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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
113/309

要塞の半島

●33 要塞の半島


 南雲艦隊の旗艦、空母翔鶴の私室で、おれはまんじりともしない夜を明かしていた。


 天候のせいか波は高くなり、大きな空母もローリングが激しくなっている。


 おれたちの次の狙いは、敵の空母二隻だった。


 先発した航空隊の報告から、B25を搭載していたのは空母レンジャーで、もう一隻は空母ワスプであることが判明している。


 この機会を逃さない手はないが、敵はすたこらと逃げ出しているし、こちらも対空母攻撃にきりかえるため、一部の九七艦攻に魚雷を換装しないといけない。


 魚雷の積みかえ、と聞くと、霧島健人としては実に気持ちが悪いわけで、その間をついて攻撃されたら、後悔してもしきれないことになる。歴史に学べ、である。


 そこで、おれは艦隊を散開させつつ、夜通し戦闘機をだして徐々に相手の戦力を削り、その間に装備を整えることにした。こっちは歴戦のおかげで夜間の発着もへっちゃらである。兵員は徹夜の作業を強いられるが、仕方ないだろう。太平洋はひろく、こちらにはレーダーもある。明日の夜明けが決戦の時だ。


 同時に本土の方も気になるので、司令部との連絡は欠かさない。


 レンジャーから発艦したB25は全部で五機、そのうちの二機は高橋が新型機で追尾して撃墜に成功した。


 したがって残るは三機。いまごろはもう本土に接近していることだろう。おれの予想では、おそらく東京か横須賀を目標にしているはずだから、うまくいけば迎撃作戦が功を制するはずなのだが、こればかりはやってみないとわからない。


 さあ、どうでる!




 米空母レンジャーから発艦したB25一番機は、ようやく本土に差し掛かっていた。

 機長のドーリットルは、日本の東側から、房総半島に侵入しようとしている。


 無線がないために、後続する部下がどうなっているのか、さっぱりわからない。今はとにかく、自分のやるべきことをやるだけだ。


「中佐!」

「どうした?」

「あれを……」


 副操縦士のリチャード・コールが右の海上を指さした。


「ん、漁船か!」


 あきらかに漁船とわかる漁火を灯した小型船が、遠くに数隻浮かんでいる。彼らが無線を積んでいれば、報告がいくかもしれないが、相手が民間人であることとと、面倒なので無視することにする。


「放っておけ。もうすぐ陸地が見えてくるぞ」

「イエッサー」


 さらに十分ほど飛んだところで、とうとう日本の灯りが見えてきた。灯火管制がされているのか、それほど光っている場所は多くはない。確かめるためには少し高度を上げたいところだが、もしかすると、敵はまだこちらの動きがわかっていない可能性もある。だとすると、このまま低空飛行を続けるのが得策と思えた。


「総員配置につけ。機銃手、爆撃手、準備しろ」


 乗員があわただしく動き始める。

 一番機の目標は東京の軍事施設二か所だ。


 そのため、いったん千葉県房総半島を東から侵入し、東京湾にでたあと、再度東京に侵入して、空爆を行う予定だった。


 房総半島をなにごともなく過ぎ、無事東京湾に出る。


「警戒しろよ。敵機がくるぞ」


 そう言った時、前方の海上がばっと昼間のように明るくなった。


「な、なんだ?!」


 思う間もなく、上空を舞う無数の戦闘機が見えてくる。


「ま、待ち伏せだ!」


 ドーリットルは慌てて進路を変えようと、操縦かんをひねった。


「機銃手応戦しろ!」


 突き抜けさえすれば、そこはもう東京なのだ。


 ガガガガガガガガガガ!


 機銃のレバーを入れ、全面の敵を掃射しながら、コースを右へ左へと変更する。


 しかし、敵機があまりにも多い!

 何発もの銃弾が、B25の機体に穴をあける。


「総員パラシュートをつけろ!」


 もうこうなったら仕方がない。とにかく陸地へなんとか抜けて、そこで五百ポンドの爆弾と焼夷弾を一気に落としてやる。東京は一千万もの大都市だ。どこかは破壊されるし、誰かは死ぬ。東京を爆撃したという事実が大事なんだ。


 ドーリットルは十二・七ミリの重機関銃を撃ちまくりながら、低空飛行のまま突撃するように東京湾を突っ切ろうとした。


 上部の機銃手も後部の機銃手も、やれる限りの抵抗をしている。


 バシバシッ!

「うあっ!」


 上で声がして、上部機銃の音が止んだ。


「おいバーンズ!」


 副操縦士が叫んでいる。


 上の機銃手がやられたら、超低空飛行しているこちらは、やられ放題になる。なんとかこのまま突っ切りたいが……。


 ドーリットルがそう思ったその時、前方の上空、海岸の手前三キロほどの空に、奇妙なものが浮かんで見えた。


(白い……球?)


