表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
121/309

ロボット砲と近接信管

●41 ロボット砲と近接信管


 日本の空母艦隊に向かおうとするB25の編隊と、それを迎撃するゼロ戦隊、さらにそうはさせじと追いすがるF4Fの護衛機が、三つ巴となって、時速三百キロで進んでいく。


 八木沼は、敵の戦闘機に狙いを定めることにした。


 最初は甲板の破壊により、離艦不能と思われていたB25が飛んでいることに驚いた。だが、本土空襲を阻止した時の戦闘のせいか、護衛機はわずか十機だった。


(F4Fさえやっちまえば、B25はあとはゆっくり料理できる)


 無線で状況を報告する。

 八木沼は、なるべく早くF4Fを始末しておこうと、雨に濡れる空を見つめた。


 僚機が一機のB25を狙っている。エンジンが双発で頑丈なこの爆撃機は、二十ミリ機銃でもなかなか破壊できない。そのためゼロ戦は上空から操縦席に照準を合わせている。


 しかしB25の上部機銃座がうるさい。


 器用に狙ってくるので、こちらとしてもうっかりしていると撃たれてしまう。ゼロ戦はとにかく撃たれ弱い。


 僚機を狙うF4Fが視界に入ってきた。

 

 八木沼は、それに狙いをしぼる。


 目の端で敵機を捕らえながら、いったん見えない位置にバンクする。そこから背後につき、徐々に進路と照準を合わせ……。


 ガガガガガガ!


 ふっと目の前から敵機が消える。どこへ行ったのかはだいたい予想がつく。下だ。戦闘機は下に視界がないのでそっちへ逃げれば見失うことが多い。しかし、追いかければ運動性能の良いゼロ戦がすぐに追いつく。


 ガガガガガガガガ!

 バシバシバシ!


 翼にあたった。

 もう一度だ。


 ガガガガガガガ!


 F4Fはきりきり舞いをして落下していく。


「二機撃墜!」


 まだよくわからないが、八木沼が二機目をやっている間に、周囲のF4Fはめっきり数が減っていた。残っているのは、おそらくあと三機ほどか。


 高度が下がりすぎたため、機首を持ち上げる。B25編隊は上空を進んでいる。爆撃機はもともとあまり高度をとっていなかったが、そのさらに下に出てしまったようだ。


「……ん?」


 八木沼はあることに気がついた。


 B25の編隊は、上空への曳光弾はさかんに見えるのに、下方にはまったく撃っていない。機銃らしい影は下部銃座にもあるが、そこに人はいない。


(ははあ……ありゃあインチキじゃ)


 無線機を手にとる。


「八木沼隊、敵爆撃機は下から狙え。下に機銃無し。くりかえす。敵爆撃機は下に機銃無し」


 無線を聴いた僚機が、下にもぐろうとして機首を下げる。当然それを追うF4F。八木沼は待ってましたとばかりに襲いかかる。


(お前らはわしが相手じゃ)


 残りの艦戦を狙う。


 だが、一機に機銃を放ったところで、弾が切れてしまった。二十ミリはすでになく、七・七ミリすら残りが少ない。


(これまでじゃな……)


 八木沼はゆっくりあたりを旋回する。


 眼下では、数が減った敵のF4Fを尻目に、味方の戦闘機はB25の下から攻撃をしかけ、それを嫌ってB25はさらに低空を選んでいる。


 ついに一機のB25がエンジンから火を噴き、黒煙をたなびかせて海上へと落下していく。

 しかしまだほとんどの爆撃機は健在だ。


 僚機は攻撃を続けているが、しかし、急がないとそろそろ翔鶴艦隊が見えてくるころだろう。


(まずいぞ)


 と、八木沼は思った。


 B25は思ったより頑丈で、まだほとんどが残っている。

 やつらは一機で数発の爆弾を積んでいるから、あの編隊なら全部で数十発にもなる。翔鶴など、ひとたまりもない……。




 こちらは敵の空母を攻撃するために、新型艦攻機で発進した嶋崎である。


 彼らが離艦し、つづいて艦攻と艦戦六機が空に舞ったとき、すでにB25の編隊は目の前に迫っていた。しかもあるべきF4Fの護衛機はなぜか見えない。


 しかし嶋崎の目標命令は敵の空母艦隊だった。それに、出発の時から、嶋崎は航空参謀の淵田にしつこいくらい念を押されていた。


―――いいか。絶対にこの艦のそばで空戦はするなよ。味方の弾でやられるほどバカバカしいことはないぞ。


 仕方ないので進路を変え、一キロほどの距離を保って敵編隊と交差する。


 B25はかなり低空を飛行しているようだ。味方のゼロ戦隊がまとわりつくように攻撃をしているが、大型のためになかなか撃墜できないのだろう。迷ったすえ、嶋崎は無線士を振りかえる。


