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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
110/309

B25五番機撃墜

●30 B25五番機撃墜


 上空から遠方をながめて見ても、どこにも海図に載っている島の灯りが見えない。やはり、まだここからでは視認は無理なのか。


「……ん?」


 巡航時速二百八十キロで通りすぎた海上に、黒いなにかがいたような気がした。


「どうかしました?」

 ドーリットル中佐の反応に、副操縦士のリチャード・コール中尉がふりむく。


「今、海上になにかがいたような気がしたんだよリチャード」

「漁船ですか?」

「わからん、くじらか、もしかすると敵の潜水艦かもしれん」

「……もどりますか?」


 無線士たちも身体をこわばらせ、B25の機内に緊張が走る。


「……いや、このまま行こう。確かめたところで、攻撃の方法がない」


 機体下部の機銃は軽量化のために取り外されている。


 それに、こんなところで爆弾を使うわけにはいかないし、当たる道理もないのだ。


「そうですね。じゃあ先を急ぎましょう」


 副操縦士は高度を落とし、ふたたび低空飛行にもどった。


 しかし、このとき海上にいた伊號潜水艦の通報によって、このコースを飛ぶB25の飛行航路は大本営の知るところとなり、新型エンジン機をあやつる高橋赫一へと連絡されることになったのである。


 そして……。




 ドーリットル隊の最後尾、やっとの思いで空母レンジャーから離艦した五番機は、その後方約四十キロの海上にいた。


 機長はデイビッド・M・ジョーンズ大尉、副操縦士はロドニー・R・ワイルダーである。彼らは離艦の際、後方の空母甲板が敵の爆弾で破壊されるのを目撃しており、自分たちが最後の離艦機であることを知っていた。


 つまり、うしろから追撃される危険性も承知していたから、燃料を気にしながらも、敵の目をくらまそうと、計画よりはやや西よりのコースをとっている。


「それにしても、なんでやつらがあそこにいたんでしょうね。まさか俺たちの作戦がバレたとか?」


 副操縦士のワイルダーが首をかしげると、無線士たちも話に加わろうと顔を出した。


「きっとそうですよ。おかげで危ない目にあったんですから。司令部は暗号を変えたほうがいい」


「さあ、俺にはわからんな。タバコでも買いに行く途中だったんじゃないか?」


 機長のジョーンズが、あまり興味なさそうに答える。


 彼はふだんから明るい性格で、しかもいざという時のリーダーシップもあったから、乗員の人気は高かった。


「わざわざ空母で、煙草を買いに、ですか?」

「ああ、銘柄はきっとラッキーストライク(幸運命中)なのさ」

「まさか!」

 乗員たちが顔を見合わせて笑う。


 その時、温室のようなプレキシガラスのキャビンに稲妻のような光が走った。


「!」

「なんだ?」

 機長のジョーンズが顔を引き締める。

「カミナリか?」


 だがすぐに、また大きな音がして、操縦席右上の、前面ガラスの一部が吹き飛ばされた。


「うおお?!」


 あわてて操縦かんをななめに引き上げ、回避行動をとる。


 ピュンピュン!

 曳光弾!


「砲撃手!」

 天上後部の、キャノピー式機銃座にいるはずの砲撃手に叫ぶ。

「て、敵です!」

「どこだ!?」

「見失いました!」


 機内にフレキシガラスの破片ががちゃがちゃと飛ぶ。


 キャビンの右の角を吹き飛ばされために、外気が遠慮なく入ってくる。


 速度が落ち、ジョーンスは必死に態勢を立て直す。


「ワイルダー!おい!」


 見ると、副操縦士のワイルダーがぐったりとしている。敵の銃弾はこの機の右上から、キャビンを破壊して貫通していた。彼に当たったのか? 血は見えないが……。


「う、うーん……」

 かすかに身体を動かす。

「おい、他の者は異常ないか?」

 大声で訊く。

「ありません!」

「大丈夫です!」

「機長、敵が見えました。四時の方向」

「撃て!」


 すぐに反撃の機銃音が聞こえてくる。


「おい、ワイルダーを見てやってくれ」

「イエス!」


 後ろから手が伸びてきて、副操縦士のベルトをはずすと、後ろに引きずっていく。その間もジョーンズは速度をあげたり方向を変えたりしながら、敵の銃撃をさけようともがいた。


 必死に転回し、右や左へと振り切ろうとするが、敵は上空で見えず、月明かりもほとんどない。さらに銃撃は強烈だった。


 ドガガガガガガガガガン!


 機体のど真ん中に数発の大穴が開き、天井から床へと突き抜ける。乗員にあたらなかったのは奇跡だ。


(くそ! このままでは逃げきれない)


 この間も上部砲撃手は敵への反撃を続けてはいるが、相手はこちらよりも速く、小回りが利くようだ。こちらの見えない後方で、円を描いて一周しては、狙いすませてこちらに機銃掃射をしかけてくる。


「全員救命具をつけろ!ワイルダーにもつけてやってくれ」


 大急ぎで機長以外の四名が、急いで救命胴衣を装備する。


「ワイルダーが目を覚ましました!」

「ケガは?」

「だ、だいじょうぶで……す」

「衝撃で気を失っていただけみたいです」

「よし」


 作戦がかなわなくとも、乗員はできるだけ助けてやりたい。みんないいやつなのだ。いっそ、いますぐ不時着してしまうか?


 いや、それで敵の攻撃がやむとは限らない。それに、こんなところで海上に脱出しても、助けられる可能性は極めて低いだろう。


(よし!)

 ジョーンスは決断した。


 それなら勝負するしかない。ジャップのやつに、こいつの十二・七ミリブローニングの対前面八門をお見舞いしてやる。


「みんなしっかりつかまれ!」

 そういって、ジョーンズは操縦かんを右に回す。

 フルスロットルでエンジンに燃料を送りこむ。


 フェイントをかけて、左に急旋回をした。

 右後方に敵の曳光弾が走る。


 バアーン!


 間一髪で胴へのヒットは避けたが、左翼の一部が吹き飛ぶ。


 とんでもない機銃だ!


 めいっぱい操縦かんをひっぱり、もういちどフェイント!

 こんどは左に行くと見せかけて右へ。

 そのまま勘で旋回して……敵が見えた!


 もうすこし、もうすこしで撃てる……ああ、ダメだ、向こうが早い……回られる……。

(くそおおおおおおお!)


 ドドドドドドドドド!

 ドガガガガ!

 バシバシ――ッ!


 あ、くそ!めちゃくちゃにやられた。

 胴から右後方へ袈裟懸けに撃たれちまった。

 何人かの乗員も傷ついたかもしれない……。エンジンが壊されて……舵がきかない!


「着水するぞ~!」


 なるべくスムーズに落ちなければ……。

 なるべく……。


 ドッシャ―――――――――ン!


 必死の操作にも関わらず、B25ジョーンズ五番機は破壊され、太平洋へと突入してしまったのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。今日は日曜日で更新はお休みしようと思ったのですが、なんとなくヒマで書いてしまいました。それにしても、この時代のB25の前面には、もうアクリルが貼ってあったのですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 有機ガラス(アクリル)なら、ゼロ戦でも使っていましたよ。
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