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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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悪い予感

●42 悪い予感


「こっちは連戦で傷だらけだ。百機の新手なんか、とても相手にしてられないぞ!」


「しかし、帰艦させたら、こちらの居場所が知られます」


「かまわん!」

 おれはちょっと考え、こうつけ加えた。


「鳳翔、瑞鳳の航空機も、こっちに来るよう言ってくれ。あっちは守りが弱いから。あとで戻そう」


 燃料はまだあるはずだし、多少の回遊は問題ない。しかも、こっちには連動高角砲がある。もし敵機がやってきたら、七面鳥撃ちにしてやる。


「わかりました!」

 大高がすぐに命令を発している。


「それと淵田、嶋崎に連絡してくれ」

「はい……なんと?」


「なんか悪い予感がするんだ。敵の空母艦隊を確認してほしい。でもいいか、戦闘はするなよ。その必要はないからな。それに確認できなくても、危険なら引き返してもいい。可能ならでいいから、空母がなんなのか、目で見てほしいんだ」


 自分で言うのもなんだが、実にわかりにくい命令だ。


「淵田、命令にしてくれるか?」

「は、はい」


 淵田は草鹿と相談しつつ、一生懸命メモを書いている。一刻を争ううえに、端的に、正確に命令にしなくちゃならない。おれにはこの時代の命令文を作るのは苦手だから、いつも任せている。こういうのって、才能と修練がいるんだよな。


「できました!」

「どれどれ?」


「翔鶴発令嶋崎隊。敵新空母の艦名を偵察せよ。ただし無事帰艦を最優先とす」


「お、いいね!それでいこう」




「おいおい、無茶いいよんなあ」

 嶋崎は無線を聞いて思わず苦笑する。


「電探によれば、新たな艦隊まで距離百 海里マイルですよ。行きますか?」


「行くのはいいが、三機編隊にしよう。柴崎、八田に連絡をしてくれ」


 その両名はゼロ戦の護衛機だ。さっきの申告でその二名が現存とわかっていた。


 だが、敵の艦隊に遭遇するわけだから、無事にすむとは思えない。艦名にしても、見たことが無ければ目視してもわかりようもない。


「無事に見てこい……とはね」


 嶋崎は南雲の人懐こい顔を思いうかべる。こういうのは決まって南雲の命令だ。兵は消耗品、とする今までの司令官とはあきらかに違う思想だ。


 それがいいか悪いかは、嶋崎の考えるところではない。今はただ、命令に忠実に行動するだけだ。


 周辺ではあちこちに黒煙があがり、高角砲もあいかわらず激しい攻撃を繰り返している。


 味方の航空機がすべて翔鶴へ引き上げるなか、大きく旋回して味方を探す。すぐに二機のゼロ戦が気づき、近よってきた。慎重に空域を離脱する。上昇するにつれ、海上には木の葉のように黒い艦隊が小さく浮かびあがった。


 敵を避け、無事に編隊を組めたところで、嶋崎はあらためて命令を出した。


「嶋崎、柴坂、八田、これより新たに現れた敵艦隊を偵察する。目的は空母の目視と無事帰還である」


「柴坂諒解」

「八田諒解」

「よし、行くぞ」


 三機はゆっくりを戦闘空域を離れ、大きく旋回していった。


(敵の電探には引っかかりたくない。となると……)


 低空飛行をすれば、海面で電波が反射するため、電探が役に立たないと聞いている。ここにいたるB25の本土空襲にしたって、それを狙っての超低空飛行だったらしい。


 腕時計を確認する。十六時だ。

 雨はあがり、まだ空は十分明るい。


 嶋崎は操縦かんを押しこんだ。

「よっしゃ、こっちも低空でいくぞ」




「帰っていきますね」


 アメリカ空母ワスプの司令室で、マッカーサーは潮が引くように引き上げていく日本の航空機を見ていた。


 B25での日本空襲も、さらに南雲艦隊への攻撃もうまくいかなかった。しかし成果がなかったわけではない。


 今までアメリカはやられっぱなしだった。真珠湾に攻撃を受け、アメリカの空母は潜水艦攻撃を受けたし、アジアの各地も獲られた。それだけではない。アメリカ本土にさえも、数多くの砲撃が行われ、国内は厭戦に傾きつつあったのだ。


 それが日本本土への空襲を企図し、いくばくかの被害をあたえた。


 真珠湾で破壊された艦艇も修理は順調にすすみ、今こうして日本への反抗の狼煙を上げることが出来たのだ。失われた空母や航空機も続々と補充されるだろう。わがアメリカは決して屈しない。それが世界へ発信できただけでも、成功といってよい。


 マッカーサーは副官のジョン・D・マクルリーに答えた。


「これ以上の攻撃は南雲にも無理ということか、それとも……」


「罠の可能性もある、ということでしょうか」


「うむ……」


 マッカーサーは、B25が一機も帰ってこなかったことが気になっていた。


(おかしい。いくら敵機が優秀でも、あの大きなB25の機体が全て撃墜されるとは思えない。やつらには、まだ、なにか恐ろしい秘密があるのではないか)


 長年現場の司令官として軍務を仕切ってきたマッカーサーは、戦争が武器しだいで戦況が一変することを熟知していたし、ゼロファイターや、酸素魚雷、特殊潜航艇、そういう日本の武器開発力を侮ってはいけない、という予感めいたものがあった。


(それに、あの原子爆弾とやらもな……)

 マッカーサーは海戦が続く海を見たまま言った。


「ハルゼーを呼んでくれ」

「はっ!」


「……ハルゼーだ」

 百マイルのかなたにある、艦隊から無線が入った。


「こちらは空母ワスプ、マッカーサーだ」

「これは司令官、そちらは順調でしょうな?」


 ハルゼーのしゃがれた声がした。通信そのものは明瞭で、雨でもこの距離程度なら問題はなさそうだ。


「貴官の増援に感謝する。おかげで敵は退散したようだ」

「それは結構ですな、ではすぐ追撃いたしましょう」

「いや、少し気になることがある」


「ほう、なんでしょうか?」


「敵艦隊に爆撃に出たB25が一機も帰ってこない。おそらくすべて撃墜されたんだろうが、わずかな空母艦隊でありえないことだ。もしかすると敵には隠し玉があるのかもしれん」


「隠し玉……心当たりはおありですか?」

「いや、ない。ないが、悪い予感がする」

「ふむ……」


 ハルゼーはマイクのむこうで誰かと相談しているようだ。いや、すでに決断をすませ。単に根回しをしているだけかもしれない。やがて返事がある。


「ではこうしましょう。まずは二十機を先行させ、残る八十機は近辺で待機させる。ナグモに隠し玉がなければ、百機で総攻撃を行う」


「いいね」

 無線を置く。


 さすがはベテランの提督だ。油断せず、しかも抜け目がない。



いつもお読みいただきありがとうございます。ハルゼーとマッカーサーの仲は、陸軍の作戦を相談しあったり、とくに悪くはなかったようです。ただしハルゼーが二歳年下で、地位も下なんですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] うおおぉぉぉぉぉぉぉ!! 嶋崎ぃーーー!! 無事に帰って来いよぉぉぉぉぉーーーーー!!
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