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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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それぞれの決意

●26 それぞれの決意


 一方、こちらはアメリカ艦隊である。

 ドーリットル少佐は、空母レンジャーの艦内をうろついていた。


(え~と、会議室はどっちだった?)


 陸軍の俺は大型空母に慣れていない。


 頭脳も運動神経にも自信はあるが、なんでこう同じような設備が同じような色で塗られてるのか。少しはわければいいのに……。


 部下たちには見せられない姿だな、と、ひとり苦笑いをする。


 若いころはもっと物覚えがよかったものだが、さすがの俺ももう年か……? ああ、そうだ。この階段をあがるんだっけ?上がれば、もう見慣れた風景に出るはずだ。


 ドーリットルは登ろうとして、その先が行きどまりなのに気がついた。


 くそ!これじゃなかった。


 さっき医務室にアスピリンをもらいに行ったのが悪かった。いつもは行かないエリアに立ち入ったので、わからなくなったんだ。


 おっと、これだ。間違いない。

 ドーリットルは別の階段を駆け上る。


 さて、いよいよ連中に行先を知らさねばならない。彼らはどう言うだろうか。不安にかられるか、それとも俄然、闘志を燃やしてくれるか。


 彼ら百人ほどの陸軍兵士たち、B25の乗組員たちは、今までどこを目指すかも知らされないまま、あれだけの訓練を繰り返してきた。志願したとはいえ、ずいぶん不安な毎日だったろう。それも今日で終わりだ。


 艦隊が東海岸の基地を出発してから、すでに十八日目になる。


 サンフランシスコを出てからの太平洋航路だけでも、日本の哨戒機にみつからないように、日本が占領している島々から離れた航路をとってきたため、距離は六千マイルに近いだろう。


 現在われわれがいるところは、日本から約千マイル。

 B25十六機が発艦する予定地点との、ちょうど中間あたりになる。


「あ、少佐」

 ミラー海軍大尉と、はちあわせになった。

「やあミラー、今からかい?」

「ええ、ご一緒しましょう」


 彼は陸軍のわれわれ飛行士の訓練を受け持ってくれた。


 今回の任務の特殊性は、いつも普通の滑走路でしか離着陸したことのない陸軍の兵士たちを、空母という、極端に短い距離で発進させる点にある。


 ブレーキをかけた状態で、フラップを最初から下げ、エンジンが焼けるほどぶん回してから、一気にスタートする特殊な離陸を、三か月ものあいだ、彼らはなんども繰り返してきた。その指導をしてくれたのが、このミラー大尉だったのだ。


「君にも世話になったな」

「いえいえ、彼らはもうすっかり短距離離陸のベテランですよ。みんな勇敢だ」


「最初はひどいもんだったがな」

 二人は訓練の最初の頃を思い出して笑った。


「あとは揺れる海上をどう克服するかですが、きっと、大丈夫ですよ」


 二人が狭い廊下をめぐり、会議室に入ると、そこにはもう百人ほどの正副飛行士、無線士、機銃手、爆撃手などの兵士たちが、十メートル四方ほどの大会議室に、教室のようにならんで、彼らの到着を待ちかまえていた。


 ドーリットルは全員の前に立った。


 ミラーや他の上官たちも、それぞれの位置に着く。

 ただし、艦隊指揮官のマッカーサーは、現在、空母ワスプにいるため不在だ。


「諸君、われわれの目標を明かすことにする。われわれの攻撃目標は、日本だ」


 一瞬兵士たちの顔に緊張が走る。


 しかし、すぐに笑顔になった。

 中にはやった!というように、こぶしを振るものもいて、おおむね反応は合格点だ。


「東京、横浜、名古屋、大阪、それぞれがどこを受け持つかはあとで決めよう。目標は地図にあるが、捕虜になったときの場合にそなえて印はついていない。予定では三日後発艦して、日本を五百ポンド爆弾と焼夷弾で空襲、中国大陸に抜け、日本に占領されていない中国の基地に降りる。目標はおおむね軍事施設だが、民間人の被害は避けられない。もしもそのことを躊躇するなら、真珠湾を思いだせ」


 ここまできて、そんなやつはいないだろうが、これだけは言っておかねば……。


「それでも、もし今ここで辞退したいものがあれば、遠慮なく申しでてくれ。誰も責めはしないし、代わりはいる」


 あらゆる意味で、作戦は万全を期さねばならない。飛行機とはそういうもんだし、そのことはこの俺が一番よく知っている。


 ドーリットルはみんなの顔色をたしかめ、それがあまりにも能天気そうなので、逆に不安になる。こいつら、もしかするとなにもわかってないんじゃないか?


