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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
119/309

ジャップをみなごろしに

●39 ジャップをみなごろしに


「「

 四月二十二日 水曜日

 北緯三十度二十六分 東経百四十九度四十四分

 天候・曇のち雨

 波・荒

」」


 とにかくこのままでは数的にも作戦的にも決戦艦隊にはほど遠い。インド洋のことは気がかりだが、今はイギリスと停戦中だし、ひと月くらいなら、ひそかに全艦隊が現場を離れても、大丈夫だろう。


 ただ問題は距離だ。


 おれの主艦隊が停泊基地化しているディエゴ・ガルシア環礁は、インドの南、千八百キロのところにあり、そこからトラック泊地までは九千キロもあるのだ。赤道を一周しても四万キロしかないんだから、ほぼ地球を四分の一周ってことになる。いかに遠いかわかるだろう。


 九千キロは四千八百六十海里になる。つまり二十五ノットで約二百時間、八日間はかかる勘定だ。当然、燃料もからっぽになるから補給もいるし、着いても整備も人的休息も必要になる。ま、要するにすぐには使えないわけで、アメリカ艦隊の迎撃に間に合うかどうか、井上中将の南方艦隊との合流を考えても、微妙だよな。


 とはいえ、まずは敵空母レンジャーとワスプの二隻だ。こいつらを確実にやってしまいたい。ところが、索敵を南方に変え、扇形往復を二度ほどやったところで、急に天候が悪化して雨になった。


 空母翔鶴の飛行甲板に、索敵隊が水しぶきをあげて着艦している。

 兵士たちは必死に、モップで床の水を拭きとっていた。


「これ以上は無理でしょうな」

 雨の降りしきる中、艦橋にいたおれたちに淵田が言った。


「このまま雨がやまなければ、視界不良で次の着艦はあぶなくなりますよ。特に小型空母の鳳翔、瑞鳳は甲板も短いので危険です」


「ふむ……」


 おれたちは約百キロという大きな間隔で、空母三隻が三つの艦隊を形成していた。それぞれに重巡と駆逐艦が護衛をし、さらに潜水艦隊もこちらに急行してる。


 おれは同意した。


「仕方ないな。今日はここまでにしよう」

 かたわらの草鹿や山口もうなずいている。


 時間を見ると、もう午後三時になる。おれは淵田のチョビ髭をみながら、尋ねた。


「直掩機はどうする? やっぱ、この雨だと、降ろしたほうがいいかな?」


「いや、これくらいなら大丈夫です。無線機もようなりましたし、旋回だけですから。なんならワシが飛ばしまひょか」


「と、飛びまっか?」

 おれは淵田の大阪弁を真似て笑った。


「……すんまへん。つい」


 航空参謀として最近はめっきり方言の減った淵田だったが、今でもたまにお国が出る。でも、おれは別に嫌いじゃなかった。


 その時……。


「対空電探に反応あり!」

 と、大高が叫んだ。


 おれと淵田は、思わず顔を見合わせる。


「まさか。味方機じゃないのか」

「いえ、編隊です。距離百!」


「おい!」

 おれは淵田に目で合図する。


「えらいこっちゃ!」

 淵田が迎撃の指示を出すべく送話器に走る。


「ふーむ、索敵機がつけられたか……」


 艦橋があわただしくなる。


 鳳翔、瑞鳳にもただちに連絡がなされる。

 飛行中の直掩機が、急ぎ迎撃にむかった。




 その少し前。


 アメリカ空母ワスプからレンジャーに乗りこんだ司令官マッカーサーは、大きな会議室に本土爆撃を敢行するはずだった、B25の乗組員たちを集めてこう言った。


「私は諸君らに謝らねばならない」


 兵たちは机の前にすわったまま、顔を見合わせている。


 作戦総司令官であるマッカーサーが直で訓示をするなど、そもそも、考えられないことだった。しかも謝りたいために、この尊大で聞こえる司令官が、わざわざ船を乗りかえてまで、おれたちのためにやって来たというのか?


