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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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発狂しそうな目で見るな

●36 発狂しそうな目で見るな


 東京麹町海軍省――。


「最後のB25が墜ちました!」


 煌々と明かりが灯る本土防衛司令室内に、わっと歓声があがった。


「やったか!でかした!」

「香取基地がやったぞ!」

「なんと、高角砲でか!」

「アメリカ恐るるに足らずだ!」


 連絡員たちが、口々に雄たけびをあげている。


 しばらくして、勝利の興奮がようやくおさまると、嶋田大臣が、かたわらの浅見連絡官に話しかけた。


「陸軍さん、おつかれさま。最後は陸軍さんでしたな」


 陸軍省への電話連絡を終え、黒い送受機をもどした浅見が、余裕の笑みで答える。


「ありがとうございます大臣。これもみな、海軍のみなさんのおかげです」


「いやいや、わが軍は空母を襲い、発艦した五機のうち、二機は撃墜したものの、結局三機を本土まで来させてしまった。申しわけない」


「こ、これはご謙遜を!」

 浅見はあわてて言う。


「各地に設置された新型電探による敵機の探知、自動誘導制御高射砲、防空気球、どれも海軍さんの手によるものです」


「だが、最後の勇躍は見事でしたぞ」

 永野総長もやってきて、浅見の肩を叩いた。


「あの一機にせよ、五発の爆弾を帝都に落とすことが出来た。それをさせなかったのは、香取基地の兵士たちが、勇敢に戦い、これに勝ったからだ」


「千葉県陸軍防空学校の生徒たちがやってくれました」


「ほう、防空学校の……」

「はい」

 と、浅見。


「香取基地防衛の応援に来ておりました。報告によれば、彼らが高射砲と機関砲で、敵機を地上から撃墜したとのことです」


「それは見事な……。その生徒たちの活躍には、さぞやお上も満足されるでしょう。私からもよくよく、上申しておきますぞ」


「ありがとうございます!」

 浅見は深々と頭を下げた。


「さて、こうしてはいられない」

 嶋田が永野と山本を振りかえる。


「永野さん、われわれも大本営に報告に行かねばならんが……山本君」


「はっ!」

 山本はめずらしく、敬礼をした。

「あとのこと……ですね」

 山本は敬礼のポーズのまま、にっと笑った。

「お任せを」


 永野総長も敬礼を終えた山本の手を取った。


「わたしも最後までおれんのは残念だが、空母艦隊を逃さぬように頼むよ」


「ご心配には及びません。南雲によればこの二隻はアメリカ最後の空母ですから、これの撃滅は、開戦からのオレの悲願なんですよ」


 南雲の名前を聞き、嶋田が懐かしそうな顔になる。


「南雲君とはまたゆっくり酒を飲みたいね」


「そうですな。今度は四人で鍋でもつつきますかな」


「ニューヨークに大和で上陸して、ステーキもいい」


 もはや勝った気になっている山本を見て、さすがに永野が苦笑する。


「くれぐれも油断なきようにね」

「わかっております」


 答える山本に、嶋田が帽子をかぶりながら言った。


「さて、私と永野さんは帰れないだろう。宮城で大本営、そのあとはブン屋どもに質問攻めだ。なにかあれば宮城か大本営に連絡を……では陸軍さんも」


「ははっ」

 浅見も敬礼で見送る。

 二人は上機嫌で出かけて行った。


 だが、彼らは知らなかった。

 この時、すでに浅見の席の電話が鳴り、陸軍諜報部、パナマ機関の真島から、驚天動地の一報が入ろうとしていたのである。




 ここは空母翔鶴の作戦会議室だ。


 おれは山口、草鹿、淵田の各参謀と、小型空母鳳翔、瑞鳳のそれぞれの副艦長である田辺と阿妻をまじえ、作戦会議をおこなっていた。


 とにかく、おれたちはこの各空母と、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦という現有艦隊でもって、アメリカの二隻の空母と四隻の護衛艦隊を葬らなければならない。


 なぜなら、今が絶好のチャンスだからだ。


 相手は空母二隻といえど、片方のレンジャーはB25しか搭載しておらず、しかも飛行甲板はおれたちの爆撃で使い物にならなくなっている。つまり、二対一にも等しい状況だ。


 もちろん、この状況は相手もよくわかっているはずだから、こちらとの戦闘は望んでおらず、本土爆撃という作戦が失敗に終わった限りは(とはいえ、この時点で彼らが失敗を認識しているかどうかはわからないが)さっさと本国に帰還したいに違いない。


 だが、おれたちはそうはさせたくないわけで、そこにどうやって追撃するか、相手をうまく戦闘に引きずり込むかの作戦が必要なのだった。


「というわけで」

 おれは海図を見ながら説明をしていた。


「おれは敵がハワイまでの三千五百海里、途中で一度補給するとみている。すなわち、この東京から南に六百海里の海域から、ほぼまっすぐ東にすすんでハワイにいたるどこかに、燃料船を滞在させているはずなんだ。そこがわかれば進路がわかる」


「なるほど」

 と、山口。


「ですが長官、こっちも燃料が問題ですぞ。ここは本土から六百海里の近海だから航続距離五千海里の空母には余裕がある。しかし、これからあいつらを追っていくとなると、帰りのどこかで切れてしまう」


「うちの瑞鳳は五千を少し切りますが……」

 と、阿妻がそっと言う。


 こいつ、生真面目なんだな……。


 おれはうなずく。


「そこは安心してくれ。だから、おれは燃料船を要請して、帰りのどこかで補給することにした。駆逐艦と潜水艦隊の護衛つきでな。つまり、敵も味方も考えることは同じってことだ」


「笑っちゃうくらい同じですね。でも長官、どうやって闘うんですか? レンジャーは逃げる。われわれは追いかける。お互いの位置はよくわからない。飛行機で哨戒したり攻撃すると、そいつはお互いの電探にひっかかる……」


 草鹿がそう言って首をかしげる。


 おれは顔を近づけて言う。

「ただ、船で近寄るのさ」


「へ?」

 そこにいるみんながぽかんとする。


「じゃあ訊くぞ? 今回、彼らとわれわれの差はなんだ?」

「戦闘機の数……ですか?」

 と、淵田が航空参謀らしい意見を言う。


「惜しいね。……もしもここに小野がいたら、わかるかも」

 おれはわざとらしく言う。


 小野は南雲艦隊の通信参謀で、電探参謀を兼務した人間だ。

 今はインド洋のディエゴ・ガルシア環礁でイギリス艦隊を見はっている。


 草鹿が、はっとして言う。

「もしかして、電探ですか?」

「せいかい!」

 おれはうなづいた。


「今回おれたちの空母三隻、それと駆逐艦、巡洋艦には新型の超短波対空探知電探、対空迎角電探、射撃指揮装置、そして近接信管が装備されている」


「……」


「つまり敵航空攻撃に対する反撃力がはんぱないんだ。初見の今回はおそらくチートなみに効果的だと思うぞ」


「はんぱ……ちいとなみ?」

 空母鳳翔副艦長の田辺が、宇宙人を見る目でおれを見ている。


「良く言うだろ田辺。ピンチのあとにはチャンスありってな」


 ……あ、これも現代のことわざだっけ?


「伝わんないのかよ、マジか。うぜえ!」


 阿妻が、もはや発狂しそうな目をしていた。

 ははあ、こいつら、おれとのつきあいが初めてだから、慣れてないんだな……。



いつもお読みいただきありがとうございます。やっと一息……という間もなく今度は空母戦がはじまります。もうすこしだけ、おつきあいくださいませ。感想やブックマークもありがとうございます。とても励みになっています。

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