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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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すべてはこの日のために

●26 すべてはこの日のために


 一夜が明け、昼が過ぎてとうとう夕方になった。


 現在の艦隊進路を子細に確認しながら、ダグラス・マッカーサーは、空母ワスプの司令塔で、日本の出方について考えていた。


(今のところ、日本に目立った動きはない。が、相手はあのナグモだ。このまま何も動かないはずはない。いや、やつは必ず、どこかでわれわれに向かってくる)


 そんな予感があった。


 とはいえ、もともとマッカーサーは投機的な人物ではない。いつもは、けしてバクチはせず、物量でしのぐという、ごく当たり前の作戦を是とする。


 だが、現在の状況は、たった二隻の空母で、乾坤一擲の打撃を日本にくわえに行く、というものだったから、その成功のためには投機的な作戦を立案するしかなかったのである。


 一番の心配は、この作戦がマッカーサーの思うような効果をあげつつあるかどうかだ。作戦の成否が、自分たちの進路が日本にばれないこと、という一点にかかっていると理解した彼は、いささかトリッキーな方法でそれを確実なものとすることにした。


 海軍参謀ローとニミッツの発案、そしてハルゼー提督の部隊編成をもってしてもなお、この作戦はつまるところ、艦隊の進路がばれず、日本の哨戒艇や哨戒機に発見されないことが要諦だったのだ。


「リーヴス君、明日の発艦時刻は、今ごろになると思うがどうかね?」


 マッカーサーがワスプ艦長のジョン・W・リーヴスに尋ねた。


「はい。このまま発見されなければ、ですが……」


「そう願いたいものだ。まさかとは思うが、南方からの哨戒艇が来る可能性も捨てきれん」


「では、こちらの警戒線をのばしますか?」


 リーヴスがマッカーサーの考えを先読みして尋ねた。この尊大な司令官が、ときに繊細で、作戦を途中で変えることも厭わない柔軟な性格であることを、ベテランの彼はよく知っていた。


 マッカーサーは一瞬考え、しかしリーヴスの言葉を咀嚼して、むしろ冷静になった。


 警戒機の哨戒範囲は、かなり限定的に命じてある。それは、あまり足を延ばして、かえって敵の哨戒艇に発見されるのを、おそれたからだ。


「いや、このままでよい」


 夕陽が左舷の海に沈んでいく。それは艦隊が北上していることの証しであった。マッカーサーはもう一度くりかえした。


「……このままでよい」




 おかしい……。


 おれはさっきからなんどもこの言葉をつぶやいていた。


 これだけ探しても見つからないとは、どういうわけなんだ。


 目撃や受電情報のあったアリューシャン列島付近から、日本北東方面が敵の進路とすると、もうそろそろこちらの航空戦隊と接触してもいいころだよな。


 もしかすると、本当に彼らは日本ではなく、それこそトラックやウェークを空襲するために、B25を二十機も載せて空母艦隊を派遣したとか?


 いや、まさかそんなはずないか。


 史実を無視したとしても、陸海軍共同のこんなリスキーな作戦の成果が、それっぽちの目標であるはずがない。どう考えても、彼らの目標は日本本土だ。


 じゃあ、なんでこんなにも敵が見つからないんだ?


 史実を知っているおれだからこそ、相手の攻撃を察知して、こうやって迎撃に出ることが出来たんだ。おれの考えにぬかりはないはず。それが証拠に、早々に北方からはいくつもの目撃情報、無電情報が寄せられて来た。それはおれの予想を裏づけるに十分な内容だった。


 ……でも、本当にそうか?


 おれはふと、あることに思いいたった。


 ……まさか。

 いや、そんなはずは……。

 ないと、言い切れるのか?


「草鹿!」

 おれは隣りで操舵を確認していた草鹿を呼んだ。


「なんですか?」

「最初の頃の情報をもう一度見せてくれないか」

「最初の頃、とは?」


「ほら、アリューシャン付近での哨戒艇の情報とか、あったろ」


「あ、それでしたら、作戦室に記録簿があります」


 大石と三人で、急いで作戦室に移動する。

「え~と、あ、あった」


 草鹿がきちんと報告書形式にまとめられた資料をだしてきて、読みはじめる。


「まず、十三日前の四月六日午前十時三分、底引き網漁船を改造した特殊哨戒艇第二十三日東丸から、敵艦隊発見セリの打電があり、その後消息不明となりました。このとき、付近にいた栗田丸が砲撃の音を聞いています」


