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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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雨の小笠原沖海戦

●40 雨の小笠原沖海戦


 アメリカ大型爆撃機B25が、十機編隊を組んで飛んでいる。

 護衛には、同じく十機のF4Fだ。


 爆撃機の先頭で操縦かんを握るローソン中尉は、空母レンジャーから離艦するときの、ミラー海軍大尉のアドバイスを思いだしていた。


「いいか。君たちは離艦は死ぬほどやったが、着艦は全くやってない。というより、中国の基地に降りる予定だったから君らのPBJにはフックすらない。空母にもどるときは、しっかり周りを見て、管制の指示にしたがえよ」


「アイアイアサー……つまり、不時着ですね」


「そういうことだ中尉。着水は爆弾を捨てて時速を八十マイル以下にしろ。車輪は出すな。なんどやりなおしてもいいが、母艦からはあまり離れるな。それから……」


「それでもだめなら、パラシュートで脱出しろ、でしょ?」


「そういうことだ」


 ミラー海軍大尉は笑った……。


(ま、死ぬよりはましだよな)


 はなから危険は承知だ。ここまで来てなにもできずに帰るくらいなら、この広い海を泳いで帰ったほうがましってもの。


 ローソンは故郷で待っている妻を思いだす。


 優しくて純情で、器量良しだ。任務のことはなにひとつ言ってないが、俺の帰りを今も信じて待ってるだろう。


 帰る……?


 ローソンはふと、自分の脳裏に浮かんだこの言葉を繰り返した。


 本当に、帰る……ことができるのだろうか?


 ここは戦場だ。


 日本を空襲に出た隊長ら五機の消息すらつかめていないのに、このおれが本当に帰れるのか? そもそも、ここは故郷の人間たちは名前も知らないような遠い海の上だ。母艦を出たのはいいが、こんなクソ重い陸軍機で空母艦載機と戦い、帰りは不時着しか方法がない。それでも帰れるのか?


 ローソンは怖気づきそうになった自分を、ごまかすように、肩をすくめた。


(帰ってやるともさ。俺は昔から運がいいんだ)


「機長、どうか、しましたか?」


 副操縦士のディーン・ダベンポートがいぶかしげな眼で見る。

 おっと、これはいかん。


「なんでもない」


 機長ともあろうものが、つい弱気になってしまった。

 ローソンはつとめて豪快に笑った。


「はっはっは! 俺は今からあの勲章を返してやるのが楽しみでな」


「あー、あれね!」

 副操縦士もぱっと明るい表情になる。


「たしか、日本駐在武官のユーリカが、なんかの式典で日本からもらった勲章でしたっけ……おいクレヴァー」


 ダベンポートが後ろを振り返ると、爆撃手のクレヴァーがひょっこりと顔を出した。


「なんですか?」


「例の勲章は一発目につけとけよ。ほんとなら、東京に落としてやるはずだったんだが、せっかくだからナグモに返してやろうぜ」


 まだ戦闘態勢に入ってないB25では、爆撃手は航空士と一緒に無駄口を叩くことが多かった。


「ちゃんと一発目につけてるよディーン。ドーリットル隊長からの預かりものだし、ちゃんと返してやらないと」


 クレヴァーが自分の足を、床に打ちつけた。


 その足元には五百ポンド爆弾があり、その後部尾翼では、結ばれた大日本帝国起源二千六百年式典章が、ゆらゆらと揺れていた。


「おい!」

 上部機銃手が突然叫ぶ。

「どうしたサッチャー」

「来なすったぞ!前方、距離千!」


 雨のせいで、操縦席からは前方の視界がよくなかった。


 そのため、機銃手は上部の機銃座から顔を出してずぶぬれになりながら、常に視界を確認していたのだ。


 目を凝らすと、ローソンにも敵機らしい黒い影が、ほぼ高度も同じ遠方に確認できた。数は三機編隊が……四つ!