「爆撃機はやらんでよいか訊いてくれ」


「はっ!」


 無線士がすぐに送話機を取りあげる。


「こちら嶋崎、敵爆撃機を攻撃の要ありや?」


 しばらくして母艦から返信がある。


「……無用。新型高角砲に任せ、艦攻隊は敵空母にむかえ」


「諒解した。嶋崎隊は敵空母に向かう」


 命令はあくまでも敵空母の撃沈みたいだ。


 キャノピーを開ける。冷たい空気が頬にあたり、雨でゴーグルが濡れる。顔を出して海上に目を凝らし、敵編隊を見る。


 B25の操縦席の兵士も、こちらを見ていた……。




 おれは空母翔鶴の艦橋から、双眼鏡で上空を監視していた。


 やはり八木沼からの報告通り、敵機はB25の編隊のようだ。してみると、敵空母の甲板は修理されたのか……。


 アメリカの修繕能力にあらためて舌を巻く。あいつら、専門チームつくって、甲板に鉄板ならべたりするからなあ。きっと今回も応急処置したんだろう。


「おい、そろそろ味方の艦戦を退避させろ」


「わかりました」


 大高が無線士に指示を出す。


「直掩隊は新型高角砲に備え、退避せよ」


 おれは操舵のマイクを取りあげた。


「面舵いっぱい。電探連動高角砲用意」


 空母の向きを敵と直角になるよう調整する。敵に水雷はなく、爆撃投下しかない。しかし空母は甲板面が広いから、敵と同じ方向を向いていると、それだけ爆撃される確率が高くなる。


 すでに敵の方向に合わせて回頭していたが、微調整が必要だった。


 掩護の駆逐艦隊も走りながら方向を合わせている。


「電探高角砲、狙え!」


 ギュイ―――ン!


 空母の右舷船体に設置された高角砲四門が、電探によって自動で方向を変え、迎角を合わせる。その様子は艦橋からもはっきりと見えた。


「駆逐隊、高角砲準備よし」


 B25の編隊が迫ってくる。低空飛行から高度をあげ、前後左右に散開して爆撃の態勢になる。セロ機隊はすでに退避していた。


「距離二千!」


 ……もう少しだ。もう少し引きつけよう。


「千五百!」


 あ、ずいぶんバラけたぞ。ちょっとやばいかも……。


「……千!」


ぇぇぇっ!」


 ギュイーン!ギュ、ギュ!

 複数の電探連動高角砲が、同時に砲身を振る。


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 空母翔鶴と駆逐艦隊から一斉に高角砲が火を噴く。なじみのある発射音より連弾がかなり速い。四発撃つと、すぐに方位と迎角を変え、次の目標を狙う。


 ギュイーン!ギュ、ギュ!


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 バシャバシャバシャ!


 目にも正確な黒煙がB25の付近で爆裂し、爆撃機の機体を無数の鉄片が貫通する。


(よしッ!)


 おれが転生して、開発命題だったもののひとつ、伊藤技術大佐苦心の近接信管が、ついにその威力を発揮した。


 見るかぎり極めて正確な射撃と爆発だ。相手が大型機体のせいかもしれない。三機があっという間に失速して落下する。高角砲の射撃はまだやまない。


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 もちろん実戦でこれが使用されるのを見るのは初めてだ。艦橋にいるみんなも、目を見開いてそのロボットのような動作を見ていた。


 なんといっても、今までは人間が指揮して目標を定め、手でハンドルを回して砲を回していたのだ。産業用ロボットを知っているおれはともかく、見たことがない草鹿や山口たちは、奇妙な怪物を見るような目をしていた。


 それにしても自動で相手を射撃するマシン。しかもその弾は相手の付近で勝手に爆発する。こんなものを相手に、おれのご先祖は戦ってたのか……。


 淵田が叫んだ。

「爆撃機が来ますっ!」




いつもお読みいただきありがとうございます。史実よりは少しだけ早いタイミングで、高角砲の技術革新が大日本帝国海軍でおこりました。感想やブックマークがすごく励みになっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] すでにイージスじゃん。 レーダー連動でも飛翔方向に偏差射撃しないといけないんですが、アナログの時代にどうやっんだろう?
[一言] マシンやベーーーー!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