 それがなにか、すぐにわかった。

 防空気球だ!


 東京湾の対岸、東京都市部への侵入路に、数えきれないほどの防空気球がずらりと並べられている。そのかず、百……いや二百か?


 ……まずいぞ!


 上をいくか、回りこむか、迷っている間にも戦闘機はやってくる。

 気球の下には見えないワイヤーがあるのだ。しかもまっすぐ垂れ下がってるとは限らない。


 やむをえず上へとコースをとる。


 なんとか間に合った!

 白い球を下に見やって、やりすごす。


 だが、なぜか敵機は追ってこない。

 かなり手前で展開したようだ。


 なんだ?あとは陸軍の担当か?


 縄ばり意識とは、日本もずいぶん官僚主義なんだな。

 おっと、高度をもういちど下げないと……。


 ドーリットルがそう思って操縦かんを押しこんだ瞬間。


 ドンドンドンドン!


 埠頭にならべられた高角砲が火を噴いた。


 ザアっという音がして、無数の鉄片が下から突き抜けてくる。


 何発もの破片をうけ、ドーリットルは身体を硬直させた。


(まさか、見えるわけが……)


 ドンドンドンドンドン!


 もはや、うつむいた機首を持ち上げるものは誰もいなかった。


 それはあまりにも正確な、電探連動方向制御装置のついた、近接信管砲弾の高角砲だったのである。




「なにか、騒がしいぞ」


 二番機には、トラビス・フーヴァー中尉が乗っていた。


 彼も東京の軍事施設を狙っており、そのため一番機と同様のコースで侵入するはずだった。しかし、房総半島にさしかかるにつれ、どうもその先の様子がおかしいことに気がついた。


 東京湾とその周辺には多くの敵機が飛び交い、さらに照明弾が間断なく投下されて、とんでもなく明るいのだ。しかも、その中では先発した一番機が日本の戦闘機に追い回されているではないか。


「まずいですね……」

 副操縦士が小声で言う。


「どうしますか。加勢しますか、それともコースを変更しますか」


 フーヴァーは首を振った。


「爆撃作戦の遂行が絶対だ。突入しても突破できない」


 フーヴァーは低空のまま右へ旋回して、いったん房総半島へと戻ることにした。眼下には森林がつづき、ほとんど明かりもないように見えた。


「なにもないですね。こんなところを空爆したら、一生笑いものになってしまいますよ」


 副操縦士が苦笑まじりに言う。


 たしかに彼の言うとおりだ。ここまで来て、誰もいない森を爆撃するわけにはいかない。やるなら、やはり、東京しかない。


 フーヴァーは高度をあげた。


 悪いが敵は一番機に気を取られている。今のうちに陸上を飛んで東京を西から侵入しよう。


「東京湾をさけて陸地を行くぞ」

「オーライ」


 黒く見える建物をさけつつ、もういちど房総半島にはいっていく。

 しかし……。


 ガガガガガガガガ!

 ガガガガガ!

 ガガガガガガガ!

 

「ぬあっ!」


 突然、雨のように、曳光弾が降りそそぐ。


 同時に下からバッとサーチライトで照らされる。


 うお、目が……!


 いや、目が見えないのは頭を撃たれたせいか?


 反射的に回避行動をとりながら、フーヴァーは敵の位置を確認する。


「機銃手、敵はどこだ!」


「うわあああああああああ!」

 ガガガガガガガガガガ……。

 しかし、機銃手は大声で叫び、機銃をめちゃくちゃに乱射しはじめた。


 頭から生ぬるい血が流れてくる。


 フーヴァーはかすれた目で上空を確認し、ようやく理解した。

 彼らはいつのまにか、とんでもない数の戦闘機に取り囲まれていたのだ。


 それも一種類だけではない。いずれも日本の戦闘機には違いないが、大きいものから小さいもの、双発単発、何種類もの飛行機が目の前を通りすぎる。


 彼らは忘れていた。いや、というより、よく知らされてなかったのだ。


 房総半島にあるのは、森だけではなかった。ただの半島ですらなかった。


 そこは、館山、洲ノ埼、木更津、太東、茂原、五井などの海軍航空隊基地をはじめ、陸軍の基地も八か所以上ある、まさに要塞半島だったのである。




いつもお読みいただきありがとうございます。マイブーム「すたこら」させていただきましたw 奇襲のつもりが待ち伏せされていたドーリットル隊。今回は千葉県が本気だしております(笑) 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「魚雷積み替えきくと」→「魚雷積み替えときくと」では?
[一言] 千葉県の本気ワラタwwww
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