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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
12/309

腹が減っては戦はできぬ

●12 腹が減っては戦はできぬ


 それぞれに、つかのまの休息が訪れる。


 淵田は風呂に入り、他の飛行士も顔を洗ったり、食堂でうどんをすすったりしている。

 整備兵は大忙しで飛行機の修理や整備をしてはいたが、手がすけば差し入れのにぎりめしをほおばった。


 かくして、ついに史実にないことが動き始めた。ここから先は、もうなにがおこるかわからない。おれも気を引きしめて作戦を練らないとな……。


「第三次攻撃には水雷はいらない。だからゼロ戦での急降下爆撃と機銃掃射を中心にしよう。ただ、重油タンクは六機の水平爆撃機で壊滅させたい」


「よろしおます」

「わかりました」

 源田と吉岡の両航空参謀がうなずく。


「とはいえ、しょせん重油だかんな。誘爆は無理。だから爆撃が外れたら機銃でタンクを穴だらけにしてくれ。あと、弾は撃ちつくすなよ。もしかしたら近くに空母がいるかもしんない」

「わかりました」

 二人はそれぞれきちんとした命令の形にして、伝令管に流す準備を整える。


「長官、第二航空隊の山口多聞司令官より、われ第三次攻撃の準備完了、との報あり」

 小野通信参謀が叫んだ。


 ははぁ、これか!


 山口多聞という司令官は、真珠湾での第三次攻撃を暗に進言したことで有名な司令官だ。

 まだ三次攻撃にはなにも言及してない今の段階から、こうやって報告してくることで、すなわち攻撃を督促している、というわけか……。


 おれはうなずいた。


「おお、さすがだな多聞ちゃん。んじゃ、こう返しといて。貴隊はわが軍の誉れなれども、こちらはまだ腹ごしらえ中なれば、しばし待機されたし」


「め、めしなどいらんですわい!」

 横で聞いていた大石参謀長がうめいた。


 山口多聞の勇猛さにくらべて、自分らが軟弱に扱われたと思ったのだろう。

 おれは笑って制した。


「いいんだよ大石。山口は血の気が多すぎるからな、たぶん飛行隊に満足な休息もとらせてないんじゃないか?だから、それとなく注意したんだよ」

「え?……はあ。そ、そんなもんですかいの」

「ああ、心配するな、ちゃんと通じてるよ。山口多聞みたいな気の強い生徒は、こうやって指導するべきって、昔、先輩の教師から教えてもらったんだ。注意はそれとなく、そしてプライドを大事にしろってな」