 マッカーサーは腰に手を当て、口にくわえたパイプを手に持った。


「諸君ら陸軍の兵士たちを敵の船から守り、無事に発艦させるのが、空母ワスプと私の任務であった。なぜなら、諸君らは日本を空襲するために長い訓練を経て、ここまでやってきたからだ。しかるに、諸君らも知っての通り、無事に飛べたB25はわずか五機で、その五機も現在は消息不明である。そのことをまずは諸君らに詫びたいのだ」


「……」


 いつもは自由に発言し、ざわついている彼らも、あまりの展開にしんと静まり返る。彼ら、最初は百人ほどもいた陸軍ドーリットル隊も、いまや隊長の姿はなく、八十名ほどになっていた。


「単刀直入に言おう。君らはナグモをやりたくないか?」


「やりたいにきまってます!」

 中の兵士が叫んだ。


 マッカーサーのそばで立ち会っていた、海軍教官のミラー大尉が、発言した兵士を指した。


「発言を許可するローソン中尉」

 ローソンが立ち上がる。


「船はやられましたが、甲板の損傷は幸いたいしたことはなく、鉄板を敷く応急処置はすでに完了しています。この船の現在地は日本から離れすぎ、もはや空襲は無理ですが、B25と俺たちが飛べないわけじゃない。ジャップをみなごろしにできるなら、どこへだって行きますよ司令官」


 応急修理は甲板を鉄板で覆っただけだったが、離艦の訓練を繰り返した彼らには十分だった。


 マッカーサーはわが意を得たりとばかりにうなずき、室内を見回した。


「では言おう。……今朝、日本軍の索敵機を発見したわが空母ワスプの偵察機は、その索敵機をひそかに追跡した結果、雨と雲にまぎれナグモ空母艦隊の所在を知ることが出来た。なぜなら発見した空母は翔鶴、すなわち現在のナグモ艦隊の旗艦だった」


「おおおお!」

「キルザナグモ!」

「キルザジャップス!」


 わっと盛り上がった室内に、マッカーサーの声が響いた。


「諸君、ナグモは狡猾で常に先を読むが、ひとつ読めないものがある。それは君たちの勇気だ」


「イエス!」

「ジャップをころせ!」


「これはナグモがはじめた戦争だが、終わらせるのは誰かね?」


「おれたちだ!」

「アメリカだ!」


「……よろしい。ならば行こうではないか。出発だ!」


「うおおおおおおお!」


 八十名の兵士たちの、怒号のような雄叫びのなか、マッカーサーは表情を変えることなく、マドロスパイプをきつく咥えた。




 雨が激しくなってきた。


 この天候の中、わざわざむこうからやってくる。しかも数的不利をものともせず、だ。


 おれはなんとなく、この敵の意志の強さのようなものを感じていた。


(思ってたより、手こずりそうだな……)


 おれは草鹿をふり向く。

「敵の機数や速度はわかるか?」

 草鹿が電探員とやりとりをする。


「機数約十機、速度四百ですっ!」


 距離が百なら十五分ほどで来るだろう。

 おれは素早く計算する。


「よし、それだけあれば十機は飛ばせるな。すぐにゼロを追加しろ。それから鳳翔、瑞鳳からも応援を出させ、こっちに向かわせろ!」


「はっ!」


 こうしておけば、おれたちの艦隊は空母どうしが距離をとっているため、一時をしのげば、次々に新手が加勢する形になる。


(来るなら来い!)


 おれは艦橋の窓に垂れるしずくを見ながら、遠い敵の影を睨んでいた。



いつもお読みいただきありがとうございます。最後の「来るなら来い」は、霧島健人なら絶対言わないセリフで、ここでは思わず覚醒した南雲ッちが出ているという設定です。ご感想やブックマークもありがとうございます。とても励みになっています。

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― 新着の感想 ―
[一言] たまたま本作品を見つけて、ほぼ一気読みさせていただきました。 凄く面白いです。 歴史if物は、戦国時代の作品が多く、私も今までそちらのジャンルしか出会わなかったのですが、本作品に出会えた幸運…
[気になる点] 私の解釈間違いだと申し訳無いのですが…… 飛行甲板が短い小型空母が雨だと着艦が難しいと言っているのは、 雨で制動距離が伸びるから、という理由でしょうか? だとすると少しおかしいです。…
[一言] 来るなら来い♪( ´∀`)/~~
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