「サッチャー、上は任せたぞ。味方を撃つなよ」


 掩護のF4Fがスピードをあげて回りこんでいく。





(わしは昔からついとるんじゃ……)


 ここにもまた、自分の強運を信じる飛行機乗りがいた。


 空母翔鶴、その甲板に飛行隊長の嶋崎がいた。


 彼は今、新型艦上攻撃機の操縦席にすわっている。今日の任務は敵空母二隻の撃滅だった。敵空母二隻の位置が決まりしだい、発艦するために、プロペラを回して待っているのだ。


 作戦司令室では現在、電探機影と索敵の進路を重ねあわせ、そこから敵空母艦隊の位置を割り出している。


(なかなか、良さそうな飛行機じゃないか)


 嶋崎は、何度か試験飛行したこの中島飛行機製艦攻の、真新しい操縦かんを撫でた。


 こいつは九七式と同じく三人乗りで、真ん中の偵察員が主に航法と通信をになっている。そこには最新型のFM無線機も備えつけられていた。


「機長、連絡が入りましたよ。敵艦隊は南南西、距離約七十 海里マイル……」


「おお、そうか!」


 嶋崎は膝を叩いた。やっぱついとる!


「雨も小降りですな。空母やるにゃあ絶好」


「油断するなよ……おい、館山ぁ」


 後席で後ろにむいてる乗員にも声をかける。


「準備よし!」


「うん、行こう」


 キャノピーから顔を出し、準備が整ったことを車輪止めの係に伝える。すでに前方には蒸気がたなびき、風上への航行が順調だ。雨も小降りになってきた……。

 




「おお! ありゃあでかい爆撃機じゃあ」


 迎撃戦に出たゼロ戦の機内で八木沼保やぎぬまたもつが、目を凝らしてつぶやいた。


 遠方からこちらに向かってくる相手は、大型双発のB25が五機編隊で二編隊。それを挟むように小さなF4Fワイルドキャットがやはり五機編隊で二編隊、翼をのばしていた。


 すでに距離は約千メートル……雨のために近づくまでわからなかったのだ。


 八木沼が回りこもうとしたとき、B25とF4Fが五機づつ、歩調を合わすように、ふわっとした動きで左右に分かれ、そのまま高空に向かった。腹を見せたが、もちろんこの距離ではまだ撃てない。八木沼は左右に翼をバンクさせて、行くぞ、という合図を僚機に送った。


 エンジンを吹かす。


 ぐっと操縦かんを右に倒し、フットペダルで方向舵を動かし横転気味にバンクする。


 そこから一気に左へ……。空戦に誘ってみる。


 だが、敵はそれにはのってこず、らせんを描きながらまだ上昇しているようだ。首をまわすと、B25も散開しているが、高度はやや落としているかもしれない。こちらを相手にせず、日本の母艦をめざすつもりらしい。


「くそ。誘いには乗らんか」

 八木沼は中のB25一機に狙いを定めた。


 向こうは相手にしないつもりでも、こっちはこいつらが目標なんだ。八木沼は一気に近寄り、二十ミリ機銃の発射レバーを押した。


 ガガガガガガ!


 雨が煙る。

 曳光弾は見えるが、敵機はともすれば白い闇の中に消えてしまう。

 もう一度斉射しようとしたところで、後方に敵の気配がした。


 後ろからの曳光弾が見えるのと、速度を落として右にバンクするのが同時だった。


 あっという間にF4Fが目の前に出る。

 左に機体を戻し、照準を定める。


 ガガガガガガ!

 バシバシバシ!


 キャノピーを真っ赤に染めて、F4Fが落ちていった。


「まずは一機」



いつもお読みいただきありがとうございます。名機九七式艦攻の後継機として中島飛行機が開発した機体が今回は特別に南雲艦隊に試験提供されております。はたして、ちゃんと動くのでしょうかw 毎回の感想やブックマークをありがとうございます。もはやモチベのすべてです。

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― 新着の感想 ―
[一言] AMが劣りFMが良いような書き方をしていますが、未だ航空無線はAMなのかは理由があります。 そこを検証した方が良いかと思います。
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