 大石はわかったような、わからないような顔をした。


 そうこうしているうちに、第五航空隊からも準備完了の報がはいった。


「よし、んじゃ予定通り、1630発進でいきますか!」

「ちょ、長官、ちゃんとご命令くださいよ」


 ついあいまいな言い方をしたおれに、草鹿がとまどって言った。

 こいつ、真面目かよ。


「わかった。これより第三次攻撃命令を発する。各隊1630発進せよ!」

「はいっ!」

 草鹿が敬礼し、各参謀から担当へと、つぎつぎに伝令が走った。



 その少し前、ここは空母『蒼龍』の艦橋。


 窓のそばにいる通信兵が、赤城からの光通信を受けとっている。

 双眼鏡で見ながら、読みとった文章を傍らに伝えるのだ。


 この艦隊を率いている山口多聞は、さきほど打った三次攻撃の催促を、南雲がどう返してくるかが気になっていた。

 温和な南雲は時に慎重すぎ、この一、二次の攻撃の成功を確定したがるのではないかと危惧していたのだ。



「空母赤城、返信!」

 通信兵がごつい双眼鏡をのぞきながら叫ぶ。

「うむっ!」

 山口はこぶしに力を入れ、その先に耳をすませた。

「貴隊はわが軍の誉れなれども、こちらはまだ腹ごしらえ中なれば、しばし待機されたし」

「な、なんだとぅ?!」


 第二艦隊の司令官たちは顔を見合わせた。

 この艦隊も、もちろん南雲艦隊の命令下にある。


「これはまた、南雲長官らしからぬ……」

「なかなか言うじゃないか」

 山口は不敵な笑いを浮かべた。

「三次攻撃はあるんでしょうか?」

「そりゃあるさ」

「しかしこれでは明言はしていません」

「ばか。やらないなら腹ごしらえとは言わん。長官はおれたちにあせらずお前らも飯を喰えと言っとるんだ」

「なるほど」


 山口は首まわりのボタンを外した。

「オレは喰うぞ。君らもそうしろ」



「小野参謀」

 おれが偶然そばにいた小野通信参謀に話しかける。

「なんでしょう」


「アメリカのレーダー……電探って優秀らしいね」

「はい、話には聞いています。わが国も今は陸軍が中心にやってますが、海軍も今年の春から本格的な研究をやりはじめました」

 おれは吹き出しそうになった。


「なんで陸と海が両方でやるんだよ。情報共有すればいいじゃん。そもそも海軍はどうして研究が遅れてんの?」

「電探による、待ち伏せが嫌いなんでしょう。卑怯者のすることだと」

 小野は苦笑した。おれは目を剥いて首を振る。

「卑怯なものか、目をふさいで戦うのが勇猛なのか?てかさ、そもそも日露戦争に勝利したのは、日本の無線技術のおかげなんだぞ」


 やはり勝つには、勝つだけの理由がある。

 日本がロシアとの戦争で、いち早く無線を取り入れ、大いに戦況を有利にしたことは史実なんだ。

「同感ですね。しかし今はどうしようもないでしょう」

「そうとは限らないぞ」

「?」

 おれは小野に笑いかけた。思った通り、話が通じそうな奴だ。


「うん、君とは気があいそうだ。また話そう」

「いまさらですか?すでに長官とは長いつきあいですよ?」

 ……ああそうか。たしかにそうだよな。

 おれは苦笑した。

「いや、最近いろいろ考えることがあってね。今までのおれはずいぶん遠慮してたんだ」

「わかりますよ。長官はここにきて変わられましたから」

「へえ」

 おれは小野の顔を見た。

「どう変わった?」


「はい。ご決断をされておられます」

 真剣なまなざしで、小野がおれを見つめている。

「うーん、まあ、誉め言葉と受け取っておくよ。とにかく、これからは技術の時代だし、君や坂上とはうんと仲良くしていきたいんだよね。電探に関しては、実はおれに腹案がある。あとで相談させてくれ」

 窓の外を、海鳥が群れを成して飛んでいく。

 小野氏、にやりと笑って敬礼した。



 十六時三十分、空母六隻からみたびの出撃が行われようとしていた。


 甲板に艦載機が揚げられ、エンジンを始動する。

 プロペラが回り排気ガスを蹴散らして爆音が鳴りひびく。

 戦闘機はゆっくりと進みはじめる。

 大勢の兵士が、ちぎれるように手をふり見送るなか、白波がたつ荒れた海にむかって、ゼロ戦がつぎつぎに飛び出し、大空を舞う。


 一時間足らずの間に、第三次攻撃隊百三十機がすべて真珠湾にむけて発進していった。もちろん山口多聞の『蒼龍』からも、さぞ血気盛んな攻撃隊が発進していったことだろう。


 その間も、おれは矢継ぎばやに指示を出していった。


「常に二十機の索敵機を飛ばし、敵空母を警戒せよ、方角はオアフ南西までの左右三十度」

「艦攻は水雷を搭載し、敵空母発見にそなえろ」

「補給船団の到着しだい、各艦は順次補給を開始してタンカーはできるだけ空にしておけ」

「第三次攻撃隊の夜間着艦にそなえ、甲板に照明と松明の用意、傷ついた兵士の手当を用意」

「次の任務にそなえ各艦より狙撃と占領に適した人材の選出をしておけ」


 やがて、第三次攻撃隊からの無電も入ってきた。


(カネオ飛行場壊滅セリ)

(オイラーに残存機なし)

(これよりふたたび真珠湾、高射砲激烈なり)

(真珠湾格納庫爆破!)

(重油タンク破壊成功!)

(敵戦闘機と交戦中)

(敵戦闘機と交戦中!)

(われ二機撃墜す!)


 どうやら今度こそ、完膚なきまでに叩き潰せたっぽい。

 でも、こっちもかなり被弾したんだろうなあ。


 被弾ってのは戦闘機にでかい穴があくってことだ。墜落はしなくても、もう修理なしには飛べないし、その穴がもしもガソリンタンクなら、燃料も入れられない。さっさと修理したいところだが、あいにく機体はジュラルミンで溶接がむずかしい。それにガソリンタンクまわりで溶接なんかしたら爆発してしまう。


 そうこうしているうちに、攻撃は終了し、第三次攻撃隊百三十機は、約二十機を失ったものの、またもや圧倒的な戦果をあげ、無事帰艦したのだった。


 この日、一日での攻撃により、オアフ島の戦艦、駆逐艦、アメリカ軍戦闘機、爆撃機などはほとんどが壊滅し、一方、味方軍はのべ三百五十四機が出撃、五十二機を失って終了した。


 すべての出撃機を収容し終わったのは、十九時すぎだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 南雲さんが知らんだけでこの時点で横須賀と勝浦に地上用を設置済みで増産中だよ。艦艇への試験搭載がミッドウェー直前だから、これから腹案出しても、現在開発中のモノより早くどうにかなるとは思え…
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