵田、艦載機の収容はストップだ。味方戦闘機は距離をとって艦隊上空で待機してくれ」

「はい」


「草鹿。敵機はおそらくSBDドーントレスか、TBDデヴァステイター、それにF4Fだ。高角砲が撃ち漏らしたやつは至近距離で残らず墜とせ」

「わかりました」


「多聞ちゃん」

「はい」


「鳳翔、瑞鳳艦隊にも連絡して警戒させてくれ。あっちにも敵機がいくかもしれん。今のうちに、各艦の戦闘機は帰そう」

「わかりました」


「よし、ならば七面鳥撃ちだ」


 おれは回頭する翔鶴とその護衛艦隊を見ながら、敵機の襲来に備えた。まもなく、やってくる。




ひどいサブタイトルですみません。七面鳥撃ち、の異名はみなさんもご存じの通り、史実でアメリカ軍が、VT信管によって撃墜される日本機にむかって言ったセリフです。 感想やブクマにはいつも元気づけられております。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] F4Fなら一撃離脱してもザコなんですがねーというか零戦鹵獲するまでマニューバ解析できなかったのに今回はどうやって歴史変えたんでしょうアメリカは?
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