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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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誉エンジン役立たず?

●27 誉エンジン役立たず?

 

 板谷飛行士は新型エンジンに期待していた。


 なんといっても十八気筒二千馬力である。これまで戦闘機に採用されていた栄エンジンは千百馬力だから、倍近い出力を出すわけだ。当然ものすごい速力と機動力が出ると思っていたら……。


「お、おもっ!」


 試験飛行でまずそう思い、さらに南雲、山本、両長官肝いりの三十粍機銃を両翼にぶらさげて飛んでみて、そのあまりの加速性能の悪さに仰天した。


 何十台もの新型エンジン試作機の中から、一番調子のいいものを二台、今回の任務に選別し、さらに燃料だって特別に精製したやつをがぶ飲みさせているというのに、機体は鈍重でなかなか最高速に達しなかった。


「いやあ、重いからですな」


 技術士官の三木忠直が申しわけなさそうに言ったのは、試験飛行のあと、板谷が空技廠の滑走路に降り立ってからだった。


「エンジンも今までより三百キロも重いですし、バランスをとるためには都合のいい三十粍機銃も、一つが七十キロありますからな。全部で五百キロも増えれば、とうぜんそうなりますよ」


「ばかやろう。こんなんでどうやって闘えってんだ!」


 板谷はそう毒づいて、性能の怪しいこの新型機に同じく乗る高橋赫一と、顔を見合わせたのだった。


 板谷はその時のことを思い出しながら、スロットルレバーを八割ほど押しこんだ。


 さすがに機体はぐんぐん加速していく。全開にすることもできるが、これ以上は僚機に負担をかける。それに燃料だって無尽蔵じゃない。どこまで行くのか、どこで敵の艦隊と出会うのか、それがわからない索敵同時攻撃がこの作戦だから、できるだけの節約が必要だ。


 とはいえ、やはりこれだけの機銃を積んでも、なお速度が五百キロを超えるのは、新型エンジンならではだろうな、と板谷は思った。


 それにこの機銃だ。三十ミリとはおそれいる。二十ミリでも敵の飛行機は紙のように吹っ飛ぶというのに、どうしてまた南雲長官や山本長官は、これだけの巨大機銃にこだわったのだろう?試射のときの、機体が壊れるんじゃないかと心配したほどの振動を思いだして、板谷はあれをぶちこまれる敵を憐れんだ。


(この機銃なら、超大型爆撃機でもバラバラになるだろうな)


 板谷は操縦室の左側面に急ごしらえで取りつけられた、三十粍機銃のスイッチを無意識に撫でた。


 それにしても、無線封鎖を無視してまで、索敵方向を逆転させるという、この期に及んでの緊急無電には驚いた。味方空母を危険にさらしてでもやらねばならぬほど、敵爆撃機の離艦阻止は重要な任務なのか。


 板谷はともすれば遅れそうになる僚機をひっぱりながら、空中の姿勢をなんども変え、目を皿のようにして海上の敵空母艦隊を探した……。


 ……お?

 海ではなく、空のむこうになにか……。

 もう一度目を凝らす。

 鳥か?

 機体を安定させる。


 いや、戦闘機だ!


 はるか遠方に、五機の航空機影が見えた。

 隊形からしてアメリカ軍に間違いない。


(そうか! 敵の空母が近くにいるんだ!)


 翼を振って味方に知らせる。

 すぐに同じ合図があって、僚機も確認したとわかる。


 近づいて爆撃機のキャノピーを見ると、もう無線士が司令部への報告をはじめているようだ。下を向いて、さかんに無線機を操作していた。


 さて、どうしたもんか。


 目標はあくまで敵の空母だから、作戦では自分たちの編隊はできるだけ高速性能を活かして敵と交戦せず、一射離脱ですれ違うようにと決めてあった。しかし敵は五機、こっちは爆撃機が三機。うまくやりすごせるとは限らないのだ。


 それに……。

 こいつの性能を見てみたい気もする……。

 これは新型エンジンの空戦性能をためす、絶好の機会じゃないか。

 

 板谷は腹を決めた。


 ここで向かいあう敵をやらなけりゃ、爆撃機が空母を攻撃することもできない。


(ふん、どだい、この俺に逃げろなんて、無理な話なんだよ)


 敵空母の甲板はあとでやればいい。

 今は目の前の敵が優先だ。

 命令だって、たまにはきけないこともある。


 板谷は操縦かんをぐいっと引き上げた……。




「敵を確認しました!距離二百、戦闘機三機、爆撃機三機」


 空母ワスプの司令室で、通信担当の兵士が大声で叫んだ。


 哨戒機ではなく……攻撃機、それも編隊!