「知っての通り、諸君らの飛行機には無線封鎖のため無線機が搭載されていない。着陸予定の中国の基地には無線誘導もない。夜になれば計器飛行になるし、燃料が足らなくなることもある。もしも中国の基地に到着しない場合は、機を捨てていいからパラシュートで降下しろ。ただし場所によって日本やソ連に捕獲されたら、命の保証はないぞ」


 室内がようやく静まり返った。


「どこに降りても、重慶をめざせ。当然、私も一番機で行くが、諸君らとは重慶で会うつもりだ」




「電探にはなにも、かからないか」


 おれはレーダー参謀に訊く。


 この翔鶴には階下に電探室があり、運用が各艦や各基地において急速に進みつつある新型レーダーの情報を、連絡、分析していた。


 現在の探知距離は対航空でせいぜい百キロ、海上はその半分がいいところから、今はまだ敵を捕捉しきれていない。それでも、潜水艦や漁船などの視認もあわせ、かなり断片的ではあるが、パナマ運河を出た敵空母艦隊が、アリューシャン列島に近い北部航路をとり、日本への近づいていることはわかっていた。


 だが、日付変更線を超えたと思われるころから、敵艦隊の消息はふっつりと消えている。


 とうぜん、重要なのはここから先で、われわれとの遭遇がいつになるか、どちらが先に発見するか、それがこの作戦の成否を決することになる。


「しかし、本当にやつら、日本を空襲するつもりなんですかね。まさか、南方に向かったとか?」


 艦橋にいる草鹿が、いつものちょっと抜けた調子で言う。


「いや、やつらの狙いは本土空襲だぞ。おれが言うんだから間違いない」


「な、なら、信じますよ。……長官の推理は、いつだって、当たってきたんですから」


 笑いながら言った草鹿は、ちょっと遠い目になった。きっと、今までの戦いを思いだしているのかもしれなかった。


「自分がホーネットをやった時も、長官の言うとおりにやっただけですから」


「あれは見事だったよね。歴史に残る撃沈劇だった」


「えへへ」

 嬉しそうな顔をする。


 山口多聞が憮然とした表情で話に割りこんで来た。


「しかし、パナマからこっち、一万三千キロの航路とはいえ、もうそろそろ日本近海に南下してくるころでしょう。今捕まえないことには、撃ちもらすことになりかねせんぞ」


「その通りだ多聞ちゃん。おれたちにしても、このまま進んで、すれ違ってしまったら笑いものだよな」


 おれは唇をかんだ。

 とはいえ、なんと言っても、太平洋は広すぎる。


 現代ならレーダーにしたって探知距離が二百キロを超えるし、衛星での画像診断で、海上のすべての船舶を自動的に追尾したりして楽勝なんだが、この時代の戦争で、広い海原を航行する敵の補足は、並大抵じゃない。


「淵田、現在の哨戒範囲を教えてくれない?」

 淵田航空参謀が海図を持ってきた。


「爆撃機三機と戦闘機三機の二個小隊が十の航路で東にむけて扇状に往復をしとります。わが空母艦隊三隻は百キロの距離をとっていますから、おおむね南北に千キロの索敵範囲ですけど、あいにく雲が多くて視界がようないんですわ」


「発見したら、すぐに攻撃するよう言ってあるよね?」


「むろんです」


 どうもおれはもとが現代人なので、軍隊にはなじまないくどい命令を出すクセがある。それにも、淵田やみんなは慣れている。


「ふーむ」


 揺れる艦橋から、目渡すかぎりの海原を見ながら、おれたちは敵発見の報をじりじりと辛抱強く待った。



いつもお読みいただきありがとうございます。ドーリットル隊登場です。マッカーサーファンの人はいないと思いますがもうしばらくお待ちください(笑)

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