「ふむ……」


「それから、十三時ちょうどには、第十一海神丸が砲撃と思われる攻撃を受け沈没。この時は生存者が救助され二時間ほど生きていたため、証言があります。さらに十三時十一分、第二福丸と勘栄丸が水上機による機銃掃射を受けました」


 おれは草鹿の報告とその船の位置を海図へと書き込んでいった。


「それと同時に、不明なコールがサンフランシスコと真珠湾、そしてこの海域の間で盛んにおこなわれています。作戦行動をとる空母艦隊としては不思議ですが、その後は無線封鎖されたらしく、音沙汰がなくなりました」


「ふーむ」

 おれは考え込んだ。


「パナマを出てサンフランシスコに寄り、そこからアリューシャン方面を通って……行方不明、に見えますな」


 山口多聞が机の上にひろげた海図を見ながらつぶやく。


「まてよ」

 おれが海図を指さす。


「一度目の攻撃場所から、ニ度目のはちょっと南下して、三度目の水上機はかなり西だ。これを見て、おれらは敵の動きを西へ移動中だと考えたわけだが、水上機は艦隊の位置とは関係なくないか?」


 三つの漁船攻撃地点は下を頂点とする逆三角形の形にあった。一度目が右上、最後の水上機が左上、しかし二度目の砲撃は右上のがちょい下、つまり南にある。


 これを見て、おれたちは彼らがおおむねサンフランシスコから日本への最短距離よりもやや北側にコースをとり、西へと進んでいると予測した。それにはおれの予断もあったし、なにより一番ありえそうなコースどりだったからだ。


「しかし最後の攻撃は水上機によるものだろ? 空母艦隊だったら、なんでF4Fじゃないんだ? この水上機の位置ってのは別に艦隊をあらわしているんじゃなくて、むしろ陽動されてる可能性もあるよな」


「ええっ?」

「なんですと?」


「……しまった!」

 おれは思わず叫んだ。


「これは囮だ!」


「ちょっと待ってください。じゃあ、やつらは空母艦隊とは別の船を走らせて、われわれを陽動したってことですか?」


「くそっ!やられた!」


 おれは頭を掻きむしった。


「こいつはたぶん駆逐艦だ。だから砲撃と水上機しか出せなかったんだ……おい、いくぞ!」


 おれたちは大慌ててで艦橋にもどる。


「淵田!」

「はい!」


 おれの血相を見て、淵田が慌てて飛んできた。


「なんでっしゃろ」


「今すぐ南に哨戒を変更してくれ」


「南?そもそもこの艦の位置がそうとう南なのに、さらに下を警戒するんですか?」


「ああそうだ。あいつら、アリューシャン方面から、いったんトラック島と日本の中間あたりを狙って南下して、そこから北上してくるんだ!急げ!」




『不明機が接近している。陸軍機は緊急発艦に備えろ』


 空母レンジャーの拡声器から野太い声が響く。


 警報機が鳴り、あっという間に艦全体が喧噪につつまれ、兵員が走り回る。


 隣りを走る駆逐艦でも、水兵たちが大急ぎで持ち場につき、砲をあげて敵機の襲来にそなえている。


「ありがとうミラー大尉」


 指揮官室から甲板に出る廊下で、ドーリットルはミラー海軍大尉に声をかけた。一瞬ミラーの顔に驚きの表情が浮かぶ。


 発進するときは挨拶も握手もなく、ただ飛び立て、というのがドーリットルの口グセだったから、意外だったのに違いない。軽くウィンクをして通り過ぎる。


「ジャップをやっつけてください!」


 うん、いいやつだ。

 ドーリットルは飛行甲板に出た。


 海軍の連中はじつに協力的だった。訓練中も親切だったし、この船に乗ってからも、酔う兵士への介抱や、寝場所への配慮だって十分だった。一番いい部屋を開けてまで、俺たちに安眠を提供してくれようとした。すべてはこの日のために……。


 荷物が一式入ったB4バッグを持ち上げ、タラップを登る。一番機だから、俺の機は先頭……よし!みんな来ているな。


「じゃあ乗ろう」


 副操縦士につげ、B25に乗りこむ。無線士や砲撃手、爆撃手ら後の四人も乗りこんで来た。各部の点検を急ぐ。


 なにも問題はなさそうだ。


 ドーリットルはスターターのスイッチに指をかけて待った。


 あとは発艦の命令を待つばかり……。




いつもお読みいただきありがとうございます。ここまで反撃らしい反撃もできなかったアメリカ軍。しかし南雲の裏をかくというスマッシュヒットで準備万端。しかし帝国には新兵器のかずかずが……あるのか?

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[気になる点] 史実から乖離したコースを通って南雲っちを欺いたのか。 やるな松毬さん。
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