 司令室に緊張が走る。敵の攻撃編隊なら、報告を寄こした味方機は、いまごろ空戦をやっているはずだ。


「すぐに応援をむかわせろ」


 現在、このワスプからの警戒機は二十機ほどがこの空域を旋回している。艦長のリーヴは、そのうちの半分を空域に向かわせるように命令を下した。


 マッカーサーが尋ねる。

「やつらが来るまで、どれくらいの時間があるかね?」


「こちらとの交戦を凌いだとしても、ニ十分はかかるでしょう」


「うむ、ではただちに陸軍機を発艦させろ。ここからなら十分だ」


 予定よりは一時間ほど早いが、機体はかなり軽くしてある。いますぐ発艦しても、中国の基地には到達できるだろう。すでに緊急発艦準備は整っているはずだ。


「陸軍機は発艦せよ。無線を使え」


 マッカーサーの意図はすぐに伝わった。レンジャーの位置を隠匿して、こちらに敵の注意を向けさせる作戦だ。


 ただちに通信士が連絡を行う。


『陸軍機は発艦せよ。返電の用なし』



 それを受けて、空母レンジャーの甲板に放送が響く。


「「「陸軍機は発艦しろ。敵が接近中だ」」」


「よし、行こう」


 ドーリットルは付近に人がいないかを確認して、始動スイッチを押した。キュンキュン、とプロペラが回り、すぐに轟音をあげてエンジンがかかる。


 前方に人はいない。ブレーキがかかっていることを確認して、アクセルを全開にする。どんどん回転数があがっていく。後方に大量の白い排気が盛り上がり、左右の翼につけられた双発のエンジンが震える。


 エンジン音がさらに高くなる。

 もうなにも聞こえない。


 機体が激しく振動し、前へと進もうとするが、ブレーキがかかっているため車輪は進もうとしない。機体が推進力にゆがむ。


 甲板にいる誘導の係が、頭の上でまだ旗を回している。回転数が足らないのだ。もっとだ。もっと……。


 誘導員が旗を前方にむけ、振り降ろした。


 ブレーキをはずす。


 がくん、という衝撃があり、B25は一気に前へと走り出す。


 操縦かんを引き上げる。ここが難しい。前を上げすぎるとケツをこすってしまう……。


 ドーリットルは慣れた操作で機体前方を浮かせると、そのまま走るに任せる。夕日が目に入るが、かまってはいられない。甲板のむこうには、赤く染まった海が迫る。すぐに滑走路が切れる。


 B25一番機は、後輪を浮かせ、あざやかに離艦していった……。




 おれは板谷隊からの敵機発見の報を受け、すべての編隊をその海域に向かわせた。

 アメリカの空母艦隊は、きっとそこからさらに南だ。


「敵の空母は二隻だが、まちがうな。とにかくB25がいる甲板を叩け!」


 それだけが作戦の目的なのだ。いまさらそれがわからない馬鹿はいないだろう。


「淵田、無線封鎖はいらん。どんどん通信して情報を送れ。どうせ敵の艦載機は防戦で手いっぱいだろうし、潜水艦が来る頃には離脱してる」


「わかりました。空母鳳翔、瑞鳳からも、飛べるものは飛ばします」


「敵と遭遇したのは板谷だな? もうひとつの新型エンジン機に乗ってる高橋はどこにいる?」


「確認します」


 しばらく無線士とやりとりしていた淵田が、慌てて戻ってくる。


「板谷隊から五十マイル北東です」


「よし。ではその隊はその付近で待て。万一本土に向かうB25があれば対応させる」


「わかりました」


「全機に次ぐ。B25の発艦を視認したら、ただちに連絡せよ」


 おれの命令を、すぐに通信士が打電する。


「間に合ったか……のか?」




 空母レンジャーの甲板から二機目のB25が甲板をはなれ、海上をすれすれの高度で北へと飛び始めた時、CXAM対空レーダーが反応をしめした。


「「「敵機がくる。乗員はそなえろ」」」


 もちろん、発艦はとめられない。

 誘導員はいまも旗を必死で回している。

 三番機のエンジン音が高くなる。


 駆逐艦が高角砲を撃ち始めた。

 曳光弾が、無数の光跡を描く。


 三番機がなんとか空へと飛び立った時、上空にあらわれたのは、板谷機だった。

 両翼にいかにも獰猛そうな黒い機関砲を二機、ぶらさげている。


「くそこらあああああ!」


 重い機体をなんとかあやつって、操縦かんを引き上げる。巡洋艦や駆逐艦からの砲撃がものすごい。上昇する機体の周囲で、対空砲弾の爆裂する黒煙がばばばばば!っとあがる。


 かまわず馬力にものを言わせて、さらに高高度をめざす。大艦隊だけあって砲撃密度はあなどれないが、高度三千を超えたら、高角砲なんてあたるもんか。


 離陸したのは数機か?まだ間に合う。なら、爆撃機が到着するまで、できるだけ制空をやってやろう。


「命令は、命令だからなあああ!」


 まだまだあがる出力をたのもしく思いながら、もしも急降下したら、はたしてこの機体が持ち上がるのか、と板谷はふと、不安になった。





いつもお読みいただきありがとうございます。めまぐるしい展開ですみません。スラプスティックな場面転換をしたかったのですが、ちょっとキャラがまぎらわしい感じになっちゃいました。

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― 新着の感想 ―
空技廠には専用の滑走路はないですよ。横須賀航空隊のことですか?
[気になる点] 爆撃機と戦闘機とがちゃんぽんになってません? 零戦に急降下爆撃なんてできないと思うし、そもそも爆弾が積めないはずですが。
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